180111 認知症と身体拘束 <クロ現+認知症でしばられる!? ~急増・病院での身体拘束~>を見て思うこと
今日もある会計処理の謎解きをしていてあっという間に夕方です。会計不正とはいえないのですが、その処理方法が少し杜撰なため未収金処理が何年度にもわたって解明されないままであったのを第三者として見ているのですが、簡単ではないですね。
ともかく本日のお題をと考えているうち、いろいろあるもののぴんとこず、結局、昨夜見て少し衝撃を受けたことから上記の見出しをテーマにすることにしました。
私が精神病院を弁護士会の仲間と一緒に視察したのはもう15年以上前のことですの、そのときの記憶もあいまいですが、もっぱら措置入院の際の手順や身体拘束を含む措置内容について医師からの聞き取りや実際の拘束用具などを見せてもらったりしたことくらいの記憶は残っています。
当時の印象では、身体拘束に制限をする方向にあったような印象です。というのは私が成年後見人で担当していた知的障がいのある方が施設に入所していたのですが、そのときの経験が少し重なるのです。
施設側が時折、施錠するなど一定の拘束措置をとっていたことに関し、家族の方から強い異議が出て、職員がいろいろ拘束理由について説明して理解を求める努力をする場になんどか立ち会い、その家族の方から、身体拘束は先進国では回避する方向にあり、わが国でも先進医療機関ではその方向にあるといったことの指摘があったり、施設の医師が処方する投薬についても疑義がでて、私が代わって医師と質疑を交わすなど、いろいろ勉強になりました。
そのほか、精神病院に入所している患者の成年後見人としてなんどか患者と面接して、厳重な扉による施解錠が行われていましたが、身体拘束までしている状況は本人から発言は聞いておらず、あったとしても一時的に行われるのだろうなんて思っていました。
その感覚があまりにいい加減であったことを<NHK クローズアップ現代+ 認知症でしばられる!? ~急増・病院での身体拘束~>はリアルに伝えていました。
<手足や体をベットなどに縛る「身体拘束」が、10年あまりでほぼ倍増している―厚労省が全国の精神科病院を対象に行った調査で、驚きの事実が明らかになっている。>
<2025年には、認知症の人の数が700万人に達するといわれる。もはや「身体拘束」は誰もが直面しうる問題だ。現状の問題点と改善への道筋を探る。>
背景の一つは、認知症患者の急増、そのうち精神病院に入院する数も驚くほど増えていることではないかということです。多くは介護老人保健施設に入所したり自宅でデイケアとかショートステイを利用することで退所しているのではないかと思いますが、精神病院に入所する場合も相当あるのですね。
NHKで取り上げていた精神病院では、夜間が一番大変で、2人の看護師が50人とか60人とかに対応することになっているとのことだったと思います。当然、徘徊する方も少なくないわけですから、いくら熟練した看護師でも一人で数人見るのも大変でしょうが、20人ないし30人もみないといけないとなると、とても間に合いませんね。それは容易に想像できます。その結果として、対応できない患者の場合栄養チューブを外したり、転倒したりする危険が高まることは確かですね。
厚労省が定めた精神保健福祉法の運用マニュアルでは、次の3つの場合でないと身体拘束してはいけないことになっています。正確には後で触れます。
(1) 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
(2) 多動又は不穏が顕著である場合
(3) (1)又は(2)のほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合
で、上記の病院の場合、看護師が患者数に対して足りていないことが上記のいずれかに当たるということなんでしょうけど、それはおかしいですね。患者のための病院の体制になっていないことが問題で、スタッフを増やすか、入院受け入れを制限するのが本筋ではないでしょうか。
こういった初歩的な意見は、却下されるのが精神医療の世界ではまかり通っているのでしょう。いやそれを支持する患者家族もいるのかもしれません。ほんとうに身体拘束の実態を知った上でという家族は少ないと思うのですが、家庭で対応できず他に方法がなく病院に頼るしかないという方がほとんどではないかと思うのです。そのため病院の対応に、実態を知らないこともあり、文句を言うこともできないでいるということかもしれません。
しかし、NHKで取材された患者家族の方の場合、うつ病の50代の女性を一週間入院させたところ、退院直後に心肺停止になり、肺動脈血栓症だったかと思いますが、死亡したという事件とも言うべき事案が紹介されていました。
そのその精神病院では「24時間身体拘束」というのですから、驚きです。その女性は入院前の様子がビデオで紹介されていますが、身体は普通に元気な方だったように思われます。でも24時間身体拘束を一週間も続けられると、というか1,2日だけでも身体拘束されると頭もおかしくなるし、身体はエコノミー症候群になることは必至ではないかと思うのです。そんなことが許されているとしたら、マニュアル自体に問題があるように思うのです。
