小説家、反ワク医師、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、反ワク医師、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

協力出版物語(小説)(上)

2024-09-24 11:05:11 | 小説
「協力出版物語」

という小説を書きました。

ホームページ・浅野浩二のHPの目次その2

にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

協力出版物語

(1)

1991年、日本はバブル経済が崩壊した。地価は下落し株価は暴落した。バブル景気に浮かれて株に投機し土地を買いあさった日本人は未曽有の不況に苦しむことになった。
北海道拓殖銀行が倒産し、ついで日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、山一證券が倒産した。日本の土地神話が崩れ、銀行の持つ債権は不良債権となり、銀行は企業に融資しなくなった。日銀はこれを何とかしようと、都市銀行に貸し出す金利を下げ、さらに日銀は金利をゼロにした。しかし不況でモノが売れない以上、企業は事業を拡大することはなく、また企業が融資を求めても銀行も企業の倒産を恐れ貸し渋りするようになった。
多くの企業が倒産し銀行は単に金を預けておくだけの貯金箱に成り下がった。
大量の失業者が出て、フリーターやニートはもはや、その存在が当たり前になった。
この不況は当然、出版業界にも及んだ。
日用品、生活必需品でさえ売れない時代に娯楽本など売れなくなるのは当たり前である。
それと、急速に発達したパソコンによって、人々はわざわざ紙の本を買わなくても、ネットで情報を集められるようになったのが出版不況に拍車をかけた。
大手でない、いくつかの出版社は、この出版不況を逆手にとって悪質商法に走った。
それは、「協力出版」「共同出版」などと名づけて、全国の書店に流通させる出版形態である。
それは、一言でいって、本を売ることによって、出版社が儲けを出す通常の出版形態ではなく、本を出版してみたいと思う人の心をくすぐる詐欺商法だった。
つまり、「作家としてデビューしてみませんか」という宣伝によって、全国から原稿を募集する。そして出版社に投稿してくるアマチュアの原稿に対して、「素晴らしい」「埋もれさせるにはもったいない」などと褒めちぎった感想を返し、投稿者を舞い上がらせる。そして、「我が社も出版費用の幾分かを払いますので商業出版してみませんか」と著者に誘いをかける。そして、版権(本の所有権)は出版社にある本を作る、というものである。しかし、実際は、出版社は本の制作費に金などビタ一文出しはせず、製作費、流通費、倉庫代、など、すべて著者負担の金額であり、さらに、その上に出版社が、100万円から200万円などという法外な金額を著者から、ふんだくって利益を出す、本を作って著者から得た法外な製作費によって利益を上げる詐欺商法だった。
・・・・・・・・・・・・
北海道十勝病院である。
個室の病室には、松田ゆみこの父親の松田白が脳梗塞で入院しており、肺炎を起こしていた。危篤の状態だった。病院からの「お父様は今日が山場かもしれません。ぜひともお越しください」という連絡をうけて、ゆみこは、急いで病院に駆けつけた。
個室には「面会謝絶」のカードがかけられていた。
ゆみこはトントンと病室の戸をノックした。
すると戸が開いて看護婦が出てきた。
「どちら様でしょうか?」
「松田白の娘、松田ゆみこです。父が危篤と聞いてやって来ました」
ゆみこはハアハアと息を切らしながら言った。
「どうぞお入りください」
看護婦に言われてゆみこは病室に入った。
病室には、うかない顔をした主治医とナースが立っていた。
父親の口には酸素マスクが被せてあった。
心電図のモニターには波形は時々、期外収縮の波が出ていた。
血圧は60/30。脈拍は120。SpO2は80%だった。
「松田さま。お父様は危篤状態です。昇圧剤も投与しましたが血圧が上がりません。不整脈も起こってきたのでカルチコールという抗不整脈薬を投与して何とか、持ちこたえていますが、あと1時間もつかどうかでしょう。話したいことがあったら、何なりとお話ください」
そう言って主治医は酸素マスクのキャップを取り外した。
「お、お父さん」
ゆみこは涙をハラハラと流しながらヒッシと父親に抱きついた。
「ゆ、ゆみこ」
父親の閉じていた目がうっすらと開き、かすかに唇が動いた。
「ゆ、ゆみこ。わ、私は死んでいく。しかし悲しむことはない。人はいつかは死ぬのは当然のことだ。私は79歳まで生きて幸せな人生だった。母さんと恋愛結婚し、仕事も成功した。そして、お前のような優しい立派な美しい娘まで生まれて・・・お前に看取られて死んでいくのはこの上ない幸せだ」
それは死んでいく者が最期の力を振り絞って発する言葉だった。
「お父さん」
ゆみこはハラハラと涙を流した。
「ゆ、ゆみこ。死ぬ前に最後のお願いがあるんだ」
「なあに。お父さん」
「わしは、山の挽歌、という随筆を書いた」
「ええ。知っているわよ。私家本として自費出版したわよね。お父さん」
「ゆみこ。あれはわしの拙い随筆だが、わしは自分が生きた証として、あれを出版して世に残しておきたい。どうか、あれを自費出版でかまわないから出版してくれないか」
「わかったわ。お父さん。必ず出版するわ」
「あ、ありがとう。わしの人生は幸せだった。こんな孝行娘に看取られて死んでいくのだから・・・」
そう言うや、父親は静かに目をつぶった。
心電図のモニターに映し出されいるバイタルが急に乱れだした。
血圧がどんどん下がっていくので医師は昇圧剤を静脈注射した。
「いかん。血圧が上がらない。心筋虚血が起こったのだろう」
それでも血圧は上がらず、さらに心電図の波形が出なくなっていき、やがてツーと平坦になり出した。
「私が心臓マッサージをする」
そう言って医師は、エッシ、エッシと胸骨に手を当てて心臓マッサージをした。
心臓マッサージによって、少しは心電図に波が現れ、血圧も少し上がったが、それは死んでいく人間をほんの少しの時間、僅かに延命する効果しかなかった。
数分経った。
医師の心臓マッサージも虚しく、心電図の波形はツーと平坦になった。
医師は心臓マッサージをやめた。
そして主治医は、呼吸と脈拍と対光反射を調べた。
すべての生存反応がなくなり、ペンライトを瞳に当てたが瞳孔は開きっぱなしで収縮することはなかった。
医師はゆみこに顔を向けて、
「ご臨終です」
と一言いった。
ゆみこの目からどっと涙が溢れ出した。
「おとうさーん」
ゆみこは泣きじゃくりながら父親を抱きしめた。
「おとうさん。わかったわ。約束は守るわ。山の挽歌は必ず出版するわ」
ゆみこは、もう息をしていない父親に向かって誓うように言った。
医師が死亡診断書を書いた。
ゆみこは葬儀社に電話して葬式の手続きを迅速にとった。
すぐに霊柩車が来て、ゆみこの父親の遺体は霊柩車で十勝の実家に運ばれた。
翌日の夜、松田白の通夜が行われた。
喪主は当然のごとく、ゆみこが勤めた。
通夜には、松田白の友人、知人、会社の同僚などがたくさん来た。
「いやあ。松田白さんはいい人だった」
「松田白さんは山を愛し、自然をこよなく愛するいい人だった」
「私も職場では白さんに色々と親切にしてもらったよ。本当にいい人だった」
などと、皆、松田白を懐かしむ発言ばかりだった。
その度に黒い喪服に身を包んだ、松田ゆみこは、「有難うございます」と深く頭を下げた。
父はこんなに皆に愛されていたんだ、という実感があらためて湧き上がってきて、ゆみこは、よよと涙を流した。
「しかし白さんも、こんな美しく正義感の強い気丈夫な娘さんを、この世に残してあの世へ行ったんだ。白さんも十分に満足した人生だっただろう」
「ゆみこさんの正義感の強さは父親ゆずりなんだろう」
「白さんは、いつも言っていたよ。親バカと言われるかもしれないが、わしの娘はわしの唯一の自慢なんじゃ、とね」
などと、来客たちは、喪主を務める、ゆみこを讃えた。
それはお世辞ではなかった。
ゆみこは子供の頃から、この世に二人といない絶世の美女として全校生徒の憧れの的だった。
大学は慶応大学の生物学部に進学した、ゆみこだったが、「ゆみこならミス日本に選ばれるわよ」と友達に言われて、本人は気が進まなかったが、ミス日本に応募したら、何と優勝してしまったのである。その美しさは、大学を卒業し結婚し子供を産んだ今でも、色あせることはなかった。
通夜が済み、翌日、葬式が行われ、松田白の骨は松田家の墓に葬られた。
これで父の死は一区切りついて、ゆみこはほっとした。
(さあ。父との約束だわ。父の遺稿集・山の挽歌を出版しなければ)
と、ゆみこは気持ちを切り替えた。
しかし、ゆみこは、本の出版については全く知識がなく父の遺稿をどこの出版社で出版すればいいのか、わからなかった。
そんな、ある日の夕食の時である。
新聞を読んでいたゆみこの娘の繭子が母親に言った。
「お母さん。文興社という出版社が原稿を募集しているわよ。何でも単なる自費出版ではなく、全国の書店に置かれる商業出版だって」
そう言って娘の繭子は母親に北海道新聞を渡した。
どれどれ、とゆみこは娘から北海道新聞を受けとって見てみた。
すると新聞には半面をとった文興社の大きな広告があった。
それには、こんな宣伝が書かれてあった。
「広くアマチュアの人からの原稿を募集します。原稿をお送り下さい。当社で原稿を詳しく読み込ませて頂きます。内容が良くて売れる見込みのある原稿は当社が費用の全額を持つ商業出版とします、内容は良いが売れるかどうかわからない原稿も商業出版としますが著者の方にも多少の費用負担をして頂く協力出版をお勧めします、売れる見込みのないと判断した原稿には自費出版をお勧めいたします」
と書かれてあった。
ゆみこは本の出版に関しては知識がなかったので、
「ふーん、面白そうね」
と興味を持った。
世間的な知名度も名もないアマチュアの書いた原稿など売れるものではない、ということは仄聞で知っていた。
しかし死んでいく父が今際の時に頼んだお願いである。
責任感が強く、父をこよなく愛していた、ゆみこは出来ることなら、父の遺稿集を出来るだけ多くの人に読んでもらいたいと思い、ダメで元々と思いながら勇気を出して文興社に父の原稿、山の挽歌、を送ってみた。
出版社から、どんな返事が返ってくるか、ハラハラドキドキものだった。
しかし驚いたことに、2週間後に、文興社から返事の封書が来た。
それには出版契約書と原稿に対する僅かな評価が書かれてあった。
「松田様がお送り致しました、山の挽歌、を拝読させて頂きました。慎重な出版会議の結果、作品の完成度は高く、ほとんど手直し、編集する必要は無いと決まりました。このような優れた作品はぜひ世に問う価値があると思います。我が社としましても、山の挽歌、を書籍化して全国の書店に配布したいと思っております。おめでとうございます。しかしながら、作者であるお父様は知名度も名声もありません。なので出版にかかる費用は我が社も出させて頂きますが、松田様にも本の制作費の一部として200万円の協力金をお支払い頂けないでしょうか。ぜひとも協力出版をご検討ください」
との返事だった。
ゆみこに瞬時に疑問が起こった。
一番は「作品の完成度は高く、ほとんど手直し、編集する必要は無いと決まりました」と言いながらも、作品のどこがとのように良いのかは一言も触れていないことだ。
本当に出版社は父の原稿を読んだのだろうか?
もしちゃんと読んでいるのなら、山の挽歌、の内容について、具体的にどこがどういう風に良いと一言くらいは出版社は言ってもいいではないか。
それが一言も述べられていないというのはおかしい。
本当に出版社は、父の遺稿・山の挽歌、を読んだのだろうか?
そして、おかしいと思ったことは著者への印税が、たったの2%であるということである。
普通、本を制作すると著者への印税は10%位である。
つまり定価1000円の本が1冊売れたのなら著者は100円、受け取れるのである。
そして、さらにおかしいと思ったことは。
出版契約書では版権(作った本の所有権)が文興社になっていることである。
普通、商売では、買い手が売り手に代金を支払い、そして物を買う。自費出版なら本は著者の所有物であるから、これは問題ない。しかし著者が出版社に金を払って、その上出版社の所有物である本を作るというのはおかしい。これはまるで買い手が金を払って、その上売り手に物を差し上げるようなものである。
ゆみこは、文興社に疑いをもつようになった。
それでネットで色々と文興社についての評判を調べてみた。
すると、文興社に対する悪評がわんさと出てきた。
ゆみこの疑惑は募っていった。
ちょうどその頃、自費出版本の制作を手掛け自費出版本を書店流通させていた渡辺勝二という人を知った。
渡辺勝二氏は日本の自費出版の文化を守りたいと思っている良心的な人だった。
そして、(本の所有権は著者にある)自費出版本を作成し、それを知人に差し上げるだけではなく、内容の良い、売れる見込みのある本であれば、それを書店に置くことをしていた。
ゆみこは渡辺勝二氏に電話をかけてみた。
ゆみこは、文興社が示してきた、山の挽歌、を本にした場合の制作費の概算を渡辺勝二氏に聞いてみた。
すると渡辺勝二氏は鼻息も荒く怒りに満ちた口調で言った。
「松田さん。山の挽歌、を本にした場合、その制作費は200万円などかかりません。1刷は1000部ですね。それなら50万円で作れます。文興社はとんでもない詐欺出版社です。あんな出版社にだまされてはいけない。あなたには200万円と言ってきたようですが、確かに文興社は著者に大体200万円くらい本の制作費の一部と言って請求しています。それだけでもう文興社は150万円以上の利益を得ています。文興社は本を売ることによって利益を出している出版社ではなく、本を作るという口実で著者から、巻き上げる製作費で莫大な利益を出している悪質詐な詐欺的な出版社です」
これを聞いて、ゆみこも文興社にだまされたことを確信した。
「わかりました。教えて下さって有難うございます。あやうく文興社にだまされる所でした。私も何とかして文興社との契約を取り消すよう動いてみます」
「松田さんは、もう文興社と出版契約を結んだのですか?」
「いえ。まだ文興社が一方的に出版契約書を送ってきただけでサインはしていません。仮契約はしてしまいましたが。文興社に出版に関する疑問を色々と電話で聞いているのですが、なかなか答えてくれないのです」
「そうですか。出版契約を結んでいないのなら、まだ本の制作は行われていないでしょう。早く手を打てば契約を反故にして、200万円もの大金を支払わなくて済む可能性はあると思います」
「そうですか。では頑張ってみます」
「文興社は非常に悪質な出版社です。実は私も自費出版業界のモラルの向上を目的として『文興社商法の研究』というわずかな内部資料を30部程度作成したのです。ところが、それが不運にも文興社の手に渡り、私を訴えてきたのです。名誉棄損、営業妨害だから1億円の損害賠償金を支払え、と言ってきたのです。文興社は数えきれない多くの著者から、ふんだくってきた法外な資金源で何人もの弁護士をつけて私を訴えてきたのです。これは名誉棄損ではなく文興社に対する批判封じです。私は堂々と戦う覚悟です。文興社は投稿者から送られてきた原稿を、おだてあげて、著者を舞い上がらせ、製作費の一部と言って法外な金額を著者から、ふんだくって、それで莫大な利益を上げている悪質出版社です。版権(本の所有権)は出版社にありますから、著者と出版契約をして200万円、著者からふんだくった後は本は自分で宣伝して売りな、です。著者はみな泣き寝入りしています。こんな悪質商法が許されていいはずがない」
「そうだったんですか」
「文興社だけじゃない。近代文〇社。新〇舎。碧〇社、なども同様です。協力出版などと銘打って、文興社と同じ手法で悪質出版をしている出版社は多くあります」
「そうなんですか?」
「ええ。そうです」
ゆみこは渡辺勝二からそれ以外でも出版に関する色々なことを教えてもらった。
さて、文興社が渡辺勝二氏を訴えた裁判の第一審では裁判長の判決は次のようなものであった。
「被告、渡辺勝二氏の『文興社商法の研究』は自費出版文化を守りたいという強い気持ちから公益を図る目的で作成されたものと考えられる。しかし『文興社商法の研究』は左側に文興社側の商法の事実が箇条書きで書かれており、その右側に渡辺勝二氏の見解が述べられている。これを読む者は、右側の渡辺勝二氏の見解だけを読む者もいる可能性がある。それによって文興社を批判的に見る者も出る可能性もある。よってその点は名誉棄損と考えられ、被告、渡辺勝二に300万円の支払いを命じる。なお訴訟費用の大部分(20分の19)は文興社の負担とする」
というものだった。
渡辺勝二氏は、このこじつけ判決に納得したわけではないが、これ以上、裁判を続けても意味は無いと考え控訴せず文興社に300万円支払って文興社と和解した。
しかし文興社はテレビ局、新聞社、全てに「全面勝利」とのファックスを送った。
さて。外国と違って日本、日本人のほとんどは裁判を好まない。裁判には弁護士をつけ高額な報酬を支払わねばならず、時間と金を非常に浪費するからだ。しかも判決は裁判長の気まぐれで決められ、裁判を起こしたからといって勝てるものでもない。
裁判長が異なれば判決はコロッと変わる。なので日本人は裁判を好まない。
しかし、ゆみこは違った。ゆみこは、それまで、えりもの森の裁判、サホロ岳ナキウサギの裁判、など不条理と思えることは堂々と裁判で訴えていた。たとえ判決に不服があっても、不条理なことに対しては、時間と金を費やしても戦う覚悟をもった肝の座った女だった。
ゆみこは文興社との仮契約を取り消そうと思った。
しかし相手は悪質な詐欺商法の出版社である。
それで、ゆみこは文興社とのやりとり、は後で裁判になった時の証拠として「メールでのやりとりでお願いします」と言った。
ゆみこの、冷静で堂々とした、物怖じしない態度に文興社も、「これはやっかいな相手だ」と思い、「仮契約は反故にしても構いません。200万円の全額返金にも応じます」との言質を取ることが出来た。
やったー、とゆみこが喜んだのはもちろんだが、ゆみこは、協力出版と銘打って、その実、本を作ることによって利益を出している出版社に対する強い義憤と悪質商法にだまされる被害者をださないようにとの思いは抑えることが出来なかった。
そんなある日の夕食の時である。
「お母さん。社会に対して言いたい事がたくさんあるんでしょ。それならブログをやってみない?」
娘の繭子が言った。
「えっ。ブログってあの何か日記みたいなもの?でもどうやって設定するのかわからないし。私はアナログ人間だから・・・・」
ゆみこは躊躇した。
「そんなに難しくはないわよ。お母さんは社会に対して言いたい事がいっぱいあるんだから、ブログでそれを発言したらいいと思うわ」
繭子は嬉しそうに言った。
・・・・・・・・・・
翌日の昼は日曜だった。
繭子は朝からパソコンをカチカチやっていた。
「繭子ちゃん。何やっているの?」
「へへ。いいこと」
1時間くらい経った。
「出来たわよ」
娘が大きな声で言った。
「どうしたの。何が出来たの?」
昼食の準備をしていた、ゆみこが娘のいじっていたパソコンを覗き込んだ。
「へへへ。お母さん。ブログの設定をしちゃったわよ。お母さんのブログよ」
「まあ、繭子ちゃん。そんな勝手にしないでよ」
「でももう設定しちゃったもん。まだ公開していないからタイトルやカテゴリーやプロフィールはお母さんが決めて」
しょうがないわね、と言いながらも、もう乗りかかった舟である。
ゆみこは、娘に教えてもらいながらブログを始める決意をした。
タイトルは。
エート。
何としようかしら?
ゆみこはストレートの美しい黒髪を掻きむしりながら考えた。
「ヒステリー女のブログ」「ザ・女瞬間湯沸し器」「独蜘蛛おばさんの批判箱」などなど。
いくつか考えたが「独蜘蛛おばさんの批判箱」で決定した。
名前は実名の「松田ゆみこ」にした。
プロフィールは以下のように書いた。
「北海道十勝地方在住。蜘蛛や野鳥、野生動物など自然に広く関心を持ち、自然保護活動に関わっています。寒いのは苦手ですが、北国の雄大な自然が大好きです。十勝自然保護協会会員。日本蜘蛛学会会員」
こうして松田ゆみこのブログ「毒蜘蛛おばさんの批判箱」が出来た。
一旦ブログが出来てしまえば、あとは記事のタイトルを決めて、記事をかけばいいだけだった。
ゆみこは自分が関わった文興社だけではなく共同出版・協力出版・共創出版などと名乗っている出版社すべての動向を調べて記事にしていった。
ネット上でいくつもある掲示板で匿名で文興社の批判を書く人はたくさん居たが、それらはみな感情的な幼稚な悪口ばかりだった。
その中で実名を出して、しっかりと読むに耐える記事を書いているのは、日本で、松田ゆみこ一人だけだった。
ゆみこは文興社にだまされた被害者ではない。
ゆみこが出版の仮契約をしていた、父の遺稿・山の挽歌、は、契約解除することが出来、200万円の全額を文興社に支払うことなく済んだのであるから。
しかし、ゆみこは正義感が強く度胸があったので、自分の恨みを書きなぐるのではなく、冷静に、協力出版の問題点を書いた。
そして、excite blogで、「共同出版・自費出版の被害をなくす会」というブログをも開設した。
ゆみことしては、協力出版をしている出版社を潰そうという意図は全く無く、原稿を投稿しようとする出版に疎い素人を錯誤するようなことは止めて欲しい、という思いだった。
ゆみこは記事に対して誰からでもコメントを受け入れるように、コメントをオープンにした。
しかし、ゆみこの記事に文興社は怒り狂った。
文興社は黙っていなかった。
・・・・・・・・・・・
ある日、日本蜘蛛学会会員からニュースレター「遊絲」が来た。
日本蜘蛛学会は会員220人の小規模学会である。
「この度、札幌市で活動報告を兼ねた懇親会を催したいと思っております。会員の方は奮って御参加ください」
と書かれてあった。
ゆみこは返信用ハガキの「出席」の方に〇をして投函した。
当日。ゆみこは質素倹約をモットーにしているので、白のリネンタッチトップスと青いスカートでANA Crowne Plazaホテル千歳へ行った。
一階の宴会場には、すでに20人ほどの学会員が来ていた。
ゆみこは実名でブログを出している上、元ミス日本で、その美しさは、アラサーになった今でも色あせていないので日本蜘蛛学会では皆の人気者だった。
「やあ。松田さん。お久しぶり」
「ブログ拝見していますよ。えりもの森裁判、サホロ岳ナキウサギ裁判に次ぎ、今度は、共同出版批判ですか。いやあ。松田さんは勇気があるお方だ。文興社から何か嫌がらせをされていませんか?」
「皆様。心配して下さって有難うございます。しかし大丈夫です。日本は言論の自由が保障されています。私は公共の福祉を目的として批判記事を書いています。向こうも言論には言論で対応してくるでしょう」
と堂々と言った。
そのように、ゆみこは悪いことは悪い、と物怖じせず堂々と言う性格だった。
日本蜘蛛学会の会合が終わった帰り。
・・・・・・・・・・・・
ゆみこは路上でタバコを吸ってる、北海道一の札付きの不良高校、北悪道工業高校の生徒10名を見かけ、
「あなた達、高校生でしょ。タバコは止めなさい」
と果敢にも注意したところ、リーゼントにサングラスの不良生徒達は立ち上がって、ゆみこに詰め寄った。
「なんやと。オバハン。われ。ええ度胸しとるやんけ。わしらを誰だちゅう思うとるねん」
と何故か北海道なのに関西弁ですごまれて、腕をつかまれたが、
「離しなさい」
とゆみこは毅然と注意した。それに怒った不良どもはゆみこを取り囲んだ。
「へへ。いいケツしてるやんけ」
一人がゆみこの尻をいやらしい手つきで触った。
「このチンピラ不良どもー」
ゆみこは、天地が裂けんばかりの声で怒鳴って、腕を掴んでいる前の男に思い切り膝で金蹴りを食らわせた。それが見事に命中し、男は、「うぎゃー」と叫び、玉を押えてピョンピョン跳ね回り、地面を這い回って悶え苦しんだ。大切な玉が潰れてしまったかもしれない。ゆみこの怒髪天を突くような声と虎のような眼差しに、不良達は、怖れをなして、スゴスゴと逃げてしまった。ゆみこはパッパッと服を掃って、唖然としている衆人をあとに、その場を去ろうとした。その時、一人の男がゆみこに駆け寄ってきた。
「あなたのド迫力に感服しました。どうか我が全日本女子プロレスに入って頂けないでしょうか」
声を掛けてきたのは、ヒール(悪役)がなく、今一人気がでない全日本女子プロレスのスカウトマンだった。
「いえ。私はか弱い女で、とても運動は出来ません」
と丁重に断わった。その日、ゆみこは家に帰ってから、「高校生の喫煙について」と題してブログ記事を書いて投稿した事は言うまでもない。
ゆみこは文興社に限らず共同出版をしている出版社、すべての動向を注意深く見て記事にしていった。
しかしその中でも文興社が一番、悪質なのがわかってきた。
尾崎浩二氏という無名の自称ジャーナリストが「危ない!共同出版」という本を出版した。
ゆみこは、共同出版を批判する正義感のある人もいるのだな、と感心してその本を買って読んでみた。しかし驚いたことに「危ない!共同出版」では共同出版社すべてを公正・中立な立場から批判しているのではなかった。しかもページ数もごくわずかだった。「危ない!共同出版」ではもっぱら新〇舎だけを批判していて、他の共同出版社の批判は全くなかった。新〇舎は自社ビルを持っておらず、貸しビルにテナント料を払って共同出版をしていた。しかしこの「危ない!共同出版」やネットの掲示板での新〇舎批判によって、新〇舎に原稿を投稿する者の数は激減し、新〇舎は高額なテナント料を支払うことが出来なくなってしまって倒産した。出版社が倒産してしまっては出版社から協力出版で出版している著者たちの本は発売出来なくなってしまう。そこで新〇舎の著者たちの本を発売できるようにと新〇舎は文興社に事業譲渡した。そして尾崎浩二氏はリタイアメント情報センターという協力出版に関する相談をするNPO法人の所長になった。しかしこのリタイアメント情報センターは文興社の傘下の組織であった。文興社は尾崎浩二という者を使い新〇舎を倒産させ、新〇舎の著者たちの本を全部、文興社から出版を継続して出来るようにしようと文興社は最初から計画していたのである。そして、その通りになった。リタイアメント情報センターはうわべは、協力出版・自費出版に関する相談をするという名目だが、実質的には、すべての相談者を文興社から出版することを、言葉巧み勧める組織なのである。つまりこれは文興社にとって協力出版社の競争社である新〇舎を潰し協力出版社は文興社一社にしようという文興社の計画だったのである。それ以外でも文興社の悪質商法は数えきれないほどたくさんあった。

