優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

「あの日から」 目次

2012-08-24 21:14:58 | あの日から


 「まえがき」  「別れの後」を書いている途中、とても苦しくなってしまった時期がありました。
           呉善花さんの著書を読んで、それまで知らなかったことにいろいろ気づいてしまったからです。


 序章 1「約束の場所へ」   短歌に短い物語を追加いたしました。 追記 「約束の場所へ」をあの日からの序章といたしました。

 序章 2「ユジンの後悔」   poppoさんの返歌からヒントを得て短編にし、「あの日から」の序章その2といたしました。

 序章 3「ジュンサンの言いたかったこと」   poppoさんへの返歌 「ジュンサンの言いたかったこと」を短編にし、「あの日から」 序章その3 といたしました。


 1「時が止まった」   あの日から…、私のすべてが変わってしまった。

 2「サンヒョクの不安」   ジュンサンを失ったユジン。ユジンを想うサンヒョクに広がる不安…。

 3「ヒジンが見たもの」   あの日から、お姉ちゃんは…絵を描かなくなってしまった…。

 番外編「卒業」    「マイ・ファニー・バレンタイン」 … ヒサトさんとのコラボ。  

 4「誰も愛したくないから…」   ユジンが髪を切ったわけは…。

 5「チヨンの思い」   愛息サンヒョクを思う母心。

 6「イ・ミニョン」    あの日… 私はパリのオープンカフェであなたを見つけた。  

 7「再会」   

 8「秘めごと」   忘れていた、たった一度の秘めことが…

 番外編「追憶」   ヒサトさんの川柳 君はもう死んだと言って聞かせ…冬 から発想した番外編。 

 9「あなたを忘れるわけじゃない」  一歩前に踏み出そうとするユジン… 

 10「運命が動き出す

 11「再び出会う日」     二人が再び出会うときがもうそこまで来ていた。

 「あとがき」   「あの日から」は私のお気に入りでした。

 


    

あの日から 序章その3 「ジュンサンの言いたかったこと」

2006-11-14 15:22:24 | あの日から
「好きだった。 ありがとう、もう 会えないが
          僕は忘れない 君は忘れて」

「なぜなの」と きっと君を 泣かすから
         何も告げずに ミトン返そう

「ユジナア」と 呼ぶ声君に 届かない
          やはり君とは もう会えないか 


ユジンの家でその写真を見たとき、僕は愕然とした。
ポケットからあの写真を取り出し、その写真と比べてみる。

〈同じだ…。焼け落ちた部分は、ユジンのお父さんだったんだ。
しかも母さんはユジンのお父さんと腕を組んで微笑んでいる…。
いったいこれはどういうことなんだ…〉

僕はジャンパーを掴むと、何も告げずにユジンの家を出た。
〈キム教授に会って確かめなければ…〉

寒さで凍った道路を滑りそうになりながら僕は大学に向かって走った。
僕は怖かった。
間違いであって欲しい…。
そう願いながら、それでも確かめずにはいられなかった。


「カン・ミヒさんとユジンのお父さんは恋人同士だったんですか?」
「…、そうだな、ヒョンスが結婚すると、ミヒはすぐにこの地を去ったからな。」
「それで、教授とミヒさんとは…」
「私の片思いだったよ。…みんな昔のことだ…」
教授は遠い目をして言った。

