170513 郵便と不動産業 <日本郵政 野村不動産買収へ 数千億円規模・・>を読んで
夜半の雨音の激しさで、ひょいと目覚めてしまいました。といっても明け方近くです。夜半の雨というのは季語にならないのでしょうかね。子規の俳句をちょっと見たのですが雨はそれなりにありますが、「夜半の雨」となると見つかりませんでした。他の著名な俳人もないのでしょうかね。
真夜中に聞く雨音はなにか情緒があっていいです。とはいえこれが鴨長明や西行が住まいとしたような庵だと情緒を感じてばかりいられないかもしれません。良寛が詳細にその様子を謳った五合庵では極寒だけでなく豪雨もたまらんでしょうね。
でも私は現代の家に住み、台風でも豪雨でもなんでもこいです。夜明け前の雨景色はすばらしいです。薄もやの中で風もなく雨足が垂直に五月雨のごとく落ちているのです。その風景はよりロンドン近郊の田園風景に似た雰囲気を醸し出しています。霧なのか靄なのかどちらでもいいですが、薄ぼんやりとした中に瓦屋根としっくいの家並みがぼんやり浮き出ていて、周辺は薄緑色に染まった丘陵地の静寂な佇まいがいいです。
目の前にはスギとヒノキの林が超然として屹立していて、その葉っぱの鮮やかな緑を背景に雨脚の長く伸びた線が見事にカミングアウトしています。広重の世界を見るようでもあります。
スギ・ヒノキが雨に打たれる様子をじっと眺めていると、ふいにそういえば防水性の強い木だなと思いながら、カナダやアメリカの戸建て住宅の屋根を思い出しました。わが国では、檜皮葺といえば神社などの屋根葺きで有名ですし、杣人がぶり縄で登りながら、見事に檜の皮を剥がしたり、宮大工がその檜皮を竹の釘を使って重ね合わせて、作る様子は何度かTVで見たことがあります。素晴らしい伝統芸ですし、檜が持つ防水性を太古の昔から利用してきたことを証明してくれているように思うのです。
他方で、こけら葺きは、法隆寺、慈照寺などで使われていて、同様に古墳時代から利用されてきた板葺きの一つですが、最近の住宅では別の簡易な材料に代わって、スギ・ヒノキ・サワラなど木材は使われなくなっていますね。
で北米の戸建て住宅の屋根に戻りますが、その分譲地の良さの一つが屋根葺材料です。Wood shinglesとか、Cedar Roofingとか言われていて、薄い角形の小さな板を張り付けて屋根材にしていますが、ヒマラヤスギなど針葉樹で防水性の強い材料が使われています。その屋根が時間が経つと、より一層苔むした感じであったり、情緒のある雰囲気になり、それはやはり長く利用し続けることを前提に使われているように思うのです。
わが国では便利で安価な代替物を利用していますが、20年も経つと逆にみすぼらしい状態になり、多くは取り替えたり、別の材料で葺いたりしているのではないでしょうか。
折角、わが国にもスギ・ヒノキなどの針葉樹が樹齢50年を優に超えて伐期を迎えて放置されている状態ですので、なんとか屋根材などにも活用できないものかと、ふと思ってしまいました。
さて、今日のテーマに入る前に、少し関係のない前置きが長くなりました。個々で本日のテーマに入りたいと思います。今朝の毎日一面は、<日本郵政野村不動産買収へ 数千億円規模、安定収益柱に>という見出しで大きく取り上げていました。その隣にソフトバンクの5500億円投資も並んでいましたので、この点にも少し触れたいと思います。
さて日本郵政が野村不動産の買収を検討するということ自体、資本主義社会における企業の自由な選択といえるかもしれません。しかし、日本郵政は、07年の民営化までは公社でしたし、現在も<政府が約80%の株を握る。>だけでなく、<従業員数は約25万人。>とマンモス企業であり、実質、まだ政府系の事業体に等しいように思うのです。
その日本郵政が、郵政事業本体の収益改善を図れず、<海外事業の成長を目指して、2015年に日本郵便を通じ6200億円をかけて買収した豪州物流会社「トール・ホールディングス」は、経営不振のため17年3月期に4000億円の損失を計上>したばかりです。この企業買収の経営判断はどのように検証されたのでしょうか。
企業の買収は、単に投資目的であれば別ですが、買収側企業としては、当該買収先の事業を本来の事業に有機的に統合させることにより、収益強化、拡大を図るのが常套策ではないかと思います。ソフトバンクが数々の買収を繰り返してきていますが、まさにいい例でしょう。
日本郵政の場合、先の海外事業の成長を目指すということと、国内の郵政事業とをどう連携し、全体として事業拡大を図るという戦略が示されていたのでしょうか、疑問です。
