180308 資本主義と商い <資本主義はショーなのか 偽物も商品「トランプ景気」>を読みながら
最近ようやくウグイスの鳴き声が少し大きくなってきたように思います。まだ甲高く響く感じではないですが、ホーホケキョが日が昇る頃に聞こえてきます。毎年毎年2月から3月にかけてはそんな調子で、一冬の間にビギナーになってしまうのでしょうかね。そして4月から5月にかけて、その鳴き声は軽やかになりますね。初夏あるいは7月頃くらいまででしょうかね。彼ら彼女たちの縄張り100m~数100mくらいをきれいに響かせて宣言していますね。
あるいは冬の間は南方で越冬する飛翔で、エネルギーを消耗するので、声もだせなくなるのでしょうか。いつも不思議に思うのです。そして以前、手が動かなくなったとき、足もだめになってはと思い、山道を散策していた頃、ウグイスが100m~数100mごとに、谷渡りの声を響かせてくれて、まるで私と同行二人のような感覚になったこともよくありました。
そんな長閑な思い出に浸ることができるのは田舎の生活でしょうか。それに比べ、ニュースはなんども味気ないですね。
毎日の昨夕記事では<特集ワイド資本主義はショーなのか 偽物も商品「トランプ景気」>と大きく取りあげられていました。ま、トランプ氏の行状は日々、ネタになりますね。
とはいえ資本主義をショーと考えたり、フェイクも商品ということになると、昨今のメーカーを含めあらゆる産業で次々と話題になる不正処理、不祥事といったことも、資本主義と関係づけられてしまいそうですが、はたしてそうでしょうか。
ともかく記事の内容を追ってみましょう。
藤原章生記者の<「資本主義はショーだ」という言葉にはっとした。そうかもしれない。トランプ米大統領の立ち姿からインターネットでの過激発言「トランプ砲」まで全てが一種のショーで、それが今の米国の株高をもたらしている--と思えなくもない。>という呟きから始まります。
<ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルさん>が語ったセリフで、その内容は
<「資本主義の『生産』の語源は『モノを見せる』こと。その意味ではフェイスブックの『いいね』のような実体のないものも『見せる(ショー)』、つまり『生産』となる。『資本主義の顔』、トランプ(米大統領)の戦略は鉄鋼会社や雇用を守るのではなく、ショーを売ること。最近のアメリカ最強の製品は見せ物だ。フェイクニュースがあふれるのは、おそらく偽物が(コストのかからない)理想的な商品だからだ」>
それは言葉だけでなく、株価の推移からもいえるというのです。
<トランプ氏が大統領に就任したのは昨年1月。彼に批判的な米国の主要メディアは「景気低迷」「株価の暴落」を予測したが、ニューヨーク株式市場はダウ工業株30種平均が史上最高値を更新。株価は当選直前に比べ、一時は4割も上昇した。17年の経済成長率も2・3%と見込まれ、18年はさらに上昇傾向にある。そんな「トランプ景気」に「ショー」という言葉がピタッとくる。>
さらに<NHKエンタープライズの丸山俊一さん>も次のように解説を加えるのです。
<工業主体からサービス主体、ポスト工業社会へと変化した今の資本主義では『物質』より『体験』『共感』が商品になる方へシフトしています。つまり、感情を売り買いする面が強まり『ショー』に見えるということです」>
さらにそれがエスカレートする感じになります。
<商取引が資本主義の基本だとすれば、そこで問われるのは、価値の中身ではない。倫理など関係なく、うそでも偽物でも構わないということになる。現代の資本主義の下では「あらゆる差異が商品になる」と丸山さんは言う。「買い手と売り手がいれば、マイナスの価値も商品になるということです。フェイクでも面白ければいい、刹那(せつな)的でもいいという風潮が広がる時代なのだと思います」>
差別化は資本主義経済という競争社会の基本的要素ですが、フェイクでも面白ければよいというのですから、商道徳や信義則なんて、資本主義の社会には不要とでもいっているようにも聞こえます。
<ドイツ証券アドバイザーなどを務める投資ストラテジストで、米国経済に関する著作がある武者陵司さん>は<トランプ氏は時代が求めているものを察知する能力が高い。>というのです。
