紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

★7 オペラのツルちゃん

2025-02-22 07:41:20 | ★★☆「と、ある日のこと」2025年度



 オペラ俳優のツルちゃんと久しぶりに踊ることが出来た。相変わらず身軽で力持ち。ルンバのリズムも小気味よく、拙い私の精一杯のダンスも、難なくリードして、終いには、軽くリフトして、52キロ越えの私を、ひよいと持ち上げている。舞台ではどんな役柄を演じているのだろう? 

地方公演が多いと言っていたが、数百人の観客から、二千人の観客の舞台もあると言う。      
痴呆症予防に役立てようと拙い文章や俳句モドキを書いている私は、まだオペラの舞台を見たことが無い。縁があれば一度観てみたいと思う。

「入場料っていくらぐらいなの?」と、聞いてみた。「う~ん、5,6千円位から、ホールによっては一万円くらいかなぁ」と言う。近場でチャンスがあったら観に行きたいと思う。
 それに、演じられている作品は、やはり、西洋モノが多いのだろうか? それも知りたい。以前、イベント会社の関係者から私のショートスト―リーにコメントを頂いたことがある。ちょっと心に残ることであった。

 ツルちゃんは、金髪になっている。舞台が終わって間もないこともあり、散髪に行く間がなかったとか。外見からすると作品は西洋の物語に違いない。などと、暫し物書き趣味人の私は、想像の中に居た。

 ダンサーの中には、舞台俳優や芸人などがたくさんいる。また、弁護士や会計士、歯科医師やカメラマン、国家公務員や企業戦士などなど。みな、将来に向けて稼いでいるようだ。これも想像の域ではあるが。

純粋にダンサーだけで頑張っている中には、競技選手や教室のダンス教師など。若者たちが汗を飛ばしながら、将来の夢に向かっている姿は、私たちお客様の老後の慰みと楽しみと生きがいをくれている。




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★6 たっつぁん

2025-02-16 07:41:30 | ★★☆「と、ある日のこと」2025年度



「あのう、僕の名前を知っているということは、一度は会ったことがあるということですよね? どなたさんでしたっけ? もしかして鈴木さんですか?」と言う。以前、「たっつぁん」と呼んでいた竜次郎さんの探るような眼は、過ぎた年月の長さを思わせた。傍にいたダン友のみっちゃんが、「ほら、喫茶店のママよ」と言ってから、マイマイ橋通りの我が喫茶店のことを話すと、「えっ?ああ、そうか」と、記憶を手繰るように私を見つめた。

 たっつぁんは、私が社交ダンスに関わるキッカケをくれた人物だ。商工会議所に勤務していて、私の喫茶店の経理を受け持った人だ。私が自分で税務署提出書類などが出来るようになってから、会わなくなっていた。

「では、一曲」と、たっつぁんが立ち上がった。ずいぶんと痩せたようだ。ホールドも優しく力ない。グンと力強い踊り方が、優しい遠慮がちなリードに変わっていた。

「ごめんね、一曲で」
 たっつぁんがホールドを解いた。ここでも、年月の経過を感じる。誰でもそうだろうけれど、年齢とともに体力が減退して、あんなに女性から追いかけられていた身でも、自分の体調の具合から、自分から退くことになったようだ。

 私は何となく納得がいかない気分だった。いつまでも同じではないという現実。私自身に置き換えても、それは言えることだ。息子に嫁が来て、次々と孫が出来、その孫たちがすくすくと育ち、私の背丈より高くなった。家庭の中の権力は、いつの間にか息子夫婦に代わっている。我ら夫婦は小さく、そう、背丈も縮んで、小さくなっている。

「またね、たっつぁん」と、手を振って挨拶すると、「うん、また」と、たっつぁんの優しい声が返ってきた。



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★5 暇で暇で

2025-02-07 17:17:35 | ★★☆「と、ある日のこと」2025年度


 
カラオケ店へ着いたところでスマホを確認すると、妹から電話が入っていた。何か緊急なことでもあるのだろうか? と、気になったが、歌友たちとの待ち合わせ時間でもあるので、後で電話することにした。

歌友が予約してあったそうで、座席の座面まで温めてあった。間もなく歌友二人が来て、それぞれが曲を入力した。三人とも、コロナ前に歌っていた古い曲ばかりだ。それに我が喉は張り付いたように開かず、音程もあやふやな歌い方だ。
この日は混んでいた。一時間に一曲が精いっぱい。ま、それでも、歌友たちとの情報交換が出来て、お互いの老け顔を見て、内心ウフフの状態の満足感である。

 さて、妹へ電話を入れた。緊急かもしれないと思いながら、ずいぶんと時間を空けてしまった。
「ああ、ねぇ、別に何てこと無いんだけど暇で」と言う。夫を亡くして間もない妹。自身も体力が無くなっているが暇を持て余していたそうだ。

