杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

屋根裏部屋のマリアたち

2013年03月31日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年7月21日公開 フランス 106分

1962年、パリ。株式仲介人のジャン=ルイ・ジュベール(ファブリス・ルキーニ)は、妻シュザンヌ(サンドリーヌ・キベルラン)が雇ったスペイン人メイドのマリア(ナタリア・ベルベケ)を迎え入れる。彼女は、シュベール家と同じアパルトマンの屋根裏部屋で、同郷出身のメイドたちと暮らしていた。軍事政権が支配する故郷を離れ、異国で懸命に働くスペイン人メイドたちに、次第に共感と親しみを寄せるジャン=ルイは、やがて機知に富んだ美しいマリアに魅かれてゆくのだった。しかし、そんな夫の変化に無頓着なシュザンヌは、彼と顧客の未亡人との浮気を疑い、夫を部屋から追い出してしまう。こうしてその夜から、ジャン=ルイはメイドたちと同じ屋根裏で一人暮らしを始めるが、それは彼に今まで味わったことのない自由を満喫させることになる……。
1962年当時、フランコ軍事独裁が続くスペインから大量の移民がパリに流入し社会問題になっていたという。そんな厳しい状況下で家族に仕送りするためにメイドとして働く健気でたくましいスペイン女性たちに、彼女たちの雇い主であるブルジョワに属するフランス人男性が魅了され、社会的地位や財産では計れない幸せを見出す物語である。自身ブルジョワ階級出身のフィリップ・ル・ゲイ監督が共同脚本も手がけている。(goo映画より)

ジャン=ルイは現在の住居(アパルトマン)で生まれ、祖父の代に築いた会社を継いで何の苦労もなく人生を過ごしてきました。彼の妻は家事を全くしません。家事はメイドの仕事だから。
昔から仕えていたメイドが辞めると、あっというまに家の中は散らかり放題、汚れた食器と洗濯ものが山のよう。おいおい、少しは自分で片付けたら?と思うけど、きっと彼女には考えも及ばないことなんでしょう。ブルジョワ階級恐るべし

彼女が女友達から「フランス人のメイドは時代遅れ。今の流行はスペイン人のメイドよ!」と吹きこまれ、早速雇ったのがマリアです。若くて奇麗で家事能力も抜群!(実は試採用当日、マリアはメイド仲間に手伝ってもらったのよね。だってあんなに汚い部屋を一日で片付けるなんて一人じゃ無理無理

さて、ジャン=ルイは半熟玉子が完璧でさえあれば上機嫌。その点マリアは合格です。そりゃ、親切心も湧くってもんです
ある時、マリアが暮らす部屋を見せてもらったジャン=ルイは、その狭さや浴室もなくトイレも共同なことに驚きます。自分たちの暮らしとあまりにも隔たりがあるんですものね。そこでトイレの詰まりを訴えられるとすぐに業者を呼んで修理させます。この一件から彼はマリアの仲間のスペイン人メイドたちと知り合い、親しくなっていき、食事に招かれたりもします。

メイドたちの境遇も様々。家を建てる資金を稼ぎにきた女。暴力亭主を持つ女。国で家族を殺され逃げ出してきた女などなど。敬虔なカトリック信者もいれば共産主義者も。でも彼女たちに共通しているのは陽気で明るい人生を楽しむ姿勢です。

マリアに対して好意以上の気持ちを抱き始めたジャン=ルイは、ホームパーティの時、コックに言い寄られているマリアの姿を見て誤解し勝手に憤慨しますが、彼女は動じません。
一方、シュザンヌは友人たちから夫の顧客である未亡人のよからぬ噂を吹き込まれ、夫の浮気を疑い、家から追い出してしまうの。行き場のないジャン=ルイは倉庫に使っていた部屋(メイド部屋と同じ上階)に住むことにします。親や寄宿学校や妻・・今まで一人暮らしをしたことのなかった彼にとって、自由な世界が開けたのです。息子たちに戻ってきてと懇願されても首を縦に振らない彼が家に戻ったのはマリアとの一夜の後、彼女に言われたから。

でもね、マリアは未婚で産んで養子に出した息子の行方を知らされ、一緒に暮らすためにメイドを辞める決心をしていました。ジャン=ルイとの最後の思い出を胸にきっぱりと旅立ったのです。

普通のブルジョワなら、夢から醒めたとばかりに妻とよりを戻して何事もなかったようにこれまでの生活に戻っていくのだと思います。でも一度「自由」を味わった彼にはそれは無理。
物語は3年後、妻と別れ、マリアへの断ちきれない想いを抱えてスペインを訪れる彼が彼女と再会するシーンで終わります。二人の笑顔が輝いていました愛があれば年の差も身分の差も乗り越えちゃうのね~~

妻のシュザンヌに落ち度があったわけではありません。家事しないのは当時のブルジョワ女性には当然のことでしょうし、夫を愛しているからこそ嫉妬もしたし、彼が戻ってきた時は受け入れる気持ちでいました。そもそも彼女の方が彼に気に入られようと努力して結婚に至ったんですもの。でもね、きっとあの後ジャン=ルイは自分の正直な気持ちを妻に告白したんだろうな。だから二人は別れちゃったんだろうな。なんて想像してしまいました。
どうもサブストーリーに弱い私

もう一つマリアの居場所をメイド仲間は教えてくれなかったけれど、その一人の夫がジャン=ルイにこっそり教えます。妻には「私がメイドをしている間に浮気したバカ亭主」と散々に言われる彼ですが、「あいつは愛を信じないんだ」と茶目っ気たっぷりにジャン=ルイに話す姿がまさに陽気なスペイン人って感じでした

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ミッドナイト・イン・パリ

2013年03月30日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年5月26日公開 アメリカ 94分

ハリウッドの売れっ子脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とその両親と愛するパリを訪れる。脚本の仕事に虚しさを覚えているギルは、作家への転身を夢見て、ノスタルジー・ショップで働く男を主人公にした処女小説に挑戦中。パリに魅了され、住みたいと考えるギルだが、イネズはマリブに住むと譲らない。そんな2人の前にイネスの友人ポール (マイケル・シーン) が現れ、ともに街を回ることになる。インテリぶったポールの語る間違いだらけの歴史や芸術の蘊蓄にうんざりのギルは、ワインの試飲会の帰り、1人で真夜中のパリを歩き道に迷う。真夜中の12時、モンターニュ・サント・ジュヌヴィエーヴ通りで物思いに耽るギルの前に旧式の黄色いプジョーが止まる。1920年代風の格好をした男女に誘われて車に乗り込んだギルは、古めかしい社交クラブのパーティで、ゼルダとスコット・フィッツジェラルド夫妻に、ピアノを弾くコール・ポーター、パーティの主催者ジャン・コクトーと出会う。さらにジョセフィン・ベイカーやアーネスト・ヘミングウェイとも。ギルは彼が愛してやまない1920年代のパリに迷い込んだのだ。翌晩、イネズを伴い昨夜の場所に連れて行くが、真夜中になる前に彼女は帰ってしまう。そして12時の鐘とともに古いプジョーが・・。ギルはヘミングウェイに連れられてガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)のサロンを訪問。そこでガートルードと絵画論を戦わせていたパブロ・ピカソの愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)と出会い、互いに好意を抱く。現代と1920年代を行き来するうち、イネスとの関係に迷い、アドリアナへの想いを募らせる彼に、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)やルイス・ブニュエル、マン・レイらは「それは自然なことだ」と言葉をかけ・・・。


