優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

別れの後 番外編 「サンヒョクの後悔」

2006-11-23 12:33:49 | 別れの後
第1話 「ユジンのつぶやき」 から続く


ユジン…、君はフランスへと旅立ってしまった。
僕にも仲間にも何も告げずに…。

ニューヨーク行きへのチケットを、何も言わずに受け取ってくれたのは、僕への思いやりだったんだね。
君はいつもそうして、周りの人間へ気を使ってばかりで、ばかだよ。
ジュンサンを追いかけて、彼の胸に飛び込んでしまえばいいものを。

もう、誰も君達を責めやしない。僕だって…。
いや、責めるどころか謝らなければいけないくらいなんだ。
だからこそ、チケットを渡したのに。

ユジン、僕は誰よりも君を愛していた。
愛していると思っていた。
君を守りたかった。

君と僕は、生まれた時からいつも一緒だったから、誰よりも君の事を理解しているし、君のことを分かっていると思っていた。
でも、それは思い込みだったんだ。

守りたいと思っていた君を、僕は結局苦しめるばかりだった。
君の心に僕がいないのを分かっていながら、君を縛りつけようとしてしまった。
本当に愛しているのなら、君の幸せをこそ願うべきなのに…。
ほんとうに、ごめん。

ジンスクから聞いたよ。
僕に申し訳なくて、ユジンはジュンサンのことを忘れようとばかりしていたこと。
ユジンを苦しめていたのは、死んだジュンサンではなくて僕だったんだね。
あの10年間も。

もしも…
高校2年生の冬、山荘でのキャンプの帰り道、君が僕にはっきりと「私がジュンサンのことを好きなの…」と僕に告げたとき、君の心を信じてジュンサンへの誤解をといていたら、その後の僕たちは変わったろうか…。

確かに、あの時はまだ僕達も若くてそこまで理解しあうのは無理だったかもしれない。
でも、その後、もう少し大人になったときに、君のほんとうの気持ちを分かってあげて、ジュンサンとの思い出を語り合うことができていたら、僕たちはほんとうの恋人同士になれた、と思うのは僕の思い過ごしだろうか…。


僕は結局、ユジンのほんとうの淋しさ、辛さ、父親がいないということ、家族を守っていかなければいけないということ、そのことを心からわかってはいなかった。
分かっているつもりで、だからユジンを守りたかったし僕にできるだけのことはしているつもりだったけれど、それはやはり同情でしかなく同苦ではなかった。

ユジン、君とジュンサンは、あの日、二人で自習をサボって罰掃除をするようになって以来親しくなっていったよね。
あの時、君はジュンサンが私生児で父親を探していることを知ったのかい?
きっとそうだよね。
それで、お互いが同じ苦しみを持つもの同士心を開きあったんだね。

それなに僕は君の心を分かろうとしなかった。
ジュンサンが僕への嫌がらせで君を騙していると思い込んでいた。
いや、そう思い込みたかったんだ。
二人が本気で好き合っているなんて、認めたくなかった。


もしも…
僕がもっと大きな愛情で君を包み込んで、ジュンサンがなぜ僕に嫌がらせをしたか…「ジュンサンはお父さんを知らなかったのよ。だから優しいお父さんと温かい家庭で育ったあなたが羨ましかっただけなの。私を騙したわけじゃないの。だから許してあげて。」…そう言えるようにしてあげていたら…。


もしも…
僕がジュンサンの話題を避けずに「サンヒョク、ごめん。私まだジュンサンのことを忘れられないの。ううん、忘れたくないの。私が忘れてしまったら、ジュンサンは一人で淋しい思いをしなくちゃならないわ。だから、もう少し待って、ジュンサンのことが思い出になるまで。」そう二人で笑って語り合えるようにしていたら…。

たとえ、イ・ミニョンとしてジュンサンが僕達の前に現れようとも僕たちは変わらずに婚約者でいられたかもしれない…。


…いや、もう止めよう。
いまさらそんなことを考えたところでどうしようもない…。
ユジンはフランスへ、ジュンサンはアメリカへ、二人は自分の意思で旅立ってしまったんだ。
僕にはもうどうすることもできやしない。
僕にできることは祈ることだけ…。