ある時、ゆみこに柴田晴郎という歴史に詳しい男からメールが届いた。
それには、「あなたの主張に賛同しました。私は本の出版にある程度くわしいので、出版に関してわからないことがあったら何でも聞いて下さい」と言ってきた。ゆみこも初めは柴田晴郎を信じた。しかし柴田晴郎は実は文興社の工作員で、ゆみこの貴重な時間を奪って、ゆみこに多大な労力を払わせて疲労させるのが目的だったのである。

ゆみこは、協力出版の問題を、ブログで、ひるむことなく批判し続けた。
ゆみこは、文興社に「共同出版と銘打って文興社に出版権のある本をつくり、著者から本の制作費の一部と言って法外な金額を取って、本を売ることによってではなく、本を制作する費用によって利益を得て経営している貴社の商法は錯誤的、詐欺的商法であると思います。泣き寝入りしている著者もたくさんいます。それは間違っているのではないでしょうか?」という内容の公開質問状を送った。
しかし文興社は良心のカケラも無い悪質な人間ばかりなので、ゆみこの質問状は無視した。
文興社はゆみこに対し匿名でウイルスメールを送ったり、さらには営業妨害だからブログの文興社批判の記事は削除するように言ってきた。
しかし、ゆみこは気性の強い女だったので、文興社の悪質な要求にひるむことなく、ブログで文興社を批判し続けた。
・・・・・・・・・・・・・
2010年の7月7日のことである。
風呂の蛇口をひねったがお湯が出てこなかった。
ガスはつく。
どうしてだろうと思って、ゆみこは、風呂のお湯の栓を開けたまま、家の外に出て給湯器を見てみた。すると給湯器は動いていなかった。
給湯器は20年前に設置したものなので、もう寿命になったのだろう。
ゆみこは急いで、給湯器交換業者に電話した。
「もしもし。給湯器が故障してしまったのですが、見ていただけないでしょうか?」
「はい。わかりました。今、使っている給湯器はいつ設置したのですか?」
「20年前です」
「音はなりますか?」
「いいえ。全く鳴りません」
「そうですか。給湯器の寿命は10年が目途です。まず寿命で交換時期だと思います。7万円ほどの給湯器がありますから、交換ということでよろしいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願い致します」
10分ほどで給湯器交換業者が来た。
修理人は給湯器を開いた。
中は激しく劣化していた。
「やはり、もう寿命ですね。交換しかないですね。新しい給湯器は7万円ほどですが、交換でよろしいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願いします」
「では交換にとりかかります。交換には1時間ほどかかりますので、家の中で待っていて下さい」
と修理人は言った。
修理人は給湯器の交換の作業を始めた。
心の優しいゆみこは、
「素早い対応を有難うございます。お茶とお菓子を召し上がって下さい」
と言って、盆の茶と和菓子を載せて、修理人の前に置いた。
すると修理人は、
「これはこれは、どうも有難うございます」
と言って、由美子の差し出した茶を飲んだ。しかし修理人は茶を飲み終わると、人が変わったように素早い手つきで、サッと懐からタオルを取り出して、いきなり由美子の口に当てた。
「な、何をするんですか?」
修理人の、いきなりの訳の分からない行為に、ゆみこは大声を出して抵抗した。
しかしなぜか急激な眠気がゆみこを襲ってきて、ゆみこの意識は薄れていった。

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協力出版物語(小説)(下)

2024-09-24 11:00:16 | 小説
(2)