1920年代の愛好家及び芸術好きにはたまらない作品だと思います。
名前は知っていても彼らに思い入れのない私にとっては、次々登場する偉大な芸術家たちへの感動は主人公に遠く及ばないのですが

冒頭でパリの一日の景色がセリフ無しで流れて行きます。どのカットも美しく魅力的な町の様子を映していて、監督であるウディ・アレンのパリに対する愛情が伝わるようです。

現代の軽佻浮薄さに嫌気が差しかけているギルにとって、憧れの時代へ夜な夜なタイムスリップし、カフェやサロンで尊敬する作家や有名な作曲家、画家たちと交流し、書きかけの作品の批評もして貰えるなんてことはもう夢のような興奮と感動を呼び起こしたことでしょう。この興奮をイネズと分かち合いたいと思ったギルですが、彼女は関心を示さず、頭が変になったといわんばかり。この頃からギルは二人の間の溝に気付いていき、だからこそ現実逃避にのめり込んでいったのかも。

イネズがポールと親しく出かけることが増えても、アドリアナに惹かれているギルは気付かぬふりをして自分も夜毎のノスタルジーに浸ります。しかしある晩、アドリアナと一緒に更に古いベル・エポックの時代に迷い込んだギルは、ロートレックやゴーギャン、ドガといった憧れの芸術家たちを前に狂喜しこの時代で暮らしたいという彼女を見て、初めて自分がどうすべきか気付くのです。それはどの時代に行ったとしても、やがてその状況に飽き満足できなくなる自分がいること、逃避ではなく自らを内省し未来へ向けて歩まねばならないことです。

こうしてアドリアナにも、婚約者にも別れを告げたギルはパリで暮らし始めます。そして趣味や感覚の似ているガブリエル(レア・セドゥー)と新しい本物の恋の予感で終わる雨のパリがラストシーンです。
物語の前半で雨のパリが好きで濡れて歩こうと言ったギルに、イネズは「私は濡れるなんて嫌」と拒否しましたが、ラストでガブリエルは「雨に濡れて歩くのもちっとも構わない」と言います。この二人の女性の対比がそのままギルとの相性を示しているかのようでした

イネズの父が雇った探偵がギルを追いかけて王政の時代にタイムスリップして追いかけられるなどのお遊びネタもありますが、全体を通して芸術を愛する上質な大人のお伽噺になっています。

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ケイゾウさんは四月がきらいです。

2013年03月29日 | 
福音館創作童話シリーズ 市川宣子作 /さとうあや絵

ケイゾウさんは幼稚園に住むにわとりです。うさぎのみみこがやってきてから、ケイゾウさんの暮らしは一変しました。主人公ふたりの織りなす10のお話を季節感あふれる絵とともにお届けいたします。(「BOOK」データベースより)

月刊雑誌「母の友」2000年4月号から2004年10月号までの間に断続的に掲載されたものから9編を選び加筆、それに最終章をあらたに書き下ろして一冊にまとめたものだそうです。
読んであげるなら5才から、じぶんで読むなら小学校中級~おとなまで。

この絵本を知ったのは新聞の書評だったと思います。
突飛なタイトルに心をくすぐられ図書館で借りて見ました。予想通り第一章で物語の虜になり、最後まで一気に読んでしまいました

各章には「ケイゾウさんは〇〇がきらいです。」とタイトルが付けられています。
例えば表題の「四月」では、一緒に暮らすことになったうさぎのみみこに振り回されるケイゾウさんの嘆きに同情しつつも笑いを堪えられません。

以下「遠足」「サーフィン」「飛ぶ」「工事」「朝ねぼう」「かけっこ」「どんぐり」「寒い」「三月」と季節が代わり、子供たちや、みみこに振り回されながらも、何となく楽しそうなケイゾウさんの嘆きが続きます。そして最終章の「三月」ではあれほど文句を言ってた子供たちの卒園=巣立ちへの寂しさを滲ませ、みみこにも家族的な親しみを感じているケイゾウさんがいるのでした

口が悪くて物事を斜に見ているようなケイゾウさんが何だか愛しくてたまらなくなります。
ケイゾウさんのトサカは彼の気持ちを代弁しています。呆れてものが言えない時はぐんにゃりと、寝不足の時はガンガン痛み、みみこに図星をさされた時には色が濃くなったりといった具合に
みみこは人間の女の子そのものの性格が投影されています。ケイゾウさん以外には良い子の可愛こぶりっこだけど、本当は気紛れで自己愛が強く図々しい。みみこがケイゾウさんに対してありのままでいるのは、実はかなり気を許しているからじゃないかしらん
でも私は断然ケイゾウさん派だな

う~~ん、この本手元に置きたくなってきたぞ買っちゃおうかな

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ぼくたちのムッシュ・ラザール

2013年03月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年7月14日公開 カナダ 95分

ある冬の朝、モントリオールの小学校へ、牛乳当番のため早めに登校したシモン(エミリアン・ネロン)は、担任の女性教師マルティーヌが教室で首を吊って死んでいるのを見つける。シモンから事態を聞いた教師が全校生徒を校内から退出させるが、シモンの同級生アリス(ソフィー・ネリッセ)もその現場を見てしまう。事件から1週間が経ったが、子どもたちはショックを受け、学校は生徒たちの心のケアや後任探しの対応に追われていた。そんななか、アルジェリア系移民の中年男性バシール・ラザール(モハメッド・フラッグ)が代理教師の募集広告を見て応募してくる。採用されたラザールは、温和な性格から早々に子どもたちと打ち解けるが、その授業のやり方は決して洗練されたものではなかった。円形に並んだ机を直線に並べ替えたり、子どもには難解なバルザックの古典小説の口述筆記を課したり、古い文法用語を使ってフランス語の授業を行ったりした。子どもたちはラザールの授業に戸惑いつつも、徐々に以前の生活を取り戻していく。なかでもアリスはラザールの母国アルジェリアに真っ先に興味を持ち、写真を集めるなど、誰よりも積極的に新しい環境を受け入れようとするが、マルティーヌ先生の死を忘れることができなかった。そして、その現実を遠ざけようとする学校側の姿勢に疑問を持ち、先生の死を気にしていない振りをするシモンに苛立つ。一方、ラザール自身も、愛する人々の死を乗り越えなければならなかった……。 (goo映画より)


カナダ・アカデミー賞で主要6部門受賞、第84回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。

小学校が舞台で親しげな題名から、もっとコメディタッチの内容かと思ってレンタルしたら全然違ってました。冒頭いきなり担任教師が教室で首吊り自殺してるんだもんな

代理教師としてやってきたラザール先生は、実は教師資格のないアルジェリア難民でした。でも彼の亡き妻が教師だったのです。彼は何故身分を偽り小学校の教師として働くことにしたのでしょう?それは観る側の推測に任されます。
ともあれ、子どもたちと誠意を持って向き合うラザールはまさに先生そのものです。
キャッチコピーである「いちばん大事なことは、教科書には載ってない。」に納得。