ジュンサン、死ぬな。僕のたった一人の兄さん…。
ユジンにはジュンサンが必要なんだ。
手術の成功を祈っているよ…。
そして、また会おう、必ず…。


ユジン、今でも愛しているよ。
でも、もう君を苦しめはしない。
君は自分の道を自分で選んで歩みだした。
僕も僕の道を歩いていくよ。

まだ、君無しでやっていく自信も、君より愛することが出来る人を見つけられるかどうかも分からないけれど、頑張ってみる。

ユジン…
元気でいて、早く幸せになってほしい、ジュンサンと…。


もしも、もしも あの日に戻れる ものならば
           君苦しめず 愛せるだろうか

今はもう 振り返らずに 前を向き
       歩き始める 君に負けずに

友として 異母兄弟(おとうと)として ただ祈る
          どうか生きて 行きぬいてくれ

苦しめた 長い月日を 許してと
       幸せ祈る 愛するがゆえ

「別れの後」 あとがき

2005-09-14 19:24:35 | 別れの後
貴方はきっと「冬のソナタ」が大好きで、録画したビデオテープを擦り切れるほど何回も見てしまった方でしょう。

貴方はラストに満足されましたか?
“夕闇の迫るテラスに映し出されるよりそう二人の姿”に涙し、“ハッピーエンド”に満足された方もいるでしょう。
「あの余韻のある終わり方がいい」
「なんか物足りない」
色々な意見があるようです。

私は…といえば、ラストもさることながら、なぜユジンがジュンサンを追いかけてアメリカへ行かなかったのか、それがどうしても納得いかなかった。
ユジンは空港のベンチにニューヨーク行きのチケットを置いていくとき何も語りません。
「小説本」も読みましたがどうしてもすっきりしません。
結局私なりの解釈を考え、それが『別れの後』の出発となりました。


ところで、「冬のソナタ」のサイドストーリーは数々あれど、ジュンサンの『死』で終わるのは『別れの後』だけだと言われたことがあります。
確かにそうかもしれません。
どうしてなのでしょう。
それは『死』=『悲劇』というイメージがあるからでしょうか。

まえがきにも書きましたが、二人の絆はどちらかの死をもってしても断ち切られるものではないと私は思いたい。

ですから、私としては『別れの後』はハッピーエンドだと思っています。

別れの後 二十二 「永遠」

2005-09-06 10:13:40 | 別れの後
数日後

ジュンサンは穏やかな表情で眠っていた。
ユジンはもうすでに、ジュンサンとの時間が余りないことを感じ取っていた。
ジュンサンの手をそっと握る。
暖かい命の温もりが伝わってくる。
「もう逝ってしまうのね。」
ユジンの頬に一筋の涙が伝った。

「ユジン、泣いているのかい?」
「ううん、違うわ。
…だめね、嘘を言っても。ジュンサンには何でも分かってしまうんだから。」

「ユジン、僕は今とっても安らかな気持ちだよ。」
ジュンサンの瞳の色はとても穏やかだった。
「ユジン、もうすぐお別れだね。ユソンを生んでくれてありがとう。
ユジン、僕は君のことを幸せにしたいとずっと思ってきた。
僕では幸せにできないと君から離れたこともあった。
でもそれは間違いだったね。
幸せは明日の彼方にあるわけじゃない。
未来にあるわけでもない。今“このとき”にあるんだ。
今、こうして君と一緒に病気と闘って、ユソンに会うことができた。
僕は幸せだ。ユジン。

僕の人生を人は不幸だというかもしれない。
私生児として生まれ、二度の交通事故にあい、二度も記憶を失った。
建築家として視力を失うことは重大なことだ。
君と愛し合いながらも別れなければならないことも何度もあった。
でもね、ユジン、僕は今全てのことに感謝している。
こんな気持ちになるとは思わなかったよ。

辛かったことも、苦しかったことも全てのことが僕には必要なことだったんだと思えるんだ。

僕の四十年に満たない人生が、人の八十年に劣るとは思えない。
生まれて来て良かった。

ユジン、僕と一緒に生きてくれてありがとう。
離れている間も忘れないでいてくれてありがとう。
また生まれてくるときも僕といてくれる?」
「ええ、もちろんよ。」
「僕はもう君のこと何も心配していないよ。
ユソンを立派に育ててくれると信じている。
ユソンと二人でちゃんと生きていけると信じている。

