2021年5月21日公開 カナダ 126分 G
カナダ・ケベック州、人里離れた深い森。湖のほとりにたたずむ小屋で、年老いた3人の男性が愛犬たちと一緒に静かな暮らしを営んでいた。それぞれの理由で社会に背を向け、世捨て人となった彼らの前に、思いがけない来訪者が現れる。その80歳の女性ジェルトルード(アンドレ・ラシャペル)は、少女時代に不当な措置によって精神科療養所に入れられ、60年以上も外界と隔絶した生活を強いられていたのだった。世捨て人たちに受け入れられたジェルトルードは、マリー・デネージュという新たな名前で新たな人生を踏み出し、澄みきった空気を吸い込みながら、日に日に活力を取り戻していく。しかし、その穏やかで温かな森の日常を揺るがす緊急事態が巻き起こり、彼らは重大な決断を迫られていくのだった……。新しい出逢いと湖畔での穏やかな共同生活。80代の男女を主人公に迎え、人生の晩年をいかに生きるかというテーマを詩情豊かに綴る、愛と再生の物語が誕生した。(公式HPより)
ジェルトルード/マリー・デネージュを演じたアンドレ・ラシャペルは2019年11月に他界し、本作が遺作。監督は、ケベック出身のルイーズ・アルシャンボー。本作の舞台・ケベック州アビティビ在住の作家、ジョスリーヌ・ソシエの原作小説の映画化です。
淡々と進む物語の設定を呑み込むまで少し時間がかかりました。
冒頭に登場する世捨て人の老人たち、チャーリー(ジルベール・スィコット)、トム(レミー・ジラール)、テッド・ボイチョク(ケネス・ウェルシュ)の森の暮らしの描写と並行して、写真家のラフ=ラファエル(エヴ・ランドリー)が森林火災の生存者の証言を聞き取っていく姿が出てきます。その一人、ボイチョクを訪ねてラフはスティーヴ(エリック・ロビドゥー)が管理人をしているホテルにやってきます。
ジェルトルードはスティーブの伯母で、夫が亡くなって初めて彼女の存在を知った母ジュヌヴィエーヴ(ルイーズ・ポルタル)が、施設から一時帰宅させ葬儀に参列させました。この時点ではジェルトルードがどんな施設に入っていたのか不明ですが、彼女を送り届けようとしたスティーブにジェルトルードは戻りたくないと訴えるんですね。そこで彼は自分が任されているホテルに連れてきますが、いつまでも置いておくわけにいかず、懇意にしている老人たちの所へ連れていきます。どうやら彼らは森で大麻を栽培していて、スティーブはその恩恵に預かる代わりに日用品や食料を届けているようです。
老人たちは元いた場所から自由を求めて逃れてきている様子。ジェルトルードがやってきた時点でテッドは既に心臓発作で亡くなっていたため、彼の小屋を提供することになります。彼女は新しい暮らしを始めるにあたってマリー・テネージュと言う名前に変えます。トムは女性が加わることに懐疑的ですが、チャーリーは親切に面倒をみます。湖での行水や焚火を囲む夕食、トムの弾き語りなど、穏やかな森の暮らしの中で、彼女は次第に明るさを取り戻していきます。
眠れない夜をチャーリーの小屋で過ごすようになったマリーは問わず語りに生い立ち(多感な彼女を誤解した父親に精神障害者施設に監禁され60年が過ぎたこと、施設で望まぬ妊娠・出産をしたが子供は取り上げられ強制避妊手術をされたこと。)を話し、チャーリーもまた森で暮らすようになった理由を話します。二人の仲が深まっていき、遂にある夜結ばれるのですが、老人同士のその描写は決して不快ではありません。
一方ラフはテッドが遺した膨大な絵画を見つけ世間に公表したいと考えます。彼のアトリエの鍵を壊して勝手に入ったラフをトムとチャーリーは非難しますが、ラフはテッドが絵で自分の想いを訴えていたのだと主張します。
遠くの森の火災が延焼してきて、彼らの森にも避難命令が出されます。施設や森林警備隊の捜索の手が伸びてくることを恐れた彼らはそれぞれ決意を固めます。チャーリーたちは青酸カリを手元に置いていて、死期は自ら決めると約束していました。癌を患っているチャーリーとアル中のトム、テッドは急死しましたがおそらくは心臓の病でしょう。トムが歌うシーンが何度も出てきますが、彼は歌詞に自らの思いを重ねているように感じました。トムは愛犬と一緒の死を選びます。地面に穴を掘って愛犬と共に横たわり服毒死する様は、かなり壮絶です。 冒頭でウサギの皮を剥ぐシーンも登場しますが、死や性を真正面から捉えて描かれている作品です。
チャーリーは病気が見つかったことで家族と別れ森に隠遁する道を選んでいますが、すでに15年が経過しているらしい。しかもマリーと恋愛してるし、最後は二人で森を出て暮らしてるし・・・なんか釈然としない思いが残りますが、マリーの立場から見たらまさに自由で新しい人生が拓けたわけです。
ラフの個展の会場には、彼女が撮った写真とテッドの絵画が飾られていました。そもそもラフがどうして彼らの写真を撮ろうと思ったのか、その動機が明らかにされていないし、老人たちと若者の対比なのかもイマイチわからなかったなぁ。ケベックから出たことがなく独身を通し大麻を吸うスティーブも人生を逃げているように見えました。ラフやマリーとの出会いが彼を一歩前に進めるきっかけになったのかしら?