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『あなたは無条件でここに居ていいんだ』というメッセージを伝えていく

 毎日新聞夕刊特集ワイドで、’09 シリーズ危機 『自殺』という記事がありました。

 
 4月21日(火)は、文化人類学者の上田紀行
 4月22日(水)は、作家の南木桂士
 本日23日は、いま書いているのが23日になって間もないですのでわかりません。ひょっとすると、23日ではないかもしれません
(※4月23日(木)は、<対談>政治学者・姜尚中×ライフリンク代表・清水康之でした。24日追記)。

 上田紀行の発言に同感するものがありましたので、ピックアップします。

 また、南木桂士へのインタビューは、しばらくこちらで読めます。
 追記の姜尚中×清水康之の対談は、しばらくこちらで
読めます。

  

 

特集ワイド:

’09シリーズ危機 自殺/上 

文化人類学者・上田紀行さん

 <この国はどこへ行こうとしているのか>

 自殺者が年3万人を超える日本。10年間で人口30万人規模の都市が消滅した計算で、「生きづらい」どころか、「生きられない」との悲鳴も聞こえる。人口10万人あたりの自殺者数は、先進国でもトップクラス。自殺大国の行く末は--。3回シリーズでお届けしたい。【山寺香】

 ◇肯定され人は生きる

 文化人類学者の上田紀行さん(50)は、自殺者が相次ぐ原因を、経済的不況より「生きる意味の不況」にあるという。どういうことなのか。読み解くヒントを求め、東京工業大の研究室を訪ねた。上田さんはにこやかに迎え入れ、ゆっくりと説明を始めた。

 「人は意味に生きる動物。自分がやっていることの意味から見放されたら生きることができなくなってしまう。目に見えるセーフティーネットは必要だが、目に見えない人の内面の問題を考えていかないと、本当の自殺対策にはならない」

 日本の自殺者は統計を取り始めた78年以降、2万人台前半で推移してきたが、98年に突如前年より8000人以上増え3万人を突破。以来高止まりが続く。98年は、山一証券が自主廃業するなど大型破綻(はたん)が相次いだ翌年だ。警察庁の自殺統計によると、07年中に自殺した人の動機(動機が特定された人のみ、複数原因もあり)は▽健康問題63・3%▽経済・生活問題31・5%▽家庭問題16・2%。やはり原因は経済不況だと思われがちだが……。

 「長年勤めた会社から見放されローンだけが残る。苦しみはよく分かるが、自らの命を絶たねばならないほどの苦なのか」。上田さんは疑問を呈する。文化人類学者として見てきた世界では、同じような経済状況でも幸せを見いだす人もいれば、絶望の底に落ちる人もいる。「死ぬほどの苦しみと認識してしまうのは、私たちの『解釈』の問題ではないか」

 …●…

 「透明な存在」

 上田さんは、戦後の日本はこうした存在を大量に生み出してきたと指摘する。集団に適応するため自分の色やにおいの個性を殺して生きてきた人のことだという。

 「両親や先生の言うことを聞きいい学校、いい会社に入れば、リスクも少なく幸せに生きていける。世間が『いい人生だ』と思うような選択をすれば間違いない」

 上田さんもかつて、そうした価値観に少なからず染まっていた。高校時代は進学校に通い、いかに効率的に点数を取り教師の評価を高めるかを考えていたという。テスト直前の休み時間に勉強を怠る友人を、冷ややかにさえ見た。

 右肩上がりの成長神話が当たり前だった時代。みんなと同じことをすれば幸せになれると誰もが思った。こうした「集団的な意味」はバブル崩壊で失われる。自分の意思で主体的に判断する「個人的な意味」を持たない中高年が、リストラにさらされることになった。

 上田さんは言う。「自分を殺し順応してきた体制から捨てられるのは、恋愛に例えると『君好みの男になりたい』と自分を変えたのに、『あなたみたいな男は掃いて捨てるほどいるのよ』と言われたようなもの『おれの魅力が分からないなんてバカだ』と思えるくらい個人が確立されていればいいが、評価で自分を支えてきた人を不況が襲えばひとたまりもありませんよ」

 昨年起きた米国発の金融危機が日本をのみこんだ。透明化で得られた利得は、もはやない。しかし「人間を透明化するシステムだけは残存している」と上田さんはみる。

 「透明化することで得られる利得は無いのに抑圧だけが残った。しかも自己責任が強調される社会では、透明化の末に窮地に陥っても誰も助けてくれません」。幸福をもたらすシステムはいつしか苦痛だけをもたらすシステムに変わっていたということだ。