ユジン、人間は苦難を乗り越えたときに強くなるんだね。
僕たちは二人で全て乗り越えてきた。
もう一人でも大丈夫だね。」

「ええ、そうね。
ビョルがお腹の中で死んでしまった時ジュンサンは言ったわ。
ビョルは私たちのために、私たちがどんなことでも乗り越えて進むことを教えてくれているんだよって。
…この後私たちのどちらかが死んでしまっても、もう一人がそれに負けずに人生を生き続けることができるようにって。」
「ああ、そうだったね。」
「私、ビョルの心臓がもう動いていないって見せられたとき、…」
ユジンは目に涙を湛えながら
「ジュンサンと二人で待ち望んでいた赤ちゃんが、ビョルが顔を見ることもできないままいなくなってしまうなんて、悲しくて、辛くて…」
ジュンサンはそっとユジンを抱き寄せた。
「ビョルはユソンだったのかもしれないわ。
まだ生まれてくる時じゃなかったのに、私たちのために来てくれたのね。」

「ユジン、ユソンを連れてきてくれる?顔が見たいんだ。」

顔が見たい。
ユソンとユジンの顔を一目だけでもいい、ジュンサンは強く願った。

視力のことは当の昔に諦めていた。
すでに生活には何の不自由もなくなっていた。

それでも別れの前に今一度ユジンの姿を命に刻み付けておきたかった。

ユジンが部屋を出るとミヒが廊下で待っていた。
「お母様…。
お父様をお呼びしていただけますか。
私も母に連絡してきます。」
「……ええ。」

部屋に戻るとジュンサンは目を閉じてベッドに座っていた。
「ジュンサン、ユソンを連れてきたわ。抱いてみる?」

ジュンサンはユジンのほうを向きながらゆっくりと目を開いた。
すると、ジュンサンは驚いたように目を見開いてユジンを見つめた。

「どうしたの?ジュンサン。」
「ユジン…、君の顔が見える…。どうして…?」

本当に見たいと強く願ったとき、不思議にも視力が回復していた。
あるいは…消える前の炎の揺らめきだったのだろうか。

翌日 朝
窓の外には雪が舞い降りてきていた。
「母さん、少し起こしてくれますか。雪が見たいんです。」
ミヒはベットを上げてジュンサンを起こしてやった。
「初雪ですね。
ユジン、ユソンを抱かせてくれる?

ユソン、雪は美しいね。
その中に冷たい厳しさを秘めているから美しいんだ。
全てのものを純白に染めてくれる。
ユソンも美しい人生を生きるんだよ。」

ジュンサンはユソンを愛(いとお)しそうに見つめていた。

ユソンをユジンに返すとジュンサンは横になった。
「ユジン、雪がきれいだね。
今日は初雪だけど積もりそうだね。
また一緒に雪遊びをしようね。」
ユジンは静かにうなずいた。

ジュンサンはユジンをじっと見つめた。
その姿を命に刻み付けるように。

そしてゆっくりと目を閉じた。

柔らかな冬の光を浴びて雪がきらきらと舞い降りていた。
その光がジュンサンの顔をやさしく包む。
まるで微笑んでいるような穏やかな…。



一度死んだ人間に再び会えるなどと、
誰が証明できるだろうか、と人は言うだろう。
もちろん物理的な証明は不可能かもしれない。……

生死を繰り返す生命の永続性―(中略)
それを否定してしまったら、
人生は一回きりのはかないものという
貧しく皮相的な人生観から
私達は永遠に逃れることができないのだ。

〔ジャズサックス奏者 ウェイン・ショーター〕


別れの後   終わり

別れの後 二十一 「新しい命」

2005-09-05 15:00:39 | 別れの後
数ヵ月後 『島の家』

島の家に移り住んだジュンサンとユジンは一時も離れず寄り添うように暮らしていた。

悪阻(つわり)も治まり安定期に入ると、『どうしてもユジンでなければ』という顧客の仕事だけを引き受け、メールやFAXを使ってしていた。
気分の良いときはジュンサンもそれにアイデアを出したり、アドバイスをすることもあった。

