「大型廃品回収車です。冷蔵庫、電子レンジ、自転車など、要らなくなったモノを回収します。お声掛けください」
通りの向こうから、回収車のアナウンスが聞こえてきた。庭にいた私に、滅多にない都合よさ。私は通りに出た。軽トラックから流れてくる声が少しずつ近づいてくる。
隣家との境の塀際に置いてある赤い自転車。喫茶店経営中に買った。暫く近所への買い出しに使った。夫が現役引退後は、専ら夕刊紙を買いにコンビニまで乗っていく程度だった。あちらこちらは錆び付いているし、いつの間にか後ろのタイヤがパンクしていた。庭のオブジェにして、前籠や荷台の籠に寄せ植えなど飾っても良いかと思ったが、夫の大反対で諦めていた。
「自転車? うん、無料で持っていくよ。えっ? ステレオタイプのラジカセ? いいよ、持って行ってやるよ」と、回収屋さん。
ガレージに入った軽トラックの荷台に自転車を載せながら、「自転車で転んで怪我してもしょうがないからね。いやね、ちょっと前免許の書き換えで認知テストなんかしたんだけど、視野が年々狭くなって、次回はたぶん受からないだろうと思ってんのよ。事故起こしたら何にもならないからね。怪我は怖いよ。寝たきりになる恐れがあるし、自転車でだって、転んで骨折したなんてよく聞くからね」と、回収屋さんが言う。
赤い自転車は、軽トラックの荷台に寝せられた。その傍にラジカセも載せられた。おしゃべりしながら積み込んだ回収屋さん。ぺこりと頭を下げると、走り出した。
無料で引き取って、どれだけの収入になるのだろう? なんて、余計なことを考えながら見ると、隣家との境の塀際が、ちょっとばかり寂しくなった気がした。
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「と・ある日のこと」をお送りします。
日々の暮らしの中から、ちょっと心に引っかかった事を綴っています。
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俳句・めいちゃところ
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