昭和から平成への切り替わり時と異なり、今回は4月1日の新元号公表、5月1日切り替えという形で、あらかじめスケジュールが判明している。それ相応の準備を進めていれば改修に携わる関係者への負担も少なく、スムースな移行が可能なはずだ。
だが「システム周りの改修自体は予定どおりで特段の問題はない。それよりも画面表示や帳票への印字チェックやリハーサルの工数が多すぎて頭を抱えている」(保険代理店システム担当)とうなだれる。確かに、レガシーなシステムでもない限り改元へに対応は織り込み済みの場合が多く、ロジックを改修する程度で大きな苦労はないだろう。だが、画面表示や出力関係の印字チェックともなると、ワークフローの随所で人手による確認作業が要求される。ともすれば実際の業務と同等の時間を必要とするのではないか。
この担当者は「画面表示や印字も西暦に統一しておけば、苦労をしなくて済むのだが、保険関連の企業は、なぜか和暦印字にこだわる」と憮然として言い放つ。実際、保険関連企業だけでなく、行政機関、銀行、歴史あるビッグネーム企業などで使用される書類や帳票の類は和暦が印字されていることがほとんどだ。ただし、みずほ銀行の様に、次期勘定系システムへの移行準備の一環として、通帳の日付印字における和暦から西暦への変更を随時実施した例もある。
●間に合わない場合は手書きやゴム印等で修正
行政や金融機関だからといって、和暦使用が法令により義務化されているわけではないのだが、昭和54年(1979)の元号法制定時の国会答弁において、「国等の公的な機関は、外交文書等特別な場合を除いて元号を使用することが当然であり、一般国民も協力を願いたい」といった趣旨の答弁が当時の所管大臣からなされた。当時の議事録を読むと、文化論、西暦の利便性、天皇制といった部分にまで議論が拡大しているのがわかる。
「法的義務はないけど使用して『当然』」とまで言われてしまっては、行政機関は当然として、民間においてもエスタブリッシュメントな組織であればあるほど、お上に忖度して和暦を使うのは致し方ないのだろう。その考え方は、多くの組織で「令和」になってもそのまま引き継がれていくようだ。たとえば、今筆者の手元にある日本年金機構が事業主向けに毎月配布する「お知らせ」がある。ここの「納入告知書・領収済通知書」の項には、「次回送付分(5月末納付分)から新元号の表示を行います」と明記されている。
日本年金機構といえば、平成27年(2015)サイバー攻撃による個人情報流出で国民の信頼を失った過去があるだけに、他人事ながら「改修が間に合ってよかったね」という安堵感とともに、霞が関の省庁だけにこれからも和暦表示を堅持する姿勢であることがわかる。
その一方で、関東圏のある政令指定都市のIT部門の担当者は「5月1日以後も一部のシステムで対応が間に合わない。住民の皆様に送付する書類は、手書きやゴム印等で修正する、読み替えのお知らせ文を同封するなどで対応」と明かしてくれた。実際、政令指定都市レベルのITともなると「組織全体で数百というシステムが可動しているので、和暦改修箇所の洗い出しは、統括部門として全体を把握するのは難しい」(IT担当)のが現状だという。
●Windowsの更新プログラムを一時停止
4月27日から10連休が控えている。だが、システムに関わる担当者にとって完全休養というわけにはいかないようだ。「4月末までにテストは予定通り完了するが、改元後の連休中にも確認や検証が必要。出勤は不可避」(中堅企業システム担当)とうなだれる。また、前出の政令指定都市の担当者も「移行後の確認などの対応で出勤する予定があり」と教えてくれた。ある大手ベンダーの担当者も「有事に備えて、連休中は最低でも自宅待機」と話す。
「連休中より連休明けが怖い」と訴える企業のIT部門担当者もいる。社内の改元リハーサルは問題なくクリアできそうだが、実際の改元のタイミングは連休の真っ只中だ。連休が明け、現場で新元号での業務運用が開始されたとたんに問題が発生する可能性は否定できない。場合によっては、休み明けからその対応に忙殺されるということもあるというのだ。
多くの企業で利用されているWindows OSだが、更新プログラムの適用で新元号への対応は滞りなく完了するはずだ。だが、OSの対応は完了しても更新プログラムの影響からアプリケーション側で問題が発生する可能性も否定できない。ある中堅ベンダーのマネジャーは「5月1日以降、OS内ではそれまで表示していた『平成31年』が無効化される。アプリケーション側でこれに関連する問題が発生しなければよいが……」と顔を曇らせる。
新元号への移行作業を円滑に実施するために、事前にWindows 10 Proの更新プログラムを一時停止して対応するという事例もある。毎月実施されるWindows Updateだが、通常であれば4月10日に実行され更新プログラムが自動インストールされるからだ。「社内で印字テストやリハーサルなどを実施している真っ最中にWindowsが更新されてしまうと問題の切り分け作業混乱する」(中堅企業システム担当者)ための措置だという。Windows Updateの一時停止の有効期限は最大で35日までだ。その後、自動的に解除され更新がインストールされる。
その一方で、業務上の理由により、外部ネットワークから隔離したWindows端末を運用しているある組織の担当者は、「アプリケーションの更新は、Windows Server Update Servicesを構築することで対応している」と明かしてくれた。
アプリケーションメーカー自体の新元号対応が5月1日に間に合わない例もある。中小企業を中心に多くの導入実績がある FileMakerだが、顧客管理系のシステムをFileMakerで構築している小企業の幹部は「改元を機に帳票の日付印字を西暦に変えておいてよかった」と胸をなでおろす。というのは、現在社内で使用しているFileMakerのバージョンが「16」と1世代前(2017年5月発売)のため、FilaMaker側の正式対応が「2019年6月以降、準備完了次第、アップデータをリリース」となっているからだ。ちなみに、現行の「FileMaker Pro 17 Advanced」は「2019年5月にアップデータをリリース」とアナウンスされている。件の幹部は「Windowsは、2009年発売の『7』でも改元前に迅速に対応してくれるのに……」と皮肉る。
日本中が注目した4月1日の「令和」の公表以後、多くのシステム担当者にとって記憶に深く刻まれた平成最後の1カ月であったに違いない。