ある夕方、二人は手を繋いで庭を散歩していた。
「こうしていると、アメリカにいた時みたいね。」
「手術の後の頃?」
「ええ、あの時離れていた後だったから、一緒にいられてとても嬉しかった。
たとえあなたが私を覚えていなくてもね。」
「ユジンがフランスに帰る日が近づいて来ると、辛くてね。もうこれきりなのかなって、何とかして君を繋ぎとめておきたくて、苦肉の策だったのさ。あの『宿題』。
何て言って切り出そうか、すごくどきどきしていた、あの時…。
断られたら終わりだからね。」
くすっとジュンサンが笑った。

「そうだったの?全然そんなふうには見えなかったけれど。
だって、イ・ミニョンは女性にモテモテで扱いには慣れていたんじゃないの?」

二人は海の見えるベンチに座った。
ジュンサンは目を閉じて耳を澄ませている。
周りの全てのものを感じ取ろうとしているかのように。
「風が心地いいね。
ユジン、夕日が見える?
今日の夕日は綺麗だろう?僕にも見えるようだよ。」

「あ、今動いたわ。この子きっと男の子よ。
ものすごくお腹をけるんだもの。ほら、触ってみて。」
ジュンサンがそっとユジンのお腹に手をやると、ちょうどその場所を蹴ってきた。

「ほんとだ。コラ、そんなに蹴ったらママが痛がってるぞ。
元気がいいなぁ。」
二人は顔を見合わせて笑った。

やがて秋。 『島の家』にユジンの母が来ている。
ジュンサンの体力は徐々に落ちてきて、ベットで過ごすことが多くなっていた。

「あ、お母さんいらっしゃっていたんですか。」
「ごめんなさい、起こしてしまったようね。起き上がらないで、そのままでいいわ。
具合はどお?ユジンに遠慮して我慢していたらだめよ。」
「はい、薬が良く効いているので辛くはないのです。ただ、ずっと起きているのは辛いので…。
お母さん、御心配には及びません。大丈夫です。子供の顔を見るまでは逝きはしませんから…。」

十一月の初旬 『島の家』
予定日より少し送れて陣痛が始まっている。
ユジンの母は臨月に入るとすぐに手伝いに来ており、予定日にあわせてジュンサンの両親もアメリカから来ていた。

ジュンサンの部屋にユジンの母が様子を見に来た。
「お母さん、ユジンは大丈夫ですか?」
ジュンサンは落ち着かなかった。
「大丈夫よ。いま先生に診察していただいているところよ。
終わったらきっと顔を見に来ると思うから。
…初めてだから時間がかかるのよ。
生まれるのはきっと夜か明け方だわ。今からそんなに緊張していたら、疲れてしまうわよ、ジュンサン。」

ジュンサンの部屋にユジンがやってきた。
「ジュンサン、起きてる?」
「ユジン、大丈夫?君も起きてていいの?」
ユジンはジュンサンの手を握って
「ええ、まだ陣痛の間隔もそんなに短くないから、普通にしていて大丈夫。
しばらくここにいるわ。私よりジュンサンのほうが青い顔をしているわよ。」
「そうかい?男はこんなときに何の役にも立たないわけだ。」
とジュンサンは苦笑した。

「あ、い、痛…。」
「ユジン?」
「大丈夫よ、ジュンサン。すぐ治まるから。
ユジン、やっぱりあなた向こうに行っていた方がいいみたい。あなたが痛がるたびにジュンサンがハラハラしてしまうわ。ね、ここはご両親にお任せして。」
ユジンの母がユジンの腰をさすりながら言った。

「ごめんなさい、ジュンサン。びっくりさせてしまったみたいね。
私、向こうの部屋で休んでいるわ。」

「母さん、女の人って大変な思いをして子供を生むんだね。」
「そうね。」
「僕もこうして生まれてきたんだね。母さんに感謝しなくちゃいけない。
僕を生んでくれてありがとう。」

夜、ユジンは無事出産を終えた。
元気な男の子だった。
ヒジンがジュンサンの部屋へ駆け込んできた。

「お兄さん、生まれたわよ、男の子。赤ちゃんもお姉さんも元気よ。
今看護師さんが産湯を使わせているわ。もう少ししたら連れて来るって。」
「もうユジンは子供に会ったの?」
「ええ、生まれてすぐへその緒を切ったら抱かせてくれたみたい。お兄さんに似てハンサムだって。」

