母は、去年の2月以来、ほとんど外出していない。
コロナ禍のせいだ。
けれど、今日はどうしても外せない用事で、朝から車で連れて出た。
首尾よく用事も終わり、さて、どうしよう?
・・イノダのコーヒーが飲みたい。
母がボソリと言う。
そうか!
そうしましょう!
この時間なら、まだお店も空いているだろう。
イノダ本店は、創業以来、母が父と、また、私や弟が生まれてからは家族で、通い詰めた店なのだ。
母はアップルパイとコーヒーを注文した。
やっぱりね。
ここのアップルパイは父の好物だったのだ。
何の変哲もない、昔ながらのアップルパイである。
コロナ禍以前のように、自由にコーヒーを飲みにいけるようになるまで、後どれくらいかかるのだろう、と母が呟く。
大丈夫、ワクチンを打ったらいつでも飲みに来られるよ、と、とりあえずは言ってみる。