紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

8 仲良し

2022-03-12 19:30:51 | 夢幻(ステタイルーム)23作


 日が差している。茶色に変色した畳。一畳ほどの堀コタツ。部屋の隅にテレビがある。テレビの音量は高い。テーブルを挟んで、二人の老女が庭の同じ方を向いている。
 堀コタツのテーブルには山盛りの菓子鉢。茄子とキュウリの漬け物が皿に盛られ、取り箸がそえられている。
 アルミの急須があって互いの手元には湯飲み茶碗がある。一方の湯飲み茶碗は茶托に載せてあった。
 二人は今日も一つの場所にいる。一人はこの家のアキ。一人は隣家のウメ。二人とも九十歳に近い歳だ。
 アキが思い出したように急須に湯を注いだ。 
 ウメが手元の湯飲み茶碗を注ぎやすいようにずらした。それに、小刻みに揺れながらアキが茶を注いだ。
 ゆっくりウメが茶をすする。アキが菓子鉢から栗まんじゅうを取りウメの前に置き、自分の前にも一つ置いた。
「あんたぁ、食べなっせぇ」
 アキの勧めにウメが栗まんじゅうを手に取った。二、三回撫でると包んであるビニールを外し、手でちぎって口に入れた。
「旨めえこど。あんたも、どんぞ」
 昼前から一緒にいる二人。夕方までに交わされた言葉はこれだけだった。昨日もその前も、またその前の日も一緒。
 つけたままのテレビ。聞くでもなし、見るでもない。何を話すでもない二人。

 寒い朝、アキが脳梗塞で入院した。そして、三週間が過ぎた。合わせるように体調を崩していたウメ。

 アキの旅立った翌日、ウメも旅立った。



著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。


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