「はぁ、はぁ…」
雪が舞う大晦日の雑踏を縫うように、ピンクのミトンを握り締め、白い息を吐きながらジュンサンはユジンの待つ約束の場所を目指して走っていた。
〈もう少しで着く、ユジンはまだ待っていてくれるだろうか〉
約束の時間はとうに過ぎていた。
でも諦め切れない。
ジュンサンは走り続けた。
〈いた…、待っていてくれた〉
ジュンサンの頬に笑みが浮かんだ。
しかし、その笑みは一瞬で消え、ジュンサンの足は止まった。
〈ユジンになんと言えばいいんだ…〉
ジュンサンは手の中にあるピンクのミトンを見つめたまま立ち尽くしてしまった。
しばらく遠くから隠れるようにユジンを見つめていたジュンサンは、ふと時計を見ると何かを思いついたようにまた走り出した。
「ユジーン!」
「ジュンサーン!」ユジンは笑顔で手を振った。
「もう!遅いっ!帰ろうかと思ったわ。」
「ごめん。急に用事で出かけなきゃならなくなって、でも、君の家は知ってるけれど電話番号はまだ聞いてなかっただろ。連絡できなくてさ。
寒かっただろ。ホントにごめん。」
「手袋もないし、凍え死ぬところだったわよ。」
ぷっと頬を膨らませてジュンサンを睨みつけながらもユジンは嬉しそうだった。
「そうなんだ。これを返さなくちゃと思ってさ。ありがとう。」
そう言いながらジュンサンが差し出すミトンをユジンは受け取らずに押し返した。
「今日はいいわ。その代わり罰として、明日もう一度ここで待ち合わせよ。その時返して。
今度はあなたが先に来て待っててよね。
わかった?絶対よ。
あ、もうこんな時間。大変!お母さんに怒られちゃう。
ほら、最終のバスが来たわ。行きましょ。」
慌ててバス停に向かって走り出したが、ジュンサンはついて来ない。
ユジンは気がついて立ち止まると振り返えって「乗らないの?」と不思議そうな顔をした。
「うん、僕は別のバスなんだ。」
「そうなんだ。じゃあ明日ね。
その時ジュンサンの住所と電話番号も教えてよね。
もう、待ちぼうけはごめんだから。
おやすみ!」
ユジンは笑顔で手を振りながらバスに乗り込んだ。
ジュンサンも手を振って見送った。
バスの姿が見えなくなってもジュンサンはその場から離れようとしなかった。
〈ユジンごめん。
僕は約束を破るよ。
明日は来ない。
いや、もうこの世からカン・ジュンサンはいなくなるんだ。
だからもう僕のことは忘れて。
…手袋、返したかったのに…
ありがとう、ユジン。なにもかも…
君に会えてよかった。
君がいたから、生まれて来て良かったと初めて思えた。
もう会うことはないけれど、どこにいても君と僕との絆は決して途切れることはない。僕と君の体には同じ血が流れているから。
そのことを、一度は恨みもしたけれど、今はかえって嬉しいくらいだ。
初めてバスの中で会ったときから、君のことが気になって仕方がなかったのは、僕の妹だったからなのかな。
ユジン…幸せになって。
君には何も知らないでいて欲しい。
あんなに大好きで大切に思っているなお父さんを恨むようなことになりませんように。
さよなら…ユジン…〉
ジュンサンは踵を返すと、電話ボックスに向かった。
「伯父さんですか、ジュンサンです。
遅い時間にすみません。
母は、そちらに行っていますか?
