優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

連作「お昼の校内放送」第35回  『追悼放送』

2006-09-29 09:31:08 | 冬のソナタ
この虚しさはなんなのだろう。
ジュンサンの死を聞いてからこの方、僕は自分自身をもてあましている。

机の上には歴史の教科書とノート、参考書が広げられていたが、勉強をする気にもなれず机を背にして椅子に座り考え込んでいた。

彼のことを友として親しんでいたかといえば、それは嘘になる。
学級委員長として、放送部の部長として彼に対しては親しむようには努めてはいたが、正直な気持ちを言えば、ユジンとまた父と僕との間に割り込もうとする奴と疎んじていた。憎みさえしていたかもしれない。

それなのに…
まるで、やっと見つけた宝物を失くしたときのように、大切な愛する人を失ったかのようにこの胸にぽっかりと穴の空いたみたいな喪失感…。
いったいなんなんだ…。

後ろめたくはあるが、これで元のように彼が現れる前に戻ってユジンや父とも過ごせると安堵してもいいはずなのに…。

確かに、ユジンの嘆きを思えば心が痛む。
でもその傷はいつか時が癒してくれるだろうし、僕の力で彼女の心の空白は必ず埋めてみせる。必ず…。

しかし、それだけではない、何かが僕を虚しくさせる。
いったいどうしたら…。

僕は机に向き直ると教科書や参考書を閉じてしまった。
そして机の隅にある放送原稿に目を落とした。
休み明けの最初の日に放送するはずの予定のものだ。
〈こんなありきたりの内容、何事もなかったように放送することなんてできるものか…〉
僕は立ち上がって下の部屋へ駆け下り電話をとるとヨングクの家の番号を押した。

「もしもし、ああ、サンヒョクか。
いや、勉強じゃなく占いの本を読んでいたところだ。どうした?
2年生の放送部員だけ集めろって?
お前の家へ行けばいいのか?
うん、わかった、連絡する。じゃな。」


「みんな急に呼び出してごめん。
実は、休み明けの校内放送のことで相談しようと思って。
どうだろう、パク先生にお願いして、ジュンサンの追悼放送にさせてもらうというのは…。」

ヨングクは驚いてサンヒョクの顔をみたが、思い直したように頷いて言った。
「そうだな、2年生の大部分は知っていることだし。
せっかくの休み明けから暗い話題でちょっと気が引けるけど、何事もなかったようにするのもなんか白々しいしな。」

そのヨングクの言葉を遮る(さえぎる)ようにチェリンが言う。
「いやよ!そんなの!
ジュンサンのことは、私達仲間の間だけで、楽しかった思い出だけ胸にしまっておけばいいことじゃない。
…そんな悲しい出来事を思い出したくないわ。」
チェリンは立ったまま涙ぐんでしまった。

「ごめんよ、チェリン。座って聞いて欲しい。
君の悲しい気持ちも、信じたくない気持ちも分かるよ。
あんなこと早く忘れてしまって、彼はどこかの学校へまた転校して元気でやってるって思いたいんだろう?

でも事実なんだ。
確かに僕は彼と余りうまくいってなかった。みんなも知ってるとおりだ。
そんな僕がこんなことを言うのは変かもしれないけれど、僕達は仲間だったんだということを確認したいんだ。

ジュンサンのことを忘れちゃいけない、出会えたことに、たとえたった2ヶ月だけでも一緒にすごせたことに感謝して、僕達は今生きていることに感謝しなきゃいけないと思うんだ。

なんかうまくいえないけれど、追悼放送といったってどういう内容にしたらいいかわからないけれど、そう思うんだ。

ユジンはどう?」

うつむいていたユジンはハッとしたように顔を上げた。
「え、えぇ。私は…、サンヒョクの考えでいいと思うわ。
内容はパク先生とも相談して…。
ね、ジンスク。」

「そうね、なんかこうして毎日元気で暮らしているのが当たり前だと思っていたけれど、ジュンサンみたいに…なっちゃうこともあるんだものね。
感謝しなきゃいけないのよね。
ジュンサンの思い出を語りながら、『今を大切にしましょう。』みたいな話にすればいいんじゃないかな。」

