砂袋
お婆は砂丘を越えると、後ろを振り返った。空に両手を広げ、思いっきり伸びをする。
「あなたも逃げてきたの」
砂丘の窪みから声がした。体を丸めて、暑い陽ざしを避けていた女が聞いた。
「いや、ずうっと迷っていたんだ。他の世界が知りたくって、旅に出た」
「逃げたくもなるわよね。あたしだって限界だったわ。それが、どうしても、この影が離れないの。二つの影はすぐに思い止まったみたいだけど。これだけはどうしてもね」
見ると、窪みから立った女の影に、もう一つの影が重なるように寄り添っている。
「できれば棄てたいのよ」
女は窮屈そうに影を振った。
女の背に、その影は爪を立てるようにしがみつく。ヒィー、ヒィーッと泣き声までさせた。女は仕方ないわというように眉を寄せた。
「あなたはいいわねぇ、身軽そうで」
女は羨ましそうに言うと、影を引きずりながら歩き出した。
無風状態だった砂丘に風が走る。
砂の動く音が次第に大きくなってきた。
見る間に砂の波が形を変えていく。
背を低くして歩くが押し戻されそうだ。
「大丈夫なの」
女は、お婆を気遣いながら、ゆっくりとした足取りで、肩までの髪をなびかせた。
「駄目だ。足が掬われそうだ」
「本当に棄てたかったのに。この影の御陰でスムーズに進むことが出来るなんて」
女は、苦笑しながら視界から消えた。
体が激しく揉まれる。
袋を取り出し、砂を詰めて重石にしようとしたが、風が強く、掬えとも掬えども、砂は逃げていく。
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