杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

天気の子

2020年05月31日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年7月19日公開 114分

離島から家出し、東京にやって来た高校生の帆高(声:醍醐虎汰朗)。生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく手に入れたのは、怪しげなオカルト雑誌のライターの仕事だった。そんな彼の今後を示唆するかのように、連日雨が振り続ける。ある日、帆高は都会の片隅で陽菜(森七菜)という少女に出会う。ある事情から小学生の弟と2人きりで暮らす彼女には、「祈る」ことで空を晴れにできる不思議な能力があり……。(映画.comより)

 

「君の名は。」の新海誠監督が、天候の調和が狂っていく時代に、運命に翻弄されながらも自らの生き方を選択しようとする少年少女の姿を描いた長編アニメーションです。「RADWIMPS」が音楽を担当しています。

前作「君の名は」の立花 瀧(神木隆之介)は、冨美の孫として登場して帆高に陽菜へ誕生日プレゼントを贈るようにアドバイスしています。また宮水 三葉(上白石萌音)はジュエリーショップの店員役で出てきます。

陽菜は「天気の巫女」の能力を授かったのですが、人の力の及ばない“天”と“人”を結び天気を治療するといえば聞こえは良いけれど、要は人柱として自らの命と引き換えに晴れをもたらすことだったという。 能力を使うたび身体が透けて、ある日陽菜は消えてしまいます。

彼女がそんな能力を手にしたのは、廃ビルの屋上にあった鳥居を病気で入院中の母親に青空を見せたいという強い願いを持ってくぐったため。彼女が雲の上でみる世界は「彼岸」なんですね 

帆高が歌舞伎町のゴミ箱から拾った銃を撃つシーンが二度登場しますが、彼にとって「銃」は社会や大人に対する「怒り」の象徴なのね。一度目は陽菜を助けようとして偶発的にでしたが、二度目は確かな意志を持って引き金を引くのです。

困窮した帆高を助けて住み込みで雇った須賀圭介もまた、社会や大人に反抗する帆高に過去の自分を見たのかな。彼自身も親に反抗して家出した過去があり、互いの両親に反対されながらも結婚した最愛の妻に先立たれ、娘の萌花の養育権も取られているんですね。 須賀が警察から帆高を逃したのは、帆高のすべてをかけて陽菜に会いに行こうとする姿を妻への想いと重ね合わせたからでしょうか。

ようやく陽菜を見つけた帆高は、「天気なんて、狂ったままでいいんだ!」と叫びます。それに応えるかのように雨は3年間振り続けました。帆高は保護観察処分となって陽菜と一度も会わないまま地元の高校を卒業します。殆どが海に沈んだ東京で、二人は再会し「僕たちは大丈夫だ」と言う帆高。雲の間から覗く眩しいほどの太陽を見つめながら二人は未来を想ったのかな。

この年頃に感じていた気持ちなんて、遠い昔に置いてきてしまった身には、まさにファンタジーでございます

この監督の作品ではやっぱり「言の葉の庭」か「秒速5センチメートル」が好きだなぁ


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蜜蜂と遠雷

2020年05月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年10月4日公開

3年に一度開催され、若手ピアニストの登竜門として注目される芳ヶ江国際ピアノコンクール。
かつて天才少女と言われ、その将来を嘱望されるも、7年前、母親の死をきっかけに表舞台から消えていた栄伝亜夜(松岡茉優)は、再起をかけ、自分の音を探しに、コンクールに挑む。
そしてそこで、3人のコンテスタントと出会う。岩手の楽器店で働くかたわら、夢を諦めず、“生活者の音楽”を掲げ、年齢制限ギリギリで最後のコンクールに挑むサラリーマン奏者、高島明石(松坂桃李)。幼少の頃、亜夜と共にピアノを学び、いまは名門ジュリアード音楽院に在学し、人気実力を兼ね備えた優勝大本命のマサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)。
そして、今は亡き“ピアノの神様”の推薦状を持ち、突如として現れた謎の少年、風間塵(鈴鹿央士)。国際コンクールの熾烈な戦いを通し、ライバルたちと互いに刺激し合う中で、亜夜は、かつての自分の音楽と向き合うことになる。果たして亜夜は、まだ音楽の神様に愛されているのか。そして、最後に勝つのは誰か?(公式HPより)