「おう、お前もたまにはいい事言うじゃん。
どうだ、チェリン。そういうのならかまわないだろ?」

「……」
チェリンはまだすねたように横を向いている。

「僕のわがままかもしれないけれど、気持ちに区切りをつけたいんだ。
なぜ急にアメリカへ行くことになったのかそれは分からないけれど、彼にとっても僕達と過ごした2ヶ月は大切ないい思い出であって欲しいし、このままうやむやにその歳月が忘れられてしまうのはなんかいやなんだよ。

ここに僕達の仲間として確かにいたんだということを刻み込んでおきたいんだ。」

「わかったわ。
ジュンサンと色々あったことは許すって、そう思っていいのね。」

「ああ。なぜあんなに僕に突っかかるような態度をとったのか理解できないけれど、でもやっぱりいなくなってみると僕も胸に穴が開いたようなんだよ。
だから、彼も大切な仲間だったんだなっていまさらながらに思ったんだ。」

「そうまで言うのなら、サンヒョクの言う通りにしましょ。」

「ありがとうチェリン。
それじゃあ、僕が原稿のたたき台を作って先生と相談するから、後はそれぞれ一言づつ彼の思い出なんかを語るという形にしよう。
それでいいかな。」

「おまえにまかせるよ。
また何かあったら連絡しあって、な。」
とヨングクがみんなの顔を見ると皆うなずいてくれた。


「ユジン。」
帰ろうとするユジンをサンヒョクが呼び止めた。

「なに?」
「もし、辛いのならユジンは無理してしゃべらなくてもいいよ。
今回の企画は、ある意味僕のわがままだから…。」

「ううん、大丈夫。心配しないで、私にも話させて欲しい。
それより、うちのお母さんには私とジュンサンのこと黙っていて欲しいの。
お母さんはジュンサンのこと知らないし、会ったこともないわ。
私も話したことないし…。

放送部の仲間が亡くなった…ことは言ったけれど、転校してきたばかりの人でそんなに親しいわけじゃないからって言ってあるから。…
心配させたくないの。
お願いね。」
そうユジンはいうと、少し淋しそうに微笑んだ。

「あぁ、わかった。
ユジン、家まで送っていこうか?」

「ううん、一人で大丈夫。
じゃあ、学校でまた会いましょ。」

   ーーーーーーーーーーーーーーー

「皆さん、こんにちは。
お昼の校内放送の時間です。
今日は新年に入って初めての放送ですが、先生方の許可をいただいて特別の内容で放送いたします。
担当は2年生のキム・サンヒョク、クォン・ヨングク、オ・チェリン、コン・ジンスク、チョン・ユジンの5名です。

ご存知の方もいらっしゃると思います。
昨年の大晦日、僕達の仲間であるカン・ジュンサン君が交通事故で亡くなりました。

彼は、事故に会う直前に、ご家庭の事情で急にアメリカへ転校することになり、その手続きがとられていました。
ですから、事故に遭ったときすでに彼はこの学校の在校生ではなくなっていました。
そのため、事故前後の詳しい事情は知らされておらず、僕達もソウルでの葬儀に参列することもできませんでした。とても残念なことです。

今日は、彼の追悼放送とさせていただきます。


西村由紀江の『あなたに最高の幸せを』の曲にのせて、僕達から彼へ送る言葉を読みたいと思います。」

http://homepage2.nifty.com/te-studio/midiroom.htm
(↑こちらで試聴できます。)


「クォン・ヨングクです。
お前は本当に変わった奴だった。
科学高校から転校してきたというだけで異色だった。
もちろん噂どおり数学はずば抜けてできたし、機械にも強かった。

そのくせ『しゃべるのは苦手だと』放送部員のくせに校内放送の当番や部活動はサボるし、ましてやパク先生が監督の自習時間にサボるなんて他の人間では考えられないこともしでかしてくれた。

本当に”意外性の固まり”だったよ。
でも、俺はお前が憎めなくてなぜだか好きだった。
もっと親しくなりたかったのに。
何でこんなに早く逝ってしまうんだ…。

俺の占いによれば、俺達は会うべくして出会った仲間なんだ。
たった2ヶ月だったけれど楽しかったよ。
またいつかどこか出会えることを信じている。
さよなら、カン・ジュンサン。」