発見者であるシモンは愛情に飢えた子どもです。凍える身にいきなり熱いカップを押し付けられたらそれは心地よさではなく痛みに感じるのではないかしら?マルティーヌ先生がシモンに示した愛情は教師としての心情の偶発的な発露でしたが、彼にとっては前記のような驚愕だったのでしょう。
この小さな出来事が先生を追い詰めたのか?それは同僚教師による「彼女は(心の)病気だったのよ」というセリフでなかば否定されます。一因にはなったかもしれないけれど全部ではないのです。
しかし、シモンは考えます。「先生はあの日僕が一番最初に教室にくることを知っていて、教室で死んだ」と。彼が先生の写真に天使の羽を描いたのは、決して面白がったわけではなく、彼なりの償いと思慕だったのだと思えます。

アリスは聡明で大人びた子供です。あの日彼女も教室の中を覗きこんでしまいショックを受けています。パイロットである母親はその日も家を空けていて、彼女は独りで耐えなければなりませんでした。シモンの事件を知っている彼女は彼が先生を追い詰めたのだと心中で非難しています。彼が何気ない振りを装って平気そうに見えるのも癪に障るし、周囲がなかったこととして忘れたがっているのも違うと思っているの。ラザール先生が出した宿題に敢えて元担任の自殺について「先生が教室で自殺をしたことは生徒に対する冒涜です」と書いたのもそのためです。

やがて授業の中で二人は激しい口論となります。シモンが泣きながら気持ちをぶつけるシーンが胸に痛かったです。ラザール先生がそれに応える場面はありません。

ラザール先生は二人を含めた生徒たち皆を積極的に導いたわけではありません。注意深く見守り時に諭しますが一方的な関係ではなく、彼も生徒から教えられているようにも見えます。躾けにまで口を出すのが気に入らないという父兄もいて、結局それが原因で彼の身分がばれてクビになり、雇った校長も処分を受けることになります。体罰やハグも禁じられる教育現場は日本と同じ。ただ勉強だけを教えてくれればいいという親の考え方もね。

学校を去る日、ラザール先生がアリスを抱擁するシーンは、シモンが自殺した担任に受けたことと重なります。違いはお互いの心が通じていたか否かでしょう。
冒頭、アリスとシモンは校庭の片隅で肩を寄せ合いお菓子を分けあいます。ラストでも同じ光景が繰り返されるのですが、二人の間にはより確かな友情が生まれたのだと思えました。
また、ラザールにとってもこの学校での経験は、彼が前を向いて新しい人生を歩むための貴重な糧になったのだと思います。
手放しでハッピーエンドではありませんが、希望の持てる最後でした。

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ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して

2013年03月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年6月30日公開 アメリカ 100分

毎年、何百人もの人が日常生活を捨て、世にも不思議なレースに参加する。
旅の目的、それは一年のうちに最も多くの鳥の種類を目撃すること。たいていの人は、自分の住む地方か、せいぜい自分の州内の鳥ですませる。しかし、もっとも苛酷で、もっとも金がかかる最大のレースは、全北米大陸をまたがって行われる。これが「ザ・ビッグイヤー」と呼ばれるコンテストだ。「ザ・ビッグイヤー」にルールらしいルールはなく、審判もいない。参加者たちは希少種が現れたという噂を追って、好きなときに、好きなように飛行機、車、船などでアメリカとカナダの大陸部を移動する。獲物の写真撮影に成功することもあるが、多くはライバルが信用してくれることを前提に、観察地点と日時をノートにメモするだけである。
そんなコンテストを前にして、ステュ・プライスラー(スティーブ・マーティン)、ブラッド・ハリス(ジャック・ブラック)、ケニー・ボスティック(オーエン・ウィルソン)は、それぞれが人生の岐路に立っていた。裕福な実業家だが、人生も晩年を迎え、かねてからの夢を実現できていないことが心残りのステュ。やり手の建設業者にして最高記録保持者のケニーは、しかし記録を破られることを恐れるあまり、妻との時間を疎かにし、離婚を繰り返していた。もし、今年もビッグイヤーに参加すれば、現在の妻との関係も穏やかではなくなる。そして、原子力発電所でコンピューターのコードライターをしているブラッドは、趣味に高じるあまり、いまだに親に頼った生活を送り、愛する人も持てずに人生を迷走していた…。それぞれ晩年の危機、中年の危機、人生の危機をかかえた3人のライバルたち。そんな彼らがついに自分たちの夢を追う一年を過ごす決断をする。現実と夢の間で引き裂かれながらも、本当の幸せを求めて全国を旅する「ビッグ・ボーイズ」たち。果たして、今回の旅は、彼らの人生を変える冒険の旅となるのだろうか?(HPより)


マーク・オブマシックの小説『ザ・ビッグイヤー』(原題: The Big Year: A Tale of Man, Nature and Fowl Obsession)が原作。
そてにしても日本語のタイトルはセンスないねぇ

例えば「日本野鳥の会」と聞くと年末の「紅白歌合戦」の人数調べが頭に浮かんでしまう私には、そもそも野鳥観察のなんたるかもわかっていません(^^;
BDのタイトルの副題に「大人げないオトナたちが見つけた、小さな幸せ」とありますが、北米で繰り広げられる野鳥愛好家たちの涙ぐましいまでの努力は、時に笑いを、時に感動すら与えてくれました。この映画気に入りました

主人公は3人。ブラッドはバツ一のフリーターで老いつつある両親の心配の種ですが、母親の方は息子の趣味を理解し、金銭的な援助も含めて応援してくれます。ステューは大きな会社の社長ですが、長年の夢を叶えるべく、社長休業して大会に挑みます。こちらも妻が良き理解者で応援していますが、会社の重役たちは何かと彼を頼り力を借りようとします。大会のチャンピオンであるケニーは自己記録が破られるのが心配で、今回も参加することを決めました。何事においても大会を優先するので、子作りを望む妻との間には徐々に溝が出来ていきます。

ブラッドとステューが親しくなり、2人のライバルとして立ちはだかるのがボスティックという図です。前者が名前で呼び合うのに対し、ケリーに対しては苗字なのも彼らの関係を示していました。偽情報を与えて二人を騙すような姑息さもあるケリーですが、発見した数を偽ることだけはしません。自己申告制なのだからいくらでも誤魔化せそうなのに、彼らは絶対それをしないのです。そもそも、愛鳥家たちの誇りを信用し、評価しているからこそのルールなのでしょう。

船酔いに耐えながら双眼鏡を手にし、大きな嵐があると聞けば鳥たちが避難する場所に一目散に駆けつけ、一週間に一度しか飛行機が飛ばない辺境の島でネズミと共に大勢が雑魚寝して過ごし、野鳥を見るためだけにヘリをチャーターしと、涙ぐましいまでの愛鳥家の姿が見られます。彼らが野鳥を追いかけて北米を横断する姿を撮影するために、100箇所のロケ地で270を越えるシーンを55日という短期間の撮影日数でこなしたそう。

チラッと見ただけで「あれは○○だ」と鳥の名前が瞬時に出てくるし、ブラッドは鳴き声だけで種類が判る特技の持ち主で、鳥の名前の字幕を追うだけでも大変だった私には全く未知の世界ですが、島や国立公園の美しい景観と、たくさんの珍しい野鳥たちを眺めるだけでも楽しめました。

