170502 林業作業とリスク <間寛平さん 木から落ちて骨折>を読んで
今朝もすばらしい快晴でした。まるで冬空のように高野の山々の輪郭がはっきりと見えました。冬空と違って、コバルトブルーと言うより淡いブルー、春霞とはいうものの、早朝はなかなかいいです。
日中は、ある境界線の確定のため、いろいろ調査で動いて帰ってくると体力不足で少し眠ってしまいました。ケースは、畑から宅地に農地転用したものですが、時期が30年以上前で、農業委員会の記録を見せてもらいましたが、手書きの一覧表の一行に簡単に項目別に記載されたものだけで、現地調査や測量図といったものはありませんでした。地積も登記上のもので、宅地になると畑の場合のm単位からcm単位まで表示されるのですが、適当に記載されたのでしょうね。
担当者の話だと、バブルの前で農地が宅地に転用することなど当時はあまり気にする状況でなく、転用許可も最近のように厳しい基準もなかったし、審理も簡単に行われていたようです。手数料は500円だったことが記載されていました。のどかな時代でした。
それもあって、バブル期を経て、農地はどんどん切り売りされ、農地と宅地の境目がなくなり、都市計画制度も骨抜きになり、最近ようやくコンパクトシティなどという標語をしきりに唱えていますが、本来の都市計画制度を合理的に運用していれば、他方で、農地制度を的確に適用していれば、このような事態にはならなかったでしょう。そういえばそんなことを四半世紀前にも霞ヶ関の記者クラブで訴えたことがありました。
水路敷と里道敷が隣接しているので、その境界確定書の交付を求めて、申請しておきました。これらは法定外公共物と呼ばれ、昔は都道府県が管理していましたが、10年位前でしたか、市町村に管理権限が移管され、市町村に記録が保管されています。古い記録を取りだしてきて、図面を見せてもらいましたが、かなり以前の境界確定なので、測量図とか、写真とかの添付がなく(最近だと添付されていて境界確定当時の利用実態も分かります)、図面だけでしたが、それなりに意味があるので、十分参考に出来そうです。
さて、今日の本題、林業作業とリスクについて、少し話してみたいと思います。たまたま毎日朝刊に<間寛平さん木から落ちて骨折>という記事があり、彼はどうして木から落ちたのかな、なんて考えていると、最近の林業労働災害の報告事例のことを思い出したのです。
毎日記事では落ちた経緯については触れていませんが、<寛平さんは3年ほど前から趣味で木登りを始めた。>ということですから、彼の年齢としては珍しい?のかな、あるいは都会で育ったので、木登りの経験がなかったのかなと不思議に思ったのです。というのはこの世代だと、遊びというと近くの山で遊び、木登りは普通にやっています。むろんなかに、苦手なのがいますので、昔でもやはり仲間外れ的な扱いはあったように思いますが、いずれにしても私などは木登り大好き人間ですので、よく登ったものです。
といってこの年になれば、木登りをするかというと、私のように趣味で枝打ちを楽しむような例外を除けば、通常はやらないでしょうね。年寄りの冷や水と馬鹿にされるのが落ちでしょう。ただ、最近のツリークライミングは、欧米の合理的で安全対策を施した道具・システムになっていて、指導者もしっかりしているので、木登りとは異質な、いわばスポーツでしょうか。老若男女が楽しめる、とくに小さなお子さんも安全委登ることが出来ますね。
しかし勘平さんのは木登りというのですから、ロープなどを使って行うツリークライミングではなかったと思われます。そうすると、木登りは緊張します。安全対策はまさに自分の体力の限界を知り、枝の感触を探りながら折れないかどうか、折れた場合でも、他の手足で体全体を確保するセーフティネットは備えながら、登ります。
このような緊張と集中は、一人だと割合できますし、続けることが出来ます。ところが、取材で大勢が見守っていたりすると、どこかで緊張の糸がきれるとか、油断が出る可能性がありますね。勘平さんの場合どうだったんでしょう。この話はここまでとします。
で、林業労働はとても危険です。斜面地での作業。積雪や雨の場合などでの作業は余計危険が高まります。風の影響も大きいでしょう。そういった多少予想可能な自然現象は、たいていの作業員は注意して作業しています。それでも労働災害が少なくないですし、死亡事故も他の現場労働に比べれば多い状況です。
この点、林業・木材製造業労働災害防止協会が「林業労働災害(死亡災害)速報一覧」で全国の事例を報告しているので、参考になります。木の伐倒作業中の事故が結構多いのです。平成29年度中の事故については調査中もあり、状況がはっきりしないものが多いですが、平成28年度中の事故では「かかり木」に関係する事故が極めて多いです。かかり木というのは、伐倒した木がそのまま地面に倒れないで、途中で別の木の枝などに引っかかってしまった状態をいいます。
