「自分の部屋でしてよ」
キッチンから女房のキツイ声。
「わかったよ」
小沢はパジャマ姿で、テレビの『新撰組』を見終わると、居間を出て自分の部屋に入る。女房の部屋とは襖一枚だ。
書棚の上から骨董品の刀を取り出す。漆塗りの鞘(さや)。梅に鶯を彫った鍔(つば)や柄(つか)。一通り眺めると刀を抜く動作に移ろうとした瞬間。
「その前に、カーテン引いてよ。外から見えたらとんでもないことになるから」
女房がいつものように注意を促す。
「わかった」カーテンを引く。
改めて刀を抜く。蛍光灯の光に刃を当てる。そして二、三度宙を切る。
後ろから黒装束の敵が斬りつける。身をかわしながら八相の構えから斜めに切り、それを返しながらもう一人の足を払った。
ジリジリと数人が取り囲む。両足をハの字に移動させながら書棚を背にする。
右の大男が突いてきた。それを払って体を右回りに回転させながら大男の腹を一文字に割く。大男が仰け反る。小柄で太めの男の前に踞る。踞った大男を跳び越す。小柄で太めが逃げる。それと同時に斜め左で細身の男が刀を構える。力を込め睨むと、細身が太めの逃げたトイレ方向へと走る。
刀を構えたまま息を弾ませた。
「まぁったく、なにやってんのよ」
女房の乾いた声。襖が開いた。
「あんた、血圧が高いんだから、いい加減にしなさいよ。ばっかみたい」
女房の蔑みには慣れている。
小遣いは大幅に減らされた。骨董品を買わない約束も果たせないでいる。
著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
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