一年という長い時間を野鳥の観察だけに費やすには金銭的にもかなりの出費が求められます。
金持ちのステューやケリーと違い、ブラッドは貯金だけでは足らず母からも援助を受け、それでも貧乏旅行になりますが、会社や妻に煩わされない分、時間的には有利かな。
大会参加を隠すことでライバルに差をつけようとする彼らですが、行く先々で顔を合わせればどうしても隠しきれなくなるでしょ仲違いや和解といったエピソードを経て、彼らの間には同好の志としての友情が育っていきました。ブラッドには同じ愛好家の女性との出会いがあります

大会の勝者はその裏で大きな犠牲を払います。ただ、特典映像の方では、彼にも関係修復のチャンスが見られました

それにしても記録755種って・・・
エンドロールでは野鳥の数々が一コマずつ映し出されますが、その多さに目が疲れちゃった

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ジャンゴ 続・荒野の用心棒

2013年03月20日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
1966年9月23日公開 イタリア 93分

メキシコ国境に近いある田舎町では、元南軍のジャクソン少佐(エドアルド・ファヤルド)とメキシコ独立運動家ウーゴ・ロドリゲス将軍(ホセ・ボダロ)の二つの勢力が対立していた。ある時、棺桶を引きずり現れた流れ者のガンマン・ジャンゴ(フランコ・ネロ)は、彼らに殺されかかっていたマリア(ロレダーナ・ヌシアク)を救う。町に入ったジャンゴをジャクソン一味が狙うが、ジャンゴは棺桶から機関銃を取り出し返り討ちにする。今度はロドリゲスが町へやってくるが、ジャンゴはメキシコ政府軍から金塊を強奪する計画を打ち明け仲間に引き入れる。強奪は成功するが、ロドリゲスが金塊を山分けする約束を反故にしようとしたため、ジャンゴは金塊を棺桶に詰めマリアと逃げる。ロドリゲスはジャンゴを捕まえ両手を潰すが、ジャクソンと政府軍の待ち伏せに遭い殺される。ジャクソンはジャンゴと最後の決着をつけるため、残った仲間を引きつれジャンゴの待つ墓地に向かうが・・。

公開中の映画「ジャンゴ 繋がれざる者」が意外と面白かったと言ったら勧められたのがこれ。元祖マカロニ・ウエスタン。

冒頭、ただ棺を引きずってひたすら歩くシーンや、音楽などはまさにこの映画のオマージュだったと気付かされました。

町全体が埃っぽく、ぬかるんだ道は実に歩きにくそう。(棺桶引きずるには良いのか?)
ジャンゴが助けたのは娼婦だし、酒場というより娼婦宿なんだね
マリアはアメリカ人とメキシコ人のハーフという設定。ジャクソンからもウーゴからも裏切り者扱いされているのはそのせい?命を救ってくれたジャンゴを愛するけれど、一度愛する者を失った彼にはマリアの愛を受け入れることに躊躇いがあるようです。

そして町外れの墓場には愛した女が眠っている模様。それに関してはジャクソンと因縁があるみたい。で、問答無用で皆殺しでもジャクソンだけは逃がしたのは、ウーゴに金塊強奪を持ちかけるため。実はウーゴには以前に貸しがあったようで・・でも彼が約束を破ると察知するとさっさと金塊全部を奪って逃げようとする。あれ?半分でい~じゃん、って思ってしまうのだが約束破ればそれなりにお返しも必要ってこと?

逆にジャンゴを捕まえたウーゴも彼の命は取らない。でも大切な両手を潰してしまう。それは近い将来の死を意味する筈なんだけど、貸し借り無しと言い放つ、これも男の美学か

両手を潰され銃の引き金を引くどころか持つことさえ出来ないジャンゴが、愛した女の墓を使って銃を固定し、腕を使った早撃ちでジャクソンたちを瞬刹するシーンがお見事でした。
事が片付いたあと、墓を振り返りもせずに歩き去るジャンゴには、過去より未来に生きる決意が溢れているというラストは

昔の映画ですから、女性は脇役というより添え役にしかすぎません。その扱いがイマイチ気に入らないんだけど、ま、時代だからねぇ
男の美学満開の映画ですね

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恋と愛の測り方

2013年03月18日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年5月12日公開 アメリカ=フランス 92分

ファッション雑誌のライター、ジョアンナ(キーラ・ナイトレイ)と、建築関係の会社に勤める夫マイケル(サム・ワーシントン)は結婚3年目。アッパーニューヨークのマンションで、誰もが憧れるような充実した毎日を送っている。そんなある日、マイケルの仕事関係のパーティーに招かれたジョアンナは、そこで夫の新しい同僚、ローラ(エヴァ・メンデス)を紹介される。ジョアンナは、夫とローラの間に漂う恋の予感にひと目で気が付くが、帰宅後、その疑いをマイケルはキッパリと否定する。だがひと月前のLA出張も、明日から一泊のフィラデルフィア出張も、ローラが一緒だと知ったジョアンナは、感情を抑えることができない。翌朝、マイケルを送り出して、いつものカフェにコーヒーを買いに行くジョアンナ。呼び止める声に振り向くと、パリにいるはずのジョアンナのかつての恋人、作家のアレックス(ギョーム・カネ)がいた。新作の出版の打ち合わせのために、やって来たのだと言う。アレックスに誘われて出版社の社長とのディナーに向かう車の中で、ジョアンナはマイケルからの着信を無視してしまう。無事に商談を終えたマイケルは、つながらない電話を気にかけながらも「飲みたい」と言うローラに付き合う。ニューヨークでは、犬の散歩を頼まれて立ち寄ったマイケルの友人のアパートで、アレックスが「どうして書かないのか」とジョアンナを問い詰めていた。彼は本を一冊出したきりの彼女の才能を惜しんでいたのだ。話は別れた理由にまでさかのぼり、やがて二人はどちらもまだ愛していることに気付く……。フィラデルフィアでは、誰もいないホテルのプールで、ローラがマイケルへの想いを打ち明ける。そんな彼女の横顔は、美しく濡れていた……。夜が深まるにつれ4人の想いは、激しくも切なく交差していく。夜明けまであと数時間。果たして絡まった恋と愛の行き着く先は……。(goo映画より)


大切なパートナーがいても他に惹かれてしまう異性が現れてしまう“一瞬の心の隙”や、忘れられない昔の恋人との再会で揺れ動いてしまう気持ちなど、誰もが陥ってしまう普遍的な恋愛のテーマを丁寧に描き出したお洒落なラブ・ストーリー。(作品資料より)・・・だそうですが、う~~ん、これってお洒落なのか???
レンタルするきっかけが何だったかもう思い出せないのだけど、退屈で早送りして鑑賞。

結婚三年目ともなれば、愛情は持続していてもそろそろ相手に飽きてくるし、刺激のない毎日に退屈もするでしょう。そんな中、気になる相手が出現したら心も揺れるでしょう。でもだからといって浮気を美化はできませんがな

夫婦で出席したパーティーで、妻(ジョアンナ)は夫の視線から彼の浮気心を察知し、嫉妬します。険のある態度を辛抱強く我慢し、妻の機嫌をとるマイケルに「ビシッと言ってやれば良いのに」と思ったけれど、あらら~~結局ジョアンナの妄想じゃなくって、予知だったってことなのねな展開に呆れ~
まぁ、あんな状況になったら、男はそれを我慢できないのが普通なのかも。

