180328 トラック運転手の今 <はたらく トラック運転手 超激務>や各種法制度などを読みながら
わが家の庭先に見える桜並木はあっという間に満開に近い状態になっています。分譲地の斜面上にあり、花見の席としてもよいのんびりとしていいと思うのですが、酔狂と思われるのか誰もいません。
どうも日本人の多くは人が行くところを好むようです。人をかき分けて進むとか、花見の席を競い合うとか、行列が長いほどよいと考える人が多いようですね。私は天邪鬼なのでしょうか、ターナーの絵画を見たいとは思っても、大勢の中ではさすがに興ざめします。このブログもずっと少人数が訪問されているようで、マイナーな状態がちょうどよいようです。ま、こんな勝手なことを書いて文章だけだと、読むだけで気力がいるでしょうね。
それはともかく、昔、『浮浪雲』(はぐれぐも)という漫画を長く読んでいたことがありました。主人公は、女性のような仕草、着物を着て、日々気ままに暮らして過ごしているのです。まさにはぐれ雲です。ところがその彼が一言声をかければ、東海道中の雲助がはせ参じるというのです。その彼は女性のようになよなよしつつ、必要なときは見事な太刀さばきでどんな使い手にも負けない腕を持っているという人物設定です。
で、これがトラック運転手とどう関係するのか、それは私の勝手な当時の思い込みみたいなものです。たしか同じ頃、菅原文太主演のトラック野郎といった映画がはやっていたと思います。菅原文太自体は割合好きな俳優ですが、この映画は見たことがありません。ただ、トラック運転手というものになにか魅力を感じていたのでしょうか。
他方で、一匹狼みたいな、あるいは勝手気ままに仕事や遊びをしているような一方的な印象もありました。それがもし力を集結すると多大な力になるのではないかと勝手な推測をしたのです。たとえばはぐれ雲の主人公が一声かければ(おそらくはある種の正義のために)、雲助が集団行動を行うように。
アメリカの場合、全米カヌー連盟が河川環境保護のために多大な力をもっていますね。それと同じような力をもちうるのでは、なんて夢想したのでしょうか。あるいは全米ライフル連盟でしたか、この絶大な力みたいなものを(この方は時代錯誤の銃規制反対を一貫しているので、こうなってほしくない他山の石ですが)発揮すると面白いなと思ったりするのです。
なぜトラック運転手にそのような期待をしてしまうのでしょうかね。トラックが後方につけたとき、自分が下手な運転をしても、彼らの運転なら追突の危険はないといった安心感を抱いたこともあります。高速道路を走っていたりすると、たいていのトラック運転手はトラック自体の危険性を熟知しているせいか、また、運転経験を重ねているせいか、あるいは、個人で事業を責任を持ってやっているせいか、周囲の自動車への配慮をするようにみえることが多いように見えるのです。
たしかアメリカでトラック運転手が車両を重ねて集団デモをしたことがあったように記憶していますが、もしトラック運転手が集結して、一定の主張を唱えれば、それが正当なものであれば結構意義のあることではないかと思ったりするのです。
さて前置きがどこまで続くかわからなくなりましたが、要はどうもトラック運転手によっては、とても危険な状態にあり、周囲で走行していても安心できないおそれがあるのかなと毎日記事を見て、改めて思ったのです。そして、その実態と背景を少し考えてみようかと思ったのです。
毎日記事<はたらくトラック運転手 超激務>では、<長時間労働が常態化しているトラック運転手。2016年度に労災認定された脳・心臓疾患の件数は、運送業が全産業で最も多い。>という過酷な状況にあることが指摘されています。
その実態のいくつかがドライバーの言葉で語られています。
<「睡眠時間は1日4~5時間。体がきついと感じるのはしょっちゅう」と話すのは40代の男性運転手。運転歴は約20年、10トンの大型車を運転する。「高速道路料金は会社であらかじめ決められ、それを超えた分は自腹になる。だから下道(したみち)を通る。休憩時間や睡眠時間を削り、無理をしてしまう」と打ち明ける。>