 

 国際ピアノコンクールを舞台に、亜夜、明石、マサル、塵という世界を目指す若き4人のピアニストたちの挑戦、才能、運命、成長を描いた恩田陸の小説「蜜蜂と遠雷」は直木賞と本屋大賞のW受賞でも話題となりました。圧倒的な音楽描写を伴うこの物語の映画化にあたり、演奏シーンは最重要課題です。コンクールの楽曲を実際に奏でるのは、河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央という超一流のピアニストたちで、亜夜、明石、マサル、塵、それぞれのキャラクターに沿った演奏を披露しています。コンクールのキー曲となる「春と修羅」は、これまた日本を代表する作曲家・藤倉大の手によるものです。

とまぁ、これは公式HPの受け売りであって、音楽は素人の身には、その良し悪しの判断はできませんが、4人のピアニストの個性が伝わるような演奏シーンだなということはちゃんと感じることができました 音楽に詳しい人にはより一層感じるものがあるんじゃないかしら。

演奏シーン以外では、4人のピアノへの向き合い方がしっかり描かれていたのが印象的でした。

マサルの師事するジュリアード音楽院の教授(アンジェイ・ヒラ)は技術の正確性に重点を置く主義で、彼は忠実に従いながらも、独自性を模索しています。明石は努力型のピアニストで、今回のコンテストで自らの限界を突きつけられますが、彼にとってピアノは生活の一部であることにも気付いていきます。塵は型にはまらない自由な自然児で、彼のピアノを通して亜夜はピアノを楽しんで弾いていた子供時代を思い出し、母の死がもたらしたトラウマから自分を解放するに至るのです。

コンクールの勝者は一人だけですが、彼等にとってはコンクールに出場したことそれ自体が、かけがえのない経験と成長の場だったというわけね。

明石の元同級生で、ドキュメンタリー番組の撮影でコンクールに密着する仁科役にブルゾンちえみ、審査委員長で自身も有名なピアニストの嵯峨役に斉藤由貴、本選のオーケストラを指揮する世界最高峰のマエストロ役に鹿賀丈史と共演者も一癖あるメンバーでした。

ベテランステージマネージャー(平田満)の亜夜に向ける温かな慈しみの視線が、コンテストに関わる周囲の人たちの思いを代弁しているかのように思えました。


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ヒキタさん! ご懐妊ですよ

2020年05月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年10月4日公開 102分 G

ヒキタクニオ(松重豊)、49歳。職業は人気作家。サウナとビールが大好きで、ジム通いのおかげでいたって健康体。一回り以上年が離れた妻・サチ(北川景子)と仲良く暮らしている。年の差婚のふたりは、子どもは作らず、気ままに楽しい夫婦生活を送るつもりでいたが、ある日の妻の突然の一言ですべてが変わった。「ヒキタさんの子どもに会いたい」

サチの熱意に引っ張られる形で、妊活へ足を踏み出すことになったヒキタ。だが、彼は知らなかった。まだまだ若くて健康だと自負していたが、相反して、彼の精子が老化現象を起こしていたことを……。(公式HPより)

 

歳の差夫婦に子供が出来て巻き起こるドタバタを想像していたら全く違っていました。

作家のヒキタクニオが自身の体験をもとにつづった同名エッセイを映画化したもので、男性不妊に直面しながらも明るく前向きに乗り越えようとするヒキタ夫妻の姿をユーモラスかつ叙情的に描いた作品です。

サチの言葉をきっかけに妊活を始めたものの、一年経っても結果が出ないため、クリニックで検査したら、原因はクニオの側にあることがわかります。ショックを受けながらも、事実を受け止め、改善に向けて取り組むヒキタさんの涙ぐましい努力が可愛くもあり切なくもあり・・・。