「それがね、A市の従姉妹のせこちゃんが風呂場で転んで動けなくなったと電話が来てね、うちの嫁さんと行ってみたら、「昨夜は何とか風呂から上がって寝たが、どうにも痛くて電話した」と言うのよ。救急車呼んで病院へ運んだんだけど、肋骨と股関節が折れていて、即入院したのよ。そんなこんなでしたが、二週間したら転院したりして。その度、嫁さんと行って世話をしたのよ。嫁は私のことが心配だからと付いてきてくれたんだけどね。頼られればねぇ」と早口で言った。

それでも今日は暇だと言ったが、自身も体力が無いのに、他者の面倒など見ている場合ではないと姉の私は思うのだが、「よそ様のことは、ま、何なんだけど、まずは、自分の体を大切にしなさいよね」と、何度も繰り返すしかなかった。



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★4 持っては逝けない

2025-02-01 07:56:53 | ★★☆「と、ある日のこと」2025年度

 
 隣家の改装が始まった。築25年ほどの二階建て。我が庭に面した部分で、壁を剥がしているらしい音や、床部分の取り除くらしい音は、容赦ない激しさで聞こえてくる。どうやら、風呂場の改装らしい。これはあくまでも想像でしかないが、多分違わないだろうと思う。

 ご主人が現役引退したのかもしれない。これも定かではない想像の域である。引退を機に家の改装や改築は知り合いでも多い。みな、「持って逝けないから、使うのだ」と言う。

「持っては逝けないもの。葬式代だけ遺して置けばいいと思って」と、ダン友も言う。せっせとレッスンを重ね、スタンダードもラテンも、何でも踊れる人が多い。私もその一人ではあるが、体力が追い付かない悔しさがある。

「あと5センチ足が長かったら、あと10歳若かったら」などと、ラテンに今夢中になっているダン友のセリフ。「足が10センチ長くなって、年齢があと5歳若かったら、フニュフニュ」と、のたまったのは私。言うだけでどうにもならない今更ながらの愚痴。

 どうにもならない人生を、ある意味、半ば諦めたように言葉にしても、どうにもならないモノを受け入れているのが大概の人だろうと思う。その中でも、少しでも楽しく、少しでも自分の気のすむように、日々を暮らしたいという努力はみな重ねているようにも思う。

 それにしても、人生の時間は、コクコクと刻み、誕生から終焉まで、たくさんの楽しみと苦しみを頂いて、あとはすんなりと最後を迎えられたら最高だろうと思う。

持って逝けないものは、すべてなのよね。あらゆることをすべて置いて逝かなければならない。何という潔さ。何という身軽さ。



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★3 「はっちゅうはち」

2025-01-26 08:35:45 | ★★☆「と、ある日のこと」2025年度


「アタシ、はっちゅうはちにもなったのに、じっとしていられないのよ。でね、昨日はこの階の自転車置き場をキレイにして、娘の所へ行く階段も掃除したのよ。高帚があれば都合がいいと思ってね、作ることにしたの。売っている高帚は、アタシの背丈より高くて使いにくいからね、思いついて竹箒を作ったのよ」と、八十八歳になる花ちゃんが電話の向こうで笑った。

「東京の世田谷で竹箒作る材料があるの?」と聞く、
「公団の奥の方まで行くと、木やあれこれ茂っている所にあるのよ」
「竹って言っても何竹なの?」
「真竹よ。実家の屋敷にもある真竹。背の低い竹を芯にして、あとは、笹の部分を使って作ったのよ」
 なぁるほど。
 花ちゃんの話を聞くと、私の御祖父さんも竹箒やら、座敷帚を作っていたことを思い出した。随分と昔のことだが、たまに故郷の暮らし方を思い出すことがある。

 花ちゃんは、従妹でも元気な方で、日本舞踊やらカラオケやらを楽しんでいるらしい。ここ何年も顔を見ていないが、月一程度電話しあっている。花ちゃんは未だに故郷の訛りが出る。同郷ということもあって通じるのだが、「はっちゅうはち」とは、八十八のこと。暫く顔を見ていないが、娘さんと同じ都営団地で独り住まいだ。

「朝は、娘から電話がくるのよ。これから勤めに出ます。って。夜寝る段になってから、私の方から娘に、布団に入りました、寝ます。と、毎日電話連絡をしているのよ」と言う。

 近くに居ても、老いてからの見守りは有難いだろう。まだ、自由気ままに過ごしている私でも、隣室に夫が居ても、二階に息子親子が居ても、どうなるかわからないのが現実。
 花ちゃんの長寿を祈る。



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