由美子は目を覚ました。
見知らぬ、どこかの部屋の一室だった。
見知らぬ大勢の男たちが、由美子を取り囲んでタバコを吹かしながら、ニヤニヤ由美子に視線を向けていた。
「ここはどこ?あなた達は一体、誰なのですか?」
由美子は回りの男たちを見まわしながら、おびえながら言った。
「何処だと思う?」
一人の男が、薄ら笑いを浮かべながら由美子をからかうように聞いた。
「わ、わかりません。教えて下さい」
由美子は高まってくる心臓の鼓動を感じながら聞いた。
「ふふふ。教えてやろう。ここは東京の文興社の本社の社長室さ」
男はふてぶてしい口調で言った。
「な、なぜ私が東京の文興社の本社に居るのですか?」
由美子の不安は募っていき、得体の知れない恐怖から、その声は震えていた。
由美子には、さっぱり訳が分からなかった。
由美子の記憶にあるのは、北海道の自宅にいた時、給湯器が故障して修理の人が来てくれて給湯器を交換してくれた時のことが、記憶している直近のことだった。
心の優しい由美子は、修理人に、「お疲れでしょう。お茶とお菓子を召し上がって下さい」と言って、盆の茶と和菓子を載せて、修理人の前に置いたのである。
修理人は、「これはこれは、どうも有難うございます」と言って、由美子の差し出した茶を飲んだ。修理人は茶を飲み終わると、素早い手つきで、サッと懐からタオルを取り出して由美子の口に当てた。「な、何をするんですか?」庭師の、いきなりの訳の分からない行為に対して大声を出したのが、由美子が覚えている最後の記憶だった。その後、由美子は気を失ってしまったのである。
それが、どうして今、自分が東京の新宿の文興社の本社に居るのか、由美子には、さっぱりわからなかった。
「ふふふ。教えてやろう。確かにあの給湯器は20年前に設置された物だが、まだ使えたんだ。しかし、わざと故障させて使えなくしたんだよ。そして、あの給湯器の修理人に100万円と引き換えに、ある仕事を頼んだのさ。給湯器の取り付けの、合間に、お前の口をタオルで塞げと。あのタオルにはクロロホルムがたっぷり沁み込んでいたのさ。我が社の社員が3人、車でお前の家の近くに、ひかえていたのさ。眠ってしまったお前を、車に乗せ、北海道から青函トンネルを抜け、東北自動車道を走らせて、お前をここまで連れてきたってわけさ」
男は勝ち誇ったように言った。
「な、何でそんなことをしたのですか。これは犯罪ですよ。私は警察に訴えます」
由美子は男たちをにらみつけて激しい口調で言った。
「何でそんなことをするのですか、だとよ。トロい女だな。そんなこともわからないのか?」
男が言うと、皆が、わっははは、と嘲るように笑った。
「本当にお前を拉致した理由が分からないのか?」
男が念を押して確かめるように聞いた。
「わ、わかりません」
由美子は堂々と言った。
「トロい女だな。じゃあ教えてやるぜ。お前は我が社に何をした?」
男は余裕の口調で、口元を歪めながら言った。
「な、何って何でしょうか、私は何も違法なことはしていません」
由美子はキッパリと言った。
「ふざけるんじゃないよ。お前はブログやJANJAN記事で、さんざん、我が社の信用を落としてきたじゃねえか」
男は怒鳴りつけるように言った。
男は続けて言った。
「お前が2007年にブログを始めて、我が社を批判する記事を書くようになってから、我が社に送られて来る原稿が、それまでの1/3までに減ってしまったんだ。全部お前のせいだ。お前は自分のしたことが、とんでもない営業妨害の名誉棄損だということが、わからないのか?」
男は怒鳴りつけるように言った。
それは違います、と由美子は言った。
「た、確かに私は、2007年にブログを始めて、文興社に対して批判的な記事を書いてきました。しかし私は、事実を調べて事実を書いてきただけです。公共の福祉に反していませんから、私の書いてきた記事は、営業妨害でも名誉棄損でもありません」
由美子はキッパリと言った。
「ふざけんじゃねえ」
窓際に居た別の男が怒鳴りつけた。
「何が営業妨害でも名誉棄損ないだ。これは立派な営業妨害だ」
男は口角泡を飛ばして言った。
「そうだ。そうだ。これは営業妨害、名誉棄損いがいの何物でもないぞ」
男はドスの効いた声で恫喝的に言った。
その場に居合わせた、みな、男と同じことを唱和した。
由美子は文興社の無法な態度に驚いた。
「と、ところで、なぜ私にクロロホルムを嗅がせたり、意識のない私を車で輸送したりしたのですか。これこそ完全な犯罪ですよ」
由美子は理路整然とした態度で言った。
「その理由がわからねーか?」
男が由美子を小ばかにするような口調で言った。
「わかりません」
由美子はキッパリと言った。
「やれやれ。トロい女だな。わからねーなら教えてやるよ。我が社に対する、お前の営業妨害、名誉棄損のオトシマエをつけさせるためさ。俺たちに詫びを入れさせるためさ」
ここに至って、由美子は文興社のアクドサに気づいた。
「あなた達は卑劣です。あなた達のしていることは犯罪です」
由美子はキッパリと言った。
「わかってねーな。俺たちは法を守ろう、なんて気持ちはカケラも持ち合わせていないんだぜ」
男は堂々と言った。
「卑劣です。あなた達は卑劣です」
由美子は腹から声を振り絞って立て続けに叫んだ。
しかし、文興社の社員たちは、由美子の訴えなど、どこ吹く風といった様子だった。
「おい。この女の詫び、まず何からする?」
男が皆を見回して言った。
「決まってんだろ。今まで散々、煮え湯を飲まされてきたんだ。まず素っ裸になって、オレ達の前で裸踊りをしてもらおうじゃねえか」
一人の男が言うと他の男たちも、おう、そうだそうだ、と言い囃した。
裸踊りと聞いて、咄嗟にそのイメージが由美子の頭に映って、由美子はぞっとして全身に鳥肌が立った。
「おう。由美子。まず着ている服を全部、脱いで、素っ裸になりな」
男が恫喝的な口調で言った。
「ほら。早く脱げ」
皆が囃し立てた。
「嫌です。そんなこと。あなた達は人間としての良心というものは無いのですか」
由美子は目を吊り上げて言った。
「強情な女だ。自分で脱ぐのが嫌というのならオレ達が脱がすまでだぞ」
一人の男が言った。
「それが嫌ならオレ達でお前を素っ裸にして浣腸するぞ」
別の男が言った。
一人の男が大きな、1000mlのガラス製浣腸器と、ぬるま湯で満たされた大きな洗面器を由美子の前に置いた。
「ふふふ。この洗面器には1リットルのグリセリンが入っているぜ。お前が自分で服を脱がない、というのなら、お前を俺たちが脱がせ、後ろ手に縛り、四つん這いのポーズにして、こいつを全部、お前の尻の穴に注ぎ込んでやる」
「ふふふ。1リットル全部、注ぎ込んでやる。そしてトイレには行かせないぜ。お前は便を排泄したい苦しい欲求に耐えるか、オレ達の前で、クソを大量にぶちまける、かのどっちかだ。お前が苦しみ、のたうち回る姿、そしてクソをぶちまける姿、をしっかりビデオに撮ってやる」
男たちが由美子に、そんな脅しをした。
由美子は、なかなか決断がつかなかった。
悪魔たちは実際、それをやるだろう。
由美子は、ぞっとしてすくんでしまった。
由美子は眉を寄せて、渋面で悩んでいた。
由美子は今まで、夫いがいの男に体を見られたことは一度もない。
その由美子が迷う姿を見るのも、悪魔たちにとっては、この上ない楽しみだった。
健全で自然や動物を愛する由美子にとってSМプレイなどというものは、訳の分からない、頭のおかしな人間のする行為としか思えなかった。
由美子も子供の頃、便秘になったことがあり、自分で浣腸した経験はあった。
誰に見られているわけでもなく、イチジク浣腸、1本だったが、尻の穴に、プスッとイチジク浣腸の茎を差し込む恥ずかしさ、そして液体を注ぎ込む恥ずかしさ、そして苦しい便意が起こってきた経験はしているので、浣腸の苦しさは知っている。衆人環視の中、四つん這いにされ、大きな浣腸器で浣腸され、悶え苦しんだ挙句、一気に便を排泄するのを見られ、さらに、それをビデオで撮影される恥ずかしさには、とても耐えられなかった。
しかも文興社の悪質商法をブログ記事で批判してきた、その社員たちの前で裸になることなど屈辱の極みだった。
「ふふふ。脱がないというのなら浣腸だな」
そう言って、決断できず迷っている由美子に男たちが近づいてきた。
「ま、待って」
由美子が制した。
男たちの足がピタリと止まった。
「どうした?」
男たちは、せせら笑って立ち止まった。
「ぬ、脱ぎます」
由美子は、とうとう観念して、顔を真っ赤にして、小さな声で言った。
由美子は今まで手厳しく文興社批判のブログ記事を書いてきた。
社長の瓜谷綱延にまで公開質問状を送りもした。
当然、由美子は、文興社は自分のことを快く思っていなく、目障り極まりない存在と思っていることは容易に推測できた。文興社と由美子は敵対関係だった。
由美子は、文興社に騙されて、法外な金を払って、文興社から著者として本を出版した被害者ではない。なので文興社に恨みはない。協力出版と銘打って、著者を心地の良い言葉でおだて、本の制作費用といって儲けるアクドイ商法の犠牲者を無くしたいという、正義感から文興社批判の記事を書いてきたのである。版権が文興社にあるから、契約を交わして金を受けとったら、もう文興社は、著者の本を裁断処分しようが、どうしようが一向に構わないのである。
むしろ、文興社は月に500冊も協力出版本を出版するので、倉庫代がかさみ、そしてそもそもプロ作家でない無名の一般人の本など、売れないのである。なので、宣伝など全くせず、宣伝は自分でやれ、それで、友人、親戚、知人なと数人は買うだろう。あとは、倉庫代がかさむから、裁断処分にする、というのが、文興社商法なのである。由美子は文興社に騙されそうになった時、真っ先に考えたのは、この悪質商法での被害者を無くさなくては、という強い正義感であり、悪質商法に騙されて泣いている著者たちに対する憐憫、慈愛の念であり、これ以上、文興社の悪質商法に騙される被害者を出してはならない、という強い正義感だった。
しかし由美子は、天使のように心が優しいので、悪を憎んで人を憎まず、であり、文興社を憎んではいなかった。しかし文興社の社員たちは、良心のカケラも持ち合わせていない外道の集まりだったのである。そのため、由美子のブログには、文興社からの嫌がらせのコメントが、多く書き込まれた。さらに柴田晴郎などという、実名の人間を使って由美子に、散々な嫌がらせ、をしたのである。
由美子は膨大な時間と手間をかけて、それらの嫌がらせに対応した。
そういう辛抱強さも由美子は持っていた。
しかし由美子は人間を信じていた。
どんなに文興社が自分を嫌っていても、文興社も言論には言論で対応してくるだろうと確信していたのである。
しかし現実は違った。ことを由美子は今、思い知らされた。
文興社は犯罪をも何とも思わない、無法者の集団だったのである。
「ほら。由美子。脱ぐ、と言っただろう。早くとっとと服を脱げ」
男が吐き捨てるように言った。
「ほら。早く脱ぎな。脱がないと、オレ達が強引に脱がして、浣腸するぞ」
グリセリン液のたっぷり入った浣腸器を持っていた男が、立ち上がって由美子に近づいてきた。
「わ、わかりました。ぬ、脱ぎます」
由美子は声を震わせながら言った。
由美子は横座りしたまま、着ていたジャケットを、手をブルブル震わせながら、取った。
これで由美子は、ロングスカートに、白いシャツという姿となった。
シャツの下には、豊満な乳房を納めたブラジャーの輪郭が、クッキリと見えた。
二つの大きな果実を納めたブラジャーは内側から白いシャツを力強く押し上げて、シャツに二つの仲良く並んだ、こんもりとした盛り上がりを形作っていた。
「おおー。すげー、おっぱいじゃねえか」
男たちは、思わずゴクリと唾を呑み込んだ。
中には、もうすでに、股間がテントを張っている者もいた。
「おい。シャツも脱いで、スカートも脱ぐんだ」
男が言った。
由美子は、ワナワナと手を震わせながら、シャツのボタンを上から外していった。
シャツの内側からは、胸の上に仲良く並んで、張りついている二つの乳房を、窮屈そうに納めて、形よく盛り上がっている、白いブラジャーの二つの膨らみが、顕わになった。
「おい。由美子。シャツをとれ。そしてスカートも降ろせ」
男が言った。
由美子は今にも泣き出しそうな、哀愁のある憂いの表情で、シャツを腕から抜きとって外した。そして、中腰になり、スカートのホックを外し、スカート下げて、足から抜きとった。
悪魔どもの命令には逆らえないと覚悟が出来ていたのである。
スカートを降ろしたことによって、ムッチリとした、大きな尻の肉を納めて、股間に貼りついている、由美子の白いパンティーが露わになった。
由美子はスカートを抜きとると、必死で両手で胸の膨らみを押さえながら、ペタンと座り込んでしまった。
由美子は今にも泣き出しそうな感じだった。
無理もない。
今まで、散々、強気にブログ記事で批判してきた文興社の男たちに、乳房と尻の肉を覆い隠すだけの下着姿で取り囲まれているのである。
どうして、こんな屈辱にか弱い女の精神が耐えられよう。
しかし、男たちは、そんな由美子の心を見透かしているかの如く、ことさら意地悪く、ニヤニヤと、ピッチリと閉じ合わせた由美子の体に、いやらしい視線を向けている。
「ふふふ。どうだ。由美子。今の気持ちは?」
ポタリ。
由美子の目から、キラリと光る一筋の涙が頬を伝わって流れた。
「おい。由美子。こんなことで泣くくらいなら、女の分際で、オレ達に戦いを挑もうなんて考えるんじゃねーよ」
「お前もバカなヤツだぜ。女のクセにオレ達をコケにしよう、なんて大それた事をするから、こんなザマになるんだぜ」
悪魔たちは、由美子を徹底的に貶めるような言葉を吐きかけた。
由美子は、太腿をピッチリと閉じ、両手で胸の膨らみをヒシッと覆うことによって、狂せんばかりの屈辱に耐えた。
普通の女なら、とっくに泣き崩れていただろう。
人並みはずれた強靭な精神の由美子だから、こんな屈辱にも、かろうじて耐えれたのである。
しばしの時間が流れた。
由美子は、この屈辱的な姿を見られることで、悪魔たちの、復讐の炎が消え、彼らの溜飲が下がることを、祈るように期待した。
しかし事態はそうは動かなかった。
「おい。由美子。座ってじっとしていないで、立ち上がれ。お前の下着の立ち姿を見せろ」
男の一人が言った。
「由美子。さあ。立ちな。下着を着ているから恥ずかしくはないだろう」
「お前の立ち姿を見たら、予定していた、裸踊りは勘弁してやるぜ」
最後の発言が由美子の心を動かした。
下着姿を見ることで、彼らの溜飲が下がるのなら・・・
自分の下着姿を見ることで彼らが満足するのなら・・・
そう思って、由美子は、横座りから、ゆっくりと立ち上がった。
ヒシッと胸の二つの膨らみを覆っている白いブラジャーを覆い隠していた両手の一方を、パンティーの谷間に当てた。
それでも恥肉を納めて盛り上がっている女の部分であるビーナスの丘は隠しきれなかったが。
由美子は片手で胸の膨らみを覆い、片手で恥部を覆った。
それは、ボッティチェリのビーナスの誕生の図だった。
由美子の白いパンティーと白いブラジャーだけの下着姿は美しかった。
華奢な肩、細い腕、見事にくびれた腰。その割には、豊満な胸の膨らみと、大きな尻、それに続く大きな太腿。まさに理想のプロポーションであり、グラビアアイドルとして、週刊誌の表紙を飾っても何ら不思議ではなかった。
下着姿を見られることは恥ずかしかったが、下着姿はビキニと同じように、女の恥ずかしい所を隠している。
由美子は、彼らが自分の下着姿を見ることで、彼らの溜飲が下がって、解放されるのなら、それに甘んじよう、と思った。
彼らの視線は女の恥肉を納めて、こんもりと盛り上がっている、ビーナスの丘に集中していた。
「おお。何て美しい体つきだ」
「何て大きな尻なんだ」
「何て大きな太腿なんだ。しがみついて頬ずりしたいな」
男たちの発言は、由美子をおとしめ、嘲笑するものから、由美子の肉体美を賛美するものに変わっていた。
無理もない。
由美子は大学1年の夏、友達に誘われて、海水浴場に行ったことがあるが、その時、由美子は友達が選んでくれた、ビキニを着て、浜辺の出た経験があるのだが、由美子は海水浴場にいる男たち全員の激しい、食い入るように向けられた視線を痛いほど感じたのである。
「おー。ハクイ女」
「女優かグラビアアイドルじゃねーか」
という声も聞こえてきた。
由美子は恥ずかしくなって、友人の手をヒシッと掴んで、友人に頼んで、ビーチの端の方の、人があまりいない所にビニールシートを敷いてもらって、日光浴をした経験があるのだが、海水浴場の男たち全員の視線は由美子に集まっていた。
由美子がビキニを着て、衆人の前に、ビキニに覆われているとはいえ裸同然の体を晒すのは、恥ずかしいくはあったが、自分の肉体が、海水浴場の男たちを惹きつけていることに、ほの甘い、心地よい快感が起こっていたことも事実だった。
今、由美子はそれと同じ気分だった。
男たちに取り囲まれて、下着姿をまじまじと見られているのは屈辱とはいえ、それで彼らが満足して、それで放免されるのなら、それもよかろう、という気持ちに由美子は変わっていたのである。
しばしの沈黙の時間が経った。
(さあ。私の下着姿を見ることで満足できるのなら、見るがいいわ)
由美子は、そんな優越感に浸っていた。
しかし、この後のストーリーは、由美子の予想していた展開にはならなかった。
由美子の背後にいた文興社の社員が二人、由美子に気づかれないよう、抜き足差し足で由美子に近づいてきたのである。
由美子はそれに気づいていない。
男の一人が、素早く由美子のブラジャーのホックをプチンと外してしまったのである。
豊満な由美子の乳房を包んでいた、ブラジャーがその弾力を失って、一気に収縮した。
そして男はブラジャーの肩紐を肩から外してしまった。
肩紐はブラジャーを由美子の体に取りつけている機能を失って、肘の辺りに、だらしなく、引っ掛かっているだけの状態になった。
「ああっ。な、何をするの?」
由美子は思わず、大声で叫んだ。
由美子は、何とかブラジャーが落ちてしまわないように、必死で両手でブラジャーを押さえた。
と、その時。
由美子の背後に居た、もう一人の男が、素早く、由美子のパンティーを掴んで、一気に、サーと引き下げてしまったのである。
「ああっ」
由美子は、こういう時には女は誰でもするように、反射的に両手でアソコを隠した。
男の一人は、由美子の肘が伸びたのをいいことに、由美子のブラジャーの肩紐を由美子の腕から抜きとってしまった。
もう一人の男は、由美子のパンティーを足首まで引き下げ、足首を持ち上げて、足から抜きとってしまった。
一瞬のことだった。
これで由美子はブラジャーもパンティーもむしり取られて、一糸まとわぬ丸裸になってしまった。
由美子は乳房とアソコを手で隠しながら、クナクナと座り込んでしまった。
「あっははは」
部屋にいる男たち全員が嘲笑した。
「卑劣だわ。あなた達は卑劣だわ」
由美子は涙まじりに言った。
「ふふふ。由美子。セクシーな下着姿をオレ達に見せつけて、いい気になっていたようだが、残念だったな」
男が言った。
「ふふふ。由美子。たかが下着の立ち姿を見ただけで、お前のしてきた営業妨害をチャラにしてやろう、なんてオレ達が思うわけがねえんだよ」
「ふふふ。最初っから、こういうふうに、お前に期待をもたせて、いい気持ちにさせておいて、そして、貶めてやろう、という計画を立てていたのさ」
悪魔たちは、そう言って、あっははは、と哄笑した。
由美子は文興社の社員たちの、卑劣さを、あらためて実感した。
もう由美子は文興社の社員たちの言う事を絶対、信じない確信をもった。
由美子からブラジャーとパンティーをとった男は、由美子のパンティーを調べ出した。
パンティーを裏返して、体に触れている面を出した。
パンティーのクロッチ部分には、うっすらと黄色がかった一条の線の跡が見えた。
男は由美子のパンティーを、突きつけるように差し出して、
「おい。由美子。この染みは何だ?」
と聞いた。
由美子は、それを見ると真っ赤になった。
「おい。由美子。この染みは何だ、と聞いているんだ」
由美子が答えないので男は再度、恫喝的な口調で聞いた。
しかし由美子は答えられない。当然である。花も恥じらう乙女の由美子に、そんなことを答えられるはずがない。答えられないことを知った上で、悪魔どもは由美子に意地の悪い質問をしているのである。
由美子は顔を真っ赤にして俯いている。
「やれやれ。オレ達に戦いを挑もうという、のなら、パンティーにオシッコの跡なんて、つけちゃいけねーぜ。子供じゃねーんだから」
男はそんな揶揄をした。
由美子は真っ赤になった。
「どれ、匂いを嗅いでみるか。勇ましい女戦士のパンティーの匂いを」
そう言って男は由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を近づけた。
「や、やめてー」
黙っていた由美子が、羞恥心に耐えきれず、叫んだ。
しかし悪魔たちは、由美子の叫びなど、どこ吹く風と聞く耳など持たない。
悪魔たちは、ニヤニヤ笑いながら、裏返した由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
そしてクンクンと鼻をヒクつかせた。
「おおー。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
男はことさら由美子を貶めるように、大きな声で言った。
「女はマンコの中までは洗わないんだよ。何故だか知っているか?」
隣にいた文興社の社員が聞いた。
「知らなかった。なぜ洗わないんだ?」
悪魔男が聞き返した。
「女の膣内にはデーデルライン桿菌という菌があってな。それがグリコーゲンから乳酸を作っているんだよ。そのため膣内がpHが5.0くらいに保たれていて、それが雑菌の侵入を防いでいるんだよ。それが膣や子宮を雑菌から守っているんだよ。だから女は膣の中までは決して洗わないんだよ」
男が説明した。
「ふーん。そうだったのか。知らなかったぜ。男は、毎日、包皮を剝いて亀頭についた恥垢をちゃんと洗って清潔にしているというのにな。女って不潔なんだな」
悪魔たちは感心したように言った。
そして、なぜ由美子がパンティーを嗅がれそうになった時、声に出して嫌がったかを理解した。
「おい。オレにもパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」
「オレにも」
「オレにも」
男たちが騒めき始めた。
「おい。由美子。パンティーを返してほしいか?」
男が聞いた。
「か、返して下さい」
由美子は泣きじゃくりながら言った。
「だったら、ここまで取りに来な」
そう言って男は由美子のパンティーをつまんだ手を由美子の方に伸ばした。
パンティーは男の手から、物憂げにダランと垂れていた。
由美子は、乳房とアソコを手で隠しながら、ゆっくりと立ち上がり、ヨロヨロと覚束ない足取りで、男の方に歩み寄った。
その時、反対側にいた男が、「おい。オレにも由美子のパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」と言った。
由美子は男の持っている自分のパンティーをとろうと手を伸ばした。
すると男はサッと手を引っ込めた。
「ああっ」
由美子はパンティーを取れず困惑した。
「ふふふ。あいつがお前のパンティーの匂いを嗅ぎたいと言っているんだ。残念だったな」
と男はふてぶてしい口調で言った。
男は由美子のパンティーをクシャクシャと丸め、ほーらよ、と言って、反対側の男に投げた。
小さく丸まった由美子のパンティーは部屋の中の宙を飛び、反対側の男の手にキャッチされた。
パンティーを受けとった男は、由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
そしてクンクンと鼻をヒクつかせた。
「おおー。本当だ。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
男はことさら由美子を貶めるように、大きな声で言った。
そしてパンティーを投げた男と同様に、