そうじゃない。
昔のことなんかじゃないんだ。
僕にとって、僕達にとって…。


ユジン、ごめんよ。
もう君と会うことは出来ない。
僕はアメリカへ行く、君に黙って。
こんなことになるなんて…
春川になんて来るんじゃなかった…


12月31日。
僕は君との約束を破ってこの春川を去ろうとしている。
君はきっと待っていることだろう。
ごめん。でもこうするしかないんだ。

車に乗り込む。
街を抜け、車はどんどん春川から遠ざかってゆく。
その時、ジャンパーのポケットの中にあるミトンに手が触れた。

〈ユジンに今日これを返すはずだった…
このまま行ってしまって本当にいいのか…
ユジンはこれがないと手が寒いだろうに…〉

もう、理由はどうでもよかった。
気がついたときは母の制止を振り切って、無理やり車を降り、タクシーに乗っていた。

大晦日の道路は混んでいた。
街に入るとタクシーは遅々として進まない。
僕はいらいらとして、タクシーを降り街を走った。

〈ユジンごめんよ。
きっとずっとあの場所で待っているんだろう。
今行くからね。〉

〈でも、ユジンになんと言おう〉
走りながら僕は考えた。

〈本当のことなど言えやしない。
ただ、ミトンをありがとう。
母の仕事の都合で急にアメリカへ行くことになった。
もう韓国には帰らない、会うことはない、と。

ユジンのこと好きだったけれど、僕の事は忘れて。
あぁ、そうだ、サンヒョクに僕が謝っていたと伝えてもらおう。
ユジンと仲の良い、優しいお父さんがいるサンヒョクが妬ましくて嫌がらせをしたこと。
サンヒョクは本当にいい奴だ。僕もわかっていたんだ。
でも素直になれなかった。

だから、僕がいなくなったら、元どおりサンヒョクと仲直りしてほしい、と〉


あぁ、もう少しだ。
もう少しで約束の場所に着く。
もう少しだけ、ユジン待っていて。
そして僕の言うことを泣かずに信じて聞いてくれますように。

僕はあせって、大通りを横切ろうとした。
その時…

「ユジナァ…」
〈ごめん、やっぱり君にはもう会えないみたいだ…、許して…〉

あの日から 序章その2 「ユジンの後悔」

2006-11-13 10:12:43 | あの日から
好きな色 好きな季節と たずねしが
       一番知りたき “人”の名聞かず   …poppo


私は引き出しからあのカセットテープを取り出すと、テープレコーダーに入れた。

ジュンサンの明るい声が流れ出す…。

あの日、12月31日私に“好きな人”の名前を教えてくれるって、「必ず来いよ」って約束していたのに…。
なぜ、約束の時間に来なかったの?
それなのに、なぜあんな時間に、あんな場所で事故になど…
私に会いに来ようとしていたんでしょう?

学校へは転校の手続きがとられていたという。
でも、転校先の学校名はなくて、いったいあなたはどこへ行こうとしていたの。
私に何も告げずに…



12月31日。
私は朝から落ち着かなかった。
今日は約束の日。

何色のマフラーをして行こうかしら?黄色?それとも白?
やっぱりジュンサンの好きな白にしよう。
ジャンパーも白にして…、雪が降ればいいなぁ…。
ヒジンたら、取って置きの耳あてを出してきて、可愛くして行けだなんて、小さくてもやっぱり女の子ね。

「あのかっこいいお兄ちゃん、どうして晩御飯食べないで黙って帰っちゃったのかしらね。」

「ほんとね。きっとお母さんに早く帰りなさいって、言われていたのを急に思い出したのよ。
それで、帰ると言ったらきっとヒジンが悲しがると思って黙って帰っちゃったんじゃないかな。」

「ふーん、そうかぁ。
じゃあ、今日お兄ちゃんにあったら、私はそんな駄々っ子じゃないから、今度はちゃんと言ってから帰ってねって言っておいてね、お姉ちゃん。」

「わかったわ。ヒジンが一緒にご飯が食べられなくて残念がっていたから、また来てねって言っておくわ。」
「うん。」ヒジンがにっこり笑った。

〈ほんと、黙って帰るなんて、今日会ったらそのこともとっちめなくっちゃ。
それから電話番号と住所も聞かないと。
私たちもう付き合っているんだから、それくらいいいわよね。〉

私は時間になると、今日こそはジュンサンより先に約束の場所へ行こうと家を出た。
雪が降ってきて寒いけれど、白いマフラーとジャンパーが雪の色と溶け合って、きっとジュンサンは気に入ってくれるはず。
早く来ないかしら。

そして、早くジュンサンの言葉を聴きたい。
私も…、言いたい。
そうしたら、私たち本当の恋人同士よね。


でも、ジュンサンは来なかった。
何時間待っても、新年を告げる花火が上がっても、ショーウインドウの明かりが消えてしまっても…。

ずいぶん遅くなってしまった。
お母さんに怒られるわね。
しかたなく私はバスに乗って家へと向かった。


バスの外の道路が何か騒がしい。
年末年始で道路が混んでいる上に、事故でもあったのかしら?