ところで、身体拘束はどうなっているのか、ウィキペディアで調べてみました。
<日本では、精神保健福祉法第36条第3項の規定にて、自殺企図または自傷行為が著しく切迫している場合、多動または不穏が顕著な場合、そのほか精神障害のために放置すれば患者の生命にまで危険がおよぶ恐れがある場合に限定して、精神保健指定医の診察を経て、行うことが認められている。>
上記記載のうち、法律の条項は36条3項には「指定医が必要と認める場合」といった定めがあるものの、具体的な根拠規定としては37条1項で妥当ではないかと思います。そこには具体的な定めがなく、「厚生労働大臣は、前条に定めるもののほか、精神科病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。>と厚労大臣に基準の内容を委任しています。
そして厚労省は<精神保健福祉法第37条第1項の規定に基づき「厚生大臣が定める処遇の基準」>を定め、これに基づいて、身体拘束を含め具体的な処遇の内容、要件、手続きなどが記載されています。詳細は上記をクリックすればわかります。
この処遇基準は、運用マニュアルとして各病院でこれに基づいて運用されていると思うのですが、まず国際ルールに適合しているかが問題となります。
ウィキペディアでは<国際原則[編集]
世界保健機関は「精神保健法:10の原則」において、身体的抑制(隔離室や拘束衣など)や、化学的抑制を行う際は、仮に必要と判断された場合でも以下を条件としなければならない(should)としている[4]。
1. 患者と代替手法について、話し合いを継続していくこと
2. 資格を持った医療従事者によって、検査と処方を行うこと
3. 自傷または他害を緊急に回避する必要性があること
4. 定期的な状態観察
5. 抑制の必要性の定期的な再評価。たとえば身体抑制であれば30分ごとに再評価
6. 厳格に制限された継続時間。たとえば身体抑制では4時間。
7. 診療録への記載
とありますが、上記の下線部分が適合していないおそれがあるように思うのです。とりわけ6の時間制限が定められていない点が大きな欠陥ともいうべきでしょう。下線部のない事項も具体的運用の面で実効性が確保される制度的担保を欠いていると言わざるを得ません。
上記マニュアルでは、身体拘束について、第4で記載しています。まず、基本的な考え方を取りあげます。
<(1)身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。
(2)身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあってはならないものとする。
(3)身体的拘束を行う場合は、身体的拘束を行う目的のために特別に配慮して作られた衣類又は綿入り帯等を使用するものとし、手錠等の刑具類や他の目的に使用される紐、縄その他の物は使用してはならないものとする。>
上記(1)では、制限が二次的障害のリスクがあること、下線部の他に方法がない一時的なもので、早期に取りやめることが求められています。しかし、24時間身体拘束は明らかにこの基準に反しているといえるでしょう。国際ルールの4時間はともかく、ありえない無制限拘束ですね。
次に対象となる患者に関する事項として、身体拘束できる場合を前述した3つをあげていますが、基本的条件を次のように定めています。
<身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患
者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。>
上記下線部は先の基本的な考え方を具体化したもので、必須要件ですね。それは病院の都合ではなく、あくまで患者にとって代替手段がないことを基本的要件としているとみるべきではないでしょうか。
最後に遵守事項として、次の3つをあげて、医師に適正手続きの履行を求めています。
<(1)身体的拘束に当たっては、当該患者に対して身体的拘束を行う理由を知らせるよう努めるとともに、身体的拘束を行った旨及びその理由並びに身体的拘束を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。
(2)身体的拘束を行っている間においては、原則として常時の臨床的観察を行い、適切
な医療及び保護を確保しなければならないものとする。
(3)身体的拘束が漫然と行われることがないように、医師は頻回に診察を行うものとす
る。>
この下線部の履行が死亡事故の例ではなされていなかったのではないかと推察してもおかしくないように思われます。むろん診療録などの検証が必要ですが。
といったところで一時間が過ぎました。本日はこれにておしまいです。また明日。