「おい。由美子。パンティーを返してやるぜ。オレはウソは言わない。だから、ここまで取りに来な」
そう言って、男は由美子のパンティーをつまんだ手を由美子の方に伸ばした。
由美子は頭の中がグチャグチャになってしまっていて、もう正常な判断力が無くなっていた。
そのため、「返して下さい」と言ってヨロヨロと覚束ない足取りで、男の方に歩み寄った。
その時、別の所にいた男が、「おい。オレにも由美子のパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」と言った。
男は由美子のパンティーをクシャクシャと丸め、ほーらよ、と言って、反対側の男に投げた。
小さく丸まった由美子のパンティーは部屋の中の宙を飛び、反対側の男の手にキャッチされた。
パンティーを受けとった男は、由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
ここに至って由美子は悪魔たちは、パンティーを返す気などないのだ、ということを100%確信した。
「うわーん」
由美子は泣きながら、床の上に座り込んでしまった。
由美子のパンティーのパス回しが部屋にいる文興社の社員たち全員に行われた。
男たちは、パンティーを受けとると、
「うわー。本当だ。オシッコの跡がついているよ」
と言ったり、クロッチ部分に鼻を当てて、パンティーの匂いを嗅いで、
「うわー。本当だ。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
と言ったりした。
由美子にとってこれ以上の屈辱はなかった。
毅然とした態度で堂々と文興社を批判するブログ記事を書いてきた由美子。
文興社の反論や嫌がらせは覚悟していた、由美子だっだが、まさか、こんな非道な犯罪までするとは思っていなかったのである。
しかし悪魔どもは人間なら必ず持っているはずの良心というものを、完全に捨て去っていたのである。
「おい。由美子。お前は、こんな臭いパンティーを履きながら、オレたちを批難していたのか。恥ずかしくないのか」
などと、由美子を揶揄した。
「ふふふ。裸になったくらいで、オトシマエがついたなどと、甘ったれたことを思うなよ。お前の記事のおかげで、投稿者が1/3に減ってしまったんだ。年間の損失額は低く見積もってみても、10億だ」
「おい。由美子。オレ達をコケにした詫びを言え」
男たちは恫喝的な口調で言った。
しかし由美子に答えられるはずがない。
由美子は正当な批判記事を書いてきただけであって、悪いのは詐欺的商法をしている文興社の方なのだから。
しかし無法者どもに、そんなことは通用しない。
黙っている由美子に、男の一人が一枚の紙を放り投げた。
「おい。由美子。どうしても詫びを言わないというのなら、ここに書いてある文を読め。土下座してな」
男は恫喝的な口調で言った。
由美子はおそるおそる、その紙を開いてみた。
それは全身の毛穴から血が噴き出るかと思うほど、の屈辱的な文章だったからだ。
・・・・・・・・・・・・・
それには、こう書かれてあった。
「私、松田ゆみこは女の分際で違法なことは全くしていない文興社様をさんざん、誹謗中傷、営業妨害してきました。しかし、それが全くの誤りだと気づきました。私は自分の浅はかなワガママから文興社様に10億円の損害を出してしまいました。これは死んでも許されることではありません。私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください」
紙には、こう書かれてあった。
何という強悪な人間たちだろうと由美子は思った。
文興社の悪魔たちはクロロホルムを嗅がせて、車に乗せて拉致して文興社本社に連れ込み、その上、由美子を一糸まとわぬ丸裸にして、その姿で、屈辱的な詫びを言わせようというのだ。
由美子は一瞬、舌を噛んで死のうかと思った。
その思いは、どんとん募っていき、由美子は舌を歯で挟んで死ぬ用意をした。
もう由美子には死ぬ覚悟が出来ていた。
しかし人間が死ぬ間際には、これまで生きてきた中の様々なことが、一瞬の内に頭に浮かんでくるものである。
死を覚悟した由美子にも、それが起こっていた。
学生時代の楽しかった思い出。
文興社に父の原稿を送って騙されたこと。
ブログを始め、文興社と戦おうと思い決めて、文興社批判の記事を書き出した時のこと。
それらが走馬灯のように、由美子の頭をよぎっていった。
それらの思い出の中で、由美子の父親の姿が一際、明瞭に浮かび上がった。
由美子が物心がついた時から優しく、時には、厳しく、由美子を可愛がり、色々なことを教えてくれた父。由美子の苦手な数学を何時間もかけて教えてくれた父。
自然の美しさ、そして人の命の尊さを教えてくれた父。
由美子は父を世界一尊敬していた。
その父が末期ガンになって入院し死ぬ間際に言った言葉が明瞭に思い出されてきたのである。
余命、一カ月と告げられて以来、由美子は病院に泊まり込みで父を看病した。
「お父さん。死なないで」
病院のベッドに酸素マスクと点滴をつけられ、血圧が低下してきた父は、遺言として、由美子にこう言ったのである。
「ゆ、由美子。世の中で一番、大切なものが二つある。それが何だかわかるか?」
由美子は即座には答えられなかった。
なので父親がすぐに、その答えを言った。
「由美子。それは人の命だ。そして正義だ。この二つが人間にとって一番、大切なものだ。この二つは決して捨ててはならない。由美子。お前はこの二つを決して捨ててはならない。他人の命を大切にし、そして自分の命も大切にしろ。たとえ、どんなに苦しい過酷な目にあっても、決して死んではならない。わかったな」
「わかったわ。お父さん」
その言葉を最期に父は死んだのである。
由美子は、うわーん、と洪水のように溢れ出る涙を流して泣きながら、いつまでも死んだ父にすがりついて泣いた。
その言葉が明瞭に浮かんできたのである。
そして由美子は、今、その意味に隠された真意を理解させられた思いがした。
正義感の強い、由美子の父は、由美子がブログで文興社を批判する記事を書き出したのを止めなかった。由美子の正義感の強さも父親ゆずりなのである。
由美子は今、はっきりと悟った。
世間そして人間というものを知っていた父。
人間の善も悪も知っていた父。
一人の人間が巨大な悪の組織に戦いを挑めば、こういう事になることを父は予見していたのだ。
由美子は文興社批判の記事を書いている由美子を黙って、止めなかった父の言葉の真意を理解した。
由美子に父と交わした約束を守らねば、という思いが込み上げてきた。
死を覚悟したことで、かえって、生きることへの、ゆるぎない決意が由美子に起こった。
どんな生き恥を晒しても生きねば。
どんな屈辱にも耐えなくては。
(お父さん。私、負けないわ)
由美子は心の中で、そう呟いた。
由美子は四つん這いになった。
そして、頭を床につけて土下座した。
そして紙に書いてある文を読んだ。
「私、松田ゆみこは女の分際で違法なことは全くしていない文興社様をさんざん、誹謗中傷、営業妨害してきました。しかし、それが全くの誤りだと気づきました。私は自分の浅はかなワガママから文興社様に10億円の損害を出してしまいました。これは死んでも許されることではありません。私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください」
あっははは、と文興社の悪魔たちは哄笑した。
何という人間たちなのだろう。
自分は文興社に騙された被害者ではないのに、文興社の詐欺商法を知ったことで、これ以上、文興社に騙される被害者をなくそう、という正義感からブログ記事で実名で文興社を批判する記事を書いてきた由美子。その由美子にクロロホルムを嗅がせて、眠らせ、車に乗せて、北海道から文興社本部に連れ込んで、丸裸にして、その上、社員みなの前で、土下座させて、詫びを言わせるとは。
しかし良心を持ち合わせていない悪魔たちには、それは通用しないことだった。
「おい。由美子。裸踊りをすると言ったんだ。立って裸踊りをしろ」
男が言った。
由美子は立ち上がった。
そしてフラダンスを踊り始めた。
由美子の関心は、自然や生物、蜘蛛、社会問題などであって、おおよそ由美子は子供の頃から運動やスポーツは苦手で興味なかった。
しかし由美子は、日本蜘蛛学会の会員であり、そこで吉田順子という会員と親しくなった。
吉田順子はフラダンスをしていて、由美子にフラダンスをやってみない、と誘ったのである。
運動神経のニブい由美子にフラダンスなど興味なかったが、友達のよしみで一度、フラダンス教室に出てみたのである。
吉田順子に勧められてフラダンスを踊ってみると、これが結構、腰を使った全身運動になることがわかって、健康にも良く、由美子はフラダンス教室に通い続けることになったのである。運動神経はニブいが何事にも熱心な由美子の性格のため、由美子はフラダンスの基本をマスターしてしまった。
フラダンスは、ハワイの伝統的な歌舞音曲で、最初は男が踊っていたのだが、いつの間にか女の踊りとなった。ゆったりとした足の運び、繊細な手の動き、腰を振る踊りであり、ラフィアスカートを履いていても、腰の動きが男を悩殺するほど、美しく、男を魅惑する踊りだった。
もちろんフラダンスはブラジャーとラフィアスカートを履いて踊るものだが、今の由美子は、一糸まとわぬ丸裸である。
顕わになった豊満な由美子の乳房が揺れ、腰のくねりが悪魔たちを悩殺した。
悪魔たちは、
「ははは。どうだ。由美子。オレ達に逆らうヤツはこういう羽目になるのさ」
「もっと色っぽく腰を振れ」
などと由美子をおとしめる揶揄の言葉を吐いた。
(お父さん。私、負けないわ)
由美子は、どんなに苦しい逆境におちいっても生き抜くと、父の今際の時に誓った約束を心の中で唱えながら、一心にフラダンスを踊った。
約1時間くらい踊り続けた。
由美子は、汗だくになって、息もハアハアと荒くなって、とうとう倒れ伏してしまった。
「おい。由美子。これで放免と思ったら大間違いだからな」
悪魔たちは、そう言って、由美子の前にノートパソコンを置いた。
「おい。由美子。さぽろぐのブログと、ここログのブログに出している、148の文興社批判のブログ記事を全部、削除しろ。それと24のJANJAN記事もだ。それと、excieブログに作った共同出版・自費出版の被害をなくす会もだ」
ああ。何ということをする人間たちなのだろう。
文興社に騙されてはおらず金銭的被害は受けてはいないのに、文興社の悪質な詐欺まがいの商法を知り、これ以上、泣き寝入りする著者が出ないよう、そして文興社と著者との間でトラブルが起こらないようにと、貴重な時間を割いて、ブログ記事によって世間に文興社の行っている商法を正確に述べているだけだというのに。
悪魔どもは、それらのブログ記事を全部、消せ、というのだ。
ブログのログインパスワードは由美子しか知らないから、これは由美子にしか出来ない。
由美子はノートパソコンの電源を入れ、ログインIDとログインパスワードでさぽろぐブログにログインした。
そして、涙をハラハラと流しながら、今まで書いてきた、148もの文興社批判のブログ記事を削除していった。
由美子にとっては耐えがたいことだっだが「嫌です」と言っても、悪魔たちは暴力を振るって由美子を拷問にかけ、パスワードを聞き出すことは明白だったからだ。
さぽろぐの148の文興社批判の記事を全部、削除すると、次は、ここログの148の文興社批判のブログ記事を削除した。そして次は、JANJAN記事を削除し、次に、excieブログの「共同出版・自費出版の被害をなくす会」のブログも消した。
これによって、由美子が書いてきた、文興社批判の記事は完全に無くなってしまった。
由美子の目からは涙がとめどなく流れ続けた。
しかし悪魔たちは、もっと酷いことしか考えていなかった。
「おい。由美子。ブログに新しい記事を書け。記事のタイトルと文はここに書いてある」
そう言って文興社の悪魔たちは、由美子に紙切れを渡した。
タイトルは「文興社に対するお詫び」だった。
それにはこう書かれてあった。
「私、松田由美子は浅はかな勘違いから、見当違いの文興社批判の記事を148も書いてきました。しかし文興社は違法なことはしていません。企業が利益を追求することは当たり前のことです。私は、今まで、そんなことも分からないで文興社を批判してきました。私は今、心より自分のしてきた間違った、文興社に対する名誉棄損、営業妨害を後悔しています。私は今後、一切、文興社に対する記事は書きません」
ああ。何ということだろう。
文興社の悪魔たちは、由美子の文興社批判の記事を削除させるだけではなく、詫びの文章まで書かせようというのだ。
由美子は切れ長の美しい目から、ハラハラと涙を流しながら、渡されたメモに書いてある文章を入力していった。
「文興社に対するお詫び」というタイトルで。
「私、松田由美子は浅はかな勘違いから、見当違いの文興社批判の記事を148も書いてきました。しかし文興社は違法なことはしていません。企業が利益を追求することは当たり前のことです。私は、今まで、そんなことも分からないで文興社を批判してきました。私は今、心より自分のしてきた間違った、文興社に対する名誉棄損、営業妨害を後悔しています。私は今後、一切、文興社に対する記事は書きません」
と書いた。
「ふふふ。ざまあみろ。これで我が社は安全だ。お前のように我が社を本気で批判してくるヤツはもういないだろう。これで我が社は永遠に安全だ」
あっははは、と悪魔たちは笑った。
「ふふふ。由美子。これで済んだと思うなよ。お前のおかげで、我が社は10億の損失をこうむったんだ。それに、記事を削除したとはいえ、多くの人がお前の記事を読んで、我が社を疑うようになったからな。お前の我が社に対する批判記事をワードにコピペして保存しているヤツもいるだろう。それに、ネットで我が社を批判するヤツを説得する役の柴田晴郎も使えなくなってしまったからな」
「おい。由美子。お前はさっき(私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください)と言ったな。じゃあ、さっそくもう一度、裸踊りをしろ」
男が恫喝的な口調で言った。
何という極悪非道の集団なのだろう。
卑劣にも、自分を拉致監禁して、北海道の家から東京の文興社の本部に連れてきて、丸裸にして、詫びを言わせ、148の文興社批判のブログ記事、および、JANJAN記事を削除させ、(私が間違っていました)という文興社に対する謝罪記事をブログに書かせた、憎みても余りある文興社。
それでも、まだ気が済まず、由美子をとことん嬲ろうというのだ。
通常の人間なら精神がおかしくなってしまうだろう。
しかし、由美子の強靭な精神力が、由美子を発狂から守っていた。
しかし、由美子はどうしても裸踊りをする気にはなれなかった。
なので、乳房とアソコをヒッシと手で隠して、微動だにせず、じっとしていた。
由美子の気持ちを察してか、男が由美子に、ある発言をした。
「おい。由美子。お前も一糸まとわぬ丸裸の裸踊りはつらいだろう。オレ達にも人の情けはある。パンティーとブラジャーは返してやるから、それを身につけて、さっきのようにフラダンスをしろ」
そう言って男が由美子の前に、純白のブラジャーとパンティーを放り投げた。
由美子は堅苦しいほど誠実な性格なので、たとえ相手に力づくで言わされたとはいえ、相手の暴力に屈してしまったのは、自分の意志であり、自分の意志で言った以上、約束は守らなければいけない、という健気な信念も由美子の心の中にはあった。
(パンティーとブラジャーを着けていれば地獄の屈辱にも何とか耐えられるわ)
由美子は急いで立ち上がり、まずは右足にパンティーを通し、そして次に左足にパンティーを通した。そしてスルスルとパンティーを腰の位置まで引き上げていきパンティーを完全に履いた。
これでアソコと尻は隠された。
次に由美子はブラジャーに両腕を通して、手を背中に回して背中のホックをした。
これで二つの乳房はブラジャーの中に納まった。
その滑稽な仕草に、男たちは、あっはは、と腹をかかえて笑った。
由美子は、たとえ力づくでも、自分が約束したことは守らねば、という健気な信念から、立ち上がった。
「おい。由美子。情けで下着を身につけることを許してやったんだ。これで恥ずかしくないだろう。さあ。とっとと色っぽく腰を振って踊れ」
口惜しいが確かに彼らの言う通り、一糸まとわぬ丸裸での裸踊りは屈辱だったが、女の恥ずかしい所をしっかり隠している下着を身につけているのなら、まだ何とか耐えられた。
由美子は、またフラダンスを踊り出した。
由美子は腰をくねらせ、全身をゆったりとくねらせながら、フラダンスを踊った。
その、ゆったりとした動きは、この世のものとは思えないほど美しかった。
(パンティーとブラジャーがしっかりと私の体を覆い隠してくれている)
さっきの一糸まとわぬ丸裸の屈辱の裸踊りに比べれば、そして、その屈辱的な裸踊りをしてしまった後では、パンティーとブラジャーをしっかりと身につけて踊るフラダンスでは、屈辱感は軽減されていた。
由美子は精一杯のサービス精神をもって、一心不乱にフラダンスを踊った。
もう由美子は観客を楽しませることだけを考えているフラダンサーになりきっていた。
こうやって彼らを満足させてやれば、彼らも情にほだされて、拉致監禁したことを反省して、自分を文興社本部の部屋から解放してくれることを期待した。
そうすれば北海道の自宅へ戻れる。
(さあ。私のフラダンスをうんと鑑賞するがいいわ)
由美子はそう思いながら一心不乱にフラダンスを踊った。
文興社の社員たちも、みな黙って、誰も、由美子をおとしめる発言をする者はなく、由美子のフラダンスを心地よく鑑賞しているように、由美子には思われた。
実際、文興社の社員たちは、由美子のフラダンスに、ただただ酔い痴れているような態度だった。
由美子の念頭には文興社が自社の悪質商法を反省し、拉致監禁したことを反省し、(由美子さん。すまなかった。私たちが悪かった)と言って、全員が由美子の前に身を投げたしてくることを期待をした。
しばしの時間が経った。
由美子もフラダンスを踊り続けることに酩酊していた。
その一瞬の隙である。
文興社の社員が、一人、優雅にフラダンスを踊っている由美子に、そっと背後から忍び寄った。
彼は優雅に踊っている由美子に気づかれないよう、ハサミで由美子のパンティーの両サイドをプチン、プチンと切ってしまった。
パンティーは、由美子の腰に貼りついている機能を失って、前も後ろもダランとめくれ、そのまま床に落ちてしまった。
そして彼は、間髪を入れず、由美子のブラジャーの背中のホックの所と、両方の肩紐の所も、ハサミで、プチン、プチンと切ってしまった。
ブラジャーも由美子の胸に貼りついている機能を失って、スルリと床に落ちてしまった。
「いや―」
不意のことに、由美子はアソコを両手で隠し、ペタンと座り込んでしまった。
「あっははは」
男たちは、ここぞとばかりに腹をかかえて笑った。
「おい。由美子。お前はオレ達がお前に見とれていて、お前の健気な心情に同情して、踊りが終わったら、お前に謝罪するとでも思っていたのだろう。バカなヤツだ。お前に見とれていた態度は、あらかじめ計画しておいたお芝居だ。お前に少し希望の光を与えておいて、そして、お前を地獄に突き落とすのが最初からの狙いだったのさ」
男の一人がタバコをくゆらせて、せせら笑いながら言った。
由美子の前にある純白のパンティーとブラジャー。
それは、もう体に貼りついておく機能を失って、何の役にも立たない物でしかなくなっていた。
「おい。由美子。踊りを続けろ。もう、踊りは終わりにしてやる、とは言ってないぜ」
悪魔の一人が吐き捨てるように言った。
しかし由美子は立てなかった。
極度の絶望感と、今度は丸裸を晒して、悪魔どもの前で踊らなくてはならないかと思うと、どうしても立てなかった。
「おい。由美子。立て。裸が恥ずかしいというのなら、恥ずかしい所を隠す物をやるぜ」
そう言ってポイ、ポイ、と小さい物を由美子の前に放り投げた。
由美子は、それを見て真っ赤になった。
それはピンク色の小さな♡型のニプレスだった。
3つある。
「おい。由美子。そのニプレスを恥ずかしい所に着けな。そうすれば恥ずかしい所は隠せるぜ」
「おい。由美子。ニプレスの裏にシールが貼ってあるだろう。それを剥がしな。そこには接着剤がついているから、体に貼れば、外れることはないぜ。恥ずかしい所は隠せるぜ」
男たちは吐き捨てるように言った。
そう言われても由美子は、すぐに彼らの言うことを聞くことは出来なかった。
ニプレスは確かに乳首やアソコに貼って、女の恥ずかしい所を隠すものではあるが、それはストリップショーで着けて、女の方から男たちに、挑発的なセックスアピールをするための物である。
小さな、申し訳程度のニプレスをつけたところで、体全体として見れば、裸とほとんど変わりはない。むしろ全裸よりも、男たちの性欲を掻き立てる効果もある。
見れそうだけれど、見れないことがエロティシズムなのである。
そんな恥ずかしい物をつけさせて踊らせようとは。
由美子は悪魔たちの、執拗な嫌がらせに辟易していた。
「おい。由美子。ニプレスをつけるのか、つけないのか、どっちだ?」
男が恫喝的な口調で怒鳴りつけた。
「ニプレスをつけたくないなら、つけなくてもいいぜ。それなら全裸で踊りな」
別の男が吐き捨てるように言った。
そう言われても由美子は、どうしてもニプレスをつける気にはならなかった。
一人の男が、ツカツカと躊躇している由美子の前に歩み寄ってきた。
「そうか。ニプレスはつけたくない、というんだな」
そう言って男は、由美子の前にある、3つのニプレスを取り上げようと手を伸ばした。
その時である。
「ま、待って」
由美子は男にニプレスを取られる前に、3つのニプレスに手を伸ばして、ひったくるように掴みとった。
確かに、ニプレスはストリップショーで女の方から男たちに、挑発的なセックスアピールをするための物である。
しかし女の恥ずかしい所をギリギリに隠せる物でもあるのだ。
「そうか。ニプレスをつけるというんだな。なら早くつけろ」
男が言った。
悪魔たちは、ニプレスをつけるかどうかを由美子の判断に任せて、その決断を由美子にさせることで、由美子の狼狽する様子を楽しもうというのだ。
ここに至って由美子は、悪魔たちのヘビのような執拗さに気づかされた。
しばし迷ったが由美子は決断した。
相手は人間の良心というものを持たない悪魔たちである。
いうことを聞かなければ間違いなく、もっと酷い仕打ちをするだろう。
由美子は小さな♡型のニプレスをアソコと乳首につけた。
確かに、ニプレスの裏のシールを外すと、そこには、ネバネバした接着剤がついていて、両乳首とアソコにつけると、ニプレスは由美子の体にピタリと貼りついた。
由美子は立ち上がって、さっきと同じようにフラダンスを踊った。
両乳首とアソコをギリギリにかろうじて隠しているだけの小さな♡型のニプレスをつけている姿は全裸と変わりなく、いや全裸以上にエロチックだった。
それは悪魔たちの性欲を激しく刺激した。
悪魔たちは、激しい興奮のあまり、ハアハアと息を荒くしながら、勃起した股間をズボンを上からさすって由美子の踊りを見た。
30分くらいした。
もう日が沈んで夜中になっていた。
「よし。今日はこのくらいにしておこう。明日からも、うんと楽しめるからな」
悪魔たちの一人が言った。
「そうだな」
皆が賛同した。
「よし。じゃあ、こいつを地下室に連れていけ」
由美子は文興社の社員二人に腕をつかまれて、エレベーターで文興社のビルの地下室に連れて行かれた。
地下室にはゴリラが飼えるほどの大きな檻があった。
「さあ。入りな」
と言われて由美子は檻の中に入った。
「ふふふ。これはお前を飼うために買った檻さ。お前は死ぬまでこの檻の中で暮らすんだ」
そう言って二人の男は去って行った。
由美子は途方にくれた。
自分は一体どうなってしまうのか?
このまま悪魔たちに弄ばれて殺されてしまうのだろうか?
発狂しそうなほどの激しい不安が由美子に襲いかかった。

