リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

「週刊ポスト」の「断韓」特集炎上:何が問題だったのか

2019-09-05 | 政治
小学館の週刊誌「週刊ポスト」の嫌韓特集がSNSなどで炎上し、同社が謝罪に追い込まれた(朝日新聞2019-9-5)。
泥沼の日韓関係のなか、日本でも韓国でも強硬な態度に出たほうが世論の受けがよくてどちらの政府も近視眼的に対立をエスカレートさせているが、嫌韓の行き過ぎを危惧する世論も十分強かったということなのだろうか。「あいちトリエンナーレ」で慰安婦を表わす「少女像」が激しい批判にさらされた(過去ブログなど)ことに象徴されるように、メディア批判をするのは右派が多いという印象だが、ハト派も健在で、右派の行き過ぎには積極的に反論している、ということなのだろうか。

どうも違う気がする。

今回の特集は「『嫌韓』よりも『減韓』、『断韓』を考える 厄介な隣人にサヨウナラ 韓国なんて要らない!」と題していたという。9月2日に朝日新聞ほかに「韓国なんて要らない」と大書した広告が出たのがSNSで拡散し、批判が集まったという。
嫌韓・嫌中を扱った書籍・記事はここ数年多く、根強い需要があると聞く。だが世論を外国批判に向けてあおることは健全ではない。特に昨今の泥沼の日韓関係のなか、強行な世論が政治家の選択肢を狭めていることを思えば、冷静に是非を論じることこそメディアには期待したいものだ。
だから私も今回の「断韓」特集は決して賛同できるものではないが、出版社が即日謝罪しなければならないほど特別なことなのだろうか。あまたある嫌韓本に比べて特別過激な内容なのだろうか。かつては「アメリカなんて要らない」とか「中国なんて要らない」などという記事もよくあったのではなかったか。外交では相手国により多く依存するほうが不利になるから、相手国に依存しないようにするというのは基本中の基本だと思うのだが(※1)。(韓国だって日本の輸出規制厳格化を受けて脱日本製品の動きを始めている(朝日新聞2019-9-5)。「断韓」というキャッチフレーズが強烈だというだけでは、出版社に謝罪させるほどのことではないと思う。)
そんなことをいったら、「NHKから国民を守る党」の丸山穂高衆院議員は韓国が実効支配する竹島についても「戦争で取り返すしかないんじゃないですか?」とツイッターで投稿しており(朝日新聞2019-9-5)、私にいわせれば、こちらのほうがよほど問題は大きいが、SNSで批判が盛り上がっているという報道は見ない。

今回の特集がSNSでやり玉に挙げられたのは、たまたま新聞広告がSNSで拡散したからではないか。識者は「記事を読まずに批判している人が多いとも感じる」と指摘する。今回の炎上は、嫌韓のエスカレートを止めようとするハト派の動きなどという立派なものではなく、アイドルや企業広告を批判するのと同じノリで反射神経的な正義感にかられた人が多かった結果だろう(過去ブログの追記3参照)。

ただ、作家などが連載の中止を申し出たり、抗議したりする動きがあることから、特集の中身にはやはり一線を超える何かはあったのかもしれない(ただ、「今後小学館の仕事はしないことにしました」と表明した思想家は「新聞広告などを見て判断した」というから、ちょっと軽率な気がする)。いずれにせよ、やはりどの表現がいけなかったのかをきちんと議論するべきだ。各地の「ヘイトスピーチ禁止条例」だって、右派からは特に「言論弾圧」と批判される(過去ブログ)。右派や嫌韓派を擁護するつもりはさらさらないが、批判するなら具体的な内容に即したものであるべきだ。(と書いてから「週刊ポスト9月13日号掲載の特集について」という公式な謝罪文(2019-9-2)を見たが、『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』という記事が特に問題だったらしい。「韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました」とあった。中身は読んでいないが、このタイトルはちょっとまずい気がする。)

※1:後日知ったが、2018年の米国の論文で「相互依存の兵器化」というものがあるそうだ(朝日新聞2019-9-12)。グローバル化世界の相互依存のネットワークにおいて、一方が他方により多く依存する非対称があると、金融や技術・商品を差し止めることで兵器のように利用できるというもの。何をいまさらという気もするのだが。記事(経済気象台)にあるように、自国製品を開発したり、自国が優勢な他分野で対抗・牽制したりといった対策が必要だろう。

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