「オ・チェリンです。
ジュンサン、あなたは私を夢中にさせたただ一人の人です。
私はあなたが好きだった。
あなたはクールで、知性があってとても素敵だったわ。

みんなのアイドルの私にあなたは振り向かなかったけれど、でも泣いたりしていないから心配しないで。
絶対あなたより素敵な人を見つけて私のものにして見せるから、天国から見ていてちょうだい。
あなたと過ごした時間はとても楽しかったわ。
ありがとう、カン・ジュンサン。」

「コン・ジンスクです。
初めの頃、私はあなたのことをとても怖い人だと思っていました。
だって、いつも無表情で本ばかり読んでいて笑わないんですもの。

でも、だんだん本当は優しい人なんだってわかったわ。
放送室で配線がおかしくなってみんなが困っているときに黙って直してくれたり、私がレコードを運ぶのに重くて落としそうになっていると手伝ってくれたり。
どじな私をそんなふうに助けてくれた時でもあなたは特に偉ぶる様子も見せずに、さりげなくいつもどおり無愛想で…。やだ、泣けてきちゃった…。ぐすん。

私達の中で諍い(いさかい)や揉め事もあったけれど、今はもう楽しかった思い出ばかりです。
これからはジュンサンの分も頑張って放送するからね。
さようなら、カン・ジュンサン。」

ユジンの番になった。
原稿を持つ手が小刻みに震えている。
サンヒョクが心配そうにユジンの肩の上に手を置くと、ユジンは振り返って「大丈夫」と言いたげに微笑んだ。

ユジンは思い切って原稿をたたんでしまうと、目を閉じて語り始めた。
「チョン・ユジンです。
ジュンサン、みんなの声が聞こえていますか。

あなたは一人で遠くへ行ってしまったけれど、みんなあなたのことを忘れません。あなたのことを覚えているから、あなたは一人だけれど一人じゃない。
だから、淋しくなんかないわよね。

短い間だったけれど…、もっともっとあなたと思い出を作りたかったのに…、でも今はあなたに出会えたことに後悔などしていません。

またいつか、少し先のことになると思うけれど、あなたのいるところへ私も行って会えることわかっているから、さよならは言いません。
少しだけ待っていてくださいね。
ありがとう、カン・ジュンサン。」

マイクの前を離れるユジンの後姿にジュンサンとの目に見えぬ深い絆が感じられて、サンヒョクは言葉を失った。
〈もう、僕の入り込むすきはないのか…。〉


暗澹たる心を振り切るように、サンヒョクはマイクの前に座った。
「僕達は毎日当たり前のように今日という日を迎え、明日という日が続くことを信じて疑いもしません。
しかし、今回の出来事は、そうではないことを僕達に改めて教えてくれました。

永遠に続くと思もっている今の平凡な日々がいかに尊いものか、永遠という時間も今の一瞬一瞬の積み重ねであることを彼、カン・ジュンサンの短い生涯が教えてくれました。

ありがとう、カン・ジュンサン。
最後に、彼が愛したピアノ曲『初めて』をお送りし、今日の放送を終わらせていただきます。

明日からは通常の校内放送をお送りいたします。」



「お疲れ様。今日はみんなありがとう。
これで何かが変わったわけではないけれど、少し気持ちの整理がついたような気がするよ。
これからもよろしく。」
サンヒョクが手を差し出すと、一人一人と握手を交わした。

「ユジン、大丈夫?」
「うん、ありがとう。大丈夫よ。
ジュンサンもきっと喜んでくれているわ…。
ね、そうでしょ、みんな。」

「そうだな、まだジュンサンがここにいるようだよ。そんな気がしないか?」
皆が放送室のいつもジュンサンが黙って座り込んでいたソファの方を向いた。

「冬のソナタ」と「パリの恋人」

2006-09-20 21:00:30 | おもいつくまま
もうこんなことは韓国ドラマ通の方の間では常識なのかもしれません。
まさに、いまさらながらに気づいたのです。
主要な登場人物ーチョン・ユジン、カン・ジュンサン、キム・サンヒョク  
        カン・テヨン、ハン・キジュ、ユン・スヒョク