編集者の杉浦(濱田岳)のところのように、望まなくてもポンポン出来ちゃう夫婦もいれば、ヒキタさんたちのように欲しくても出来ない夫婦もいて、世の中って不公平よね 

サチの父親(伊東四朗)は妊活なんて対面が悪いと大反対します。元々、娘が年の離れた男に嫁ぐことさえ反対していたので、尚更反発があるのでしょう。でも彼等の真剣な思いを知り、費用援助を申し出る(その不愛想なやり方が逆に微笑ましいのですが)あたりは、やっぱり良いお父さんでした

クリニックの医師(山中崇)が、淡々と説明する妊活の流れを聞いていると、男性より女性の側により負担がかかることがわかります。それにあたりサチの心情があまり伝わってこないのが物足りなくもありますが、男性の視点で描かれているから仕方ないのかな。流産した時のエピソードと無理解な父親の言動に感情を露わにしたシーンが唯一女性目線でした。

自分の出来ることがあまりにも少ないことに苛立ち、医師に縋るヒキタさんのシーンは鬼気迫るものがありました。男だって辛いんだなぁって伝わってきました。

二度目の成功で、やっと出産の目途が付いたところで物語は終わります。この夫婦はそれでも妊活期間は短い方なのかも。

結婚して子供が生まれるのは当たり前という感覚を考え直させるお話でした。


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バッドボーイズ フォー・ライフ

2020年05月22日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年1月31日公開 アメリカ 124分 R15+

リッチでイケメン、独身生活を謳歌する敏腕ベテラン刑事のマイク(ウィル・スミス)。妻に頭が上がらず家庭優先、仕事はイマイチだが、最高の相棒マーカス(マーティン・ローレンス)。マイアミ市警の名物コンビ”バッドボーイズ”の2人だったが、マーカスは家族のことを想い危険と隣り合わせの仕事から引退を決意する。そんな中、マイクは新チームへの配属を命じられ、若手エリート検査官で結成されたAMMO(マイアミ市警特殊エリート部隊)のメンバーたちと新たにチームを結成することに。生意気な若手と衝突を繰り返すマイクだが、新しい事件の捜査を進めるうちに何者かに命を狙われてしまう。さらに容赦なくマイクの周囲にまで凶弾が・・。標的はマイクの命。追い詰められたマイクは、マーカスのもとを訪れ再び”バッドボーイズ”を結成し、本格的に捜査を進める。その過程で政府要人が次々と殺害されていく。一見無関係に見えた政府要人たちの殺害と自分への脅威。しかし全てはマイクが過去に関わった事件と深い因果関係があった。「犯人は・・。」自らの過去と対峙する為、マイクはメキシコに渡るが・・・。(公式HPより)

 

「バッドボーイズ」のシリーズ第3弾は17年ぶりの新作です。

もう「ボーイズ」とは呼べないおっさんになった二人ですが、意識の変わらないマイクと対照的に、マーカスは危険な仕事より家族を優先させるため、引退を決意していました。まぁ、それが自然な感情だと思うよね そんな時、マイクが狙撃されて生死の境をさまよう重症に。マーカスは神様に祈ります。もしマイクを助けてくれたら、もう暴力行為はしませんって。願いは聞き届けられ?マイク復活です。

実はこの銃撃犯ってばマイクの実の息子。ん?この話の流れ、どこかで観たような・・・DNAという点では「ジェミニマン」とも似てる 

昔、潜入捜査でターゲットの妻と恋仲になったけど、仕事を取った過去を持つマイクという筋書きです。で、捨てられた女は獄中で出産した息子を使って復讐を企てるんですね。「魔女」扱いですが、その怒りは理解できるような。でも息子に父親を偽って教えて、実の父を殺させようとするのはやっぱり行き過ぎですね。 

結局、このお話も父と息子は和解し、母親の方は報いをうけるという展開でした。

ハチャメチャな暴れようは過去シリーズに引けをとりませんが、今回は若手を「教育」しながらという人生の先輩的側面もあります。

ま、そろそろ潮時よね~~ それとも続編作って息子とタッグを組むのか?


