駅を出ると夕日が眩しかった。
「後を付いていくよ」
俺は後ろを振り返った。男にしては高音の声の主は、俺の視界に入らないところへ体をずらしているらしい。
「北相馬郡って言っていたから福島に近いと思ったが、東京寄りの茨城の外れだな」
――だれ?
「名乗っても分からないだろう。呼び名は違っているし、遠い存在だからな」
――ご先祖様? なんで俺に?
「長い間鎮座しているのに飽きた。ふらっと散歩さ。それにお前たちの住まいが見たかった」そこで言葉が途切れた。
祖母の郷里での法要は、何人もの先祖の供養を纏めて執り行われた。仕事の都合で俺だけ先に帰る途中だ。
声の主を振り切るように急いだ。国道を横切り八間堀の橋を渡り、千三百戸の団地に入るとその気配が消えた。
一本目の突き当たりを曲がって路地を入った。鍵を使って玄関を入る。
「おかえり。一応、家の中は見せて貰ったよ」
声の主は既にリビングにいる。
髪を後ろで一つにした老人は、白い着流しで椅子にも掛けず立ったまま浮いていた。真夏だというのにそよ風が家の中を流れている。
「お前の骨格は私とそっくりだ」
――い、いつまでいるつもり?
「そうだな、みんなが帰って来る頃には失礼するよ。まあまあの生活ぶりで安心した」
声の主はそれ以来話し掛けてこない。
二日後、祖母と両親が帰ってきた。
声の主は散歩を切り上げ去って行ったらしい。猛烈な暑さが戻ってきた。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別館ブログ「俳句銘茶処」
https://blog.ap.teacup.com/taroumama/
お暇でしたら、こちらにもお立ち寄りくださいね。
お待ちしています。太郎ママ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・