正午からレッスンを受ける日であった。
ダンスウェアーに着替えてから、準備体操をして、先生を待つ時間をも含めて、少し余裕を持って電車に乗った。
一人分の空席があった。
10年ぶりに箪笥から出し、数日間陰干しをしておいた薄手のコートを着て来た。和服のリメイクをしたものだ。地味目の長着を解き、網に入れて洗濯機で洗い、生乾きの状態のうちにアイロンを掛けた。表地は地味目で、裏地はちょっと可愛い小花模様。
リバーシブルの縫製は四苦八苦の作業であった。喫茶店の仕事と、遊び歩けぬ我が家の環境の中で、様々な気休めの趣味と、縫物をするなど、家から離れられない中で仕上げたコートだった。数年前から、服装の自由さのある時代が続いている。だから、時代遅れの感じもなく、サラリと着こなしたつもり。
空席に腰を下した。左隣の私と同年配の女性が、微かな笑い顔を見せた。知った顔ではない。それに、既に乗車していた女性だ。
「作ったのですか?」と、小声で私に話しかけてきた。直ぐにコートのことだと気づいた。「ええ」と答えると、「私も作ったのですよ」という。改めて女性の着ている上着を見ると、紬のような和服地のモノだった。「私の母が、着物が好きで、たくさん遺してあったものですから、こうして作っては楽しんでいるんですよ」という。
負けず嫌いでは無いつもりだが、自然と自慢話になっていた。傍から見たら、どう見たってリメイク品の自慢のしっこではないか。
「ウフフフフ・・・」と、二人で押し殺した声で笑った。こうして、お隣の女性と私は、同じ乗換駅までご一緒して別れた。二度と遭うこともないかも知れない女性だった。それにしても、何となく嬉しい。
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「と・ある日のこと」をお送りします。
日々の暮らしの中から、ちょっと心に引っかかった事を綴っています。
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