「ジュンサン、おめでとう。」
「ありがとう。母さん、ベットを起こしてくれますか?」

看護師が産湯を浸かったばかりの赤ちゃんを抱いて訪れた。
「お父さん、赤ちゃんですよ。」
と言ってジュンサンの左腕にそっと頭を乗せるようにして抱かせてくれた。

子供はユソンと名付けられた。

別れの後 二十 「いつの日か」

2005-09-01 13:20:26 | 別れの後
マンションの仕事部屋。
いつものようにジュンサンはパソコンに向かい、ユジンは作業台の上に図面を広げている。

ジュンサンはユジンの方を向きながら言った。
「ユジン。どうした?」

〈ユジン、ビョルのことを考えているんだね。〉

ジュンサンはそっとユジンの手を握った。
ユジンははっとして
「ごめんなさい、なんでもないの。大丈夫よジュンサン。」

ユジンはビョルを流産した後、ふと遠くを見るような目をすることがあった。

「ビョルのことを考えていたの?」
「ええ。ビョルは私たちに別れが来ることを教えに来たんだって言ったわよね。
…またあの子に会えるかしら?」
「…いつの日か、必ずまた僕たちの所へ帰って来るよ。
僕はそう思う。」
「そうよね。」
ジュンサンはユジンの頬に触れるとそっと涙をぬぐった。

「泣いたりして…ごめんなさい。ビョルに笑われちゃうわね。」
「そんなことないさ。
お医者様も言っていただろう。
今はホルモンの関係で気分が落ち込んだり不安定になることがあるのが普通だって。
我慢することはないんだよ。」
ジュンサンはそっとユジンを抱き寄せた。
ユジンはジュンサンの胸に顔をうずめると、しばらくの間静かに涙を流していた。

「ユジン、あったかいミルクティーでも入れようか。
暑いからって冷たいものばかり摂っていてもいけないから。」
「あ、私がするわ。」
「いいよ、ユジンは座っていて。大丈夫だから。」

ユジンがいないときでも不自由しないように、いつも使うものは同じ場所に置くなどいろいろな工夫がしてあった。
ジュンサンは手馴れた手つきでティーポットに茶葉と湯を入れ、ミルクを沸かして準備した。
「ユジン、運ぶのを手伝ってくれる?」

「少し落ち着いた?」
「うん、ありがとう。
前にもスキー場で、憂鬱なときは甘いものがいいんですよってココアを勧めてくれたことがあったわね。
私って、いつもジュンサンに慰められているみたい。」
ユジンは笑ってそういった。

「そうかな?それはきっと、ユジンは嘘が付けなくて、気持ちがすぐに表情に表れてしまうからさ。それが君の魅力だけどね。」
「それって褒めてるの?
ジュンサンはポーカーフェイスだものね。ふふ…。」

「ユジン、前から相談しようと思っていたんだけれど、家を建てないか?」
「私たちの住む家?ここじゃ狭い?」
「いや、二人ならこのままで充分だけど、春川のお母さんもいつまで一人にしておけないだろう?パクさんのこともあるし。」

ヒジンもすでに結婚してソウルに出てきており、ユジンの母は一人暮らしをしていた。

「パクさんは身寄りがないし、もうそろそろこっちへ帰りたいって言っているらしいんだ。
ビョルができてから考えていたんだけど、ヒジンさん達とお母さんも一緒に、それからパクさんも住み込んでもらえるように、どうかな?
家、建をたてよう?」

〈ジュンサン、私が一人になってしまわないように考えてくれているのね。〉
「ジュンサン…、ありがとう…。」
「体が落ち着くまで仕事を休んで、家の設計に専念するのもいいんじゃないかな。ユジンは頑張りすぎるから、倒れられたら困るよ。」

[二年後 結婚五年目の春]
ジュンサンはこのころから体調の不良を訴えるようになっっていた。
そのころユジンも自分の体の変化に気付いていた。
しかし、ジュンサンの体のことを考えると言い出せずにいた。

[自宅のベットに横たわるジュンサン 少しやつれ青い顔をしている。]
「ジュンサン、仕事はもう無理よ。
お医者様にも入院したほうがいいって言われたじゃない。」
「うん、そうだね。でも、もう入院したところで治療法はないんだよ。
幸いまだ痛みはないから、もう少し待って。
仕事を整理してしまうから。大丈夫だよ、無理なことはしないから心配しないで。」