その時代が求めているものについて、<トランプ氏はタブロイド判のように下品な言い方で、大衆の欲求、感情を直接くすぐる。資本主義には欲望の充足などドロドロした要素がその大本にあり、多くの人がオバマ氏までの建前主義に飽き飽きしている中、出るべくして出てきた人と言えます」>これが時代が求めているなのか判然としないというか、どうかと思いますが、ま、うかがっておきましょう。
丸山氏はさらに、<トランプ氏がビジネスマンの「やる気」を引き出しているとも言う。「今の米国に必要なのは、ケインズの言うアニマルスピリッツ、起業する活力です。トランプ政権下、中小企業の楽観指数は史上最高を記録し、とにかくビジネスを支援するトランプ氏の政策はショー的なその戦術だけでなく、実も伴っています」>
ほんとにやる気を生み出しているのでしょうかね。そのやる気、起業する活力って、ぴんとこないのですがね。だいたいケインズのアニマルスピリッツは、それぞれの個人が自ら生み出しものだったのでしょうか。彼は結構自由奔放だったように思いますが・・・
ただ、トランプ商品という意味合いはなんとなく理解できます。そして<資本主義の側から見れば、トランプ氏も一つの商品。オバマ氏という商品の後に出てきた、派手で突拍子もない新商品にすぎない。>というアメリカ政権の脆弱さ、本質のなさ、といった感じは当たっているかもしれません。
とはいえ、マック小西氏が指摘する<「トランプ氏による今の好景気は一時しのぎで、富の最適配分など資本主義がはらんだ問題の解決には至らない。資本が最上の顧客だった中産階級を食ってしまい、彼らが再び借金して消費にうつつを抜かすことはもうなく、成長も次第に鈍化するでしょう」>は的を射ているのではないでしょうか。
今回の鉄鋼・アルミの輸入制限措置も、すでに適用除外がぽろぽろと出てきて、フェイクということばがよく似合う雰囲気になりそうな気がします。
だいたい映画THE COMPANY MENでは、ラストベルト地帯の基幹産業の工場と同じように、リーマンショック後に、事業収益を上げるために、長年事業の礎となってきたが赤字体質を変えられない造船事業を切り捨て、その有能な社員を解雇する企業経営者の非情さと、突然の転落で自暴自棄になる事業部門の中枢にいた人たちの苦悩を描いていますが、結局、立ち上がったのは自分たちでやり直そうとしたメンバーです。その意味では資本主義の非情な合理性を感じつつも、夢に立ち向かう強い精神力を見ることができ、私は割と好きな映画です。
そういう起業精神をもった人であればともかく、ラストベルト地帯の工場労働者で、たまたまかもしれませんが、番組取材に応じて、不平不満を述べている無職の人たちは、でっぷり太って、自分たちで仕事を見つけようとか、別の職に就くために職能訓練に励むという気持ちを抱こうともしないような人たちが多いように見えるのは一面的かもしれませんが、そう感じてしまうのです。
彼らの支持を受けて迎合するような鉄鋼・アルミ輸入制限措置は、フェイクであっても、彼ら・彼女らは一応満足するのかもしれません。
トランプ氏の手法が資本主義のひとつの商品というのは、なかなか合点がいかないのです。それがアメリカ資本主義だというのであれば、腑に落ちるかもしれません。契約社会といって、大勢の弁護士が関与して作られた分厚い契約書できめ細かく拘束しておきながら、その抜け道をさぐって平気で実質的な契約違反をする例は、これまでアメリカの契約社会を扱った専門書でも指摘されている通りです。
資本主義は万全な制度でないからこそ、さまざまな補完措置を講じる必要があるわけですね。たしかにフェイク商品も流通しますが、それは違法、脱法、不正なものですから、基本的には市場から排除される運命に本来はあるわけですね。世界経済はそういうものを目指して、一歩前進二歩後退かもしれませんが、トランプ氏の愚策やいろいろな問題を是正しつつ、少しでも良い方向に進んでいくことを注視していきたいですね。
渋沢栄一が資本主義の導入に際して、強調していた商いの道こそ、王道ではないかと思うのですが、わが国では次第に脆弱化しているように危惧しています。
勝手なことを書きすぎたと思いつつ、市井の中でのちいさな呟きにすぎないので、この程度は寛容いただきたい。
雨音が激しくなってきました。いつの間にか業務時間も過ぎましたので、本日はこれにて終了です。また明日。