男 君は誰?
女 誰でもないわ、まだ。
男 ここはどこ?
女 どこでもないわ、まだ。
男 では何をしているんだ、君はここで。
女 何もしていないわ、まだ。
(中略)
女 あなたも初めてなのね、何もないって状態を目の前に見るのは。
そのあわて方を見ればわかるわ。私もそうだった。
始めてその扉の隙間から外をのぞいた時は、
目の前のものが一体何なのか見当もつかなかったわ。
扉の外には何もないのだということを理解するのに、
随分時間がかかったわ。
あんまり簡単すぎて、かえってむずかしいのね。
(谷川俊太郎作・戯曲「部屋」冒頭抜粋)
浪江町駅前など町の東側は2016年4月1日からバリケードが外され、
誰でも出入りが出来るようになった。
2011年3月11日の震災、12日のF1爆発以後、時間が留まった状態で存った町は、
急速なピッチで、5年間のブランクを取り戻そうとしていた。
「解体家屋番号3-E-2」と記された傾いた家屋たち。
放射能に汚染され、住宅として住むこともできず、
もはや壊すしか手立てがない…というのは、理性では分かっているのだけど、
矢継ぎ早に重機で押しつぶされていく「かつての」住まいのなれの果てを見ていると、
壊すことで全てをリセットしようという、大きな圧力を感じてしまう。
「事物の世界の上にわれわれが存在していて、
われわれにとって重要なものに意味がある」
「観念の世界によってのみ事物が理解できるのだから、
われわれが事物に意味を与えている」
そんな人間至上主義の驕りを感じてしまう。
谷川俊太郎の戯曲「部屋」を、
浪江町に赴く前に読み返していた。
事物や観念は、人間がコトバで組み上げたフィクションである。
世界は、それよりも遙かに大きな存在として、ここに存る。
「観念の向こう側」にあるまったき世界。
人間がひとり残らず不在になったとしても、この世界はここに存るのだ。
「アンダーコントロール!」
制御できています。
すべてが人間の下位に存るかの如くな振る舞いは、慎めよ。
何もない=観念の向こう側が、本来の世界なのだから。
女 誰でもないわ、まだ。
男 ここはどこ?
女 どこでもないわ、まだ。
男 では何をしているんだ、君はここで。
女 何もしていないわ、まだ。
(中略)
女 あなたも初めてなのね、何もないって状態を目の前に見るのは。
そのあわて方を見ればわかるわ。私もそうだった。
始めてその扉の隙間から外をのぞいた時は、
目の前のものが一体何なのか見当もつかなかったわ。
扉の外には何もないのだということを理解するのに、
随分時間がかかったわ。
あんまり簡単すぎて、かえってむずかしいのね。
(谷川俊太郎作・戯曲「部屋」冒頭抜粋)
浪江町駅前など町の東側は2016年4月1日からバリケードが外され、
誰でも出入りが出来るようになった。
2011年3月11日の震災、12日のF1爆発以後、時間が留まった状態で存った町は、
急速なピッチで、5年間のブランクを取り戻そうとしていた。
「解体家屋番号3-E-2」と記された傾いた家屋たち。
放射能に汚染され、住宅として住むこともできず、
もはや壊すしか手立てがない…というのは、理性では分かっているのだけど、
矢継ぎ早に重機で押しつぶされていく「かつての」住まいのなれの果てを見ていると、
壊すことで全てをリセットしようという、大きな圧力を感じてしまう。
「事物の世界の上にわれわれが存在していて、
われわれにとって重要なものに意味がある」
「観念の世界によってのみ事物が理解できるのだから、
われわれが事物に意味を与えている」
そんな人間至上主義の驕りを感じてしまう。
谷川俊太郎の戯曲「部屋」を、
浪江町に赴く前に読み返していた。
事物や観念は、人間がコトバで組み上げたフィクションである。
世界は、それよりも遙かに大きな存在として、ここに存る。
「観念の向こう側」にあるまったき世界。
人間がひとり残らず不在になったとしても、この世界はここに存るのだ。
「アンダーコントロール!」
制御できています。
すべてが人間の下位に存るかの如くな振る舞いは、慎めよ。
何もない=観念の向こう側が、本来の世界なのだから。