でも私は、なぜジュンサンが来なかったのか、「必ず来いよ。」と言っていたのに…、それだけが頭の中をぐるぐると回っていて、何も考えることができなかった。
まさか、その事故がジュンサンだなんて思いもせず…。


好きな色も、好きな季節も、好きな食べ物も覚えたけれど、一番聞きたかった「好きな人の名前」― 聞かなくても分かってるわ、でもあの日あなたの口から聞きたかったのに…。

そして、なぜ初雪の日黙って去ったのか。
なぜ転校したのか。

もう何もジュンサンに聞くことはできない。
後悔と疑問だけが残されてゆく…

あの日から 序章 「約束の場所へ」

2006-10-12 09:11:02 | あの日から
舞い降りる 初雪見上げ 走り出す
        君待つ湖畔に 心高鳴る



「年末ですから混んでいて少し遅れますよ。」
「かまいません。」

昨日何度も練習し、録音しなおしたカセットテープ。
君の好きな『初めて』が入っているよ。それからメッセージも。

差出人の名前を書いていないけれど、僕からだって、聞けば分かるよね。
君はどんな顔をしてこれを聞くんだろう。
喜んでくれるだろうか。それともびっくりするかな。
なんか、どきどきするな。


そんなことを考えながら郵便局のドアを開けて外へ出ると、雪が降っていた。

〈初雪だ!〉

雪が舞い降りてくる空を見上げると、僕は嬉しくなって走り出した。
きっとユジンが待っている、あの湖畔で。
『初雪が降ったら会おう』って“ちゃんと”約束したわけじゃないけれど、あれはそういう意味だよね。


もう君は雪が降ったことに気付いたんだろうか。
それとも僕のほうが先かな。

息を切らしてメタセコイヤの林にたどり着くと、まだユジンは来ていないようだった。
僕は“ある事”を思いついて、木の陰に隠れた。
いい具合に雪はまだ降り続いていて、僕のつけた足跡を消してくれている。


しばらくすると、ユジンが走ってやってきた。
やっぱり『約束』を覚えていてくれたんだね。

僕がいることにユジンは気付いていない。
林の入り口まで来ると、急いで走ってきたことを悟られまいとするかのように息を整え、澄ましてゆっくりと歩き出した。


もう少し、こうしてユジンの姿を見ていよう。
もう少し近くまで来たら…


「えいっ!」命中!!大成功!!
僕達の『初めて』の楽しい『初雪デート』の始まり…



あの日から 一 「時が止まった」 に続く

あの日から 番外編「卒業」 ヒサトさんとのコラボ

2006-02-13 20:12:40 | あの日から
「マイ・ファニー・バレンタイン」 … ヒサト

リボンほどく きみがぽろりと手に落ちる


記憶ほど紅くて熱いものはない


お返しに第二ボタンをあげようか


てのひらの冷たさを知るも…てのひら


温もりを知るともうすぐさよならだよ


   -----------
ユジンは、焼却炉の前に一人佇(たたず)んでいた。

〈ジュンサン、あなたとの思い出は、雪のように白いものばかりだと思っていたけれど、そうじゃなかったのね。

焼却炉の掃除を言い渡されて過ごした一ヶ月。
毎日紅い(あかい)夕日を浴びながら一緒に枯葉の掃除をしたわね。
あなたは、本当はもう一度お父さんに会いたいという気持ちを私だけに明かしてくれた。
初雪が待ち遠しい私のために、枯葉で雪を降らせてくれたこともあった。

そういえば、二人で補習をサボって湖に遊びに行った時、湖のほとりを二人で歩きながら、あなたはお父さんを探しに来たことを教えてくれた。
初めて私に心を開いてくれた。
あの時も私達は紅色の光に包まれていた…。〉

「ユジ~ン。こんなところにいたんだ。皆向こうで待ってるよ。
一緒に行こう。」
「ああ、ごめん。もうしばらく学校に来ることもないなと思って、あちこちぶらぶら歩いていたの。
今行くわ。」

校庭へ行くと、あちらこちらで、教師を囲んだり、友達同士名残を惜しむ輪が出来ていた。

「ヨングク~、ユジンを連れてきたわよ。」
「みんなごめんね。待っててくれたのね。」

5人が揃うと、お互いが顔を見合わせ、ちょっとしたぎこちなさと沈黙が訪れた。



「まぁさ、今日でお別れといったって、皆ソウルの学校へ行くわけだし、会おうと思えば、また会えるんだからさ…。」
ヨングクがみんなの心を引き立てるように言った。

「そりゃそうだけど、今まで、毎日教室で一緒に勉強して、部活も一緒にして、毎日だよ。逢わない日なんかなかったのに…。
やっぱり、寂しいよ…。」
ジンスクはそう言うと、ぽろぽろと涙をこぼし、ユジンに抱きついた。