一方ジョアンナは別れた恋人アレックスと再会し、一夜を共に過ごすことになるのだけれど、こちらの方はあくまで最後の一線は越えないという明確な意思を持っています。でもそれって彼女の一方的で相手を思い遣ることのない我儘に思えてしまいました。それに応えて紳士的に振舞ったアレックスが偉くも見え、滑稽にも見えてくるのです

後悔と罪悪感に苛まれ、出張を放り出してジョアンナの元に帰ってきたマイケル。抱き合う二人ですが、視線の先にマイケルは妻のよそいきの靴を見ます。またジョアンナの方も夫の態度に不自然さを感じ(と思う)、この瞬間、二人は互いの秘密を知ったと感じさせるラストの演出が心憎いです。こういう余韻のある終わり方はアメリカ映画に珍しい、と思ったらやっぱりフランス合作でしたね

多分二人は秘密を胸に抱えたまま、相手への後ろめたさと共に暮らすのでしょう。
そこにはもう波乱はありません。二人にとって「秘密」は心の奥底に仕舞い込まれ、時折そっと取り出しては懐かしむものに変わっていくのかもしれません。いや~~まさに現実的な話 で・・どこがロマンティックなんやと思う時点で恋愛砂漠な私

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オズ はじまりの戦い

2013年03月13日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2013年3月8日公開 アメリカ 130分

カンザスのサーカス一座の奇術師オズ(ジェームズ・フランコ)は、その魅力と口の上手さを武器に、いつか「偉大な男」になることを夢見ていた。ある日気球に乗り込んだ彼は竜巻に飛ばされて魔法の国・オズに迷い込む。たまたま名前が同じために、西の魔女セオドラ(ミラ・クニス)に、この国の予言に残る〈偉大なる魔法使い〉だと誤解された彼は、緑色に輝くエメラルド・シティに案内される。宮殿で、彼女の姉の東の魔女エヴァノラ(レイチェル・ワイズ)から「南の悪い魔女を倒せばこの国の王になれる」と唆された彼は、二人の美貌と財宝に目が眩み、自分が単なる奇術師であることも忘れて、エヴァノラの言葉のまま、翼の生えた猿・フィンリーとともに南へ向かう。道中、悪い魔女により破壊された陶器の町で、ひとりだけ生き残った陶器の少女を助けた彼は、邪悪な力により虐げられた様を目の当たりにして仄かな使命感を芽生えさせる。しかし南の魔女グリンダ(ミシェル・ウィリアムズ)と出会った時、その清らかな美しさと優しさに惹かれ彼女の邪悪さを疑ったオズの前に、魔法の国の秘密が明らかにされ……。


子供の頃に読んだ「オズの魔法使い」映画やミュージカルにもなっているけれど、ドロシーがオズの国で出会う仲間たちとともに悪い魔女をやっつける内容の細部は忘れてしまっていました。
ところが、今日この映画を観ていて昔読んだお話の細部が甦ってきました。オズの国の不思議な生物たち、特に邪悪な魔女の手先の空飛ぶヒヒは本で想像していた通りの姿で嬉しくなりました

今回はドロシーたちの登場する前のオズの国が舞台で、「偉大な魔法使い」オズ誕生の物語です。
女好きの軽佻浮薄な奇術師のオスカー(愛称オズ)が、トラブルから逃げて乗り込んだ気球が竜巻に飛ばされてオズの国に辿り着くのですが、それまでのモノクロ画面から一転、カラフルでポップな世界が目の前に開けるその風景は圧巻です
3D映像ならその特徴がフルに生かさるのでしょうけれど、今日は残念ながら2D鑑賞。
(いつものシネコンでは3Dは吹替上映しかなかったの
それでもファンタジックなオズの国の雰囲気は十分味わえました。

その場しのぎのいい加減さがプンプン匂うオスカーにころりと騙されたのが世間知らずなセオドラ。オルゴールをプレゼントされ初めてのダンスに胸ときめかせる彼女は、初恋に夢中な乙女そのものです。だからこそ、弄ばれたと知り傷ついた彼女は深く傷つき心は憎しみで満たされてしまったのね。こんな私に誰がした!!だねぇ

オスカーの正体を見破っていたエヴァノラは彼を利用しようとします。
ところが黄金に目が眩んでホイホイとエヴァノラの言に乗ったオスカーは、悪い魔女と聞かされていたグリンダに会うとすぐに彼女に好意を持つのこのあたりの展開は美女と見れば口説いてしまう男の性を誇張しているようでちょっと笑えます。

これを知ったエヴァノラはセオドラをたきつけて悪い魔女に変えてしまい、いよいよ本性を現してグリンダを亡き者にしようと企み、戦いが始まります。
最初はびびっているばかりだったオスカーも次第にオズの国の人々のために力を貸す気持ちになっていくのです。オズの国の人々の助けを借りて、オズは二人の魔女をエメラルド・シティから追い出すことに成功します。ここに偉大なる魔法使いが誕生したわけです。

ドロシーには案山子やブリキのきこりやライオンがいたように、オスカーには翼の生えた猿・フィンリーと陶器の少女、苦虫男のナックがいました。フィンリーとのコミカルなやり取りに笑い、陶器の少女の子供らしいまっすぐな心と行動に力づけられ、徐々に自分の使命に気付いていくオスカーと共にオズの国の冒険を楽しみました

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星の旅人たち

2013年03月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
た2012年6月2日公開 アメリカ=スペイン 128分

カリフォルニア州の眼科医トム・エイヴリー(マーティン・シーン)のもとに、ある時、一人息子ダニエル(エミリオ・エステヴェス)の訃報が届く。“世界を見たい”と旅立ったスペイン北西部サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の途中で、不慮の死を遂げたのだ。父子の関係は、決して良好なものではなかった。ダニエルは何を想い、巡礼の旅に出たのか……。一人息子の遺灰をリュックに収めたトムは、ダニエルが志半ばで倒れた旅を継ぐことを決意。しかし、800 キロに及ぶ長旅は、60 歳を超える老体にとって容易なものではなかった。旅の途上、トムが最初に出会ったのは、減量のため巡礼の旅に出た人懐こいオランダ人のヨスト(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン)。成り行きから2人は旅の同伴者となるが、トムが息子の遺灰を撒いていることを知り、ヨストは衝撃を受ける。次に宿泊所で出会ったのは、カナダ人女性のサラ(デボラ・カーラ・アンガー)。ヘビースモーカーで厭世的な彼女は、トムに対しても理不尽な怒りを表す。イラーチェへと向かう草むらで出会ったアイルランド人のジャック(ジェームズ・ネスビット)は、スランプに陥った旅行ライター。トムが息子の遺灰とともに旅していることをヨストから聞いた彼が、それをサラに話すと、サラも自分自身の過去をトムに打ち明ける。かつて夫からDVの被害を受けていたこと、離婚して赤ん坊だった娘を手放したこと……。その日、ランチでワインを飲んだトムは、他の3人に悪態をついた挙句、昏倒して警察の厄介になってしまう。その窮地を救ったのは、3人の仲間たちだった。保釈金を肩代わりしてくれたジャックに、トムは自分の旅の目的と息子ダニエルのことを話し始める。こうして4 人が家族のような親密な絆で結ばれた矢先、トムのリュックが少年に盗まれてしまう。遺灰を失い、旅の目的を見失ったトムは、巡礼を続けることができるのか……? (goo映画より)