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最初の晩餐

2020年05月13日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年11月1日公開 127分

独立して2年目となるカメラマン、東麟太郎(染谷将太)は、姉の美也子(戸田恵梨香)とともに薄暗い病院の食堂で、麺がのびきったラーメンを食べている。「親父が死んだ……。65歳になる直前の、夏至の日の明け方だった」久しぶりに故郷に帰ってきた麟太郎は病室で亡き父・日登志(永瀬正敏)と対面し、葬儀の準備をしながら、ありし日の家族を思い出す。
通夜の準備が進む実家の縁側で、麟太郎がつまらなそうにタバコを吸っていると、居間では、ちょっとした騒動が起きていた。通夜ぶるまいの弁当を、母・アキコ(斉藤由貴)が勝手にキャンセルしていたのだ。なにもないテーブルを見つめて戸惑う親戚たち。母は自分で作るという。それが父の遺言だ、と。やがて最初の料理が運ばれてくると、通夜の席はまた、ざわつき出した。母が盆で運んできた料理は目玉焼きだった。
戸惑いながらも、箸をつける麟太郎。目玉焼きの裏面を摘む。ハムにしてはやけに薄く、カリカリしている。「これ、親父が初めて作ってくれた、料理です」登山家だった父・日登志と母・アキコは再婚同士で、20年前に家族となった。麟太郎(外川燎)が7歳、美也子(森七菜)が11歳の夏だった。 新しく母となったアキコには、17歳になるシュン(楽駆)という男の子がいた。
5人はギクシャクしながらも、何気ない日常を積み重ね、気持ちを少しずつ手繰り寄せ、お互いにちょっとだけ妥協し、家族として、暮らしはじめていた。 それは平凡だけど、穏やかな日々だった。しかし、1本の電話が、まるで1滴の染みが広がるように、この家族を変えていく…… 。そして兄のシュンは、父と2人で山登りへ行った翌日、自分の22歳の誕生日に突然、家を出て行った。
父も母もなぜか、止めようとはしない。以来、家族5人が揃うことはなかった。
次々と出される母の手料理を食べるたび、家族として暮らした5年間の思い出が麟太郎たちの脳裏によみがえる。
それは、はじめて家族として食卓を囲んだ記憶だった。
兄弟で焼いた焼き芋、父と兄が山で食べたピザ、姉の喉に刺さった焼き魚の小骨。あのとき、家族になれたはずだった。
あの日、父と兄になにがあったのか? 死の寸前、父はなにを思ったのか?
姉が抱えている小さなキズとは? 母が長年隠し続けてきたこととは?
家族として過ごした5年間という時間。それは、短かったのか?長かったのか?
父の死をきっかけに、止まっていた家族の時がゆっくりと動き出す。
そして通夜ぶるまいも終盤に差しかかったその時、兄のシュン(窪塚洋介)が15年ぶりに帰ってきた……。(公式HPより)

 

父を亡くした家族が通夜に出てきたある料理をきっかけに家族の時間を取り戻すというお話です。

連れ子のいる再婚同士という構図は示されていますが、関係がぎくしゃくしてばらばらになった理由が後になるまで明かされない上に、その理由というのがどうにも共感できなかったのでね。 母親を演じた斉藤由貴が役の人物に被って見えて、セリフが真に迫って聞こえるのも一因かも。

通夜に集まった親戚連中の無遠慮で無神経な態度や、継母と子供たちのぎくしゃくした雰囲気などは、リアル感がありましたが、とにかく話が見えない状態が長い。シュン兄が登場してやっと動き出す感じです。

大人の事情が明かされても、だからといってシュンが家を出て行ったことに対して二人に何の説明もフォローもなかったのはどうよ!という思いが生じました。子供だって色々考えるんです。美也子の夫への態度や、麟太郎の結婚とか家族に対する否定的な姿勢もその結果であることは間違いないのですから。

通夜ぶるまいで出される料理の数々はどれも質素なものですが、一品一品に家族の思い出が刻まれているというのがミソです。しかし親類の人々にとっては「なんのこっちゃ?」だよな~~。若い坊さんの所在無さげな様子にちょっと同情しちゃいました