はい、わかりました。
それでは僕もこれからそちらに向かいます。
今、春川にいます。
申し訳ありませんが、ぼくがそちらに着くまで起きて待っていて下さいませんでしょうか。お願いしたいことがあるのです。
ええ、朝が来る前に。
母にもそう伝えていただけますか。
ご心配おかけして、申し訳ありません。」
年が明けても道路はまだ混んでいた。
どうやら事故でもあったらしく人が群れて騒がしかった。
ジュンサンはどうにかタクシーを拾うと運転手に告げた。
「ソウルまでお願いします。」
つづく
雪が舞う大晦日の雑踏を縫うように、ピンクのミトンを握り締め、白い息を吐きながらジュンサンはユジンの待つ約束の場所を目指して走っていた。
〈もう少しで着く、ユジンはまだ待っていてくれるだろうか〉
約束の時間はとうに過ぎていた。
でも諦め切れない。
ジュンサンは走り続けた。
〈いた…、待っていてくれた〉
ジュンサンの頬に笑みが浮かんだ。
しかし、その笑みは一瞬で消え、ジュンサンの足は止まった。
〈ユジンになんと言えばいいんだ…〉
ジュンサンは手の中にあるピンクのミトンを見つめたまま立ち尽くしてしまった。
しばらく遠くから隠れるようにユジンを見つめていたジュンサンは、ふと時計を見ると何かを思いついたようにまた走り出した。
「ユジーン!」
「ジュンサーン!」ユジンは笑顔で手を振った。
「もう!遅いっ!帰ろうかと思ったわ。」
「ごめん。急に用事で出かけなきゃならなくなって、でも、君の家は知ってるけれど電話番号はまだ聞いてなかっただろ。連絡できなくてさ。
寒かっただろ。ホントにごめん。」
「手袋もないし、凍え死ぬところだったわよ。」
ぷっと頬を膨らませてジュンサンを睨みつけながらもユジンは嬉しそうだった。
「そうなんだ。これを返さなくちゃと思ってさ。ありがとう。」
そう言いながらジュンサンが差し出すミトンをユジンは受け取らずに押し返した。
「今日はいいわ。その代わり罰として、明日もう一度ここで待ち合わせよ。その時返して。
今度はあなたが先に来て待っててよね。
わかった?絶対よ。
あ、もうこんな時間。大変!お母さんに怒られちゃう。
ほら、最終のバスが来たわ。行きましょ。」
慌ててバス停に向かって走り出したが、ジュンサンはついて来ない。
ユジンは気がついて立ち止まると振り返えって「乗らないの?」と不思議そうな顔をした。
「うん、僕は別のバスなんだ。」
「そうなんだ。じゃあ明日ね。
その時ジュンサンの住所と電話番号も教えてよね。
もう、待ちぼうけはごめんだから。
おやすみ!」
ユジンは笑顔で手を振りながらバスに乗り込んだ。
ジュンサンも手を振って見送った。
バスの姿が見えなくなってもジュンサンはその場から離れようとしなかった。
〈ユジンごめん。
僕は約束を破るよ。
明日は来ない。
いや、もうこの世からカン・ジュンサンはいなくなるんだ。
だからもう僕のことは忘れて。
…手袋、返したかったのに…
ありがとう、ユジン。なにもかも…
君に会えてよかった。
君がいたから、生まれて来て良かったと初めて思えた。
もう会うことはないけれど、どこにいても君と僕との絆は決して途切れることはない。僕と君の体には同じ血が流れているから。
そのことを、一度は恨みもしたけれど、今はかえって嬉しいくらいだ。
初めてバスの中で会ったときから、君のことが気になって仕方がなかったのは、僕の妹だったからなのかな。
ユジン…幸せになって。
君には何も知らないでいて欲しい。
あんなに大好きで大切に思っているなお父さんを恨むようなことになりませんように。
さよなら…ユジン…〉
ジュンサンは踵を返すと、電話ボックスに向かった。
「伯父さんですか、ジュンサンです。
遅い時間にすみません。
母は、そちらに行っていますか?
はい、わかりました。
それでは僕もこれからそちらに向かいます。
今、春川にいます。
申し訳ありませんが、ぼくがそちらに着くまで起きて待っていて下さいませんでしょうか。お願いしたいことがあるのです。
ええ、朝が来る前に。
母にもそう伝えていただけますか。
ご心配おかけして、申し訳ありません。」
年が明けても道路はまだ混んでいた。
どうやら事故でもあったらしく人が群れて騒がしかった。
ジュンサンはどうにかタクシーを拾うと運転手に告げた。
「ソウルまでお願いします。」
つづく