長時間、眠る時間もなく走り続ける実態が見えてきました。
<「夜中、パーキングエリアはいっぱい。到着時間に間に合わせるためにも、眠くても走るしかない」と話すのは40代の男性。休日は週に1日しかない。前日に岡山から積んだ荷物を関東で降ろし、新しい荷物を翌日の夜までに大阪へ届ける途中だ。「給料も日給部分があり、休めない」と言う。>
低賃金、長時間労働の過酷条件も数字で示されています。
<トラック運転手らでつくる産業別労働組合「運輸労連」(組合員10万4029人)によると男性トラック運転手の平均年収は423万6200円と、全産業平均より2割以上も少ない。一方で年間労働時間は、17%長い2544時間だった。>
規制緩和の結果競争が激化していることと、業界の超下請け構造も主要な原因といえるでしょう。
<こうした長時間、低賃金の背景を「営業区域の廃止、運賃などの規制緩和だ」と運輸労連の世永正伸中央副執行委員長は分析する。参入する業者が増え、過当競争が起き、また「荷主」の力関係が強いため運転手に負担がかかる。さらに業界の複雑な下請け構造が、労務管理を難しくさせている。>
標準運賃制や労働時間規制といった、最低限の規制の必要もいわれていますが、なかなかハードルが高そうです。
<トラック運転手の労働時間規制は現在、厚生労働省が定めた「改善基準告示」のみだ=表<上>。政府が今国会に提出を目指す、時間外労働の上限規制(罰則付き)を盛り込んだ改正労働基準法では、施行から5年間は人手不足に配慮し、適用除外となっている。>
記事では規制緩和として
<トラック運送事業法令の規制緩和結果
事業の参入 免許 →許可
運賃・料金 許可 →事後届け出
事業の範囲 営業区域 →廃止(全国)
事業の規模 最低車両台数→全国一律5両>
改善基準告示として
<「改善基準告示」の主な内容(トラック運転手)
<拘束時間>1日13時間が基本、最大16時間
1年間の合計が3516時間以内
<休息時間>継続8時間以上または分割なら
合計10時間以上
<運転時間>2日を平均して1日9時間以内
<休日労働>2週間に1回が限度
それぞれ規制緩和と、そのことによる悪影響の緩和策が講じられていますが、有効に働いていないのが実態でしょう。
上記の内容について、より詳細に厚労省では<トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント>で、わかりやすく解説しています。
しかし、このようなトラック運転手の追い詰められた労働状態は、単に労働時間の改善策では対応できないでしょう。取引条件の改善を持効性を持って図る必要があるでしょう。
この点国交省も一定の配慮をしてきたようです。
<トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック>を読むと、いかに下請法・独禁法に違反する取引条件が荷主側から強要されているか、わかります。
たとえば上記ガイドラインで問題として取り上げている次のような問いに当てはまる例は結構あると思われます。
1. 著しく低い運賃・料金を一方的に設定されていませんか?
2. 附帯業務の料金を運送委託者に負担してもらえていますか?
3. 有料道路の利用料金を負担させられていませんか?
4. 契約の内容を書面化できていますか?
5 運送委託者の都合で生じた追加運賃・料金を運送委託者に負担してもらえていますか?
6 燃料費・人件費の上昇分を適切に運賃・料金に転嫁できていますか?
7 労働時聞を守れない運送を強要されていませんか?
8 荷待ち時間への対策を講じてもらえていますか?
あの乱暴に見えるトラック運転手たちの多くは、厳しい低価格や過酷な取引条件のため、必死で一分一秒を争って先に進もうとしているのかもしれません。
より明確な方針としては<トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン>が参考になります。
少し疲れてきましたので、今日はこの辺でおしまい。また明日。