2015年4月4日公開 イギリス 121分
1984年、不況に揺れるイギリス。サッチャー首相が発表した20カ所の炭坑閉鎖案に抗議するストライキが、4カ月目に入ろうとしていた。ロンドンに暮らすマーク(ベン・シュネッツァー)は、その様子をニュースで見て、炭坑労働者とその家族を支援するために、ゲイの仲間たちと募金活動をしようと思いつく。折しもその日は、ゲイの権利を訴える大々的なパレードがあった。マークは「彼らの敵はサッチャーと警官。つまり僕たちと同じだ。いいアイデアだろ?」と、友人のマイク(ジョセフ・ギルガン)を強引に誘い、行進しながらさっそく募金を呼びかけるのだった。
パレードの後、“ゲイズ・ザ・ワード”での打ち上げパーティで、マークは“LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)”を立ち上げる。だが、参加を表明したのは、書店主のゲシン(アンドリュー・スコット)と彼の恋人で俳優のジョナサン(ドミニク・ウェスト)、唯一の女性のステフ(フェイ・マーセイ)、両親に秘密で初めて参加したジョー(ジョージ・マッケイ)を始め、たった9人だった。
バケツを手に街角で集めた寄付金を送ろうと、全国炭坑労働組合に連絡するマーク。ところが、何度電話しても「レズビアン&ゲイ会」と名乗ると、「後でかけ直す」と切られてしまう。ここロンドンでも、まだ「ヘンタイ!」と罵声を浴びせられる彼らは、組合にとっては異星人に等しかった。
炭坑に直接電話すればいいんだ! またしてもマークのアイデアで、ウェールズの炭坑町ディライスの役場に電話すると、あっさり受け入れられる。数日後、ディライス炭坑を代表してダイ(パディ・コンシダイン)がロンドンまで訪ねてくる。「それでLGSMって何の略?」と訊ね、Lはロンドンの略だと思っていたと唖然とするダイ。だが、彼に偏見はなかった。その夜、生まれて初めてゲイ・バーを訪れたダイは、大勢の客の前で「皆さんがくれたのはお金ではなく友情です」と熱く語る。
ダイの感動的なスピーチのおかげでメンバーが増え、LGSMはディライス炭坑に多額の寄付金を送る。支援者への感謝パーティを企画した委員長のヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)は、「絶対にもめごとが起きる」という反対を押し切ってLGSMの招待を決定するのだった。
ミニバスに乗って、ウェールズへと出発する主要メンバーたち。ジョーは両親に調理学校の実習旅行だと嘘をつき、故郷ウェールズの母親との確執を抱えたゲシンは留守番だ。やがてバスはウェールズに突入、平原の中どこまでも続く一本道を行き、ついに炭坑町に到着する。
委員長のヘフィーナや書記のクリフ(ビル・ナイ)が温かく迎えてくれるが、会場を埋める町人たちの反応は冷ややかで、マークのスピーチが終わると、続々と退場して行く。しかし、翌日になると、好奇心を抑えきれない人々が、彼らに様々な質問を投げかける。「どちらが家事をするの?」など無邪気な疑問に答えるうちに、互いに心を開き始めるゲイと町人たち。さらにジョナサンがダンスを披露、歓迎会は大喝采のなか幕を閉じる。
だが、組合と政府の交渉は決裂、ストは42週目に入り、サッチャーは組合員の家族手当を停止する。再び町を訪れたマークたちがさらなる支援を決意した矢先、町人の一人が新聞に密告、「オカマがストに口出し」と書き立てられ、LGSMからの支援を打ち切るか否か採決がとられることになる。今や町人たちと深い友情で結ばれたメンバーたちは資金集めのコンサートを企画するが、その先には思わぬ困難が待ち受けていた──。(公式HPより)
イギリスで実際にあった炭鉱労働者たちのストライキと同性愛者たちの友情を涙と笑いを交えて描いた作品です。80年代のロンドンの街並みやファッションが再現されていて、音楽もカルチャー・クラブ、ザ・スミス、ブロンスキ・ビートといった当時の名曲が使われています。炭坑の町の描写はウェールズでロケされ、城跡が残る雄大な景色も見所の一つです。