監督はエミリオ・エステヴェスで主演のマーティン・シーンは彼の父親です。
事故死した息子の後を継いで、スペイン北西部サンティアゴ・デ・コンポステーラ(キリスト教三大聖地のひとつ)への巡礼の旅をすることにした父親の、道中で知り合った仲間との交流の旅を描く、いわゆるロードムービーものです。サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼旅は、徒歩で2~3ヶ月に及ぶ道のりを歩きます。その長い時間の中で、巡礼者は自分自身を見つめ直すことになるようです。日本なら四国巡礼みたいなものかしらん人間のすることは世界共通なのね。

トムは自分が(息子に対して)望んだような人生を歩んでいないダニエルに少なからず苛立っていました。それでも、妻を亡くし、今また一人息子に先立たれたトムの胸中は穏やかではありません。事故死の知らせを受け、警察の遺体安置所で息子の亡きがらと対面した際の彼の絶望感が胸に迫ります。息子は何故巡礼の旅に出ようとしたのか?その理由を知りたくて、また、息子の果たせなかった旅を完結させたくて、トムは息子の遺灰と彼の遺したリュックと共に巡礼の旅に出るのです。

旅の途中途中で、息子の遺灰を撒きながら歩くトムの目には在りし日のダニエルが映っています。この旅は亡き息子との対話でもあるわけです。

慣れない旅の初めは、巡礼宿の雑魚寝に戸惑い寝付けなかったり、荷物を落として川の中に広いに入ったり、独り野宿したりと苦労の連続ですが、やがて陽気なお喋りのヨストや、皮肉屋のサラ、作家のジャックといった連れが出来ます。自分の殻に閉じこもりがちのトムが嫌がっても、巡礼の道は決まっていますから、同じ行程で歩くうちに自然に仲間ができるわけ。一緒に歩けば会話もあるし、同じ宿に泊まり同じ食事をするうちに、共同意識も芽生えてくるってもんです。
感情の爆発すら、その後の相互理解のきっかけになるのです。

一度だけ、粗末な巡礼宿ではなく立派なホテルに宿泊した4人が、結局はトムの部屋に集まってしまうシーンは、彼らの結びつきの深まりを表すうまい演出だと思いました

リュックがジプシーの少年に盗まれるエピはあざとさも感じましたが、この事件も4人の間に強い絆を作ることになるのでした。少年の父親を真っ当な人間に描くことで、ジプシーへの偏見も抑える効果があったと思います。

いよいよ辿り着いたサンティアゴ大聖堂。ここは通常は商業目的の撮影許可が下りないそうですが、この映画のために特別に許可されたとか。大香炉が高く揺れる荘厳なミサの様子は圧巻です。

彼らが旅の終着点として選んだのはスペイン最先端の岬でした。大波の寄せるこの地で4人が感じた思いは、達成感と互いへの信頼、そして歩き通した自分への自信でしょうか

トムは60を超えた年齢で、友人たちとゴルフをするとはいえスポーツマンというわけでもありません。そんな人がいきなり毎日何キロも歩くというのはちょっと無理があるし、大抵は数日で足にマメができたり靴ずれしたりで歩けなくなりそうなもんですが、映画では終始健脚なのが違和感があります。でもそんなことは気にならないほど、旅の景色は素晴らしく、仲間とのやり取りがじんわりと沁みてくるのでした

まさに上質な映画です

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崖っぷちの男

2013年03月09日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年7月7日公開 アメリカ 102分

NYの高級ホテル高層階、窓枠を超え、たった30cmの縁に立ち、飛び降りようとする男、脱獄犯ニック・キャシディ(サム・ワーシントン)。彼は30億円のダイヤモンド横領犯として投獄されたNY市警の元警察官。大勢の人が固唾をのみながらニックを見守る中、彼は要求を伝えるための交渉人として女性刑事リディア(エリザベス・バンクス)を指名する。彼にはある計画があった・・・。スクープ狙いのリポーター、交渉人、それぞれの思惑を抱えた元同僚の警官たち、ダイヤ王と呼ばれる実業家(エド・ハリス)・・陰謀渦巻く中、台風の目である崖っぷちの男の本当の目的が明らかになる!


ニックは冤罪を晴らすため、偽装自殺を装って世間や警察の注目を自分に集め、弟ジョーイ(ジェイミー・ベル)とその彼女のある行動を秘密裏に進めさせます。彼の本当の目的は何か?弟たちは何を狙っているのか?それがどうニックの冤罪を晴らす決め手になるのかといった興味で、ぐいぐい引きつけられます。

撮影は、縁を飛び移ったり飛び降りたりはもちろんセットだそうですが、その殆どの場面が実際に高層ホテルの21階の壁面で行われたそうです。特殊なクレーンカメラで撮影されたビルの壁面シーンはスリルと迫力に満ちたリアルな恐怖と共に演じられているわけです

前半はビルの縁に立ついわば「静」の状態のニックが、後半部分では「動」に切り替わります。
逆に前半ではジョーイとその恋人のアンジーが金庫破りというスリリングな中にも恋人同士のちょっとしたふざけ合いでユーモアを添えてくれます。

ニックに罪を着せた同僚は容易に推理できますが、一人はいかにもな悪徳キャラ。
もう一人は・・・良くも悪くも人間的と言える?
意外だったのはニックを助けてくれるホテル従業員?の正体でした。死んだんじゃなかったのねそもそも弟ってば不良じゃないし冒頭から今回の事件の計画が練られていたという・・

ニックがリディアを交渉人に選んだのは彼女がある警官の自殺の現場で説得に失敗し心に傷を負っていたから。いわば似た者同士としての「崖っぷち」感を共有できると踏んだからでした。狙い通り、彼女がニックの事件の真相を調べてくれました最後はきっとめでたしな成り行きとなるんでしょこの辺がいかにもハリウッド的終わり方だ

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ロラックスおじさんの秘密の種 

2013年03月08日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年10月6日公開 アメリカ 86分

少年テッド(ザック・エフロン)の住む街は、すべてが人工でプラスチック。ある日、テッドは憧れの女子高生オードリー(テイラー・スウィフト)が見たがっている本物の木をプレゼントしようと決意する。おばあちゃんから、かつての緑いっぱいの街を知るという謎の老人ワンスラーのことを教えてもらい街の外に一人で住むという彼を訪ねて行くと、豊かな色とりどりの木が生え、可愛い動物たちが仲良く暮らすかつての街と、森を守る不思議な住人・ロラックスおじさんの話を聞かされる。本物の木を得るには、ロラックスおじさん(ダニー・デヴィート)が戻ってくることが必要で、そのために、ワンスラーはテッドにひと粒の種を町の中心にまくように言う。しかし、街の大金持ち・オヘア(ロブ・リッグル)もその種を狙っていた!!


