2018年3月30日公開 アメリカ 116分
1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。
ある日、その文書が流出し、ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープした。
ライバル紙のニューヨーク・タイムズに先を越され、ワシントン・ポストのトップでアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。真実を伝えたいという気持ちが彼らを駆り立てていた。
しかし、ニクソン大統領があらゆる手段で記事を差し止めようとするのは明らかだった。政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか…報道の自由、信念を懸けた“決断”の時は近づいていた。(公式HPより)
スティーブン・スピルバーグ監督作品で、メリル・ストリープとトム・ハンクスが初共演。ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国民の間に疑問や反戦の気運が高まっていた1971年、政府がひた隠す真実を明らかにすべく奔走した人物たちの姿を描いた社会派ドラマです。劇場予告で観て気になっていました
辻氏がメーキャップを担当した「ウィンストン・チャーチル~」と迷ったのですが、内容的にはこちらの方が好みかなぁとチョイス
トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの4政権にわたって隠蔽されてきたベトナム戦争に関する膨大な事実が記された国防省の最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」。歴代の大統領がベトナム戦争におけるアメリカの軍事行動について何度も国民に虚偽の報告をし、極秘に軍事行動を拡大していた事実が記され、暗殺、ジュネーブ条約の違反、不正選挙、アメリカ連邦議会に対する嘘といった闇の歴史の証拠が綴られたそれが世に出ることは政権の足元を揺るがす大事件です。ニクソン政権は記事を書いたニューヨーク・タイムズの差し止めを要求します。
マイナーなローカル紙扱いされてきたワシントン・ポストの主幹のベンは、この文書を入手しようとキャサリンに働きかけますが、友人であるペンタゴン・ペーパーズの作成を指示した国防長官のマクナマラ(ブルース・グリーンウッド)を窮地に陥れることはできないと拒否されます。しかし、かつてランド研究所(政府出資のシンクタンク)の軍事アナリストで後に内部告発者となったダニエル・エルズバーグに、同僚だった編集主幹補佐のベン・バグディキアンが接触し、文書の全コピーの入手に成功します。
ここにきて、文書を公表するか、見送るかの決断が、キャサリン・グラハムに委ねられることになるのです。彼女は先代の父の勧めに従って優秀な夫を社主に迎え、自らは内助の功を発揮してきたのですが、夫の死(自殺らしい
)によりその立場を引き継ぎました。有力紙の中で唯一の女性経営者として、男社会の中で発言の機会も殆んどなかった彼女にとって、初めての、そしてあまりにも大きすぎる決断の時が訪れたのです。激しいプレッシャーの中で悩みぬいた末に、キャサリンは新聞社の将来を危険にさらし株式公開の計画も潰してしまうという役員たちの反対意見に逆らって、記事掲載の許可を出します。
映画では、ブラッドリーの妻がキャサリンの決断を称賛するシーンが登場します。同じ女性として、キャサリンがいかに大きな人生の決断を迫られたのか、そして下した決断への勇気を夫に訴えかけます。ブラッドリーを駆り立てたのは記者としての使命感ですが、妻の言葉で彼はキャサリンの立場とその決断の大きさに今更ながらに気付くのです。
キャサリンもまた、代々続いた家族経営の愛すべき新聞社を自分の代で潰してしまうのではないかという恐れや、社員たちの生活を奪ってしまうかもしれない不安に揺れ動きながらも、報道の使命・自由を守るという大義を果たすことこそが今しなければならないことだと決断します。夫の葬儀の際に彼女の娘が渡したメモも効果的に使われていました。そう、正しい行いは時にとてもシンプルな原則によるのです。
司法省は即日差し止め命令を要求しますが、連邦裁判所はこれを棄却、最高裁判所もこれを無効としました。ペンタゴン・ペーパーズの公表は公益のためで、政府の監視は報道の自由に基づく責務だというのがその理由です。新聞は政府ではなく国民のためにあるということを高らかに宣言したわけですね
NYタイムズやワシントン・ポストの勇気ある行動に触発され、ボストン・グローブやシカゴ・サンタイムズなど多くの新聞が一丸となって文書に関する記事の掲載を始めたことも描かれています。一新聞社の勇気ある良心的な行動にとどまらず、多くの新聞社や記者たちが団結して脅威に怯むことなく真実を世に知らしめた出来事でもあったのですね。
あのケネディですら、政策の失敗を認めることから目を背けたというのは何だかがっかりではありますが、権力を握る者が陥る落とし穴なのかも。だからといって大勢の若者を無益な死に追いやって良いわけはありません。歴史が繰り返されそうな今こそ、こういう作品を観て欲しいなぁと思いました。
後ろ姿や声だけで登場するニクソンの何て高圧的でふてぶてしいこと
ラストでは「ウォーターゲート事件」を匂わせるシーンが加えられています。天網恢恢疎にして漏らさずですね