この三人の関係に共通することが色々あることに…。

・片親の違う兄弟(異母兄弟、異父兄弟)が同じ女性を愛する。
・弟の方が先に女性に出会う。(友人としてとても親しくなる。)
・女性は後から出会った兄と愛し合うようになる。
・障害がなくなっても、結局愛し合う二人は一度別れる。
・数年後に再会する。


韓国では家族の絆がとても強いためか、友人としてとても親しくなった弟の男性(サンヒョク、スヒョク)に対し、ヒロイン(ユジン、テヨン)がとても「すまない、申し訳ない」という気持ちを抱くところも共通しています。
なのに二つのドラマはまったく違う面白さです。

あぁ、また見たくなってきた。爆


追記 子狸さんにGyaOで「パリの恋人」をやっていることを教えていただき、ついまた3、4話を見てしまいました。
DVDを持っていて、この間見たばっかりだというのに…。
これだから恐ろしくて「冬のソナタ」は封印しているのです。
もう、見始めたらエンドレスになりそうで…

連作「お昼の校内放送」第32回

2006-09-18 20:07:40 | 冬のソナタ
5時半
「タラララン、ラララン・・・」
目覚まし時計が朝を告げる。
私はまぶたを閉じたまま布団から手だけを伸ばし、スイッチを押して音楽を止める。

冬の朝。
部屋はファンヒーターですでに暖まってはいるものの、太陽がまだ顔を出していない外は夜が開けきっておらず、空の色は薄ぼんやりとしている。

こんな朝はいつまでも布団にうずもれていたく、ついつい「あと5分」と目覚まし時計のスヌーズ機能を当てにしてまた寝入ってしまう。
けれども今朝は、思い切って眠い目をこすり布団を跳ね上げた。
今日はキム先輩との放送当番の日だ。

着替えをして窓を開ける。
深呼吸をすると、朝のひんやりとした空気が体をきりりとさせてくれる。
ハアーっと吐く息が白い。

「さぁ、勉強しよう。
今度のテストは、物理頑張らないと…。」

私は夜深しが苦手なので、勉強はいつも朝することにしている。
数学や社会、国語はまあまあなのだけれど、どうも理科が苦手。
特に物理。
でも赤点を取るわけにはいかないから、なんとかしなければいけない。

〈キム先輩に教えてもらえればいいんだけど、そんなことお願いする勇気はないし…。
そういえば、最近入部したカン・ジュンサン先輩は科学高校から来たって話だったわ。
数学がすごくできる人だって誰かが言ってたけど、科学高校なんだから、もちろん物理もできるわよね。
カン先輩…、素敵だけど、ちょっと近寄りがたい感じ…〉
「そんなこと考えてたってしょうがないわ。早く始めよう…」


一時間ほど勉強した後、私はいつもより少し早めに切り上げると食卓へ下りていった。
「おはようシニョン。
今日は早いのね。」
「お父さん、お母さん、おはようございます。
今日は放送当番だから、早めにいって準備しないといけないの。」

「あら、そう。
もうお弁当はできているからいつでもでかけられるわよ。」
「ありがとう。」

朝食を食べながらお母さんが私の顔をじっと見る。
「それにしても、今日はずいぶん機嫌がいいわね。
何か他にいいことがあるんじゃない?」

「そう?そんなふうに見える?
でも…それはお母さんにも、ひ・み・つ
私ももう高校生だもの、秘密の一つくらいはあってもいいでしょ。
別に悪いことをしているわけじゃないから心配しないで。
ごちそうさまでした。
行ってきます。」


家を出ると、バス停まで走った。
走らなくても間に合う時間だったけれど、なんだか体が勝手に動いてしまう。
〈早くバスが来ないかな。…〉


学校へ着くとカバンを持ったまま職員室へ行き鍵を借りた。
放送室のドアを開ける。
まだ暖房のついていない部屋は寒い。
はーっと息で手を温めながらカーテンを開け、暖房のスイッチを付ける。

