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沖縄→東京→竹野と流転する、bozzoの日々。

【清水靖晃】Goldverg Variations 2010

2010-02-27 | ACT!
2月27日土曜日。曇りたまに小雨。
気温ぬるい感じ。空どんより。

錦糸町にあるすみだトリフォニーホールで行われた
清水靖晃&サキソフォネッツの
ゴルドベルグ変奏曲「世界初演」を観に行く。

先週の月曜日には「公開リハーサル」へも足を運ぶ熱の入れようで
今日の「世界初演」に臨んだ訳だけど、
いやあ、モノスゴカッタ。完全に度肝抜かれた。

ゴルドベルグは1990年学生時代にグレングールドの演奏で虜になり、
その後さまざまなピアニストの演奏を聴き込み、それでも飽き足らず、
ギターアレンジやブラスアレンジ、琴アレンジに至るまでバリエーションを広げてみたけれど、
やはりグレングールド以上のポリフォニックな音の連なりまでには届かない感じで、
少々食傷気味だったのだが、今夜の演奏であらためてBachの音楽世界のスケールの大きさに驚かされた。

もともと清水靖晃のCello Suitesには発売当初から
その取り組みに共感を覚えていて(録音場所にこだわるあたりとか)愛聴していたのだけど、
今回、5人のサキソフォンと4人のコントラバスの編成で聴くBachは、完全に違っていた。

まずもってピアノ曲を5人のサキソフォンに編曲するあたりが面白い。
ポリフォニックなパルスを強調するかのように、高音部・中音部・低音部それぞれの旋律を
渡り歩くようなメロディが新たに追加されていたりしていた。

さらに通奏低音としてコントラバスが屋台骨の役割を果たしていたので、
Bachがイメージしていた以上のグルーヴ感が全編を通して波打っていて、心地よかった。

トリフォニーホールがまた素敵な音空間で、吸い付くような無音状態かと思えば、
サキソフォンの倍音の拡がりが伸びやかで、音同士ケンカすることなく、素直に耳に届いた。

「世界初演」にふさわしい空間だった。

      ●

 音楽って、純粋に音そのものとかルックスだけでなくて、
 全体のスペースがいい空気になって、初めて成り立つと思うんですよ。
 空間が醸し出すグッとくる感じとか、ユーモアも必要だと思うし。
 そうした空間の中で、それぞれの国における「バッハの存在」の意味みたいなものを、
 テナーサックスというぼくのフィルターを通して聴いていただく。
 その反応を本番で見るのが、すごく楽しみですね。
                    (清水靖晃インタビュー抜粋)

今回の「世界初演」は、サキソフォンが持つ音の特異性が遺憾なく発揮された演奏だったように思う。

サキソフォンは人間の声に一番近い楽器と言われているが、
音それ自体に多くの倍音を含んでいるからだろう。

ソプラノ・アルト・テナー・バリトンそれぞれの音域で
それぞれ異なる旋律を吹きながらBachのポリフォニックを構成していくのだけど、
倍音と倍音が共鳴してあらたな倍音を産むような重層的な拡がりを持ちつつも、
決して音が濁ることなくピュアなまま重なり合い、
音楽が時間軸だけでなく空間軸にまで構築されていく様を見る思いだった。

倍音の「組み体操」を見ている感じ…と言ったらわかりやすいだろうか?
(体育祭の花形「組み体操」でBachの一音一音をビジュアライズしていく感じ…って?)

テナーが主旋律で前面に出てきた…と思ったら
ソプラノがその前にしゃしゃり出てきて…かと思えば
バリトンの重低音がいつのまにか前者を押しやって主張しだしたり…と。

めまぐるしく音楽の表情が組み替えられる様は、まさに「組み体操」。
それが倍音もふくめて重層的に展開されていくので、
濃厚なワインの味を舌の上で転がし悦しむような愉悦感に満ちあふれた世界だった。

こんなにカラフルなゴルドベルグは、初めて。

もう一度じっくり味わいたい…そんな希有な音楽体験だった。








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