今回の野村不動産の買収検討ですが、わずかな情報では軽率に判断できませんが、基本的にはよほど採算性・公益性を見通す合理的な根拠が示されないと、安直な選択として、メビウスの帯のごとく同じ過ちを繰り返すことになりかねないように懸念します。
たしかに<郵政は、傘下に2万4000以上の郵便局を持ち、保有不動産の価値は2兆円以上にのぼる。13年と昨年6月に商業施設「KITTE」を開業。不動産開発での収益向上を図っていた。>ということですので、大地主であることから、ま、三菱地所や三井不動産のような一面はあるでしょう。
しかし、上記の商業施設がどういうもので、どのような収支状況か不明ですが、おそらく自らにノウハウがないので、借り物でやっているのではないかと思うのです。不動産開発は極めて高度なノウハウが必要ですし、その市場も細分化し、さらに発展しているわけで、武家の商いではとても太刀打ちできるはずがありません。
では野村不動産は最適なんでしょうか。いや違うと言うほどの知見があるわけではありませんが、多少、というかほんのわずかな知識はあります。何回かは訴訟の相手になったことがあります。いや、野村不動産が最初に開発した鎌倉市梶原(頼朝を救ったあの梶原景時の家系の土地とも言われています)の分譲地は、その中の戸建て住宅地が私が担当した成年後見の管理財産の一つでしたので、なんどか訪れたことがあります。たしかに古いですが、緑豊かで北鎌倉の奥まったいい環境作りをしていると思いますし、住宅も割合よくできていました。
それと隣接して鎌倉市中央公園があり、これがまたいいので、なんどか訪ねていますが、立地も悪くないです。とりわけ公園はたしか都市公園としては極めて異例ではないかと思うのですが、森林を自然状態に近く管理したり、湿地も多様で、田んぼもあったりと、これからの都市公園の見本になるようなところではないかと思っています。
つい余談が過ぎましたが、野村不動産の事業内容を見ると、私が関係したマンション事業がかなり広報などでも力を入れていて、他の戸建て分譲地や事務所ビル、商業施設などもありますが、とりわけ商業施設などはそれほどやっていない印象を受けています。
IRなどをきちんと見れば分かることだと思いますので、事業毎の収益力などは客観的な数値を基に議論するのが筋でしょうね。
ただ、日本郵政が保有している不動産の所在地ですが、とくに各地の中央郵便局は、私の狭い知識でも、駅前(たとえば横浜駅)とか、市役所そば(横須賀市)など、2,3階建の低層建築物で、公共空間の一部となっています。このような立地での開発について、野村不動産が過去に経験があるのか残念ながら知りません。三菱地所クラスになると、公共的空間のより効果的な活用を図ったり、ビジネスチャンスを拡大するテナントの吸収などに多大なノウハウがあることはよく知られていると思います。
そんなおおざっぱな感覚ですが、野村不動産の開発マインド自体は決して悪くないと思うものの、日本郵政の不動産を効果的に活用できるノウハウを有しているかとなると、すこしクエッションがつくのではないかと思うのです。
<ソフトバンク買収と投資でグループ成長 一方で失敗も>によれば、ソフトバンクの成長が買収と投資で急激に伸びていることが分かります。そのソフトバンクでも失敗とされる買収が指摘されています。しかし、いずれも自己の事業を適切に評価し、将来性を見込み、買収・投資によって、いかに垂直的あるいは水平的な統合を効率的に成し遂げることができるかといった、事業の発展性をしっかり見込んでやってきたように思うのです。
通常、企業が買収・提携先を選択するとき、対象の絞り込みを合理的な基準で行うはずで、あえて野村不動産を対象にした、それも唐突に、他に選択の余地がないかのように、発表したのは、いかにも不自然な印象を感じるのは私だけでしょうかね。
他方で、郵便局は、極めて公共性の高い場所であり、その利便性は高く、多くの人が利用するところです。その利便性を損なわないような開発を目指してもらいたいですし、と同時に、場所的有利性を活用し、郵便事業と他のさまざまなサービス事業との相乗効果を測るような開発計画を打ち立ててもらいたいですね。さらにいえば、いま政府が目的とすべき、健康増進や社会福祉の進展のために、モデルケースとなるような施設計画であって欲しいとも思うのです。いずれにしても日本郵政本体では、そのような企画は無理かもしれませんので、提携なり買収先が率先して日本郵政らしいスタイルの不動産開発をしてもらいたいと期待しています。
今日は前置きが長くなったこともあり、2時間近くになりましたので、この辺で終わりとします。