シュンと麟太郎や美也子は昔のように交流が出てくるのだろうし、二人の結婚や家族観も修正されるんでしょうという結末でした。


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台風家族

2020年05月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年9月6日公開 108分 PG12

紙袋を覆面代わりに被った老人(藤竜也)が地方銀行で2000万円を強盗。金ピカの宮型霊柩車で逃走し、妻(榊原るみ)と共に行方をくらました。強盗事件はあっという間にニュースになったが、老夫婦の行方も、霊柩車も、奪われた2000万円も不明のまま月日は過ぎていった──。時は流れ2018年。台風が近づくある夏の日、鈴木小鉄(草なぎ剛)は妻の美代子(尾野真千子)と娘のユズキ(甲田まひる)を連れて実家へと車を走らせていた。10年前に銀行強盗をして世間を騒がせた両親の葬儀に参列するためだ。葬儀といっても、死体はおろか霊柩車すら見つかっていない。にもかかわらず形式的な葬儀をする理由は、きょうだいで財産分与を行うためだった。すっかり朽ち果てた実家に一番乗りで到着したのは小鉄たちだ。葬儀屋を併設した古びた二階建ての日本家屋、表札には「鈴木一鉄」とある。店のシャッターには「盗人」「バカ」などとペンキで描かれ、当時の記憶がよみがえる。鈴木家の居間には2つの棺桶が並び、小さな写真立てには28年前の両親が映っている。しばらくして長女の麗奈(MEGUMI)がやって来る。麗奈は両親の事件のせいで離婚、現在つき合っている男性はいるが独身だ。ほどなく住職の萬福寺さんがやって来て、“見せかけ”の葬儀が始まり、遅れて次男の京介(新井浩文)も到着する。兄の小鉄とはあまり仲は良くなく、小鉄が遺産を独り占めしようとしているのではないかと勘ぐっている。残るは兄姉から可愛がられていた末っ子の千尋(中村倫也)だが、なかなか姿を現さない。葬儀開催のハガキが届いていないのだろうか……。葬儀が終わっても千尋がやって来る気配はなく、仕方なく3人で財産分与についての話し合いをすることにする。「預金や保険も一通り調べたけど、大した額じゃないから、遺産はこの家と土地だけだ」と、いかにも長男らしく振る舞いその場を仕切ろうとする小鉄。どんな仕事も長続きしない彼にとって「遺産」という二文字は何にも代えがたいほど魅力的だったのだ。おまけに少し前、勤務中に玉突き事故に巻き込まれてむちうちになり、首にはサポーター、頭には包帯が巻いてある。何としても遺された家や土地をお金に換えたい、一番多くもらいたい、というのが小鉄の本音だ。財産分与について話し合う最中、玄関のインターフォンが鳴る。ようやく千尋が来たのだろうか? しかし、そこに立っていたのは千尋ではない、茶髪のチャラチャラした男(若葉竜也)だった。見知らぬ訪問者によって、話し合いは思いがけない展開に転がっていく。きょうだい同士がこれまで溜めてきた想い、小鉄とユズキの間にある親子の溝、そして10年前に両親が起こした強盗事件の背景に何があったのか? 刻々と台風が近づくなか、鈴木家にも嵐が渦巻いていた……。(公式HPより)

 

世界一“クズ”な一家だけれど何故か憎めない鈴木家の“台風”のようなめまぐるしい夏の一日の終わりに待っていたのは──。

市井昌秀監督のオリジナル脚本で、ひとクセある家族たちの姿をブラックユーモアを交えて描いたコメディドラマです。新井浩文(プライベートはアレですが、演技に関しては上手かったのにな~~)の不祥事を受けて公開延期となり、上映期間も短かった作品ですが、インパクトのある娯楽作です。

前半は遺産目当てのクズな兄弟争いが繰り広げられ、特に小鉄のなりふり構わない守銭奴ぶりが際立っています。麗奈を追いかけてきた恋人は「若さ」を持て余したチャラ男で、この二人が店でする行為は欲望剥きだしです。(だからPG12なんだ)一見誠実そうな次男も家業を捨てて逃げ出した兄への不満がくすぶっている様子。そこに現れた末っ子の千尋が投げ入れていた爆弾(争いの様子を盗撮してネットで生配信)にはあきれるしかありません。さらに逆切れした小鉄が清々しいまでのクズぶりを発揮するにいたってはもう言葉も出ません。