機材を点検し、今日使うレコードを出すと準備OK。
〈よし、と。これでいいわよね。〉

鍵を取りドアの方へ振り向いたその時、キム・サンヒョク先輩がクォン・ヨングク先輩といっしょに放送室へ入ってきた。

「お…おはようございます。」
「あ、おはよう。早いね。
もう鍵を借りに来たというから誰かと思ったら、シニョンだったのか。
もう準備は終わったの?」

「はい、機材も一応チェックしました。大丈夫だと思います。」

「そう、ありがとう。
後は僕達がもう一度確認しておくよ。
来週の準備もあるし、鍵は僕が返しておくから。」

「はい。では、今日よろしくお願いします。失礼します。」
私はキム先輩に鍵を渡し一礼すると放送室を後にした。

〈あーびっくりした。
でも、ああやって、キム先輩は毎朝鍵を開けているんだものね。
来たって不思議はないんだわ。
ドアが開いてキム先輩の顔が見えたときは手が震えて鍵、落としそうだった。〉


シニョンが行ってしまうと、ヨングクは作業を始めたサンヒョクに近づき耳元でささやいた。
「おい、サンヒョク。あの子お前に惚れてるなぁ。
あの尊敬の眼差し…、ただ事じゃないぞ。気をつけろ。」

するとサンヒョクはヨングクのほうに向き直って
「はぁ?シニョンが?あの子はまじめでそんな浮ついた子じゃないよ。」

「まじめな人間は恋をしないのか?そんなことないだろ。
それに、人を好きになるという気持ちは純粋で神聖なものだ。
そうだろ?」

「それは、まあそうだが、僕とあの子は単なる先輩後輩だよ。
シニョンは先輩としての僕を立ててくれているだけさ。」
そう言うとサンヒョクは休めていた手をまた動かし始めた。

「いや、お前と俺を見る目は全然違う。
乙女にとって『尊敬』と『愛情』は同義語だからな。
むやみに親切にして勘違いさせたら罪だぞ。
だから気をつけろといったのさ。」

「僕は部長として後輩に指導しているだけさ。
それ以上でもそれ以下でもないよ。
それもだめだとなると…、どうすればいいの?
おまえ、しゃべってばかりいないでやれよ。」
サンヒョクは手を休ませずに言った。

「まーね、それがお前の部長としてのお役目だもんなぁ。仕方ないか。
気をつけたところで好きになるものはなるんだしね。
さ、さっさとやっちまおうぜ。授業が始まっちまう。」

慌てて作業を始めたヨングクをサンヒョクはチラッと見て、ふと苦笑いをした。
〈あのシニョンが?まさか。それより…〉
サンヒョクはユジンとジュンサンが気になっていた。

二人で自習をサボって以来、毎日罰として放課後の焼却場掃除をしている。
ユジンがサンヒョクによそよそしくなったというわけではないが、ユジンと自分との距離が少しづつ離れていっているような、ユジンと自分との間に目に見えない壁ができつつあるようなそんな気がしていた。



チャイムがなり午前の授業が終わった。
お弁当と放送原稿を持つと、私は急ぎ足で放送室へと向かった。

「失礼します。」
ドアを開けると思ったとおりすでにキム先輩が来ていて、一曲目のレコードをプレーヤーにセットしていた。

「やあ、こんにちは。気分はどう?
緊張しないで、リラックスしてやろうね。
じゃあ、最終確認するよ。
初めシニョンがここまで話して、曲紹介をして音楽が2曲入る。
その後僕に交代して、終わりまで。これでいいよね。」

「はい、よろしくお願いします。」
「そろそろ時間だね、始めようか。」


「皆さんこんにちは。
お昼の校内放送の時間です。
今日は、私、ウ・シニョンとキム・サンヒョクでお送りいたします。

日に日に寒さが増してきています。
風邪などひいていませんか?

もしかして風邪を引いてしまっていたとしても、あなたの心まで寒くはありませんよね。
あなたの胸には、あなたの心を暖かくしてくれる誰かがいてくれる、そうだと思うからです。

その人はあなたのご両親でしょうか。
それとも友人、あるいは想いを寄せる人でしょうか。

もしあなたが誰かに恋をしているとしたら、その想いはその人に届いているでしょうか。
その人もあなたのことを想っていてくれるのであれば、たとえ外は凍てつくような寒さであってもあなたの心はまるで春の野にいるように暖かなことでしょう。

でも、もしあなたの想いがあなただけのものだとしたら、それは悲しい片思いでしょうか。
私はそうは思いません。
確かに、その人と誰かが微笑みあっているのを見れば切ない思いに駆られるかもしれません。
「私に向かって微笑んでくれればいいのに。」と羨む気持ちにもなるでしょう。