(3)

「うわー」
由美子は目を覚ました。
全身が汗びっしょりだった。
呼吸もハアハアと荒かった。
「松田さん。どうしたんですか。給湯器の交換は終わりましたよ。何だかひどくうなされていたようですけれど悪い夢でも見ていたんですか?」
修理人がニコニコ笑いながら聞いた。
由美子は咄嗟にスマートフォンを見た。
2010年7月7日の午後5時だった。
(はあ。夢だったのか。私は恐ろしい夢を見ていたのね。夢でよかったわ)
由美子はほっと一安心した。
「給湯器の交換をして下さって有難うございました」
由美子は修理人に礼を言って代金を払った。
・・・・・・・・・・・・
それからも由美子はブログで文興社の批判記事を書き続けた。
しかし柴田晴郎が文興社の関係者であることがわかり、文興社から柴田晴郎に関する記事を削除するように、さぽろぐが言ってきた。
削除しなければ、さぽろぐでの記事の投稿は禁止する、と言ってきたのである。
文興社が強権的にさぽろぐに圧力をかけてきたのである。
由美子はやむなくこの条件を受け入れた。
由美子にとって文興社だけではなくブログでの世の中の不正批判はもう生きていくうえで欠かせないものになっていたからである。
それで予備のため、@niftyココログにもブログを開設した。
その翌年の2011年に東日本大震災が起こり、その翌年の2012年には第二次安倍政権が発足した。
由美子は文興社批判を続けながらも、由美子は東日本大震災の東電と政府の対応を批判する記事を書き、そして安倍政権の悪政を批判する記事を書いた。
平和を愛する由美子にとって集団的自衛権を認める安保法制は我慢が出来なかったのである。
文興社は相変わらず、版権が文興社にある、著者から受けとる製作費で儲ける悪質商法を続けていたが、由美子の文興社批判のおかげで、文興社が悪質商法で儲けているということが、世間に認知され、文興社も「協力出版」の名前を使わなくなった。
由美子は2011年から、ツイッターを始めた。
2020年から起こったコロナ禍およびコロナワクチンの危険性についての記事を連日書くようになった。
文興社批判どころではない政府がワクチンと称して毒を日本全国民に打つ大変な時代になった。これから世界はどうなるのかと由美子は驚愕した。
2024年の現在でも由美子は実名の松田ゆみこの名前で、ツイッターおよび、さぽろぐ、および@niftyココログで、世の不正を糾弾する記事を書き続けている。


2024年9月16日(月)擱筆


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小説教室・ごはん学校(小説)

