著者:有栖川有栖、小林泰三、篠田真由美、柴田よしき、永嶋恵美、新津きよみ、松村比呂美、光原百合 著/アミの会(仮) 編
PHP文芸文庫
合唱部の女性顧問の「毒殺未遂事件」。学校側は事故と主張するが、生徒たちは犯人捜しを始めて……(「伴奏者」)、作家が開いた鍋パーティーで、ある書店員の様子が急変して……(「猫は毒殺に関与しない」)、ネットで知り合い、意気投合した自殺志願の男女。服毒自殺を図るも、事態は思わぬ展開に――(「劇的な幕切れ」)。サスペンス、心理戦、謎解き、どんでん返し……。人気作家8人による「毒殺」縛りの多彩な傑作アンソロジー!
アミの会(仮)とは、たまに集まってご飯を食べたり、お酒を飲んだりすることを目的に結成された女性作家の集まりなんだとか。アミはフランス語の友達、または網のように広がる交友関、ネットを通じて近況報告や、意見交換をしながら一冊の本を編んでいく過程をさしているようです。テーマを統一しているのも特徴で、2冊目のテーマは毒殺というわけです。今回は男性作家も参加しています。
柴田よしき繋がりで検索した時に見つけた本ですが、知らなかった作家さんの作品にも触れることができて面白かったです。
毒→薬の連想からか、主人公や身内が薬剤師の話が複数あったのも興味深かったけれど、医師は出てきませんでしたね
男性作家の作品は以下の二作。
・劇的な幕切れ(有栖川有栖)
「火村~」で知った作家さん。今時のネットでの自殺サイトネタに主人公の妄想やどんでん返しを加えた展開ですが、そもそも自殺願望者の設定自体が好みではないので、個人的にはイマイチ。
・吹雪の朝(小林泰三)
妻の嫉妬が生んだ殺人だけど、彼女に殺す意図はなくて、ただ懲らしめたかっただけという
中途半端な知識が招いた悲劇ではあるけれど、果たして彼女の中に殺意はみじんもなかったと言えるのかしら
・伴奏者(永嶋恵美)
題名は「共犯者」の意味もあるのだと読了して気付きました。中学生を子供だと侮ると・・・恐い
それにしても被害者である女教師には同情する余地が見当たらないな
・猫は毒殺に関与しない(柴田よしき)
犯人捜しの鍋パーティが、発起人の思惑とは別の犯人による復讐劇になっているのは意表をついています。真犯人が追い詰められる最後がコメディチックでもあり、面白かったかな。恨みを買う人物って本人には全く悪意がなかったりするんだよね~~
・罪を認めてください(新津きよみ)
正義感の強さが災いして職を二度も追われたヒロインが最期に選択したのは・・・それを大人になったと言い換えるのは簡単だし、間違いとは言わないけれど、だったらそれまでの貴女の生き方に対してどうなのよ!と言いたい気持ちにはなるかな
・ナザル(松村比呂美)
初めに語られる希江の視点から、疑われる瞳の視点に変わるあたりから、毒とは希江自身を指すのではないかと思ってしまいました。彼女は自分の境遇に対する不満を、瞳や周囲の人間へのマウンティングで晴らしている、野次馬根性丸出しのお節介おばさんで、嫉妬心の強い女性として描かれているけれど、見渡せば身近にもいそうな人物です。
ナザルとはインドの言い伝えにある厄災除けのお守り代わりのほくろのことだそう。毒殺の真犯人は瞳ではなく・・という展開は冒頭のナザルの描写に繋がっていって、うまく話しがまとまっていました。
今回の8作品の中で一番印象に残る話でした。
・完璧な蒐集(篠田真由美)
江戸川乱歩風の印象です。蒐集家というのはどこか風変りな人種な気がしますが、それが高じるとこんな人物もいるかもという静かな怖さがあります。
・三人の女の物語(光原百合)
クレオパトラや白雪姫の話を、主を崇拝する奴隷や悪役扱いの継母の視点で語るとこういう話もできますって感じな「ある女王の物語」「ある姫君の物語」と、愛する人に殺されたい妻と、愛する人を殺したい夫を書いた「ある人妻の物語」の3つの物語です。ある意味大人のファンタジー。