2020年2月7日公開 アメリカ 97分 G
老人の養護施設で暮らすダウン症のザック(ザック・ゴッツァーゲン)は、子どもの頃から憧れていたプロレスラーの養成学校に入ることを夢見て、ある日施設を脱走する。同じく、しっかり者の兄を亡くし孤独な毎日を送っていた漁師・タイラー(シャイア・ラブーフ)は、他人の獲物を盗んでいたのがバレて、ボートに乗って逃げ出す。ノースカロライナ州郊外を舞台に、偶然にも出会った二人の旅の辿り着く先は……? やがて、ザックを探してやってきた施設の看護師エレノア(ダコタ・ジョンソン)も加わって、知らない世界との新たな出会いに導かれ、彼らの旅は想像をもしていなかった冒険へと変化していく。(公式HPより)
ツキに見放された漁師と施設から脱走したダウン症の青年、施設の看護師の3人による青年の夢をかなえるための冒険の旅を描いたヒューマンドラマです。
ザックが暮らすのは老人ホーム。ルームメートのカールは、ザックが憧れのレスラーのソルト・ウォーター・レッドネック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)のビデオを繰り返し観るのを付き合ってくれる理解者で、エレノアもザックを温かく見守ってくれていますが、若い彼にとって決して居心地が良い場所ではありません。
仲が良かった兄を亡くしたタイラーは、他の漁師の獲物を横取りして日銭を稼いでいましたが、違法の魚はこれ以上受けとらないと通告され、地元の漁師と喧嘩になり、腹いせに彼らの網を燃やして逃げ出します。ところがボートには下着一枚でホームを逃げ出したザックが隠れていました。ザックを置いてフロリダを目指すタイラーでしたが、船着き場での放火が大騒ぎとなって漁師たちが待ち伏せしていると知り、来た道を戻ると、ザックが虐められている所に出くわし助けます。ここから二人の旅が始まるんですね
憧れのソルト・ウォーター・レッドネックについて夢中で話し、レスラー養成所で学びたいというザックに、タイラーはフロリダの途中にあるから一緒に連れて行ってやると言って、自分のTシャツやズボンを渡します。「僕はダウン症なんだ」と打ち明けるザックに「そんなことはどうでもいい」と答えるタイラー。密漁や放火をしても、本来曇りのない心を持つ人物なのだと示されるシーンです。
商店でお金が足りずにピーナッツバターと釣り針だけを購入するタイラー。そこにザックを探して連れ帰るよう命じられたエレノアが来ますが、報奨金が出ないと知ってタイラーは知らん振りを決め込み、ザックと旅を続けるんです。
タイラーの作ったルール「その1:足手まといにならない その2:重いものはお前が持て」で、ザックに長靴を履かせて自分の荷物を背負わせるのですが、なんだかんだいっても衣類と靴まで与えているんだから、やっぱり根は良い奴なんですよね ルールその1は?と確認するタイラーに「パーティ」と答えるザックが何とも微笑ましいです。
時間を短縮するため川を渡ることになりますが、泳げないザックをゴミ袋を浮き輪代わりに結んだロープを引っ張ってタイラーは泳ぎます。途中大きな船が近づくとタイラーは必至に紐を引き、ザックは間一髪のところで船を交わします。このあとタイラーはザックに泳ぎ方を教えてあげるの
自分は悪い人間だから親に捨てられたと話すザックに、タイラーはダウン症と彼の持つ心根の良さとは関係無いと諭し、腕力の強さは長所だと励まします。そしてショットガンの使い方を彼に教えます。
廃品置き場のボートを物色する二人が出会った老人との会話も愉快でした。盲目の老人は黒人嫌いのようで、彼らが白人だとわかると友好的になり、いかだを作る材料を提供してくれます。
いかだで旅を続ける二人は、焚火の前で酒を飲み、ピーナッツバターを食べながら顔に塗りつけてふざけ合い、タイラーにリング名を考えるべきだと言われたザックは「ピーナッツ・バター・ファルコン」と叫びます。ここ、タイトルに関わる重要なシーンですね
翌朝、追ってきたエレノアが二人を発見し、ホームに帰るよう説得しますが、ザックの気持ちを尊重するようタイラーに説き伏せられ同行することに。この時、タイラーがエレノアにザックを可哀そうな知恵遅れのように扱うなと言うのですが、同時にエレノアがザックのことを本気で心配していることも彼女の言動から伝わってくるんですね。
タイラーを追う漁師達とのいざこざ(ザックがショットガンで彼らを撃退)を切り抜け、やっとたどり着いたレスラー養成所は、とっくに閉校されていました。既に引退していたソルト・ウォーター・レッドネックに、タイラーはザックの思いを伝えます。ソルトはザックが自分の大ファンでヒーローとして憧れていると知り、レスリングを教えることにします。そして本物の試合がしたいというザックの希望で、レスリングの催しに参加することに。心配するエレノア、相手がソルトとの約束を破って手加減せずザックを倒そうとする中、タイラーの声援を受け立ち上がったザックが怪力でレスラーを持ち上げリング外へ放り投げた瞬間、タイラーの背後に漁師が襲い掛かり頭部を強打。病院に運ばれたタイラーに付き添うザックとエレノア。既に三人の間には強い絆が生まれていました。
上司からザックを麻薬依存患者や売春婦が暮らすシェルターに移動すると聞かされていたエレノアは、二人と一緒にフロリダを目指しENDとなります。
ザックの持つ障害は、三人にとっての障害ではありません。お互いをただ認め尊重し信頼する、それだけです。そんな当たり前のことが何と難しいことか。彼らはそんな躊躇いも軽やかに飛び越え絆を結んでいきました。