2024-09-09 08:31:30 | 小説
小説教室・ごはん学校

という小説を書きました。

ホームページ、浅野浩二のHPの目次その2

にアップしましたのでよろしかったらご覧ください。

小説教室・ごはん学校

ある小説教室である。
ここは西暦2000年以前から始まって今日(2024年)まで続いている。
主催者はバクチが好きで、先物取引に手を出してしまって1億円を超す借金をつくってしまったので、その借金の返済のために小説教室を開いて儲けようと思ったのである。
コンセプトは「将来のプロ作家を目指すための小説教室」とした。
宣伝には、「必ずプロ作家としてデビューさせます」と書いた。
小説教室の名前は、将来プロ作家になり筆一本で食べていける人を育てる、という意図から、ごはん学校、と名づけられた。
立地場所も新宿の一等地にした。
入会費は10万円で月会費は月5万円に設定した。
入会金と月会費はかなり高く、入会者は少ししかいなかったが、「必ずプロ作家としてデビューさせます」の宣伝が効いて、だんだん入会者が増えてきた。
入会者はみな才能がないくせに、自分には才能があるから、この小説教室に入れば、プロ作家になれるという、自惚れだけが強いバカが集まってきたのである。
主催者はしめしめと喜んだ。
しかしこの小説教室には生徒の書いた小説を添削する教師がいなかった。
指導する教師を採用する費用がなかったからである。
そこで主催者は、
「君たちは才能があるから教師は不要だ。作家は作品を書くだけが仕事ではなく、他人の作品の評論文を書くことも作家の仕事だ。その訓練のためにも、お互いに自由に他人の作品を批評し合って文芸評論の腕を磨くのが一番いいと思う」
ともっともらしいことを言った。
ごはん学校の生徒たちはプライドだけあって才能のないバカばかりなので、主催者の言うことを信じた。
それで、ごはん学校の生徒たちは、作品を書き、お互いにそれを評価しあった。
しかし、生徒たちは所詮、才能のないバカばかりである。
なので、この小説教室は、生徒たちが好き勝手な稚拙な小説を書いて、それを生徒同士が好き勝手に品評をするという、荒れた小説教室になってしまった。
みな、自分の駄作には自信を持っていても、他人の作品はボロクソにけなした。
そのため、生徒たちは次々とごはん学校をやめていった。
経営は赤字である。
このままでは、ごはん学校は廃校にするしかないという状況になった。
廃校にするか継続するかで主催者は悩んだ。
しかし、ある時ラッキーなことが起こった。
それは伊藤夜雨という文学好きの絶世の美女が、小説教室ごはん学校に入学してきたことである。
伊藤夜雨は文学、小説をよく読んでいて色々と知っていた。
彼女は小説を書く目的で、ごはん学校に入ってきたのではなく、プロの文芸評論家になるために、ごはん学校に入ってきたのである。
そこで主催者は伊藤夜雨に相談をもちかけた。
「伊藤夜雨さん。小説教室ごはん学校は経営的に厳しいです。それは、小説の執筆を指導してくれる先生がいないからです。先生を雇う経済的なゆとりもありません。なので、生徒たちのレベルが低くなって、書きかけの小説や、駄作、軽い気持ちで書いた思いつきの文章ばかりを書くようになってしまっています。そして、生徒たちが書いた小説を、けなしまくる状態になってしまっています。それで辞める生徒が増えています」
「そうですか。それは私も生徒さん達の書く文章を見ていても感じています」
と伊藤夜雨は言った。
「そこで、あなたにお願いがあるのです」
「はい。何でしょうか?」
「あなたは小説、文学に精通しています。そして、あなたには人を褒める才能がある。ですから、あなたに、生徒たちの書く駄文を褒めちぎる文芸評論家先生になって欲しいのです。生徒さん達の書いた駄文に対する、あなたの批評文を見て、あなたになら、それが出来ると私は確信しました。その方法だけが、小説教室ごはん学校を存続させていく唯一の手段だと思っています」
「そうですか。そう言われましても私も興味本位で、小説教室ごはん学校に入ってみましたが、生徒さん達の書く駄文に、嫌気がさして、ちょうど辞めようと思っていた所なのです。失礼ですが生徒さん達の書く文章は、読む価値の全くない駄文ばかりです」
「そこを何とかお願いしたいのです。どうか生徒さん達の書く文章、すべてに目を通して、褒めちぎった批評を書いてほしいのです。はっきり言って生徒たちはバカばかりですから、誉められれば、うかれて、ごはん学校に通い続けてくれると思うのです。お礼は払います。月に100万円、あなたに支払います。どうでしょうか?」
月100万円という言葉が効いた。
伊藤夜雨は金の亡者だったのである。
「わかりました。私は、ごはん学校の生徒さん達の書く文章すべてに目を通して、褒めちぎった批評文を書きます。その代わり、月100万円は必ず、私の銀行口座に振り込んで下さいね」
「ええ。それは間違いなくします」
こうして、伊藤夜雨はごはん学校の指導者、添削者になった。
伊藤夜雨はごはん学校の生徒の書く文章すべてに、目を通し、作者をおだてる批評を書き続けた。
クズ文にも「お作はとてもいい作品です」と書いた。
具体的にどこがどういいか、ということも作者におだてとわからないように、しっかりと書いた。
そして最後に「執筆おつかれさまでした」と書いた。
ごはん学校の生徒たちはバカばかりなので、伊藤夜雨に褒めちぎられて、うかれて、辞退者は少なくなっていった。
それどころか、ごはん学校には、素晴らしい文芸評論家の先生が来たそうだぞ、という噂が世間に広まった。そのため、ごはん学校に入学してくる生徒はうなぎ登りに増えていった。
こうして、ごはん学校は大盛況になった。
しかも伊藤夜雨は25歳でグラビアアイドル顔負けの絶世の美女である。
伊藤夜雨がセクシーな上下揃いのスーツ姿で教室を歩く姿に、ごはん学校の生徒たちは、ただただ茫然とした。
伊藤夜雨は絶世の美女だった。橋本環奈に勝るとも劣らぬ容貌。85、60、85の理想的なスリーサイズ。腰にピッタリとフィットしている膝上までのスカート。夜雨が教室の中を歩く度にムッチリとした腰が悩ましげに左右に揺れた。生徒たちは、その悩ましい美しさに酩酊するのだった。
美しい優秀な小説指導教師が、ごはん学校に来た、という噂は瞬く間に世間に広がった。
小説には興味ないが、伊藤夜雨みたさに、ごはん学校に入学してくる者もうなぎ上りに増えていった。
こうして、ごはん学校は大盛況になった。
ある時、主催者と伊藤夜雨が校長室で話し合っていた。
「いやー。伊藤夜雨さん。あなたのおかげで、ごはん学校は大盛況だ。月の収入は500万円を越している。やはり私の目に狂いはなかった。あなたは天才的な、おだて上手だ。あなたには感謝してもしきれない」
校長は恵比須顔だった。
さあ今月の給料100万円をお受け取りください、と言って、ごはん学校の社長は伊藤夜雨の前のテーブルに100万円の札束をポンと置いた。
伊藤夜雨はニヤリと笑って当然の如くそれを受けとった。
「ささ。伊藤夜雨さん。舶来の高級タバコです」
社長は巻きタバコを伊藤夜雨に差し出した。
伊藤夜雨がそれを口に咥えると、社長はライターで葉巻に火をつけた。
伊藤夜雨は、ふーと一服した。
「社長。100万は確かに頂きました。しかしお礼は言いませんよ。だって内容も何にもない駄文を読むことは凄く苦痛を通りこして不快ですし、作者に気づかれないような、おだての批評文を書くのも物凄く疲れるんですもの。バカ共をおだてるのって胸くそ悪くなるんです。飼い猫とか上松とか、他のヤツラでも、同じ作品を何度も何度も、こうした方がもっと良くなりますよ、とおだててやると、それを真に受けて本当に、書き直してきます。それも一度や二度ではなく、10回以上もですよ。やっぱり才能のないバカ共は、あらゆる面で頭が悪いので、心にも無いおだてを本当に真に受けてしまうんですね」
そう言って伊藤夜雨はふーとタバコの煙を吐いた。
その時である。
校長室の戸が開いた。
ごはん学校の生徒たちがズラリと並んでいた。
生徒たちは刺すような鋭い憎しみに満ちた視線を伊藤夜雨に向けていた。
「おい。伊藤夜雨。聞いたぞ。そういうことだったのか。お前は、誉める批評しかしないから、だんだん、あやしくなっていったんだ。それで、お前の本心を聞こうと思って、こうやって張り込んでいたんだ。オレ達に才能がないなら、ないとはっきり言ってほしかったな。お前のせいで、どれだけ人生の時間と金を浪費したことか」
伊藤夜雨は真っ青な顔になっていた。
「い、いえ。違います。わ、私の本心は皆さんに自信を持ってもらおうと思っていたんです。自分に自信を持った人は必ず人間として成長しますから・・・」
伊藤夜雨は苦し気な言い訳をした。
「ふふふ。伊藤夜雨。もうオレ達は天才的な詭弁のお前の言うことなんか信じてないぜ」
「おう。そうだ。そうだ」
皆、怒りに狂っていた。
証拠にお前が今、言ったことを録音しておいたぜ。
そう言って、生徒の一人がカセットテープの再生ボタンを押した。
すると伊藤夜雨の声がボリュームいっぱいの大きさで再生された。
「社長。100万は確かに頂きました。しかしお礼は言いませんよ。だって内容も何にもない駄文を読むことは凄く苦痛を通りこして不快ですし、作者に気づかれないような、おだての批評文を書くのも物凄く疲れるんですもの。バカ共をおだてるのって胸くそ悪くなるんです。飼い猫とか上松とか、他のヤツラでも、同じ作品を何度も何度も、こうした方がもっと良くなりますよ、とおだててやると、それを真に受けて本当に、書き直してきます。それも一度や二度ではなく、10回以上もですよ。やっぱり才能のないバカ共は、あらゆる面で頭が悪いので、心にも無いおだてを本当に真に受けてしまうんですね」
伊藤夜雨の顔は真っ青になった。
「どうだ。夜雨。何とか言ってみろ」
夜雨は決定的な証拠を握られて返す言葉がなかった。
眉を寄せ苦しそうに唇を噛んだ。
「この落とし前はつけてもらうぜ」
そう言って、ごはん学校の生徒たちは伊藤夜雨を取り囲んだ。
「さあ。立ちな」
「わ、私をどうしようっていうの?」
ここに至って夜雨に恐怖心が起こり出した。
「オレ達をだまして、人生の貴重な時間と金と労力を無駄にさせた、お前を罰するのさ」
そう言って、ごはん学校の生徒の一人が夜雨の腕をつかんで立たせた。
そして彼らは夜雨を、ごはん学校の外に追い出した。
ごはん学校の裏手には荒れた廃屋があった。
夜雨はその廃屋の中に入れられた。
ごはん学校の生徒たちは夜雨に対する復讐に燃えていた。
伊藤夜雨をどうするかで、ごはん学校の生徒たちは、しばしボソボソと話し合った。
「おい。みんな。夜雨の仕置きはオレ達二人にまかせてくれないか?」
生徒Aと生徒Bの二人が言った。
二人は小説創作には興味はなく、伊藤夜雨、見たさにごはん学校に入ってきた生徒である。
「おお。たのむぜ。たっぷりと仕置きしてくれ。オレ達はそれをしっかりと見物させてもらうぜ」
ごはん学校の生徒たちが皆、異口同音に言った。
生徒Aと生徒Bがツカツカと笑いながら伊藤夜雨に近づいてきた。
「あなた達。私に何をしようというの?」
夜雨は恐怖心から声を震わせて聞いた。
「ふふふ。何をすると思う?」
Aはふてぶしい口調で言った。
「わ、わからないわ」
「ふふふ。教えてやろう。あんたにここでストリップショーをしてもらうのさ。そしてそれを撮影するのさ。そしてそれをエロ動画投稿サイトに投稿するのさ。佐藤夜雨のストリップショーがネットで全国に知れ渡るというわけさ」
そう言ってAはデジカメを三角脚立の上に固定した。
「卑劣だわ。あなた達が才能のない怠け者だとはわかっていたけれどそんな犯罪までするとは思わなかったわ」
Bが横座りしている夜雨の隣に座った。
Bは夜雨の頬をナイフでピチャピャ叩きながら夜雨の美しいストレートの黒髪をつかんだ。
「ふふふ。夜雨さん。さあ。立ってちゃんと自分の手で色っぽく服を脱いでいきな」
Bは夜雨の髪の毛を弄びながら言った。
「い、嫌です。そんなこと」
夜雨は体を震わせながら言った。
女なら当然言う言葉を夜雨も反射的に言った。
「手間をとらせるな。強情を張るなら強引に脱がしてもっと恥ずかしいことをさせるぞ」
そう言ってBはハサミを取り出して夜雨のロングヘアーを少しジョキンと切った。
切り取られた夜雨の美しい髪の毛が少しパサリと床に落ちた。
「ああー。やめてー」
「ふふふ。これでオレ達が本気だということがわかっただろう。嫌というのならきれいな髪の毛を全部切ってバリカンで丸坊主にしてしまうぞ」
夜雨は渋面で唇を噛んで悩んでいたが抵抗しても無駄で時間の問題で抵抗するともっと酷いことをされると悟ったのだろう。
「わ、わかりました。服を脱ぎます。だからもう髪を切るのはやめて下さい」
と言った。
「わかりゃいいんだよ。立ってちゃんとストリップショーをするんだぞ」
そう言われても夜雨は立てなかった。
女の恥じらいから夜雨はそっと両手を胸に当ていた。
「ほら。さっさと立ってストリップショーをしな」
Bが言った。
しかし夜雨はためらっている。
「ふふふ。別にすぐ脱がなくてもいいぜ。女が恥ずかしいことが出来なくてためらっている姿はサディストの男を興奮させるからな」
Aのこの言葉が効いたのだろう。
「わ、わかりました。脱ぎます」
と言って夜雨は立ち上がった。
「わかりゃいいんだよ。さあとっとと服を脱ぎな」
夜雨は、恐る恐る立ち上がり、ワナワナと手を震わせてワイシャツのボタンを外していった。
AとBとごはん学校の生徒たちは食い入るように夜雨を見ている。
今まで才色兼備の、ごはん学校の憧れの女神と崇められていた夜雨にとって、ごはん学校の生徒たちの前で服を脱ぐのを見られるのは耐え難い屈辱だった。
しかし女のか弱い力では屈強な男二人に抵抗しても無駄ということはわかっているので夜雨は諦めていた。
ワイシャツのボタンを全部外すとAとBの二人は、
「さあ。ワイシャツを取り去りな」
と命じた。
夜雨はワナワナとワイシャツの袖から手を抜きとった。
パサリと夜雨のワイシャツが床に落ちた。
夜雨の豊満な乳房を納めている白いブラジャーが露わになった。
ブラジャーは夜雨の豊満な乳房を窮屈そうに納めてムッチリと膨らんでいた。
「おー。すげー。凄いセクシーなおっぱいだな」
「オレ。いつも夜雨のブラウスの胸のふくらみに悩まされてオナニーしていたんだ。それを拝めるなんて夢のようだぜ」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を言った。
夜雨は顔を真っ赤にして思わず両手を胸に当てた。
AとBの二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばし、ごはん学校の生徒たちは恥じらっている夜雨の姿をデジカメで撮影した。
「さあ。次はスカートを脱ぎな」
Aが言った。
命じられて夜雨はワナワナとスカートのチャックを外してスカートを降ろしていき足から抜き取った。
これで夜雨はブラジャーとパンティーという下着だけの姿になった。
夜雨の腰部にピッタリと貼りついている純白のパンティーは夜雨の股間の輪郭を包み隠さず露わにしているのでパンティーを履いていても夜雨はもう裸同然に近かった。
むしろパンティーの弾力のためパンティーの中に収まっている恥肉がモッコリとパンティーを盛り上げていた。
「うわー。すげー。凄いセクシーだ」
「まさか夜雨のパンティーを拝めるとはな。オレ興奮して心臓がドキドキしているぜ」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を言った。
夜雨は羞恥心から顔を真っ赤にして思わず両手をパンティーに当てた。
AとBの二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばしごはん学校の生徒たちは恥じらっている夜雨の姿をデジカメで撮影した。
しはしして。
「さあ。次はブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になりな」
Aが言った。
「お願い。Aくん。Bくん。これ以上は許して」
夜雨は純白のブラジャーとパンティーを必死で手で覆いながら言った。
「ふふふ。だいぶ風向きが変わってきたな。しかし今さらくん付けにしたって遅いぜ。オレ達の怒りはトサカにきているんだから。脱がないというのならオレ達が強引に脱がすだけだぜ」
そう言ってBはカバンから大きな浣腸器を取り出した。
「おい。夜雨。とっととブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になれ。強情を張っているとオレ達が丸裸にひん剥いて後ろ手に縛って1リットルのグリセリン液の浣腸をするぞ」
Aが大きな浣腸器を手にしながら言った。
夜雨は恐怖心で顔が真っ青になった。
「わ、わかりました」
逆らっても無駄だと悟ったのだろう。
夜雨はブラジャーのホックを外した。
プルンと夜雨の大きな乳房が弾け出て露わになった。
「うわー。すげー。夢にまで見た夜雨のおっぱいを見れるとは。オレ。興奮しておちんちんが勃起しっぱなしだぜ」
そう言ってBはズボンの上からテントを張った股間をさすった。
「オレもだぜ」
Aもビンビンに勃起してテントを張っているズボンの股間をさすった。
夜雨は思わず両手で露わになったおっぱいを隠した。
「ふふふ。いいポーズだぜ」
Bは純白のパンティー一枚だけ履いて両手でおっぱいを隠している夜雨の姿を撮影した。
夜雨の姿はあたかも胸の前で収穫した二つの大きな桃が落ちないように大事にかかえている女のように見えた。
両手で胸を隠しているので夜雨の純白のパンティーは丸見えである。
夜雨の恥肉を収めたパンティーはその弾力によって恥部をモッコリとふくらませ女の恥部の輪郭をクッキリとあらわしていた。
パンティーは女の股間を引き締めて整える効果があるのでそれは全裸以上にエロチックでもあった。男はパンティーやビキニに包まれた女の股間のモッコリに興奮するのである。
「ふふふ。夜雨。股間のモッコリが丸見えだぜ」
Bが言った。
「股間のモッコリは隠さなくてもいいのか?」
Aが言った。
言われて夜雨は股間の防備を忘れていたことに気づき、おっぱいを隠していた両手のうち左手で股間を覆った。
それはボッティチェリのビーナスの誕生の図だった。
「ふふふ。その格好も色っぽいぜ」
そう言ってBは恥じらっている夜雨の姿を撮影した。
「さあ。夜雨。最後の一枚のパンティーも脱ぎな」
Aが言った。
「胸とアソコを隠すポーズならパンティーを履いているより全裸の方が芸術的だせ」
「もうブラジャーは脱いじゃっているんだからパンティーも脱いだ方がスッキリするぜ」
「手でアソコを隠しながら素早くパンティーを脱げばいいじゃないか」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を投げかけた。
しかし夜雨にしてみればパンティーは女の最後の砦だった。
AとBが夜雨にパンティーを脱ぐように命じても夜雨は女の最後の砦はどうしても守りたかった。
「ええい。じれってえ」
夜雨がどうしてもパンティーを脱ごうとしないのでBが夜雨の所に行った。
Bはニヤニヤ笑っている。
「ふふふ。そんなに脱ぎたくないなら脱がないでいいぜ。それよりももっと面白いことを思いついたからな」
Bは夜雨の隣に腰を下ろして意味深なことを言った。
「な、何をするの?Bくん」
夜雨は脅えながら必死に胸とアソコを手で隠している。
Bはポケットからハサミを取り出すとサッと素早く夜雨のパンティーの右側のサイドをプチンと切ってしまった。
片方のサイドを切られたパンティーはもう腰に貼りつく役割りを果たせない。
パンティーの弾力によってパンティーは一気に収縮してしまった。
「いやー」
夜雨はあわててパンティーがずり落ちないように太腿をピッチリと閉じてパンティーを太腿で挟みつけパンティーが落ちないようにした。
そして両手で切れた右側のサイドの端をつかんで縮もうとするパンティーを何とか引っ張って留めようとした。
夜雨は右手でパンティーの右側の切れたサイドの後ろの方の端を必死でつかんで引っ張り、お尻を見られないようにし、左手でパンティーの右側の切れたサイドの前の方の端をつかんで引っ張って、必死で何とか女の恥部を見られないようにした。
必死で片方のサイドが切れたパンティーをそれでも身につけていようとするのは女にとっては最後まで恥ずかしい所を隠そうとする健気な努力なのだが男は皆スケベでサディストなので困っている女の姿は男を最高に興奮させるのである。
両手で切れた右側のサイドの端をつかんでいるので夜雨のおっぱいは丸見えである。
「あっははは。夜雨。サイドが切れたパンティーなんてもう使い物にならないぜ」
「もうそのパンティーは使い物にならないんだから無駄な頑張りはやめてパンティーは脱いじゃいな」
「でもお前が困っている姿は最高にセクシーでエロチックで男を興奮させるぜ。だからお前がそうしたいのならいつまでもその格好で無駄な頑張りを続けてもいいぜ」
AとBの二人はデジカメで惨めな夜雨の姿を撮影しながら夜雨にそんな揶揄の言葉を投げつけた。
そう言われても夜雨は体を覆う最後の一枚を何とか死守しようとした。
「ふふふ。パンティーは絶対脱がないという決死の覚悟なんだな」
Aはそう言うや再び夜雨の所に行った。
そしてハサミを取り出してサッと夜雨のパンティーの切れてない方の左側のサイドをプチンと切ってしまった。
夜雨はパンティーの右側のサイドを両手で引っ張っていたので、そして引っ張らなくてはならないので切れていない反対側の左側のサイドはガラ空きだった。
なのでAは余裕で夜雨のパンティーの左側のサイドを切ることが出来た。
「ああー。いやー」
両サイドを切られたパンティーはもう腰に貼りついておく機能を完全に失った。
両サイドが切れたパンティーは一気に収縮した。
それでも夜雨はアソコを両手で隠した。
しかしパンティーは両サイドが切られているので後ろがペロンと剥げ落ち大きな尻と尻の割れ目が露わになった。
Aはパンティーの切れ端をつかんで引っ張った。
たいした力も要らずパンティーは夜雨の股間からスルリと抜きとられた。
これで夜雨は一糸まとわぬ丸裸になった。
全裸の女が男の視線から身を守ろうと片手で胸を片手でアソコを隠している姿は女の羞恥心の現れの芸術的な基本形である。
「どうだ。夜雨。スッポンポンになってスッキリしただろう」
「いくら頭が良くても女を屈服させるのは簡単さ。裸にさせればいいだけのことさ」
「ふふふ。今まで散々コケにしてきたオレ達の前でスッポンポンの裸を晒す気分はどうだ?」
AとBの二人は全裸で女の恥ずかしい所を隠している夜雨にそんな揶揄を言った。
「さあ。夜雨さんの尻もしっかり録画しておかないとな」
そう言ってBは夜雨の後ろに回ってスマートフォンで夜雨の後ろ姿を撮影した。
女にはアソコと乳房と尻という三カ所の恥ずかしい所がある。
しかし手は二本しかない。
なのでアソコと乳房を隠すためにはどうしても二本の手を使わねばならず尻までは隠せない。
「ふふふ。夜雨。大きな尻とピッチリ閉じ合わさった尻の割れ目が丸見えだぜ」
Bがスマートフォンで夜雨の後ろ姿を撮影しながら言った。
そういう卑猥な言葉を投げかけられることによって夜雨の意識が無防備に丸見えになっている尻に行き尻の割れ目がキュッと反射的に閉まった。
「いやー。やめてー。Bくん」
夜雨は思わず乳房を隠していた左手を外し左手で尻の割れ目を隠した。
夜雨はアソコを右手で隠し尻の割れ目を左手で隠しているという姿である。
乳房を隠していた手が外されたので夜雨のおっぱいが丸見えになった。
それは滑稽な姿だった。
「ふふふ。夜雨さん。おっぱいが丸見えだぜ」
Aが言った。
あっはははとAとBの二人は笑った。
自分が滑稽な姿であるということは夜雨もわかっているので夜雨はやむなく尻の割れ目を隠していた左手を胸に持って行きおっぱいを隠した。
そのため尻の割れ目は丸見えになった。
尻の割れ目を撮影されることはやむなくあきらめるしかなかった。
このように女を困らせることがスケベな男達のサディズムをそそるのである。
夜雨はアソコを右手で隠し胸を左手で隠すという基本形にもどった。
10分くらい二人は夜雨が困る姿をスマートフォンで撮影しながら鑑賞した。
「Aくん。Bくん。お願い。もうやめて。許して」
夜雨は耐えきれなくなって丸裸の体のアソコとおっぱいを隠しながらAとBの二人に哀願した。
「ふふふ。ダメだぜ。夜雨さん。こういう事になった原因はあんたが性悪でオレ達をだましたからじゃないか。自業自得ってやつさ。あんたの性悪な性格を徹底的に叩き直してやるよ。あんたをしとやかでつつましい女に調教してやるぜ」
Aが言った。
「よし。じゃあ次の責めといくか」
Bが言った。
「な、何をするの?」
夜雨は脅えながら聞いた。
AとBの二人は立ち上がって夜雨に近づいてきた。
「さあ。夜雨さん。両手を前に出しな」
Aが言った。
「い、いや。こわいわ。何をするの?」
夜雨は何をされるのかわからない恐怖からAに言われても両手でヒッシと女の恥部を押さえているだけだった。
それが夜雨のせめてもの抵抗だった。
「ええい。じれってえ」
AとBの二人は強引に夜雨の手をつかんで胸の前に出させた。
やめてーと言って夜雨も抵抗したが女のか弱い力では屈強な男二人の膂力の前には全く無力だった。
二人は夜雨の両手を体の前に出させ夜雨の手首に手錠をかけた。
「ふふふ。これで、あんたを天井から吊るしてやるぜ」
Aがせせら笑いながら言った。
「おい。B。天井にフックを取りつけろ」
AがBに命じた。
「オッケー」
Bはホクホクしながら椅子を持ってきてその上に立った。
Bは登山用のカラビナが固定されている正方形の板を持っていた。
Bはそれを持って椅子の上に立つと板の裏に瞬間協力接着剤アロンアルファをたっぷりつけた。
そしてその板を天井に貼り付けた。
Bはカラビナを思いきり引っ張ってみたが板が天井にしっかりくっついていて剥がれることはなかった。
「よし。大丈夫だ」
Bが言った。
一方、Aは夜雨の手錠に縄を結び付けた。
そしてその縄尻を椅子の上に立っているBに渡した。
Bはカラビナの輪の中に縄尻を通した。
「ふふふ。さあ。お前を吊るしてやるぜ」
Aがふてぶてしい口調で言った。
「い、嫌。こわいわ。やめて。お願い。そんなこと。Aくん。Bくん」
夜雨の訴えを無視してAはBがカラビナに通した夜雨の縄尻をつかんでグイグイと引っ張っていった。
「ああー。やめてー」
夜雨が叫んだがAとBの二人は聞く耳を持たない。
滑車の原理で二人が縄を引っ張ることによって夜雨の手首はグイグイと天井に向かって引っ張られていった。
夜雨はバンザイさせられた格好になった。
さらに二人は縄をグイグイと引っ張っていき夜雨の手は頭上でピンと伸び夜雨は天井から吊るされる格好になった。
「ふふふ。つま先立ちになるまで引っ張ってやる」
Bが言った。
しかし。
「まて。つま先立ちになるまでは引っ張るな。足の裏は床につける程度にしておけ」
とAが言った。
どうしてだ?とBが聞くとAは、
「まあ。いいじゃないか」
と意味深に笑った。
「よし。わかった」
そう言ってBは夜雨がつま先立ちになるまでは引っ張らず、手は頭の上で肘が少し曲がる程度の所で縄尻をカラビナに結びつけた。
夜雨の手は頭の上にあるので夜雨はもう女の恥ずかしい所を隠すことが出来ない。
乳房もアソコも丸見えである。
もちろん大きな尻も尻の割れ目も。
夜雨の体は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。
「ふふふ。夜雨さん。残念だな。もう手で体を隠すことは出来なくなったな」
「ふふふ。いつもは大きなおっぱいでワイシャツに膨らみを作って男を挑発しているんだろうけれど剝き出しになったおっぱいは惨めなもんだな」
「胸にこんな大きな肉の塊を二つもだらしなくぶら下げて恥ずかしくないのか。ちゃんとブラジャーに収めておかなきゃいけねーぜ」
「それにしても大きい乳首だな。頭脳明晰なエリートの才女はこんな大きな乳首をしていちゃいけねーぜ」
AとBの二人は露わになった夜雨の胸をまじまじと見ながらそんな揶揄をした。
夜雨は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
しかし縄で手を吊られている以上どうすることも出来ない。
しかしAとBとごはん学校の生徒たちに乳房と乳首をまじまじと見られていることを思うと夜雨の乳首は大きくなり出した。
それをAとBは見逃さなかった。
「おおっ。夜雨の乳首が勃起し出したぜ」
「嫌がっていてもこうやって見られることに興奮しているんだな」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を吐いた。
夜雨は乳首が勃起してしまったことを死にたいほど恥ずかしく思った。
いっそ荒々しく乳房を揉まれる方がまだマシだと夜雨は思った。
丸裸にされてこんなにネチネチと鑑賞され品評されることの方がはるかに屈辱だった。
二人の男の視線は下に降りた。
夜雨は太腿を寄り合わせて何とかアソコを隠そうとモジモジしていた。
「ふふふ。夜雨さんが太腿をモジモジさせているぜ」
「何としてもアソコは隠したいんだな。いじらしいな」
「B。これでわかっただろう。夜雨を吊るす縄を緩めにしておいたのはこのモジモジを見たかったからさ。女は両手を使わなくても太腿を寄り合わすことで何とかアソコの割れ目は隠せるんだ。このいじらしいモジモジをさせるために縄を緩めにしておいたんだ」
「なるほどな。確かにこの方が面白いな」
Bは納得したようにニヤニヤ笑って言った。
二人の男にそんな揶揄をされても女の哀しい性で夜雨は太腿のモジモジをやめることは出来なかった。
「じゃあこのいじらしいモジモジを撮影するとするか」
そう言ってAとBは夜雨から離れて座って太腿をモジモジさせている夜雨をスマートフォンで撮影した。
二人の男はいつ夜雨の太腿の寄り合わせが緩んでアソコの割れ目が見えるかを気長に待つ方針のようだった。
20分くらい経った。
夜雨は太腿を寄り合せての立ち続けの疲れからハアハアと息が荒くなっていきそして太腿の疲れから太腿の寄り合わせが緩んできた。
それを二人の男は見逃さなかった。
「おっ。夜雨のアソコの割れ目が見え出したぜ」
Aは待ってましたとばかりにスマートフォンのカメラのズームをアップしてカメラの焦点を夜雨のアソコに当てた。
夜雨のアソコは無毛だった。
それは最初からわかっていたことだが。
「どうしてアソコの毛を剃っているんだろう」
「さあな。きれい好きだからじゃないか」
「しかし裸の女の立ち姿のアソコは理想的だな。モッコリ盛り上がった恥肉の下の方にアソコの割れ目がほんの少しだけちょっと顔をのぞかせているなんて。憎いまでに男の性欲を刺激させるぜ」
AとBの二人はそんな揶揄の言葉を夜雨に吐いた。
「お願い。Aくん。Bくん。もう許して。もう意地悪しないで。お願い。虐めないで」
夜雨は耐えられなくなって徹底的に自分を辱しめようとしている二人に哀願した。
夜雨は泣きながらまた太腿を寄り合わせてアソコの割れ目を隠そうとした。
「おい。夜雨。裸は恥ずかしいか?」
「はい。恥ずかしいです」
「じゃあパンティーとブラジャーを身につけたいか?」
「は、はい」
「よし。じゃあ下着を履かせてやるよ。ただしビキニだけどな。オレ達はあんたのビキニ姿を一度見たいと思っていたんだ」
そう言ってAとBの二人は立ち上がって夜雨に近づいてきた。
「ほら。これでおっぱいを隠してやるよ」
そう言ってBがピンク色のストラップレスブラで夜雨のおっぱいを含んで背中で蝶結びにした。これで夜雨のおっぱいはブラの中に収まり乳房は隠された。
「じゃあ下の恥ずかしい所も隠してやるよ。ほら。アンヨを広げな」
そう言ってAは夜雨の太腿をピシャピシャ叩いた。
Aが持っていたのは両サイドを紐で結ぶ紐ビキニだった。
夜雨はアソコを見られるのは一瞬のことだと思って少し足を開いた。
Aは紐ビキニの底を夜雨の股間にピッタリと当てた。
そして両サイドを紐ビキニの紐で蝶結びにした。
これで夜雨は女の恥ずかしいアソコとおっぱいと尻を隠すことが出来た。
ビキニは上も下も際どいハイレグカットではなく十分な面積があり尻はフルバックだった。
夜雨はどうして意地悪な彼らが乳首だけ隠すブラやTフロントやTバックのビキニではなく十分な面積のビキニを履かせてくれたのかわからなかったがともかく普通のビキニを身につけられてほっとした。
「おい。夜雨。ビキニを履かせてやったんだ。お礼くらい言ったらどうだ」
Aが怒鳴りつけた。
「あ、有難うございます」
お礼を言ったものの夜雨はなぜ彼らがビキニを履かせてくれたのかはどうしてもわからなかった。
今までの丸裸に比べたら吊るされているとはいえビキニ姿を彼らに見られることは相当な救いだった。
ビキニを履いたことによりアソコの肉がビキニの弾力によって形よく整えられてビキニの中に窮屈そうに収まりモッコリとした小高い盛り上がりを作っているためそれは全裸よりもエロチックに見える。
胸も同様である。
剝き出しのおっぱいは胸板に貼りついてだらしなくぶら下がっている二つの大きな肉塊であり、それを見られるのが女の恥ずかしさであるがブラジャーはそのカップの中にその肉塊をきれいに収めて、そしてブラジャーの弾力によって女の乳房をせり上げてほどよい弾力のある蠱惑的な小高い盛り上がりを作っている。
「ふふふ。夜雨さん。綺麗だねー。アソコがモッコリしていて」
「オレ一度、夜雨さんのビキニ姿を見てみたかったんだ。上下揃いのスーツをいつも見せつけられてその姿にも興奮させられて毎日オナニーしていたけれど夜雨さんのビキニのモッコリも一度見てみたいと思っていたんだ。まさに夢かなったりだ」
「お臍もかわいいな」
「太腿もビキニの縁からニュッと出ていて物凄くセクシーだな」
「ビキニは女が自分の体を男たちに見せつけるものだからな」
「真面目な夜雨さんも夏は海水浴場に行ってビキニで男たちを挑発するんだろうか?」
「さあな。だがまあいいじゃないか。今こうして目の前で夜雨さんのビキニ姿を見ているんだから」
AとBの二人は心地よさそうにビキニ姿の夜雨を鑑賞している。
夜雨はそれを彼らはもう嬲るのは終わりにしようとしていることだと解釈した。
夜雨は言葉には出さないが(いいわよ。私のビキニ姿を鑑賞したいというのなら)と言いたい気分だった。
しばし二人はスマートフォンで夜雨のビキニ姿を撮影しながら夜雨のビキニ姿を鑑賞していた。
「じゃあオレ。ちょっと後ろ姿も撮影するぜ」
そう言ってBは夜雨の背後に回った。
「うわっ。ヒップも大きくて物凄くセクシーだぜ」
「フルバックのビキニからニュッと出ている太腿も素晴らしいぜ」
Bはことさら驚いたように大声で言った。
夜雨はビキニ姿の前をAに見られスマートフォンで撮影され後ろ姿をBに見られ撮影されているという立ち姿である。
後ろのBは見えないが夜雨は(いいわよ。ビキニ姿を撮影するのなら)と言いたい思いだった。
夜雨はひそかに自分のプロポーションに自信をもっていた。
何だか自分がグラビアアイドルになって撮影されているような心地よさに浸っていた。
「夜雨さん。自慢のヒップを近くで撮影させてもらうぜ。いいだろ?」
Bが背後から声をかけた。
「い、いいわよ」
夜雨は自分がグラビアアイドルになったような酩酊からBの申し出を受け入れた。
返事をするのはちょっと恥ずかしかったが。
しかしそれが油断だった。
Bは夜雨の傍らに来ると夜雨のビキニのサイドを結んでいる紐の両方をスーと引っ張った。
サイドの紐は蝶結びで結ばれているだけなので軽く引くだけで蝶結びは解けてしまった。
「ああっ」
夜雨は思わず悲鳴を上げた。
紐ビキニの両方の紐が解けてしまったビキニは腰に貼りついている機能を失ってビキニはハラリと床に落ちてしまった。
Bはニヤリと笑って立ち上がりストラップレスブラの背中の蝶結びも解いた。
ストラップレスブラは肩紐が無く背中の蝶結びだけが胸に張りついておく機能なのでそれを解かれると、もはやブラは胸に張りついておくことが出来ずスーと床に落ちてしまった。
Bは床に落ちたビキニの上下を取るとそそくさと夜雨の前に行った。
夜雨はまた覆う物何一つない丸裸になってしまった。
「あっははは。夜雨。残念だったな。せっかくオレ達にセクシーなビキニ姿を見せつけていい気分になっていたのに」
「しかしお前のビキニ姿は本当に美しかったぜ」
AとBの二人は笑いながらそんな揶揄の言葉を夜雨に吐いた。
ここに至って夜雨はやっと彼らの念の入った意地悪を理解した。
彼らはビキニ姿を見たいなどとおだてておいて夜雨にビキニを履かせ散々褒めちぎって夜雨をいい気分にさせておいてそれでビキニの紐を解いていい気分に浸っていた自分を元の地獄に落とすのが彼らの計画だったのだと気づいた。
夜雨は彼らの計画に気づかずまんまと彼らの罠にはまってしまった人の良さを後悔した。
夜雨はまた太腿を寄り合わせてアソコを隠そうとした。
しかし胸は手をバンザイさせられているので隠しようがなく二つの乳房がもろに露わになり乳房の真ん中にチョコンと乗っている女の大きな乳首がもろに露わになった。
女の大きな乳首を見られることが恥ずかしいのだと夜雨はあらためて知った。
「お願い。Aくん。Bくん。もう意地悪しないで」
夜雨は泣きながら訴えた。
しかしAとBの二人は夜雨の哀願などどこ吹く風といった様子でニヤニヤと裸の夜雨がモジモジ困惑する姿を眺めている。
「よし。もうたっぷり嬲ったからな。じゃあオレ達は帰るぜ」
「達者でな。夜雨」
そう言ってAとBの二人は踵を返して小屋の戸に向かって歩き出した。
見物していた、ごはん学校の生徒たちも小屋の戸に向かって歩き出した。
「待って」
夜雨が声をかけた。
「何だよ?」
AとBの二人は五月蠅そうに振り向いた。
「あ、あの。いつ縄を解いてくれるの?」
夜雨は小声で恐る恐る聞いた。
「もうオレ達は来ないぜ」
「大声で助けを求める叫び声を出しな。そうすりゃ、いつか運よく通行人が来て、お前がいることに気づいて助けてくれるかもしれないぜ」
AとBの二人は、そう言って、せせら笑った。
夜雨は背筋が凍る思いでゾッとした。
ここは滅多に人など来ない。
夜おそくになれば-10度になる。凍死してしまう。
「お願い。縄を解いて。私、凍死してしまうわ」
夜雨はポロポロと涙を流しながら訴えた。
それを見て二人の心にもっと残忍な気持ちが芽生えた。
AとBの二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「おっと。そうだったな。夜雨。やっておくべ事があったな」
そう言ってAとBの二人は踵を返して夜雨の方にもどって来た。
夜雨はそれを縄を解いてくれることだと思って二人に感謝した。
(やっぱりいい人なんだわ)
と夜雨は思った。
「有難う。Aくん。Bくん」
夜雨の涙は悲し涙から嬉し涙に変わった。
しかし二人の様子が変であることに夜雨は気づいた。
「ほら。夜雨。アーンと口を大きく開けな」
そう言ってAが夜雨の顎をつかんで大きく口を開いた。
「な、何をするの?」
夜雨が聞いた。
「お前が大声で助けを求めて叫んだら、もしかしたら、助け人が気づいてしまうじゃないか」
「だからこうやって、お前が声を出せないようにするのさ」
そう言ってAはハンカチとボールギャグ(口枷)を取り出した。
「ひ、ひどいわ」
夜雨はポロポロ涙を流したがAとBの二人は容赦しなかった。
Aは夜雨の顎をつかんで大きく口を開き、夜雨の口の中にハンカチを詰め込んだ。
そして、その口にボールギャグ(口枷)を咥えさせた。
「ふふふ。これなら声が出せないからな。助けを求められないぜ」
夜雨は真っ青になって、やめて、こんなこと、と叫ぼうとしたが、それは、アグ、アグ、という唸りにしかならなかった。
「ふふふ。それじゃあな。夜雨。達者でな」
「あばよ」
そう言い捨ててAとBの二人は小屋を出て行った。
ニヤニヤ見ていた、ごはん学校の生徒たちも小屋を出て行った。
あとには裸で吊るされてボールギャグを口に咥えさせられて項垂れている夜雨が一人、小屋の中に取り残された。
夜雨の目からはポロポロと涙がとめどなく流れ続けた。
それには自分のしてきた悪業に対する罪責の念からであった。
日が暮れてきた。
(ああ。夜になったら寒くなるわ。私、凍死してしまうわ)
その恐怖が実感として夜雨に襲いかかった。
その時である。
ギイーと小屋の戸が開いた。
一人のイケメン男が入って来た。
それは何と浅野浩二だった。
しかし夜雨は喜んでいいのか悲しむべきなのか判断に迷った。
それは浅野浩二が救助者なのか、それともAやBのように自分を嬲り者にする方の人間なのか、わからなかったからである。
しかし、あえて言えば、自分を嬲りに来た者だと夜雨は思った。
なぜなら夜雨は以前、浅野浩二の人の良さにつけ込んで、浅野浩二が書いた「太陽の季節」という小説を「あちゃーな小説」と言ってボロクソにけなしたことがあるからである。
(浅野浩二さんは、きっとAとBの二人がいなくなってから一人だけで、たっぷりと思う存分、私を嬲りに来たんだわ)
と夜雨は覚悟した。
しかし浅野浩二は夜雨を嬲ろうとはしなかった。
「夜雨さん。つらかったでしょう。すぐ助けます」
そう言って浅野浩二は慈悲に溢れた目で夜雨のボールギャグを外し、口の中に詰め込まれたハンカチを取り出した。
これで夜雨は喋れるようになった。
「ああ。浅野くん。助けに来てくれたのね。有難う」
夜雨は感動で泣いていた。
「今、吊り縄も解きます」
そう言って浅野浩二は椅子の上に昇った。
そして夜雨を吊っている縄を天井から解いた。
これで夜雨は爪先立ちから解放された。
「夜雨さん。すまなかった。もっと早く助けてあげたかったんだがけどね。そうすると、ごはん学校の生徒たちが不愉快になってしまうからね」
そう言って浅野浩二は夜雨の手錠もはずした。
そして浅野浩二は裸の夜雨にコートを掛けてやった。
「ああ。浅野くん。有難う。前に浅野くんの小説を、あちゃーな小説などと言ってごめんなさい。浅野くんて凄く優しくて寛大な人なのね。エロチックな小説も文学であるということがどうしても分からなかった私の頭の方が、あちゃーでした」
夜雨は感動でポロポロと涙を流していた。
「いやー。いいんですよ。僕は気にしていませんでしたから」
と浅野浩二は言った。
「夜雨さん。さあ。逃げなさい。ごはん学校の生徒たちに捕まえられる前に」
浅野浩二は優しく言った。
「有難うございます。浅野浩二さま。ご恩は一生、忘れません」
こうして夜雨は、ごはん学校の生徒たちに殺されることなく逃げおおせた。
・・・・・・・・・・・・・
翌日。
AとBの二人が夜雨がどうなっているか調べに来た。
夜雨がいなく、もぬけの殻で、吊り縄に手錠が無いのを見ると二人は狐につつまれたような顔になった。
「一体、何が起こったんだろう?」
「夜雨のヤツ。逃げやがったんだ」
「しかし、あいつ一人で手錠から抜け出せるか?」
「誰かが来て夜雨を逃がしたんだろう」
「誰だろう。そいつは?」
あいつか、あいつか、と二人は、ごはん学校の生徒で夜雨を逃がしそうな者を推測してみたが、どうしても分からなかった。
なのでAとBの二人は、ごはん学校にもどって、夜雨に逃げられたことを正直に報告した。
夜雨はカナダに逃亡した。
美人教師・夜雨がいなくなってしまったので、小説教室ごはん学校は人気がなくなって廃校になってしまった。
しかし、その代わりに、ネット上で「作家でごはん」という2週間に一作、小説を投稿できるサイトが出来た。
小説教室、ごはん学校に通っていた生徒たちのメンバーのほとんどが懲りずに、この小説投稿サイトに2週間に一作、小説を投稿している。
夜雨にとって文芸評論は生きがいだったので、カナダから、投稿された小説のほとんどに、相も変わらず、愚にもつかない評論文を書いている。
居住地がもう日本ではなく、カナダなので捕まえられる心配もなくなった。
めでたし。めでたし。