環境破壊の進んだ街に住む、本物の木を見たことがない少年テッドが、緑あふれる世界の再生のために奮闘するファンタジー&ミュージカル・CGアニメで、原作はセオドア“ドクター・スース”ガイゼルの児童書『The Lorax』です。かなり有名なお話だそうですが・・・知らなかった

映画は原作の雰囲気を壊さず、そのイメージを伝えようと工夫されているそうです。
ふわふわの葉だか花だかを生やしたカラフルな木の何とポップでキュートなことでしょう。ハミング・フィッシュ、スウォミー・スワン、クマ?のルーやピップスクィークといった森の仲間たちのなんと愛らしいことでしょう

ちょっととぼけたキャラたちの織りなす森の生活は豊かで楽しく平和です。ところがワンスラーがロラックスおじさんとの約束を破って木を切り倒し始めると、森は失われ大気は汚染されヘドロで川は汚れ、遂には動物たちも住めなくなってしまいます。そのあまりに殺伐とした風景に声を失ってしまいます。人間の傲慢さをロラックスおじさんはただじっと悲しげに見ていましたが、切り倒す木が一本も無くなって初めてワンスラーは自分のしたことの重大さに気付きます。しかし時既に遅くロラックスおじさんも森の仲間たちもワンスラーの前から去っていきました。

原作ではワンスラーは緑の手しか出て来ないそうですが、映画ではその青年期と老年期を創造しています。元は優しい青年が、金儲け(と親孝行?)に走って環境破壊の元凶になってしまうストーリーは文明の来し方行く末を見ているようです

テッドが本物の木を手に入れたいと思ったのは好きな子のためといういささか不純な動機でしたが、ワンスラーの話を聞いて後の勇気ある行動は称賛に値します。彼のおばあちゃんのエネルギッシュな行動力も頼もしいのやがて街の人々も現実に目を向け、未来のために為すべきことを悟ります。何もしなければ何も生まれないそんなメッセージが込められた子供と一緒に楽しく学べるエコを考える作品です。

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ジャンゴ 繋がれざる者

2013年03月06日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2013年3月1日公開 アメリカ 165分

南北戦争勃発直前のアメリカ南部。理不尽な理由からブリトル3兄弟に痛めつけられ妻と引き離された奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、元歯科医キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)と出会い、奴隷を繋ぎとめる鎖から解放される。シュルツは賞金稼ぎで、ブリトル3兄弟の顔を知るジャンゴを助手とし銃の手ほどきをする。テネシー州の農園で3兄弟を発見したジャンゴは鞭と銃で彼等を殺す。シュルツに射撃の腕を見込まれ賞金稼ぎとなったジャンゴは、シュルツとともに南部の指名手配犯を捕まえながら鍛錬を積み、奴隷市場で生き別れとなった妻のブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)を探す。やがて彼女がカルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)が営むキャンディランドという農園にいることを突き止めた二人は、奴隷を鍛えあげ、奴隷同士を闘わせては楽しんでいるカルヴィンの元から妻を取り戻すため一計を案じる。しかしキャンディの忠実な僕である老獪な奴隷頭スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)に見抜かれ銃弾飛び交う死闘に発展し・・・。



タランティーノ監督作品はどちらかというと苦手な類ですが、これは文句なく面白かった!
三時間近い長さも殆ど気になりませんでした。奴隷制に対するアンチテーゼを娯楽というオブラートで上手にくるんで見せているのも気に入りました。

主役のジャンゴはもちろんカッコいいけれど、脇も役者揃いです
サディスティックなフランスかぶれの農場主役のレオは悪役を楽しんで演じてるし、自分も黒人なのに黒人蔑視に凝り固まった奴隷頭スティーブンはあくまでも憎たらしいし
映画の中では「ニガー」という差別用語が頻繁に出てきますが、これは時代背景を思えば仕方ないわけで、ここに批判をする人がいるそうだけど筋違いだよね

出会う白人が皆差別主義者で(南部だし時代だしで当然)それをバッタバッタと撃ち殺すのですが、血がドバドバ・ドピューンと盛大に飛び散るものの、作りものめいてリアル感に乏しいのが逆に娯楽性を高めていて、グロさを感じませんでした。また、奴隷達を剣闘士に仕立てて殺し合わせる場面も思いの他短くて格闘技全般苦手な私でも何とか視線を外さずにいられました。

個人的にはドイツ人の賞金稼ぎでジャンゴを助けてくれるシュルツさんに惚れ~~
ユーモアとウィットに富んだ人物で、彼がジャンゴに助手としての洋服を選ばせるシーンでは、ジャンゴが選んだ服に噴き出しそうになりましたよ シュルツさんの馬車の上に乗っかってるでっかい歯のオブジェもユニーク。バネでビヨンビヨンと揺れる様もユーモラスです。貯金箱でもあったのに早々に姿を消して残念
彼は奴隷制に嫌悪感を持つヨーロッパ紳士で、後にその高潔さが彼の命取りに握手くらい我慢しろよ~~。でも我慢できなかったのね
彼がジャンゴに手を貸した動悸は、妻の名前ブルームヒルダがドイツで有名なお話に登場する名前だったことが大きいかと思います。彼女がドイツ人の元主人の奴隷でドイツ語を話せるというのも当時の奴隷一般のイメージとは違って知的さを強調しているように感じました。

再び捕えられ縄に繋がれたジャンゴ、絶体絶命か?と思わせて、またまた見せ場があるというのも飽きさせない作りです。そして最後の山場、派手~~!!ダイナマイトで全てを吹っ飛ばしちゃったらそりゃ証拠隠滅も完璧!自由の身だぁなめでたしめでたし

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アンフェア the answer

2013年03月04日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2011年9月17日公開 109分
2013年3月2日 土曜プレミアム(フジテレビ)放映

雪平夏見(篠原涼子)は、前回の事件解決後、東京を追われ北海道・西紋別署勤務となっていた。その頃、東京ではネイルガンによる連続殺人事件が発生。雪平の元夫・佐藤和夫(香川照之)が事件の容疑者として浮上する。佐藤と再会した雪平は、解読を依頼した機密文書が隠されたUSBメモリを返され、同時に事件は容疑者となった者が次々と殺される予告殺人だと聞かされる。翌日佐藤が死体で発見され、雪平が逮捕される。雪平逮捕の一報は警視庁にも大きく報道され、東京地検の検察官、村上克明(山田孝之)が取り調べにやってくるが、雪平は彼を人質にして警察から脱出し追跡をかわしながら事件の全貌を暴こうとするが・・・。


TVドラマシリーズは見ていません。劇場版の前作も未見です。
これはたまたま地上波放送があったので録画して観賞。前日には アンフェア the special『ダブル・ミーニング 〜Yes or No?』も放送されたけれど、こちらは北乃きい主演の『アンフェアthe special~ダブル・ミーニング 二重定義』(これも未見だ)の続編だったようで・・・。ネット社会を上手く背景に盛り込んだ劇場型犯罪でした

バツイチ、子持ち、大酒飲みの男勝りのキャラが売りの雪平ですが、今作では妙に女っぽいというか弱さを感じてしまいました。冒頭から所轄の上司・一条道(佐藤浩市)との濃いベッドシーンだしね
おまけに出てくる男がみ~~んなどこか胡散臭い。
一条が怪しいのはすぐにわかるけれど、山田君、あんたもかなどんでん返しも気付いてみれば伏線はあったのね
イっちゃってる連続殺人犯(大森南朋)が自分の殺人哲学に凝っていたお陰で雪平が窮地を脱しますが、このシーン、ホラーっぽくて苦手。

事件は雪平が持つUSBメモリーを狙ったものとわかりますが、やられっ放しかよ~!と思わせて置いて、最後に真相に気付いて逆転の一発をかませるところはスカッとします。でもまだ続くのね

警察や検察を巻き込んだ権力と汚職と腐敗の構造の深さにため息しか出ないですな。


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スーパー・チューズデー ~正義を売った日~

2013年03月03日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年3月31日公開 アメリカ 98分