それなら、その人を好きになる前の、その人に出会う前の自分に戻りたいですか?
そんなことはありませんよね。

その人を想うだけで胸が高鳴り、その人の笑顔を見ただけで心が温まる。
その人の姿をちらりと見ただけで一日中元気になってしまう。
そんなあなたは、その人を好きになる前よりずっときっと輝いて素敵な人になっているはずだからです。

たとえその思いが叶わなかったとしても、決して自分を貶(おとし)めないでください。
結果が出なかったとしてもそれまでの努力が無駄ではないように、あなたの恋はあなたの心を高め磨いてくれているはずだからです。

私も今恋をしています。
この想いを大切にしていきたいと思っています。
あなたも今の気持ちをどうぞ大切にしていってください。


では、ここで音楽をお届けいたします。
今日は合唱曲を2曲。
『グリーンスリーブス』『春に』です。





音楽をお送りしました。
ここからはキム・サンヒョクがお送りいたします。

これから冬という季節に春にまつわる曲をお届けするのはちょっと変だとお思いですか?

冬は雪が全てを白く覆ってとても美しい季節です。
しかし、同時に辛く厳しい季節でもあります。
木々もまるで死んだように葉を落とし、しんと静まり返っています。

一方春は、花々が咲き乱れ、暖かさが心まで華やいだ気分にさせてくれます。
希望溢れる季節です。
でも、そう感じることができるのも、厳しい寒さを乗り越えてきたからこそではないでしょうか。
今何かで苦労しているあなた。
辛い恋をしている君。
でも、その苦労はいつか必ず報われる時がくるのです。
冬は必ず春となるからです。

希望と命の息吹の溢れる春を思いながら、この冬も楽しく乗り切っていきましょう。


今日の担当は、私キム・サンヒョクとウ・シニョンでした。
それではまた来週。」


「お疲れ様!」
「お疲れ様でした。」
「さ、お昼ごはん食べよう。お腹すいただろう。
シニョンはいつも当番の時食べないでやってたの?」
「はい。緊張してしまってだめなんです。話すの苦手だから。…」

「そうなんだ。それなのになんで放送部に入ったの?」
「え、それは・・・」
まさかキム先輩がいるからとはいえないし、私は困って口ごもった。

「別に詮索しているわけじゃないから、無理に言わなくてもいいよ。
ただ、他にもしゃべるのが嫌いなくせに部にいる人間がいたからさ、どうしてなのかなと思って。
中学のときは、何の部活をしていたの?」

まさか、理由が違うにせよ、私と同じ様にカン・ジュンサン先輩が入部したのもキム先輩がいるからとは私は知る由もなかった。

「合唱部です。」
「あぁ、だから今日の曲、合唱曲なんだ。」
「はい、2曲とも私の大好きな曲です。」

「僕も別に話すのが好きでやってるわけではないからね。
どちらかというと作るのが好きかな。
自分のお気に入りの曲を皆に聴いてもらったりとかね。
今日のシニョンのように。

今日の放送も、聴いてくれた人の中でひとりでも元気になってくれたらいいよね。そういうのが僕のやりがいかな。

今日の内容は良かったと思うよ。
そろそろ年明けくらいから、一年生を中心にしたローテーションにしようか。
来年度は君達が部を引っ張ってゆくんだからね。
シニョン、部長になったらどう?」

「とんでもない!
私は自分のことで手一杯で、とても皆を引っ張ってゆくことなんてできません。
部長にはテソク君がいいと思います。
彼なら元気がいいし、皆がまとまると思います。」

「そうか、テソクね。
ちょっとおちゃらけたところがあって心配だけど、シニョンがそばでサポートしてくれればちょうどいいかな。

ところで、ちょっと立ち入ったことを聞くけど、シニョンはどうして自分の気持ちを相手の人に伝えないの?
シニョンのような子に想われていることを知れば相手も心が動くと思うんだけどな。」

「それは…、私、知っているんです。
“彼”には好きな人がいることを。
“彼”がその人を見つめる眼差しはとても優しいんです。
その人のすべてを包み込むようで、きっとその人がなにをしても許してしまうんじゃないかと思うような…。
それに、その人といるときはとても温かい笑顔をするんです。
そんな優しい眼差しや笑顔を壊してまで、自分のほうに彼の想いを向けたいとは思いません。」