かかり木になると、それを安全に外して倒すのは結構やっかいですし、危険です。それを回避するための伐倒手法がいろいろ確立しているのですが、風、地形、ロープの引っ張り具合など、また木の密集度や枝の張り具合によっては、予想できない形でかかり木になるように思います。
かかり木の安全な処理の仕方については、マニュアルに基本的な方法が書かれてあり、すべての林業労働者は学んでいるわけですが、マニュアルどおりに行かない場合もあるでしょう。
「林業・木材製造業労働災害防止規程」という規則が定められていて、この規程については、第1条で、「この規程は、林業・木材製造業の労働災害の 防止に関し、林業・木材製造業労働災害防止協会(以 下「協会」という。)の会員(以下「会員」という。) 及び協会が守らなければならないことを定めること により、林業・木材製造業の労働災害の防止に寄与することを目的とする。」と、関係労働者が守るべき詳細なルールが定められています。上記マニュアルはこの規程をわかりやすく書かれたものかなと思うのです。
チェーンソーによる事故が極めて多いので、その取扱についても詳細な規定があります。先ほどの「かかり木の処理」についても、たとえば次のように細やかに規定されています。
「(かかり木の処理) 第29条 会員は、かかり木が生じた場合には、作業 者に当該かかり木を速やかに処理させるとともに、 次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
(1) 当該かかり木の処理の作業について安全な作業 をさせるため次のアからエまでの事項を行わせる こと。
ア 当該かかり木の径級、状況、作業場所及び周 囲の地形等の状況を確認すること。 イ 当該かかり木が生じた後速やかに、当該かか り木により危険を生ずるおそれのある場所から 安全に退避できる退避場所を選定すること。
ウ 当該かかり木の処理の作業の開始前又は開始 後において、当該かかり木がはずれ始め、労働 者に危険が生ずるおそれがある場合、イで選定 した退避場所に労働者を退避させること。
エ かかり木が生じた後、やむを得ず当該かかり 木を一時的に放置する場合を除き、当該かかり 木の処理の作業を終えるまでの間、当該かかり 木の状況について常に注意を払うこと。
オ やむを得ずかかり木を一時的に放置する場合、 当該かかり木による危険が生ずるおそれがある 場所に作業者等が近づかないよう、標識の掲示、 テープを回すこと等の立入禁止の措置を講じさ せること。
(2) 作業は、できるだけ2人以上の組となるように 調整すること。」
(3) (以下省略)
でも事故は起こります。で私がこの問題を取り上げたのは、事故報告の内容が気になっているからです。
平成29年度中の報告で、調査未了以外のものについての報告を読んでも、どのような経緯で事故が起こったのか、状況説明に終わっていて、具体的な作業環境、条件、事故に到る経緯が明らかでないのです。死亡事故の場合、目撃者がいればいいのですが、なかなか原因解明が困難であるというのは分かるのですが、もう少し調査を徹底できないのか残念に思うのです。
たとえば、
「被災者は同僚2名と間伐作業に従事。現場の状況から伐倒作業に支障となる枯木を伐採したところ、伐採木の幹が数か所で折れ、折れて方向が変わった幹に激突されたと推察される。」
「被災者は1人で伐倒作業に従事。現場の状況から、被災者が伐倒した木が、それ以前に倒した木の元口付近に幹部分が衝突し、跳ね上がりながら落下し、伐根付近に退避していた被災者に激突したものと推察される。」
「被災者は土場から300m(傾斜約45度)の先山で荷かけ作業を行っていた。被災者は無線で巻き上げの指示をした後、被災者から巻き上げ停止の指示が無線であったのを最後に応答がなくなったので、同僚が荷かけ現場に行ったところ、集材中の木と切株の間に左足を挟まれた状態で倒れている被災者を発見した。」
いずれもおおよその事故経緯は推認されていますが、なぜ予測できなかったか、結果を回避できなかったのはなぜかといったことに繋がる情報は残念ながら明確ではないと思うのです。
これらの報告は、全国の林業労働者に対して、事故予防のため、定期的に報告されており、また死亡事故だけでなく、重傷・軽傷問わず、労働災害は定期的な報告がされていますが、死亡事故同様に、同じ問題を抱えている事案が多いように思っています。
林業労働者は、まさに事故の危機に日々さらされているわけで、彼ら自身、その場その場で慎重に行動していると思います。こういった報告はもちろん参考になるでしょうが、具体的な状況がより明確にならないと、作業の安全性向上にはつながりにくいですし、折角の報告も事故の減少に必ずしも繋がっているとは思えないのです。
その意味で、容易ではないと思いますが、人一人の命を、あるいは大きな怪我を回避するためにも、調査をより徹底して行って欲しいと思うのです。
今日はこれでおしまいです。