2024年9月8日(日)擱筆





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からかい上手のエリート税理士の佐藤さん(小説)(上)

2024-04-18 23:18:34 | 小説
「からかい上手のエリート税理士の佐藤さん」

という小説を書きました。

ホームページ、「浅野浩二のHPの目次その2」にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「からかい上手のエリート税理士の佐藤さん」

佐藤京子は税理士である。
彼女は子供の頃から頭がよく東大法学部を卒業した。
大学を卒業して大手銀行に就職した。
彼女はバリバリに仕事をこなした。
上司の評価もよく出世は間違いなかった。
しかし転勤が多く彼女は地元に密着した仕事がしたく2年で会社を辞めた。
そして地元の神奈川県で税理士になった。
はじめは税理士法人クラリスに所属した。
税理士の資格は大学卒業後に銀行勤務の傍ら勉強し1年で税理士国家試験に通った。
彼女の頭の良さといったらそれはそれはズバ抜けて凄く税理士国家試験の多くの問題で模範解答より少ない税額を出したほどだった。
採点者が目を丸くして驚いたのは言うまでもない。
当然、彼女が受けた時の税理士国家試験ではトップの成績だった。
彼女は税理士法人クラリスで2年働いた。
税理士になるには税理士試験に合格した後2年の実務経験をすることが必要条件なのである。
なので彼女は税理士法人クラリスで2年働いた。
彼女はクラリスの2年間でもう何でもこなせるようになっていた。
なので神奈川県の横浜市の関内にある貸しビルの一室を借りて佐藤京子税理士事務所を開いて独立した。
彼女は佐藤京子税理士事務所の所長となった。
テナント料は高かったが彼女はやり手の税理士なのでクラリスの時からの顧客が彼女の個人税理士事務所の顧客となった。
なのでテナント料をはるかに超える収入があった。
その上彼女はこの世離れした美人である。
次から次へと大企業、中小企業、個人事業主、が彼女に会社の税理業務の依頼をしてきた。
それで1年であれよあれよという間に300件の会社と顧問契約を結ぶことになった。
顧客の彼女に対する信頼もあつかった。
顧客には、貿易会社、製造業、IT企業、その他ありとあらゆる職種の会社に佐藤京子は対応できた。
つまりオールラウンドである。
その他、相続税の相談、会社の資金調達、M&A、事業継承のアドバイスなど何でもやった。
そうなるとさすがの京子も一人では忙しくなって一人では仕事をこなせなくなった。
そのため京子は佐藤京子税理士事務所の求人の募集を出した。
・・・・・・・・・・・・
さて。
京子が佐藤京子税理士事務所のスタッフ募集の広告を出した時である。
横浜市内に住む二人の男がその記事を見た。
川田と森田という男である。
二人は同じ高校の友達だった。
二人は怠け者で勉強は全くせずギャンブルやスマホゲームに明け暮れていた。
高校を卒業した後はニートとなり働かずパチンコを一緒にするようなだらけた生活をしていた。
「おい。佐藤京子税理士事務所がスタッフ募集だとよ」
タブレットのネット広告を見ていた川田が言った。
どれどれと言って森田がタブレットを覗き込んだ。
「佐藤京子税理士事務所。スタッフ募集。時給××円。一緒に働きませんか」と書いてあった。
「ああー。本当だ」
森田が言った。
「おい。どうだ。応募してみないか?」
川田が言った。
「・・・・どうして?」
「だって佐藤京子と言ったら東大法学部を主席卒業したインテリだろ。頭が良くて仕事が出来てしかも超美人でやさしい性格だろ。面白そうじゃないか」
佐藤京子は美人で世事にも精通していて、やり手の税理士としてしばしばテレビ出演もしたことがあったので世間では知られていた。
クイズ番組の頭脳王に出て優勝したこともあった。
「・・・・でも真面目に働くのなんてウザったいし。お前は働くのウザったくないの?」
「佐藤京子さんはやさしいから多少サボっても叱らないだろう。飯をおごってくれるかもしれないし仕事外でも付き合ってくれるかもしれないし楽して美人と付き合えるなんて最高じゃないか?」
「なるほどな。確かにそうだな。じゃあ応募しよう」
「応募者は多いかもしれないぞ。競争倍率は高いかもしれないぞ。早く応募しないか?」
「そうだな。早い方がいいな」
「でも応募者には税理士試験に通ったヤツがいるだろうし。日商簿記1級のヤツもいるだろうし。オレたちが応募しても採用してくれるかな?」
「日商簿記1級に通ったってウソ言えばいいんだよ。どうせ面接では日商簿記のテストなんかしないだろうから」
「そうだな。落ちて元々。通ったらハッピーで応募してみるか」
「そうだな。決まり」
・・・・・・・・・・・・
こうして二人は翌日、佐藤京子税理士事務所に面接を受けに行った。
二人は何年ぶりか久しぶりにきちんとしたスーツを着て。
二人は電車に乗り関内駅で降りた。
そしてスマホの地図アプリを頼りに港の方に向かって歩いた。
「落ちて元々とはいえちょっと緊張するなー」
川田が言った。
「オレもだよ」
森田が言った。
やがて7階建てのビルが見えてきた。
1階のエレベーターの前の各階の案内表示には7階に「佐藤京子税理士事務所」との表記があった。
「緊張してきたなー」
「そうだな。何だか死刑台の前に立たされているみたいな感じがしてきたよ」
死ぬとわかっている人間でも人間の不思議な心理で「死の実感」というものは直前になって初めて急激に高まっていくものなのである。
そしてわからないものは人間に恐怖感を与える。
二人はエレベーターのボタンを押した。
▼のマークが点灯しすぐにエレベーターは1階に着いてドアが開いた。
・・・・・・・・・・・・・
二人はエレベーターに入った。
そして7階のボタンを押した。
エレベーターはグングン上がっていきすぐに7階に着いた。
二人はエレベーターを降りた。
目の前にはフロアー案内の図があって「佐藤京子税理士事務所」の場所がそれに書かれてあった。
二人はそれに従って「佐藤京子税理士事務所」に向かった。
1分もかからず二人は「佐藤京子税理士事務所」と書かれた部屋の前に辿り着いた。
「緊張するなー」
「そうだな。頭が良い女は気が強いからな。こわいな」
家を出た時には無かったがいざ彼女の事務所の前に立つと緊張感が実感となって二人の心臓はドキドキと早鐘を打ってきた。
しかしもうここまで来たので入らないわけにはいかない。
二人は勇気を出してチャイムを押した。
ピンポーン。
「はい。どなたでしょうか?」
インターホンから声が聞こえた。
「あ、あの。スタッフ募集の広告を見て応募に来た者です」
川田がしどろもどろの口調で言った。
「はい。わかりました。今すぐ行きます」
テキパキした返事が返ってきた。
部屋の中でパタパタ走る音がした。
そして部屋のドアが開かれた。
佐藤京子が顔を出した。
「あ、あの。スタッフ募集の広告を見て応募に来た者です」
二人はコチコチに緊張して佇立していた。
しかし。
彼女は二人を見るとニッコリ笑って、
「いらっしゃい。どうぞ入って下さい」
と笑顔で言った。
彼女の対応が優しかったので二人はほっと胸をなでおろした。
二人は事務所の中に入って行った。
事務所の中には彼女のデスクと接客用の大理石のテーブルとソファーがあった。
「さあ。どうぞ座って」
と彼女に促されて二人はソファーに座った。
「あ、あの。僕たちスタッフ募集の広告を見て応募に来ました」
「嬉しいわ」
ちょっと待っててと言って佐藤京子は立ち上がった。
佐藤京子はチーズケーキと紅茶を持ってきて「どうぞ」と言って二人に差し出した。
二人は「頂きます」と言ってチーズケーキを食べた。
「よくいらっしゃって下さいましたね。有難う。求人の広告を出したけれどなかなか応募してくれる人がいなくて困っていたの」
佐藤京子はニコッと笑顔で言った。
二人は予想と違って彼女が優しい態度で接してくれたことにほっと胸を撫でおろした。
二人は顔を見合わせた。
「あ、あの。佐藤京子さん。ちょっと二人で相談したいことがあるので席を外してもよろしいでしょうか?」
「ええ。いいわよ」
二人は立ち上がって事務所の外に出た。
「おい。どうする?」
「ウソついてもいいんじゃないか。彼女はそんなに細かく調べようという様子もなさそうだし」
「そうだな」
こうして二人はまたもどってきた。
「一応履歴書を見せてくれる?」
「はい」
二人は履歴書を差し出した。
佐藤京子はそれを見ながら、
「ふーん。森田くんは慶応大学卒業で川田くんは明治大学卒業なのね。二人とも日商簿記1級を持っているのね」
佐藤京子は感心した様子で言った。
その後は大学時代何をやっていたかとか卒後就職した会社のことなどたわいもないことを話した。
佐藤京子も二人の履歴を信じているようで突っ込んだ質問はしなかった。
20分くらい話した。
「わかったわ。じゃあ1週間後に採用するかどうかを連絡するわ。今日は来てくれてどうも有難う」
こうして二人の面接は終わった。
「よかったな。突っ込まれなくて」
「ああ」
「でも採用されて働き出したらバレちゃうんじゃないか?」
「バレても彼女は優しい性格だから大丈夫なんじゃないか」
「そうだな。バレても許してくれそうな雰囲気だからな」
・・・・・・・・・・・・
1週間後二人に採用の電話がかかってきた。
「やった」
二人は小躍りして喜んだ。
そして二人は佐藤京子税理士事務所で働くようになった。
しかし大卒でないことや日商簿記1級の資格を持っていないことは簿記について何も知らないことですぐバレてしまった。
二人は面接の時の佐藤京子の大らかで寛容な態度からバレても怒らないだろうと予想していた。
しかし現実は違った。
彼女は二人が面接でウソをついたこと、そして仕事が出来ないことが分かると二人を罵りまくった。
彼女の態度の豹変に二人は驚いた。
「あんた達最低よ」
「とんでもない無能なウソつきを採用しちゃったものね」
こんな罵倒を彼女は二人に投げつけた。
しかし二人は雑用係りということでクビはまぬがれた。
・・・・・・・・・・・・・・
ある日の様子はこんな具合である。
その日は趣味で料理教室を開催していた杉山信子だった。
彼女は料理教室の先生だった。結婚して一男一女を産み子育ても終わったので趣味で料理教室を開いていた。週一回自宅で近所に住む主婦や未婚の女が10人くらいやってきて彼女の料理教室に出ていた。しかしそれが評判になってどんどん人数が増えていき、またテレビ局に目をつけられてテレビ出演するようになり料理教室も自宅ではなくビルの一室を借りて本格的にやるようになった。本を出版したり色々な外食チェーン店にも料理の指導の依頼を頼まれるようになったのである。
そのため収入が増え経理が複雑になっていった。
そのため経理を佐藤京子税理士事務所にやって欲しいと頼みに来たのである。
「杉山信子さん。わかりました。これからは経理は私の事務所でさせて頂きます」
「有難うございます。佐藤京子さん。助かります」
「いえ。私も杉山信子さんの料理教室に出てみようかしら」
「それは嬉しいです」
「いえ。私も料理に興味ありますから。それに実際に見てみた方が経理も実感が沸きやすいですから」
「それは嬉しいです」
と杉山信子は言った。
「ところで佐藤京子さんも仕事が多くて大変でしょう。スタッフは当然ここにいる二人の他にもたくさんおられるのでしょう?」
杉山信子は二人の男を見て言った。
「いやあ。スタッフは今の所この二人だけです」
「そうなんですか。そうとは知りませんでした。では二人はとても優秀な方なんですね?」
「いえー。こいつらは大卒で日商簿記一級を持っているとか言ったので採用したのですが何にも知らないフリーターだったのです。私もだまされました。世の中には平気でウソをつくヤツが多いですからね。杉山さんも気をつけて下さい」
おーいろくでなしのブタ野郎二人お茶を持ってくるくらいの気はきかせろと佐藤京子は二人を怒鳴りつけた。
「す、すみません」
と言って二人は急いでお茶を持ってきた。
二人がお茶をテーブルの上に乗せると、
「おい。ブタ野郎。どうぞくらいの言葉を言うのが礼儀だろ」
と佐藤京子は二人をののしった。
杉山信子は予想と違って佐藤京子の厳しさに驚いて目を白黒させたが他人のことに干渉することも出来にくいので黙っていた。
その後も佐藤京子と杉山信子は色々なことを雑談した。
「では今日はこれで帰ります。これからよろしくお願い致します」
と言って杉山信子は玄関に向かった。
二人はボサッとしている。
「おい。ブタ野郎二匹。大切なお客さまだぞ。玄関を開けて(今日は遠い所ご足労いただきまして有難うございました。気をつけてお帰り下さい)くらいのこと言うのが礼儀だろ」
と言って男二人を蹴飛ばした。
二人は京子に言われて焦って玄関の戸を開けた。
そして、
「今日は遠い所ご足労いただきまして有難うございました。気をつけてお帰り下さい」
と佐藤京子に言われた言葉を述べた。
杉山信子は佐藤京子に、
「今日はどうも有難うございました。これからよろしくお願い致します」
とニコッと微笑んで言った。
「いえ。わからないことがあったらいつでも遠慮なくどんな事でも電話でもメールでもして下さい」
と佐藤京子も微笑んで言った。
そして杉山信子は去って行った。
・・・・・・・・・・
万事がこの調子だった。
佐藤京子に税務処理を頼む客が来ると佐藤京子はテーブルを挟んで客の依頼を詳しく聞き丁寧にアドバイスした。
依頼客と佐藤京子は実に和気あいあいとした会話だった。
二人の男はその横で床を雑巾がけしていた。
それは佐藤京子の命令だった。
依頼客が疑問に思って佐藤京子に、
「この二人はどういう方なのですか?」
と聞くと佐藤京子は、
「いやー。こいつらは大卒でないのに大卒と偽って簿記について何も知らないのに日商簿記1級の資格を持っていますなどと言って面接に来たので採用してしまったんです。クビにしようかとも思いましたがこいつらの腐った根性を叩き直すためにクビにはしないでやっているんですよ」
と佐藤京子は言った。
「そうだったんですか」
「ええ。そうです。世の中にはこういうとんでもない詐欺師、悪い人間がいますから人を安易に信用しないで下さいね」
「まあ。本当ですか。こわいですね。人間って信用できないんですね。私もこれから会社が大きくなりますから人を採用する時は採用面接の時は履歴書を信用しないで興信所に調査してもらって本当かどうか確かめてから決めようと思います」
「ええ。ぜひそうした方がいいですよ」
と万事がこの調子だった。
そして仕事が終わると佐藤京子は、
「おらおら。ブタども。とっとと帰れ」
と言って追い出した。
・・・・・・・・・・・・・・・
その日。
川田と森田の二人は家に帰る前にマクドナルドに寄った。
「いい加減頭くるよな」
「そうだな」
「佐藤京子は優しいという評判だったのにな」
「もしかしてアイツ、サド女なんじゃないか?」
「それは考えられるな。オレ達を虐めて楽しんでいるんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
「もしかしてオレ達を採用したのはオレ達を欲求不満のはけ口にするためじゃないか?」
「そうだよな。面接の時日商簿記1級の資格を持っていると言ったんだからそれが本当かどうか確かめるために簿記の基本的な質問をして答えさせ本当かどうか確かめてもいいのにな。何も聞かずに信じて即採用するっていうのは確かにおかしいな」
二人の男がそんなことを話している時だった。
森田のスマートフォンにメールの着信音がピピピッと鳴った。
森田はすぐにメールを開いた。
佐藤京子からだった。
「森田。川田。今日であなた達を解雇します。採用の時約束した給料は支払いません。学歴資格等を詐称したのですからあなた達は詐欺罪です。訴えてもあなた達が違法なことをしたのですから勝ち目はありませんよ。佐藤京子」
と書かれてあった。
「ちくしょう。一ヶ月タダ働きだ。佐藤京子のヤツ最初から欲求不満のはけ口にするためにオレ達を採用したんだ」
「アクドイ女だな。直接言いにくいことはメールでしやがって」
二人の怒りは頂点に達していた。
・・・・・・・・・・・・
数日後。
5時になったので佐藤京子は帰り支度をして事務所を出ようとした。
その時。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「はーい」
佐藤京子は玄関の戸を開けた。
川田と森田の二人が立っていた。
「な、何の用?あなた達は解雇したはずよ。私は今からマンションに帰るところよ」
佐藤京子はそう言って急いでドアを閉じようとした。
「おっと。そうはいかねえぜ」
森田はサッと靴をドアの隙間に入れた。
「な、何をするの?」
京子は焦ってドアを閉じようとしたが森田の靴がはさまっているので女のか弱い膂力ではドアを閉めることは出来なかった。
森田と川田の二人が開いているドアをつかんで、えーい、と思い切り引っ張った。
男二人の力とか弱い女一人の力比べでは女に勝ち目はない。
ドアが開かれ森田と川田の二人は佐藤京子税理士事務所にズカズカと入ってきた。
「あなた達、何を考えているの?これは住居不法侵入よ。出て行って」
そう言いながらも京子の声は少し震えていた。
「ああ。確かに住居不法侵入だな。しかしそれはあんたが人に言わなきゃ誰にもわかんないことだろう」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「な、何の用なの」
「今日は給料の支払い日なのに銀行口座に給料が振り込まれていないからな。支払ってもらおうと思ってここへ来たのさ」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「そ、それは。メールでも告げたでしょ。あなた達は学歴資格を詐称したでしょ。だからあなた達は詐欺罪よ。私はあなた達を正当な理由で解雇したのだからあなた達に給料を支払う義務は私にはないわ」
「一方的に詐欺よばわりされたくないな。あんただってオレ達を最初から雑用係りと欲求不満のはけ口とサディズムを楽しむためにオレ達を採用したんじゃねえか。あんただってオレ達をだましたじゃねえか」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「だましたなんて勝手に決めつけないで。わたしがあなた達をだましたという証拠でもあるの?」
「物的証拠なんてないな。しかしあんたの行動をじかに受けたオレ達にとってはあんたの心ははっきりわかるぜ」
「一体、私をどうしようというの?」
「ふふふ。ただ働きさせておいて給料を払わないというのならそれでもいいぜ。しかしオレ達も生活保護になっちゃうからな。あんたに金を払ってもらうぜ」
「ふふふ。ただ働きさせておいて給料を払わないというのならそれでもいいぜ。しかし散々、オレ達をコケにしたオトシマエはつけてもらうぜ。そうすりゃあんたもオレ達に金を払わざるを得なくなるぜ」
森田がふてぶてしい口調で言った。
そう言うや森田と川田の二人はそれっと言って京子に襲い掛かった。
「あっ。いやっ。何をするの?」
京子は抵抗したが屈強な男二人の力とか弱い女一人の力の差では女に勝ち目はなかった。
京子は両手を背中に捩じり上げられて縄で後ろ手に縛られてしまった。
これでもう京子は身動き出来なくなってペタンと床に座り込んでしまった。
足は動かせるので立って逃げようとすることは出来るが後ろ手に縛られて手が使えない以上逃げようとしても屈強な男二人が居る前では二人に容易に取り押さえられてしまうのは明らかなので京子は無駄な抵抗はしなかった。
「あなた達。私を縛って何をしようというの?」
「ふふふ。何をすると思う?」
「わ、わからないわ」
「ふふふ。教えてやろう。あんたにここでストリップショーをしてもらうのさ。そしてそれを撮影するのさ。金を払わないのならそれをエロ動画投稿サイトに投稿するのさ。佐藤京子のストリップショーがネットで全国に知れ渡るというわけさ」
そう言って森田はデジカメを三角脚立の上に固定した。
「卑劣だわ。あなた達が怠け者だとはわかっていたけれどそんな犯罪までするとは思わなかったわ」
川田が後ろ手に縛られて横座りしている京子の隣に座った。
川田は京子の頬をナイフでピチャピャ叩きながら京子の美しいストレートの黒髪をつかんだ。
「ふふふ。京子さん。後ろ手の縄を解いてやるぜ。その代わりちゃんと自分の手で色っぽく服を脱いでいきな」
川田は京子の髪の毛を弄びながら言った。
「い、嫌です。そんなこと」
京子は体を震わせながら言った。
女なら当然言う言葉を京子も反射的に言った。
「手間をとらせるな。強情を張るなら強引に脱がしてもっと恥ずかしいことをさせるぞ」
そう言って川田はハサミを取り出して京子のロングヘアーを少しジョキンと切った。
切り取られた京子の美しい髪の毛が少しパサリと床に落ちた。
「ああー。やめてー」
「ふふふ。これでオレ達が本気だということがわかっただろう。嫌というのならきれいな髪の毛を全部切ってバリカンで丸坊主にしてしまうぞ」
京子は渋面で唇を噛んで悩んでいたが抵抗しても無駄で時間の問題で抵抗するともっと酷いことをされると悟ったのだろう。
「わ、わかりました。服を脱ぎます。だからもう髪を切るのはやめて下さい」
と言った。
「わかりゃいいんだよ。じゃあ縄を解くからな。ちゃんとストリップショーをするんだぞ」
そう言って川田は京子の後ろ手の縄を解いた。
縄を解かれて京子は手が自由になった。
女の恥じらいから京子は両手を胸に当てた。
「ほら。さっさと立ってストリップショーをしな」
川田が言った。
しかし京子はためらっている。
「ふふふ。別にすぐ脱がなくてもいいぜ。女が恥ずかしいことが出来なくてためらっている姿はサディストの男を興奮させるからな」
森田のこの言葉が効いたのだろう。
「わ、わかりました。脱ぎます」
と言って京子は立ち上がった。
「わかりゃいいんだよ。さあとっとと服を脱ぎな」
京子はワナワナと手を震わせてワイシャツのボタンを外していった。
森田と川田の二人は食い入るように京子を見ている。
今まで散々奴隷のように扱っていた森田と川田の二人に服を脱ぐのを見られるのは京子にとって耐えられない屈辱だった。
しかし女のか弱い力では屈強な男二人に抵抗しても無駄ということはわかっているので京子は諦めていた。
ワイシャツのボタンを全部外すと森田と川田の二人は、
「さあ。ワイシャツを取り去りな」
と命じた。
京子はワナワナとワイシャツの袖から手を抜きとった。
パサリと京子のワイシャツが床に落ちた。
京子の豊満な乳房を納めている白いブラジャーが露わになった。
ブラジャーは京子の豊満な乳房を窮屈そうに納めてムッチリと膨らんでいた。
「おー。すげー。凄いセクシーなおっぱいだな」
「オレ。いつも京子のブラウスの胸のふくらみに悩まされてオナニーしていたんだ。それを拝めるなんて夢のようだぜ」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を言った。
京子は顔を真っ赤にして思わず両手を胸に当てた。
森田と川田の二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばし男たちは恥じらっている京子の姿をデジカメで撮影した。
「さあ。次はスカートを脱ぎな」
森田が言った。