「そう、シニョンは心が広いんだね。強いのかな。
僕だったら、自分の好きな人が他の人を見ているなんて耐えれないけどな。
自分のことを知らないのならともかく、知っているのに…。」

「そんなことありません。
私は臆病なだけなんです。勇気がないんです。
傷つくのが怖いから、見ているだけで精一杯なんです。」

「…なんか僕のほうが励まされちゃったみたいだね。
さ、五分前だ。
もう行かないと。
僕が鍵を閉めていくから、先に行っていいよ。
今日はありがとう。これからもよろしくね。」
そういうと、キム先輩は私に向かって右手を差し出した。
私は一瞬躊躇したが、左手を右手に添えて尊敬の意を表しながら、そっと先輩の手を握らせていただいた。

暖かくて、大きくて、優しい手だった。
いつまでも握っていたかった。
私はそっと手をはずすと一礼して放送室を出た。

私の胸には一足早く春が来た。


結婚記念日

2006-09-17 23:03:26 | 日々の歌
特段の 理由もなくて 髪を切り
       暦を見れば 結婚記念日

乾杯の 意味を知ってか 特別に
       祝うでもなく 通り過ぎる日

気がつけば 共に過ごし日 人生の
        半分になる ふと立ち止まる  

「パリの恋人」

2006-09-15 20:23:03 | おもいつくまま
いつも思うことですが、本当にうまいつくりで、ついつい次が見たくなり途中で止めるのが大変です。

今回も結局20話を4日で見てしまいました。
一日平均6時間。目を酷使しすぎですね。反省。
家事も怠っていますし…。またまた反省。


ところで、このドラマの魅力はなんなのでしょう。
ある知人は「冬ソナを越えた!!」とまで言いました。
私の中では、サイドストーリーを書きたいという欲望が起こらないという点を考えても「冬ソナ」に勝るドラマはないのですが、それを除けば確かにとても魅力的なお話です。

『シンデレラストーリー』とよく言われますが、単なるそれではありません。

主人公のカン・テヨンは大財閥のハン・キジュと出会い、経済的には彼の援助を受けて何とか苦境を脱しますが、様々な困難、問題が降りかかり、決して安穏な生活を送ってはいません。

いくら経済的に苦しくとも、映画監督であった父を誇りとし、プライドを捨てません。
ですから、キジュが「お金で解決することが一番簡単だ。」と言ってもなかなかそれを受け入れようとしません。

そうして触れ合ううち、「人を好きになることが苦手」なキジュはテヨンに恋をしている自分に気付きます。
テヨンも「何でも金で解決しようとする頑固で嫌なやつ」と思いながらもいつの間にかキジュに惹かれていきます。

一方、キジュには家庭の事情で親の決めた婚約者(ムン・ユナ)がおり、またテヨンにはパリで出合ったユン・スヒョクがいます。
スヒョクはキジュの甥(実は異父兄弟)で、テヨンに熱烈な恋心を抱いていますが、テヨンはスヒョクのことを良い友人としか見ることができません。

この奇妙な四画関係に、さらにキジュの元妻も絡まって、物語をより複雑にしていきます。


出生の秘密、四画関係、身分違いの恋と、韓国ドラマの定番が詰まったドラマですが、何でこんなにおもしろく心に残るのでしょう。

物語を反芻しながら思うことは、「人は愛する人がいれば苦悩が深まる。真剣に人を愛すれば愛するほどその苦悩は深いものとなり、逃れることはできない。しかし、その逆境を乗り越える中にこそ本当の幸福があるのだ。誰かを愛することで、それを乗り越えようとする力が生まれるのだ。」ということです。

悩みがないということは、逆に言えば真剣に生きていないということなのかもしれません。


真っ直ぐな 彼女の瞳 焼きついて
        振り払えども 脳裏から消えぬ

深き傷 負わせぬ為に 嘘つきて
      自ら切るは 恋という事か

あの人も 彼の人もまた 傷つけて
       吾一人幸(さち) 訪れるはずなし

君の事 愛すればこそ 吾行かん
       いつの日かまた 出会うと信じ