事件を起こした父親のせいで、小鉄は会社をクビになり、麗奈は離婚に追い込まれ、人生が大きく狂っています。それなのに、なぜそのような事件を起こしたのか、どこに消えてしまったのかは不明なままでした。それが家族が一同に集まったことで、少しずつ真相がわかってくるんですね。認知症だった母親の状態が日々悪化していたことを兄弟の誰もが気付いていなかったこと、父親が小鉄を救うために事件を起こしていたことなどがわかってくる後半では、それまでの登場人物たちのイメージが変わっていきます。

強盗に入られた銀行の元支店長(相島一之)も人生を狂わされた一人。ネット配信を見て鈴木家を訪ね、まだ時効は成立していないとわざわざ言いに来るあたりは、彼の復讐でもあるのかな もう一人、父親に詐欺電話をかけた女性(長内映里香)もやってきます。彼女は自分がかけた電話が原因で事件が起きたことを深く後悔していて、これまで働いて貯めたお金を小鉄に差し出します。あっさり受け取る小鉄はクズですが、真実を知ると返すあたりは、根は良いヤツなんだなと。さらに小鉄がお金に汚いのは、娘の夢(音楽留学)を叶えたいがためであることも明らかになります。

台風の最中の兄弟の争いから一転、台風が去ったあと、家族は父親の向かったであろう場所へ車を走らせます。(小鉄の車は軽で、全員乗れないので菩提寺の住職を脅して借りるあたりがクズではありますが)ここからラストまでは、漫画でもありえないような展開で、良い意味で人情ドラマになっていたのがまたまたお笑い路線に逆戻り、というか本線に戻った感じ? 10年、あの形のままでそこに「あった」のに、急に流されて、しかも海までって・・・昔キャンプをした山から母親が望んでいた海という、家族の思い出を伏線にした粋な展開ではあります。でもやっぱり最後は・・・

親に対するイメージって、兄弟でも違ってくるものだけど、鈴木家の兄弟は全員「おやじはケチで自分勝手」という認識でした。ところが集まって話をするうち、父親の妻や子供への愛情の深さに気付いていきます。頑固で不器用な父親の本当の思いを知り、兄弟が再び家族として繋がっていくという意味ではハートウォーミングな話になっていました。


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3人の信長

2020年05月08日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年9月20日公開 106分

永禄13年、かつて主君である今川義元を討たれたことへの復讐に燃える蒲原氏徳(高嶋政宏)ら元今川軍の侍たちが、金ヶ崎の戦いに敗れて逃走中の織田信長を捕らえることに成功する。しかし、彼らが捕らえた信長は3人もいた。万が一、影武者の首を討ち取ってしまっては、今川家は笑いものになってしまう。蒲原らはあの手この手で本物をあぶりだそうとするが、3人の信長たちも本物を守るため「我こそが信長だ」と猛アピール。3人の信長と元今川軍の侍たちは、翻弄し、翻弄される謀略合戦を繰り広げる。(映画.comより)

 

自分こそが本物だと主張する3人の信長と、仇討ちに燃える元今川軍の侍たちとの攻防を描いたオリジナル時代劇エンタテインメントです。

三人の信長、甲(EXILE TAKAHIRO)、乙(市原隼人)、丙(岡田義徳)は背格好は似たり寄ったりですが、人相は異なります。しかし仕草などの癖や猫アレルギーという弱みもそっくりで、本物と会ったことのない蒲原、瀬名(相島一之)や半兵衛(前田公輝)ら 元今川軍の残党たちには見分けがつかないんですね

影武者といっても良く見るとそれぞれ性格は微妙に異なります。甲は頭のきれるかぶき者、乙は貫禄はあるけれど天然系、丙はうつけもので何を考えているか読めません。誰が本物なのかを今川の残党たちの目線で一緒に推理しながら楽しめます。甲がそれらしいと思わせる演出ですが、信長が助けを求めに行かせた先の戦国大名・朽木の妻(坂東希)とのやりとりを聞くと「あれ?丙なのかな」とも思えてしまいます。残念ながら乙は早い時点で正体がばれてしまいますが