「泣くなよ、ジンスク…。こっちまで泣けてきちゃうじゃないか…。」
グスンとヨングクが鼻を鳴らした。

「いいじゃないか、ヨングク。今日ぐらい。
寂しいのはみんな一緒さ。な、チェリン。」

「あたしは別に…、あんた達だけが友達ってわけじゃないし…。」と言いつつ顔を背けて無理に涙を見せまいとした。

おいおいと泣き続けるジンスクの頭をなでながら、ユジンの目にも涙が溢れ、こぼれていった。
〈そうよね。今日は泣いたって、誰もおかしいなんて怪しまないわ。今日は、泣いてもいいんだ。泣いても…〉

〈ユジン、君のその涙は誰のためなんだい?
僕達との別れを惜しむため?それとも…〉

堰を切ったように泣き出したユジンを見つめて、サンヒョクは複雑な思いに駆られていた。

「さ、ジンスク、もう気が済んだろ。ほら、ティッシュ。鼻水まで出てんぞ。」
「ありがとう、ヨングク。」

ジンスクが、ブーンという音を立てて鼻をかむと、
「おいおい、すごいなぁ。100年の恋も冷めちまうぞ。」
「だってぇ、泣くと鼻水だって出るじゃない。しょうがないよ。」
5人の間に笑いが広がった。

「ユジン。」
そういって、サンヒョクがハンカチを手渡そうとすると、
「ありがとう。自分のがあるわ。」と言って涙を拭いた。

「サンヒョク、いつもありがとう。
ジンスク、ヨングク、チェリン、これからも友達でいてね。」

「ユジン、今日の記念に、そのリボンもらってもいいかな。」
「え、リボン?」
ユジンは、今日は髪をリボンで結んでいた。
〈そうか、もう私には、リボンも、カチューシャも要らないんだわ。春川を離れたら髪を切るんだから…〉

「ええ、いいわ。」
リボンを解く(ほどく)と、ユジンの長い髪がはらりと落ちて、肩にかかった。
サンヒョクはその姿をまぶしそうに見つめていた。

ユジンはリボンを綺麗にたたむとサンヒョクに手渡した。
その時、ほんの少し、ユジンの手がサンヒョクの手に触れた。
〈ユジン、冷たい手をしているね。
君はとうとう、その手を握らせてくれなかったね。
でも、これからも僕は君の事をずっと見守っていくよ。〉

「ユジン、代わりにボタンを受け取ってくれないかな。」
「ダメよ。お母様は、きっとあなたの制服をきちんとしまっておきたいと思っていらっしゃるはずよ。
あなたは一人息子なんだもの。」

「いいんだよ。」
そういって第二ボタンを引きちぎろうとした時
「ちょっと待って、そんなことしたら、生地が傷むじゃない。
私、そういうの許せないのよね。
私がちゃんと取ってあげるから。」
チェリンはそういうと、ソーイングセットを取り出し、手早くボタンを切り取った。

「はい、どうぞ。サンヒョク。
ユジン、サンヒョクがそういうんだから、受け取ってあげなさいよ。
記念なんだから。」

「分かったわ。
ありがとう、サンヒョク。大事にするわ。」

「ねえ、ヨングク、私達も交換しようよ。」
「おお、そうだな。じゃ、チェリン、俺のも頼むよ。」

「いいわよ。
でも、私は遠慮しておくわね。
あなた達とだけ交換すると、他の人がひがんじゃうでしょ。」

「女王様は大変ね。
ほら、おとりまきが向こうで呼んでるわよ。」

「あら、ほんとだ。
じゃあ、またソウルで会いましょ。」

「行っちゃったね。
私達もそろそろ帰ろうか。」
「そうだな。サンヒョク行くか。」
「ああ。」

校門まで来た時、ユジンはふと校舎を振り返った。
〈ジュンサン、アンニョン。
もうここへ来ることはしばらくないけれど、あなたとの思い出は全部忘れないから。〉


紅(あか)や白 他の全ての 思い出も
          全部心の 奥にしまって

今日だけは 堪えていたもの 解き放ち
         哀しみ全て 涙にできる

その涙 僕らのためで なかろうと
       これからも君 見守りてゆく



あの日から 四 「誰も愛したくないから…」に続く