アメリカ合衆国大統領の座をめざし、民主党予備選に出馬したマイク・モリス(ジョージ・クルーニー)は、選挙ツアー最大の正念場を迎えようとしていた。ペンシルベニア州知事として政治家の実績を積んだモリスは、ハンサムで弁舌に優れ、カリスマ性も十分。そのうえ清廉潔白な人柄と揺るぎない政治信条で多くの有権者を魅了し、ライバル候補のプルマン上院議員をじわじわと引き離しつつある。来る3月15日のオハイオ州予備選に勝利すれば、その勢いに乗って共和党候補をも打ち破り、ホワイトハウスの主になることはほぼ確実。いよいよ一週間後に迫ったスーパー・チューズデーの決戦に全米の注目が集まっていた。モリスを支えるのは、ベテランのキャンペーン・マネージャー、ポール・ザラ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と、広報官スティーヴン・マイヤーズ(ライアン・ゴズリング)。ある日、スティーヴンのもとに、プルマン陣営の選挙参謀トム・ダフィ(ポール・ジアマッティ)が電話をかけてくる。極秘の面会を求められ、一度は拒んだスティーヴンだが、何らかの情報提供をちらつかせるダフィの言葉巧みな誘いに負けてしまう。ダフィの目的は、スティーヴンを自陣営に引き抜くことだった。だがモリスに心酔しているスティーヴンは、その申し出を即座に拒絶。その夜、スティーヴンは選挙スタッフのインターンである若く美しい女性モリー(エヴァン・レイチェル・ウッド)とホテルで親密な一夜を過ごす。翌日、スティーヴンはダフィとの密会の件をポールに打ち明け、謝罪するが、何より忠誠心を重んじるポールの怒りは想像以上だった。二人の間には亀裂が生じ、ダフィとの密会は新聞記者アイダ(マリサ・トメイ)にも嗅ぎつけられてしまう。圧倒的優勢を見込んでいたスーパー・チューズデーの雲行きも怪しくなり、スティーヴンを取り巻く状況はまたたく間に悪化していった。そんな中、ポールからクビを宣告されたスティーヴンは、プルマン陣営への寝返りを決意するが、態度を豹変させたダフィにすげなく門前払いされてしまう。怒濤の嵐が吹き荒れるスーパー・チューズデー前夜、正義を売る者たちの最後の壮絶な駆け引きが始まった……。(goo映画より)


政治の世界は善人ではのし上がれないと知っていても、実態の醜悪さに凹みそうになります

候補者の人柄と政治哲学に心酔し、広報官としても手腕を発揮していたスティーヴンは、敵陣営の汚い策略にはまり、自身のキャリアを断たれそうになります。清廉潔白と信じていたモリスの過ちの尻拭いをしている最中の彼にとっては二重の裏切りとも言えます。

手酷い仕打ちを、ではスティーヴンは黙って受け入れたのか?答えは否です。
彼はモリスの弱みを武器に、逆にポールを追い落とし、自らが表舞台に返り咲きます。
けれども、スティーヴンとモリスの間には互いへの信頼感も進む道への正義も既にありません。

スティーヴンのモリーへの思いは、初めは純粋なものだったかもしれませんが、彼女の不倫を知ってからは選挙の障害として扱い、彼女を傷つけ、彼女の死さえ利用します。
友人と思っていた記者のアイダ(マリサ・トメイ)も、利害関係で繋がるだけだったことに気付いたスティーヴンが、最後に見せる冷たい瞳が印象的でした。
そもそもダフィの誘いを無視できなかったのは、彼の中に野心が渦巻いていたからでしょう。映画の後半は信頼に重きを置くポールの方が善人に思えてしまいました。

まさに彼はこの選挙で自らの正義を売り渡し政治屋として一人前になったのでしょう。何とも皮肉的な結末。後味が良いとは言えませんね(^^;

原作は、ボー・ウィリモンの戯曲で、2004年の民主党大統領予備選挙に立候補したハワード・ディーンの選挙スタッフだったそうです。この経験が基になっているそうですが、実際はもっとえげつない策謀が渦巻いていたとか(映画はモリーの不倫相手など設定を少し変えています。)
予備選を3月15日としたのは「シーザー暗殺の運命の日」を掛けているというのも意味深です

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ジョイフル♪ノイズ

2013年03月02日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2012年4月28日公開 アメリカ 118分

不況にあえぐジョージア州の小さな町パカショー。全米選りすぐりの聖歌隊が競う“ジョイフル・ノイズ”で、町の教会の聖歌隊が優勝することだけがこの町の人々の楽しみとなっていた。しかし、美しいハーモニーで知られるその聖歌隊は、中心的な女性シンガー2人の対立により、分裂の危機に瀕していた。新しく指導者に選ばれたヴァイ・ローズ・ヒル(クイーン・ラティファ)は、伝統的な正統派のゴスペル・スタイルに頑なにこだわっていた。だが、先進的な考えを持つG.G.スパロウ(ドリー・パートン)は、そんなスタイルは時代遅れだと主張する。そしてG.G.の反抗的な孫ランディ(ジェレミー・ジョーダン)が現れたことで、2人の対立はさらにヒートアップする。音楽の才能を持つランディが、ヴァイの美しく才能豊かな娘オリビア(キキ・パーマー)に興味を示し出したのだ。2人がお互いに好意をあらわにしているのを見て、G.G.とヴァイは、ますますいがみ合っていき……。(goo映画より)


登場人物の多くが黒人なのは南部という土地柄が関係しているのでしょうね。
聖歌隊というのは日本では馴染みが薄いですが、これって昨年のTVドラマ、財政難に喘ぐ町を盛り上げようとママさんコーラスのメンバーが奮闘する 「カエルの王女さま」と似た内容ねぇ

映画は若い二人の恋模様と二人を取り巻く大人たちの対立と和解を絡めて進んでいきます。
ヴァイは、アスペルガー症候群の息子と反抗期の娘をナースをしながら育てています。失業し家を出て軍隊に戻った夫への信頼を失いかけている彼女は、神を讃えることで現実とのバランスを取ろうとしているように見えます。

一方G.G.は聖歌隊の指導者であり夫であるバーニーを亡くし失意にありましたが、孫のランディが転がり込んできたことで再び活気を取り戻します。彼がオリビアに惹かれていくのを知っても快く応援します。楽観的でバイタリティのある彼女の方がヴァイより好ましく思えました。

問題児のレッテルを張られているランディですが、本当は優しい青年です。オリビアの弟の障害にも偏見を持たず、友人として受け入れます。聖歌隊のためにも協力を惜しまず、恋敵さえも仲間に引き入れる機知もあります。(ピアノが弾けたり編曲の才能があったりと音楽センスがある設定なのはご愛敬)オリビアの方は自己主張しながらもまだまだ母に抑えつけられている感がありましたが、ランディとは祝福される結果になります

ところで聖歌というと讃美歌を初め何となく厳かで粛々としたイメージがあるのですが・・・大違いです
ゴスペルはもちろん、マイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダーのヒット曲などポップな曲もあって、まるでプロのステージのような華やかさに驚かされました。
(そういえば、「カエルの~」も従来の合唱とは大きく違ってたっけ)
ミュージカルではありませんが、歌の場面はけっこう多いです。音楽好きには十分楽しめる作品だと思います


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