と、ここまでが実はミスリード。本物は別にいました しかも早い段階で登場しています

影武者たちが「我こそは本物」と言い張ること自体に、自分たちの願いを叶えてくれる主君(本物の信長)への敬意や信頼が伝わってきます。そして彼等の信頼を裏切らない本物の信長の行動にもです。

影武者たちに翻弄される元今川勢の姿はまさにコメディですが、憎めない愛嬌がありました。

最後に蒲原に選択肢が与えられるのですが、・・まさにフィクションならではのありえない結末に大笑いです。度量の深さは影武者たちも本物に負けないぞ。


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任侠学園

2020年05月06日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2019年9月27日公開 119分

困っている人は見過ごせない、義理と人情に厚すぎるヤクザ”阿岐本組”。
組長(西田敏行)は社会貢献に目がなく、次から次へと厄介な案件を引き受けてしまう。今度はなんと、経営不振の高校の建て直し。いつも親分に振り回されてばかりの阿岐本組NO.2の日村(西島秀俊)は、学校には嫌な思い出しかなく気が進まなかったが、“親分の言うことは絶対”!子分たちを連れて、仕方なく学園へ。待ち受けていたのは、無気力・無関心のイマドキ高校生と、事なかれ主義の先生たちだったー。それでも義理人情の正義を貫こうとする阿岐本組の情熱に、学園内の空気は徐々に変わっていくが……。

 

社会奉仕がモットーの地元密着型ヤクザたちの奮闘を描いた今野敏の小説「任侠」シリーズを映画化したコメディです。

阿岐本組は日村の他、柄シャツ大好きツッコミ担当の二之宮(伊藤淳史)、料理上手な武闘派の三橋(池田鉄洋)、一見チャラ男な志村(佐野和真)、IT系頭脳派な市村(前田航基)。若干5名の組員の弱小ヤクザです。それぞれキャラが立っています

兄貴筋の永神(中尾彬)が持ち込むのはこれまでも厄介な案件ばかりなので、彼が事務所に現れたと聞いて動揺する日村にまず笑いが。

親分の命令は絶対なので渋々ながら学園の立て直しに向かった日村たちを迎えたのは、事なかれ主義の校長(生瀬勝久)に、学園一の問題児(葵わかな)や彼女の追っかけカメラ小僧(葉山奨之)、ワケあり優等生の小日向(桜井日奈子)の面々。先が思いやられます。

生徒会のメンバーが校舎のガラスを割って鬱憤晴らしをしていたり、問題児のレッテルに苦しんでいたりの生徒たちへ熱血指導というか、真摯に向き合い彼等の心を開いていく過程も清々しいくらいの学園ものの王道の筋書きですが、それをしているのがヤクザというところが異色

日村自身の高校へのトラウマや、ヤク中だった舎弟の過去とかも出て来ますが、全体として深刻になり過ぎないユーモアあるエピソードが続きます。

後半は、父母会の代表の小日向の父親(光石研)が善人のふりした半カタギ(暴力団・隼勇会のフロント企業)で、数年後から開始される高速道路の用地候補となっている学園に目をつけて土地売却の利益を得るために経営権を狙って引っ掻き回します。

阿岐本組と隼勇会・唐沢(白竜)の組長同士の対決の際に見せる、普段温厚な阿岐本組の親分の凄みに圧倒されます。さすがの西田さんの演技力!締めるところはきっちり締めてきますね 小日向の横領を指摘し、鞘を納めさせるのもスカッとしますが、汚いやり方の父親に食らわせる娘のビンタもパンチがありました。(こんな父親嫌だ~~

事態は解決したものの、日村たちの素性が保護者にばれて、阿岐本組は経営から手を引くことになり、生徒たちの信頼と感謝を背に日村たちは学校を去るのです。めでたしめでたし・・・じゃなくて、すぐにまた親分が厄介を引き受けた模様で・・・続編も作れるね

エンドクレジットに高木ブーの名前を見つけどこで登場したっけ?と思ったら高木のオジキ役・・・ん?カメオ出演だったっけ

アウトレイジにどこか雰囲気が似ている弱小の阿岐本組ですが、こちらはコメディ色が強いので暴力シーンが苦手な人も楽しめると思います。


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