フィッシュマンズの佐藤伸治の言葉だ。
佐藤:きっかけっていうんじゃないけど、その…音楽はまず、
やっているその人ありき、っていうのを、いつも思ってて。
だから、すごいカッコイイ人はすごいカッコイイことをそのまま
やればいいし、カッコ悪い人はカッコ悪いことをやればいいしって。
なんか、そういうことは俺、二十歳前後ぐらいに思ったから。
一番カッコイイのは“リアル”ってことかなって、
最初に思ってたというのがあるかな、それが始まりですかね、そもそも。
ある雑誌のインタビューで彼はこう答えている。
「自分のやっている生活の匂いが音にも出ないと嫌だから」
たとえばTVをダラダラ見てるみたいな自分を等身大で見せてきた…と。
等身大で短い言葉を紡いできたから、彼の言葉は“リアル”に響く。
そして、だからこそ佐藤伸治は音楽に対して“大まじめ”だ。
音楽はなんのために 鳴りひびきゃいいの
こんなにも静かな世界では
心ふるわす人たちに 手紙を待つあの人に
届けばいいのにね
(新しい人)
時には、生きることの不安や焦燥感が、
剥き出しのまま置き去りにされていたりする。
窓からカッと 飛び込んだ光で 頭がカチッと鳴って
20年前に 見てたような 何もない世界が見えた
すぐに終わる幸せさ すぐに終わる喜びさ
なんでこんなに悲しいんだろう
(MELODY)
喜びはいつも とっておこうね
幸せは何気に 手に入れようね
くたばる前にそっと 消えようね
あきあきする前に 帰ろうね
(Just Thing)
特に後期の作品には、独特なグルーヴ感が浮遊感をともない、
とんでもないトリップミュージックの高みにイッてるフィッシュマンズだが、
その詞を繙いてみると、現実逃避とも取れるような言葉が並んでいたりする。
君とだけ2人落ちていく BABY, IT'S BLUE
友達もいなくなって BABY, IT'S BLUE
夕暮れの君の影を追いかけながら
今のこのままで 止まっちまいたい そんな僕さ
(BABY BLUE)
目的は何もしないでいること
そっと背泳ぎ決めて 浮かんでいたいの
行動はいつもそのためにおこす
そっと運命に出会い 運命に笑う
そっと運命に出会い 運命に笑う
あーやられそうだよ なんだかやられそうだよ もう溶けそうだよ
(すばらしくてNICE CHOICE)
「一番カッコイイのは“リアル”ってことかな」と語っていた佐藤伸治だが、
彼の中にある“リアル”とは、なんだったのだろう。
1トラック35'16''の大作「Long Season」に至っては
ミニマルなピアノの旋律に呻きとも取れる彼の問いかけが繰り返される。
口ずさむ歌はなんだい? 思い出すことはなんだい?
(Long Season)
存在の気薄さが、そのまま投げかけられるから、
フィッシュマンズは、ボクの心にダイレクトに届く。
裏を返せば、存在が気薄だったからこそ、
彼は、“リアル”を追い求め続けたのではないだろうか…。
夜明けの海まで 歩いていったら どんなに素敵なんだろね
何もない グルッと見回せば 何もない 何もない
(新しい人)
1999年の今日3月15日、佐藤伸治は“リアル”な星になった。享年33歳。