[半月後 入院したジュンサンの病室 サンヒョクが見舞いに来ている]

「ジュンサン、入院したっていうからびっくりしたぞ。
具合悪かったのか?ユジンは仕事?」
「ああ、後三十分もすれば来るんじゃないかな。結構忙しいんだ。
パクさんが付いていてくれてるから、毎日来なくてもいいと言っているんだけど…。」
「ユジンに来るなというほうが無理さ。それより、体どうなんだ?」
「三年といわれていたのに良くここまで持ったよ。
もう治療法はないんだ。後は痛みを緩和するだけだ。
幸い今のところ無理をしなければ痛みはないから…、ただこうしてのんびり過ごしているだけさ。」
「ユジンは…その事知っているのか?」
「もちろん、わかっている。」
「そうか。あいつも強くなったな…。
昔のユジンなら泣いて、おろおろしてお前の側に付きっ切りになるところだろうに…。」
「そうかもな…。
サンヒョク、せっかく来てくれたんだ、時間があるならユジンにも会っていってくれよ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」

[数十分後 ユジンがやってくる]
「サンヒョク!来てくれてたの?久しぶりね。元気だった?」
「ああ、ユジンも忙しいらしいね。
 じゃあ、ジュンサン、ユジンの顔も見られたしこれで失礼するよ。」
「あら、もう帰っちゃうの?もう少しゆっくりしていけばいいのに。」
「ごめん、ユジン。仕事に戻らなきゃいけないし、ジュンサンとはもう話したから、また今度来るよ。」
「そお?じゃあ、ジュンサン、サンヒョクを送ってくるわ…。」

[病院の廊下]
「ユジン、痩せたんじゃないのか?
あまり無理するなよ。お前が倒れたら元も子もないんだから。」
「分かってる。
…実はね、子供ができたの。
まだジュンサンには言っていないんだけど…。」
「えっ!子供って…?何でジュンサンに言わないの?
ユジン、体は大丈夫なのか?
前の時だって…結構辛そうだったじゃないか。
あんまり食べられないんだろう?」
「大丈夫よ。ちゃんと病院にも行っているし。
ちょうどジュンサンの調子が悪くなったころだったから、なんか言い出しそびれちゃって。ジュンサン、すぐ心配するから…。」
「ばかだなぁ。ユジンの事心配するのは当たり前じゃないか。
お母さんは知っているんだろう。」
「ええ、母にはすぐ言ったんだけど。」
「そうか。お母さんが一緒だから心配はないと思うけど、ジュンサンにも早く話さないと。」
「うん、分かってる。
…良かったわ、サンヒョクに会えて。じゃあ気をつけて。」
「体、大事にするんだぞ。また来るから…。」

[ジュンサンの病室]
「遅くなってごめんなさい。結局少し立ち話しちゃって。」
「ジュンサン、あのね、私あなたに謝らなくちゃいけないの。
…あの…。」
「うん?どうした、ユジン。何か言いにくいこと?」
「あのね…、赤ちゃんができたの。
黙っててごめんなさい。もうすぐ四ヵ月になるわ。」
「えっ!ユジン、本当?ほんとに?
何で黙ってたの?いい知らせなのに。ばかだなぁ、何を心配してたの?」
そう言うとジュンサンはユジンを抱き寄せた。
「おめでとう、ユジン。
…ありがとう…。こんなに嬉しいことはないよ。
…仕事と看護で疲れているのかと心配していたけど
…すこし痩せた?
つわりで辛いんだろう?ごめん、気付いてやれなくて。
体を大事にしなきゃ。先生にはもう診ていただいたの?」
「ええ、ちゃんと診ていただいているから、大丈夫。」


ジュンサンはユジンの体のことも考え、退院し「島の家」に移り住むことにした。
 
「ユジン、『島の家』に行こう。僕が病院にいたのでは、仕事と看護で君が参ってしまう。パクさんにも一緒に来てもらおう。家の方はヒジンさんとお母さんに任せて。
それから看護師さんに一人住み込んでもらって、君ももう産休にしたらいい。体を大事にしないと。
ね、そうしよう、ユジン。」