冒頭に登場するゲイの権利を訴えるパレードは、一年後にも再び登場します。炭鉱労働者とLGSMのメンバーが出会い、友情で結ばれた先の大きな結実が邦題に結びついていますが、個人的には原題の「PRIDE」の方がしっくりくるかなぁ
質実剛健な片田舎の肉体労働者と派手なファッションの同性愛者という、水と油、両極端に思える二つのグループが、手を取り合って未来を切り開く姿がユーモアを織り交ぜながら描かれています。誤解や拒否反応からくる衝突を乗り越えて固い絆を結び、新たな人生を掴み取っていく姿を見ているうちに、曇り(偏見)のない柔軟な頭と、他人を思いやる心や誠実さと、少しの勇気が未来を変える希望に繋がっていくことを改めて感じさせてくれました。何より実話という重みがありますね
LGSMが何の略かもわかっていなかったダイは、支援してくれる相手が同性愛者だと知って驚きますが、だからといって態度を変えたりせず、逆に感謝の気持ちを伝えます。彼のような偏見のない人が窓口だったことが双方にとてもラッキーだったと思います。町の人々の中で、最初にメンバーと打ち解けたのがヘフィーナら女性たちというのも興味深いです。ジョナサンのダンスがきっかけになっていたり、『パンと薔薇』の合唱でメンバーに応えたりと、まさにダンスと音楽は人を結びつける大きな力だなぁとしかし、保守的なモーリーンは最後まで偏見を捨てず、新聞社に密告して中傷記事を書かせます
映画では、彼女のその後について語られていないのですが、ちょっと気になりました。
この記事がストにも悪影響を与えますが、マークは世間の注目を逆手にとって音楽祭を計画し成功を収めます。招かれたヘフィーナら委員会の女性メンバーたちのはしゃぎぶりがタフで可愛らしくて微笑ましかったです。しかし、モーリーンの画策で、留守番役のクリフやマーティンは口下手が災いしてLGSMの弁護もまともにできずに、炭鉱労働者組合はLGSMの支援に対して打ち切りを採択してしまいます。
メンバーたちも、ジョーは家族にゲイだとばれて軟禁状態になり、マークは元恋人がAIDSを発症したショックもあり自暴自棄になって会を離れ、ゲシンは募金活動中に襲われて怪我をして入院、ジョナサンもAIDSであることなどがわかります。当時、AIDSと同性愛者の関係が世間に衝撃と動揺を与えたのは記憶に新しいです
一年にわたるストが遂に終結したことを知り、ジョーは家を抜け出して町へ向かいます。そこにはマークも来ていました。ジョーはマークに「人生は短いからこそ有効に使え」と助言を受け、家を出て再びLGSMの活動に参加します。
ラストシーンは、冒頭から一年後のゲイ・パレードの当日。戻ってきたマークらメンバーたちの前に、バスを連ねた全国の炭鉱労働者たちが集まってきて、共にパレードの先頭を手を取り合って歩き始めます。彼らは自分たちの受けた恩に報いようと活動への連帯を示したのです。
支援を断ったあとの、町の人々と労働組合の紆余曲折は映画で触れられていないので、このシーンは少々唐突にも見えますが、エピローグで、翌年の労働党大会で全国炭鉱労働組合の後押しにより、同性愛者の権利がマニフェストに盛り込まれたこと、それに大きく貢献したのが、この町の組合だったことが語られていたことから、想像がつきますね また、委員会の女性メンバーの一人、シャーンが、ジョナサンの助言に背中を押され大学に進み、後にはこの地方初の女性議員になったことも語られていました。
LGSMのリーダー的存在のマークの柔軟で独創的な着眼点や発想が、共に政府に虐げられている者として炭鉱労働者と同性愛者を結びつける大きな役割を果たしていますが、彼自身はAIDS発症により26歳でその生涯を閉じたそうです。合掌。