 …●…

 8階の研究室から見下ろすと、サクラの木の下を野球やテニスのユニホーム姿の学生が行き交う。上田さんは自らの大学時代を振り返る。

 「自由な時間ができたのに自分が何をしたいのか分からない。『生きる意味』を見失い、ノイローゼになり留年してカウンセリングを受けた」。とことん自分に向き合った。悩みを友人に打ち明けたり、インドに行って存在感あふれる人々と接するうち、生きる意欲を取り戻した。「人はどんな時に元気になるのか」という研究テーマを見いだし、文化人類学者への道を歩み出したのだ。

 卒業後、86年から2年間スリランカで「悪魔はらい」のフィールドワークを実施。「スリランカの農村では、周りから見捨てられたと思う人は『悪魔つき』になってしまうんです。ぶるぶる震えたり家に閉じこもったり。そうすると、村人全員で悪魔はらいの儀式をやるんです。何百人もの人が一晩中歌ったり踊ったり、漫才みたいなこともやって笑いもある。翌日に病人はすっかり良くなっている」

 どうしてそんなことが起きるのか。「『私のためにこんなにたくさんの人が集まってくれたんだな』と感じることで回復するのでしょう。ある呪術師にどんな人が患者になるのかと尋ねると『孤独な人』だという。物理的に独りぼっちというよりも、周りに人がいるのに阻害されている、見捨てられていると感じる孤独の方が深刻です」

 眼鏡の奥の目に力を込めた。「スリランカでは人がどつぼにはまると悪魔つきになり救われるが、日本では救うシステムがなく自殺するという無意識の行動パターンができているのかもしれません。単に格差の圧縮や景気回復だけで解決できる問題ではない」

 …●…

 対策はあるのか。

 「長期的な対策としては、子育ての時に『あなたは無条件でここに居ていいんだ』というメッセージを伝えていくことが重要です。自分は人から評価されて価値があるのではなく、生まれてきたそれ自体に価値があると信じることができれば、その後の人生でいろいろなことがあってもめげないでいられる」

 上田さんが重視するのは、こうした「自己重要感」と、自分は何があっても見捨てられないという社会への「信頼感」だ。それらを取り戻すことが、自殺対策の鍵となる。

 「今すぐすべきことは、派遣切りやリストラで困る人たちを社会が見捨てず救っていることを次世代に見せることです。“負け組”はぼろぞうきんのように捨てられるところを見せれば、子供たちは無意識のうちに信頼感をはぐくむことができず、自殺予備軍を作り出してしまう」

 自殺は個人の責任ですまされがちだった。しかし、社会が逃げずに対処することがこの国の行方を左右する「安全保障」なのかもしれない。

 ◇

 「この国」新シリーズは、「’09危機」と題し日本が直面する数々の問題について考える。

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t.yukan@mbx.mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

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 ■人物略歴

 ◇うえだ・のりゆき

 1958年、東京生まれ。東京工業大学大学院准教授。「癒やし」の観点を最も早く提示したことでも知られ、生きづらい社会の転換を提言し続ける。最近は日本仏教の再生にも取り組む。著書に「生きる意味」「かけがえのない人間」「がんばれ仏教!」など多数。

毎日jp毎日新聞 2009年4月21日 東京夕刊

 

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
赤字のところ (小川な)
2009-04-24 00:38:21
松田さん、こんばんは。
上田紀行さんの「覚醒のネットワーク」という本を、ずいぶん前に読んだことがあります。
今回の記事の赤字のところは、目を瞠るものがありますね。特に上田さんの発言の、6行連続赤の部分。
 
 
 
同感です (空猫)
2015-08-23 05:38:44
特に、長期的対策に目を向けているのはさすがだなあと。
個人的には子育ての最大の目的って、「幸福の器」を育てることだと思ってるんです。受け止める器ができてなければ、どんなに沢山のいいことがあっても、自分を素通りしてしまいますから。
育児とはいえ人間が人間と接するという日常の中で、理想からかけ離れてしまう部分も多々ありますが、それでも最終的にこれだけは、と思えるのがこの「幸福の器」なんですよね。

それに、人間は「肯定の中でしか生きられない」とも感じています。
「ブラックジャックによろしく」というマンガを読んだとき、ものすごく考えさせられたことがありました。そこでは「YES」の一言を解答にしていて、意味深でした。

悩んでいる時、自分がどうして悩むのか、落ち込むのかを理解していると、多少違いますよね。
こういう研究をするのはとても意味のあることだと思います。
長くなってすみません
 
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