紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

(1)鎌倉にて

2022-07-24 08:55:52 | 江南文学56号(華の三重唱)16作
 若宮大路を歩き二の鳥居、三の鳥居を潜り、鶴岡八幡宮参りをする。国宝館で仏像や浮世絵を見学。牡丹園で冬牡丹を楽しんだ後、小町通りに入る。小さな店が連なっていた。
 初老の女三人は、小町通りで立ち止まった。
「行き過ぎたのかしら。ええーとね、民芸屋と骨董屋の所を左ってあるけど。それがどこか分からないわね」
 孝江がパンフレットの『観光鎌倉』を見た。
 依子と徳子が通りの両側を目で追う。
「この通りの……あった。あそこの左」
 依子と徳子が同時に叫んだ。
 目指す豆腐料理の店は、沢山のテナントの入った建物の一階奥にあった。客席は三、四坪ほどの小さな座敷。十二の座席は皆女性客ばかりだ。
 三坪ほどの庭に面した席に着いた。細い竹が数本伸びていて淡い陽ざしを受けている。
 ごま豆腐が主の『点心花べんとう』の膳は朱塗りの器。薄味で、菜の花や桃の一枝がそれぞれに添えてあった。
「ね、ずっと来たかった鎌倉の印象は?」
 計画を練った徳子が孝江と依子に聞いた。
「あなたたちとじゃなくて、いい人とでも来たかったわ」
「婆三人じゃあねぇ」
「まっ、二人とも言ってくれるじゃない」
 食後、トイレを借りることにした。
「二階の奥です。これを使って下さい」
 店の女性が手渡してよこしたのは、棒の先に鎖で付けてある鍵だ。トイレの扉に『お客様以外のご使用はご遠慮願います』と張り紙。
 徳子が入って行った。
「どうしようかしら」
 と依子は、小声で呟いた。
 孝江が言った。
「長谷寺へ向かう前に、駅で」



江南文学56号掲載済「華の三重唱」シリーズ
初老の孝江と依子と徳子のプチ旅物語の始まりです。
楽しんでいただけたら嬉しいです。



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