命じられて京子はワナワナとスカートのチャックを外してスカートを降ろしていき足から抜き取った。
これで京子はブラジャーとパンティーという下着だけの姿になった。
京子の腰部にピッタリと貼りついている純白のパンティーは京子の股間の輪郭を包み隠さず露わにしているのでパンティーを履いていても京子はもう裸同然と同じだった。
むしろパンティーの弾力のためパンティーの中に収まっている恥肉がモッコリと盛り上がって見えた。
「うわー。すげー。凄いセクシーだ」
「まさか京子のパンティーを拝めるとはな。オレ興奮して心臓がドキドキしているぜ」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を言った。
京子は羞恥心から顔を真っ赤にして思わず両手をパンティーに当てた。
森田と川田の二人はそれを止めなかった。
「ふふふ。別に隠してもいいぜ。そうやって恥ずかしがる女の姿が男を興奮させるんだからな」
しばし男たちは恥じらっている京子の姿をデジカメで撮影した。
しはしして。
「さあ。次はブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になりな」
森田が言った。
「お願い。森田くん。川田くん。これ以上は許して」
京子は純白のブラジャーとパンティーを必死で手で覆いながら言った。
「ふふふ。だいぶ風向きが変わってきたな。しかし今さらくん付けにしたって遅いぜ。オレ達の怒りはトサカにきているんだから。脱がないというのならオレ達が強引に脱がすだけだぜ」
そう言って川田はカバンから大きな浣腸器を取り出した。
「おい。京子。とっととブラジャーとパンティーを脱いで素っ裸になれ。強情を張っているとオレ達が丸裸にひん剥いて後ろ手に縛って1リットルのグリセリン液の浣腸をするぞ」
森田が大きな浣腸器を手にしながら言った。
京子は恐怖心で顔が真っ青になった。
「わ、わかりました」
逆らっても無駄だと悟ったのだろう。
京子はブラジャーのホックを外した。
プルンと京子の大きな乳房が弾け出て露わになった。
「うわー。すげー。夢にまで見た京子のおっぱいを見れるとは。オレ。興奮しておちんちんが勃起しっぱなしだぜ」
そう言って川田はズボンの上からテントを張った股間をさすった。
「オレもだぜ」
森田もビンビンに勃起してテントを張っているズボンの股間をさすった。
京子は思わず両手で露わになったおっぱいを隠した。
「ふふふ。いいポーズだぜ」
川田は純白のパンティー一枚だけ履いて両手でおっぱいを隠している京子の姿を撮影した。
京子の姿はあたかも胸の前で収穫した二つの大きな桃が落ちないように大事にかかえている女のように見えた。
両手で胸を隠しているので京子の純白のパンティーは丸見えである。
京子の恥肉を収めたパンティーはその弾力によって恥部をモッコリとふくらませ女の恥部の輪郭をクッキリとあらわしていた。
パンティーは女の股間を引き締めて整える効果があるのでそれは全裸以上にエロチックでもあった。男はパンティーやビキニに包まれた女の股間のモッコリに興奮するのである。
「ふふふ。京子。股間のモッコリが丸見えだぜ」
川田が言った。
「股間のモッコリは隠さなくてもいいのか?」
森田が言った。
言われて京子は股間の防備を忘れていたことに気づき、おっぱいを隠していた両手のうち左手で股間を覆った。
それはボッティチェリのビーナスの誕生の図だった。
「ふふふ。その格好も色っぽいぜ」
そう言って川田は恥じらっている京子の姿を撮影した。
「さあ。京子。最後の一枚のパンティーも脱ぎな」
森田が言った。
「胸とアソコを隠すポーズならパンティーを履いているより全裸の方が芸術的だせ」
「もうブラジャーは脱いじゃっているんだからパンティーも脱いだ方がスッキリするぜ」
「手でアソコを隠しながら素早くパンティーを脱げばいいじゃないか」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を投げかけた。
しかし京子にしてみればパンティーは女の最後の砦だった。
男たちが京子にパンティーを脱ぐように命じても最後の砦はどうしても脱げなかった。
「ええい。じれってえ」
京子がどうしてもパンティーを脱ごうとしないので川田が京子の所に行った。
川田はニヤニヤ笑っている。
「ふふふ。そんなに脱ぎたくないなら脱がないでいいぜ。それよりももっと面白いことを思いついたからな」
川田は京子の隣に腰を下ろして意味深なことを言った。
「な、何をするの?川田くん」
京子は脅えながら必死に胸とアソコを手で隠している。
川田はポケットからハサミを取り出すとサッと素早く京子のパンティーの右側のサイドをプチンと切ってしまった。
片方のサイドを切られたパンティーはもう腰に貼りつく役割りを果たせない。
パンティーの弾力によってパンティーは一気に収縮してしまった。
「いやー」
京子はあわててパンティーがずり落ちないように太腿をピッチリと閉じてパンティーを太腿で挟みつけパンティーが落ちないようにした。
そして両手で切れた右側のサイドの端をつかんで縮もうとするパンティーを何とか引っ張って留めようとした。
京子は右手でパンティーの右側の切れたサイドの後ろの方の端を必死でつかんで引っ張り、お尻を見られないようにし、左手でパンティーの右側の切れたサイドの前の方の端をつかんで引っ張って、必死で何とか女の恥部を見られないようにした。
必死で片方のサイドが切れたパンティーをそれでも身につけていようとするのは女にとっては最後まで恥ずかしい所を隠そうとする健気な努力なのだが男は皆スケベでサディストなので困っている女の姿は男を最高に興奮させるのである。
両手で切れた右側のサイドの端をつかんでいるので京子のおっぱいは丸見えである。
「あっははは。京子。サイドが切れたパンティーなんてもう使い物にならないぜ」
「もうそのパンティーは使い物にならないんだから無駄な頑張りはやめてパンティーは脱いじゃいな」
「でもお前が困っている姿は最高にセクシーでエロチックで男を興奮させるぜ。だからお前がそうしたいのならいつまでもその格好で無駄な頑張りを続けてもいいぜ」
森田と川田の二人はデジカメで惨めな京子の姿を撮影しながら京子にそんな揶揄の言葉を投げつけた。
そう言われても京子は体を覆う最後の一枚を何とか死守しようとした。
「ふふふ。パンティーは絶対脱がないという決死の覚悟なんだな」
森田はそう言うや再び京子の所に行った。
そしてハサミを取り出してサッと京子のパンティーの切れてない方の左側のサイドをプチンと切ってしまった。
京子はパンティーの右側のサイドを両手で引っ張っていたので、そして引っ張らなくてはならないので切れていない反対側の左側のサイドはガラ空きだった。
なので森田は余裕で京子のパンティーの左側のサイドを切ることが出来た。
「ああー。いやー」
両サイドを切られたパンティーはもう腰に貼りついておく機能を完全に失っていた。
両サイドが切れたパンティーは一気に収縮した。
それでも京子はアソコを両手で隠した。
しかしパンティーは両サイドが切られているので後ろがペロンと剥げ落ち大きな尻と尻の割れ目が露わになった。
森田はパンティーの切れ端をつかんで引っ張った。
たいした力も要らずパンティーは京子の股間からスルリと抜きとられた。
これで京子は一糸まとわぬ丸裸になった。
全裸の女が男の視線から身を守ろうと片手で胸を片手でアソコを隠している姿は女の羞恥心の現れの基本的な形である。
「どうだ。京子。スッポンポンになってスッキリしただろう」
「いくら頭が良くても女を屈服させるのは簡単さ。裸にさせればいいだけのことさ」
「ふふふ。今まで散々バカにしてきたオレ達の前でスッポンポンの裸を晒す気分はどうだ?」
森田と川田の二人は全裸で女の恥ずかしい所を隠している京子にそんな揶揄を言った。
「さあ。京子さんの尻もしっかり録画しておかないとな」
そう言って川田は京子の後ろに回ってスマートフォンで京子の後ろ姿を撮影した。
女にはアソコと乳房と尻という三カ所の恥ずかしい所がある。
しかし手は二本しかない。
なのでアソコと乳房を隠すためにはどうしても二本の手を使わねばならず尻までは隠せない。
「ふふふ。京子さん。大きな尻とピッチリ閉じ合わさった尻の割れ目が丸見えだぜ」
川田がスマートフォンで京子の後ろ姿を撮影しながら言った。
そういう卑猥な言葉を投げかけられることによって京子の意識が無防備に丸見えになっている尻に行き尻の割れ目がキュッと反射的に閉まった。
「いやー。やめてー。川田くん」
京子は思わず乳房を隠していた左手を外し左手で尻の割れ目を隠した。
京子はアソコを右手で隠し尻の割れ目を左手で隠しているという姿である。
乳房を隠していた手が外されたので京子のおっぱいが丸見えになった。
それは滑稽な姿だった。
「ふふふ。京子さん。おっぱいが丸見えだぜ」
森田が言った。
あっはははと森田と川田の二人は笑った。
自分が滑稽な姿であるということは京子もわかっているので京子はやむなく尻の割れ目を隠していた左手を胸に持って行きおっぱいを隠した。
そのため尻の割れ目は丸見えになった。
尻の割れ目を撮影されることはやむなくあきらめるしかなかった。
このように女を困らせることがスケベな男達のサディズムをそそるのである。
京子はアソコを右手で隠し胸を左手で隠すという基本形にもどった。
10分くらい二人は京子が困る姿をスマートフォンで撮影しながら鑑賞した。
「森田くん。川田くん。お願い。もうやめて。約束したお給料は払います」
京子は耐えきれなくなって丸裸の体のアソコとおっぱいを隠しながら森田と川田の二人に哀願した。
「ふふふ。ダメだぜ。京子さん。あんたがそう言い出すことは予想していたよ。しかしこういう事になった原因はあんたが性悪でオレ達を欲求不満のはけ口にしようと計画していたからじゃないか。自業自得ってやつさ。あんたの性悪な性格を徹底的に叩き直してやるよ。あんたをしとやかでつつましい女に調教してやるぜ」
森田が言った。
「よし。じゃあ次の責めといくか」
川田が言った。
「な、何をするの?」
京子は脅えながら聞いた。
森田と川田の二人は立ち上がって京子に近づいてきた。
「さあ。京子さん。両手を前に出しな」
森田が言った。
「い、いや。こわいわ。何をするの?」
京子は何をされるのかわからない恐怖から森田に言われても両手でヒッシと女の恥部を押さえているだけだった。
それが京子のせめてもの抵抗だった。
「ええい。じれってえ」
森田と川田の二人は強引に京子の手をつかんで胸の前に出させた。
やめてーと言って京子も抵抗したが女のか弱い力では屈強な男二人の膂力の前には全く無力だった。
二人は京子の両手を体の前に出させ京子の手首に手錠をかけた。
「ふふふ。これは。あんたを徹底的に責めるためにSМショップで買ったのさ」
森田がせせら笑いながら言った。
「おい。川田。天井にフックを取りつけろ」
森田が川田に命じた。
「オッケー」
川田はホクホクしながら椅子を持ってきてその上に立った。
川田は登山用のカラビナが固定されている正方形の板を持っていた。
川田はそれを持って椅子の上に立つと板の裏に瞬間協力接着剤アロンアルファをたっぷりつけた。
そしてその板を天井に貼り付けた。
川田はカラビナを思いきり引っ張ってみたが板が天井にしっかりくっついていて剥がれることはなかった。
「よし。大丈夫だ」
川田が言った。
一方、森田は京子の手錠に縄を結び付けた。
そしてその縄尻を椅子の上に立っている川田に渡した。
川田はカラビナの輪の中に縄尻を通した。
「ふふふ。これだけ見ればわかるだろう。お前を吊るすのさ」
森田がふてぶてしい口調で言った。
「い、嫌。こわいわ。やめて。お願い。そんなこと。森田くん。川田くん」
京子の訴えを無視して森田は川田がカラビナに通した京子の縄尻をつかんでグイグイと引っ張っていった。
「ああー。やめてー」
京子が叫んだが森田と川田の二人は聞く耳を持たない。
滑車の原理で二人が縄を引っ張ることによって京子の手首はグイグイと天井に向かって引っ張られていった。
京子はバンザイさせられた格好になった。
さらに二人は縄をグイグイと引っ張っていき京子の手は頭上でピンと伸び京子は天井から吊るされる格好になった。
「ふふふ。つま先立ちになるまで引っ張ってやる」
川田が言った。
しかし。
「まて。つま先立ちになるまでは引っ張るな。足の裏は床につける程度にしておけ」
と森田が言った。
どうしてだ?と川田が聞くと森田は、
「まあ。いいじゃないか」
と意味深に笑った。
「よし。わかった」
そう言って川田は京子がつま先立ちになるまでは引っ張らず、手は頭の上で肘が少し曲がる程度の所で縄尻をカラビナに結びつけた。
京子の手は頭の上にあるので京子はもう女の恥ずかしい所を隠すことが出来ない。
乳房もアソコも丸見えである。
しかし天井から吊るされているので京子のアソコもおっぱいも丸見えである。
もちろん尻の割れ目も。
京子の体は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。
「ふふふ。京子さん。残念だな。もう手で体を隠すことは出来なくなったな」
「ふふふ。いつもは大きなおっぱいでワイシャツに膨らみを作って男を挑発しているんだろうけれど剝き出しになったおっぱいは惨めなもんだな」
「胸にこんな大きな肉の塊を二つもだらしなくぶら下げて恥ずかしくないのか。ちゃんとブラジャーに収めておかなきゃいけねーぜ」
「それにしても大きい乳首だな。頭脳明晰なエリートの才女はこんな大きな乳首をしていちゃいけねーぜ」
森田と川田の二人は露わになった京子の胸をまじまじと見ながらそんな揶揄をした。
京子は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
しかし縄で手を吊られている以上どうすることも出来ない。
しかし二人の男に乳房と乳首をまじまじと見られていることを思うと京子の乳首は大きくなり出した。
それを二人の男は見逃さなかった。
「おおっ。京子さんの乳首が勃起し出したぜ」
「嫌がっていてもこうやって見られることに興奮しているんだな」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を吐いた。
京子は乳首が勃起してしまったことを死にたいほど恥ずかしく思った。
いっそ荒々しく乳房を揉まれる方がまだマシだと京子は思った。
丸裸にされてこんなにネチネチと鑑賞され品評されることの方がはるかに屈辱だった。
二人の男の視線は下に降りた。
京子は太腿を寄り合わせて何とかアソコを隠そうとモジモジしていた。
「ふふふ。京子さんが太腿をモジモジさせているぜ」
「何としてもアソコは隠したいんだな。いじらしいな」
「川田。これでわかっただろう。京子を吊るす縄を緩めにしておいたのはこのモジモジを見たかったからさ。女は両手を使わなくても太腿を寄り合わすことで何とかアソコの割れ目は隠せるんだ。このいじらしいモジモジをさせるために縄を緩めにしておいたんだ」
「なるほどな。確かにこの方が面白いな」
川田は納得したようにニヤニヤ笑って言った。
二人の男にそんな揶揄をされても女の哀しい性で京子は太腿のモジモジをやめることは出来なかった。
「じゃあこのいじらしいモジモジを撮影するとするか」
そう言って二人の男は京子から離れて座って太腿をモジモジさせている京子をスマートフォンで撮影した。
二人の男はいつ京子の太腿の寄り合わせが緩んでアソコの割れ目が見えるかを気長に待つ方針のようだった。
20分くらい経った。
京子は太腿を寄り合せての立ち続けの疲れからハアハアと息が荒くなっていきそして太腿の疲れから太腿の寄り合わせが緩んできた。
それを二人の男は見逃さなかった。
「おっ。京子のアソコの割れ目が見え出したぜ」
森田は待ってましたとばかりにスマートフォンのカメラのズームをアップしてカメラの焦点を京子のアソコに当てた。
京子のアソコは無毛だった。
それは最初からわかっていたことだが。
「どうしてアソコの毛を剃っているんだろう」
「さあな。きれい好きだからじゃないか」
「しかし裸の女の立ち姿のアソコは理想的だな。モッコリ盛り上がった恥肉の下の方にアソコの割れ目がほんの少しだけちょっと顔をのぞかせているなんて。憎いまでに男の性欲を刺激させるぜ」
森田と川田の二人はそんな揶揄の言葉を京子に吐いた。
「お願い。森田くん。川田くん。もう許して。もう意地悪しないで。お願い。虐めないで」
京子は耐えられなくなって徹底的に自分を辱しめようとしている二人に哀願した。
京子は泣きながらまた太腿を寄り合わせてアソコの割れ目を隠そうとした。
「おい。京子。裸は恥ずかしいか?」
「はい。恥ずかしいです」
「じゃあパンティーとブラジャーを身につけたいか?」
「は、はい」
「よし。じゃあ下着を履かせてやるよ。ただしビキニだけどな。オレ達はあんたのビキニ姿を一度見たいと思っていたんだ」
そう言って森田と川田の二人は立ち上がって京子に近づいてきた。
「ほら。これでおっぱいを隠してやるよ」
そう言って川田がピンク色のストラップレスブラで京子のおっぱいを含んで背中で蝶結びにした。これで京子のおっぱいはブラの中に収まり乳房は隠された。
「じゃあ下の恥ずかしい所も隠してやるよ。ほら。アンヨを広げな」
そう言って森田は京子の太腿をピシャピシャ叩いた。
森田が持っていたのは両サイドを紐で結ぶ紐ビキニだった。
京子はアソコを見られるのは一瞬のことだと思って少し足を開いた。
森田は紐ビキニの底を京子の股間にピッタリと当てた。
そして両サイドを紐ビキニの紐で蝶結びにした。
これで京子は女の恥ずかしいアソコとおっぱいと尻を隠すことが出来た。
ビキニは上も下も際どいハイレグカットではなく十分な面積があり尻はフルバックだった。
京子はどうして意地悪な彼らが乳首だけ隠すブラやTフロントやTバックのビキニではなく十分な面積のビキニを履かせてくれたのかわからなかったがともかく普通のビキニを身につけられてほっとした。
「おい。京子。ビキニを履かせてやったんだ。お礼くらい言ったらどうだ」
森田が怒鳴りつけた。
「あ、有難うございます」
お礼を言ったものの京子はなぜ彼らがビキニを履かせてくれたのかはどうしてもわからなかった。
今までの丸裸に比べたら吊るされているとはいえビキニ姿を彼らに見られることは相当な救いだった。
ビキニを履いたことによりアソコの肉がビキニの弾力によって形よく整えられてビキニの中に窮屈そうに収まりモッコリとした小高い盛り上がりを作っているためそれは全裸よりもエロチックに見える。
胸も同様である。
剝き出しのおっぱいは胸板に貼りついてだらしなくぶら下がっている二つの大きな肉塊であり、それを見られるのが女の恥ずかしさであるがブラジャーはそのカップの中にその肉塊をきれいに収めて、そしてブラジャーの弾力によって女の乳房をせり上げてほどよい弾力のある蠱惑的な小高い盛り上がりに変えている。
「ふふふ。京子さん。綺麗だねー。アソコがモッコリしていて」
「オレ一度京子さんのビキニ姿を見てみたかったんだ。上下揃いのスーツをいつも見せつけられてその姿にも興奮させられて毎日オナニーしていたけれど京子さんのビキニのモッコリも一度見てみたいと思っていたんだ。まさに夢かなったりだ」
「お臍もかわいいな」
「太腿もビキニの縁からニュッと出ていて物凄くセクシーだな」
「ビキニは女が自分の体を男たちに見せつけるものだからな」
「真面目な京子さんも夏は海水浴場に行ってビキニで男たちを挑発するんだろうか?」
「まあいいじゃないか。今こうして目の前で京子さんのビキニ姿を見ているんだから」
森田と川田の二人は心地よさそうに自分のビキニ姿を鑑賞している。
京子はそれを彼らはもう嬲るのは終わりにしようとしていることだと解釈した。
京子は言葉には出さないが(いいわよ。私のビキニ姿を鑑賞したいというのなら)と言いたい気分だった。
しばし二人はスマートフォンで京子のビキニ姿を撮影しながら京子のビキニ姿を鑑賞していた。
「じゃあオレ。ちょっと後ろ姿も撮影するぜ」
そう言って川田は京子の背後に回った。
「うわっ。ヒップも大きくて物凄くセクシーだぜ」
「フルバックのビキニからニュッと出ている太腿も素晴らしいぜ」
川田はことさら驚いたように大声で言った。
京子はビキニ姿の前を森田に見られスマートフォンで撮影され後ろ姿を川田に見られ撮影されているという立ち位置である。
後ろの川田は見えないが京子は(いいわよ。ビキニ姿を撮影するのなら)と言いたい思いだった。
京子はひそかに自分のプロポーションに自信をもっていた。
何だか自分がグラビアアイドルになって撮影されているような心地よさに浸っていた。
「京子さん。自慢のヒップを近くで撮影させてもらうぜ。いいだろ?」
川田が背後から声をかけた。
「い、いいわよ」
京子は自分がグラビアアイドルになったような酩酊から川田の申し出を受け入れた。
返事をするのはちょっと恥ずかしかったが。
しかしそれが油断だった。
川田は京子の傍らに来ると京子のビキニのサイドを結んでいる紐の両方をスーと引っ張った。
サイドの紐は蝶結びで結ばれているだけなので軽く引くだけで蝶結びは解けてしまった。
「ああっ」
京子は思わず悲鳴を上げた。
紐ビキニの両方の紐が解けてしまったビキニは腰に貼りついている機能を失ってビキニはハラリと床に落ちてしまった。
川田はニヤリと笑って立ち上がりストラップレスブラの背中の蝶結びも解いた。
ストラップレスブラは肩紐が無く背中の蝶結びだけが胸に張りついておく機能なのでそれを解かれると、もはやブラは胸に張りついておくことが出来ずスーと床に落ちてしまった。
川田は床に落ちたビキニの上下を取るとそそくさと森田の隣に行って座った。
京子はまた覆う物何一つない丸裸になってしまった。
「あっははは。京子。残念だったな。せっかくオレ達にセクシーなビキニ姿を見せつけていい気分になっていたのに」
「しかしお前のビキニ姿は本当に美しかったぜ」
森田と川田の二人は笑いながらそんな揶揄の言葉を京子に吐いた。
ここに至って京子はやっと彼らの念の入った意地悪を理解した。
彼らはビキニ姿を見たいなどとおだてておいて京子にビキニを履かせ散々褒めちぎって京子をいい気分にさせておいてそれでビキニの紐を解いていい気分に浸っていた自分を元の地獄に落とすのが彼らの計画だったのだと気づいた。
京子は彼らの計画に気づかずまんまと彼らの罠にはまってしまった人の良さを後悔した。
京子はまた太腿を寄り合わせてアソコを隠そうとした。
しかし胸は手をバンザイさせられているので隠しようがなく二つの乳房がもろに露わになり乳房の真ん中にチョコンと乗っている女の大きな乳首がもろに露わになった。
女の大きな乳首を見られることが恥ずかしいのだと京子はあらためて知った。
「お願い。森田くん。川田くん。もう意地悪しないで」
京子は泣きながら訴えた。
しかし森田と川田の二人は京子の哀願などどこ吹く風といった様子でニヤニヤと裸の京子がモジモジ困惑する姿を眺めている。
「おい。京子。そんなに裸を見られるは嫌か?」
「はい」
「そうか。よし。じゃあアソコが見えないようにしてやるぜ」
そう言って森田は長い麻縄をカバンから二本取り出した。
森田は一本の長い縄の真ん中の所を京子の首の後ろにかけた。
「な、何をするの?」
「ふふふ。亀甲縛りだ。お前も亀甲縛りくらいは知っているだろう」
そう言って森田は京子の首の下10cmくらいの所で固結びを作った。
固結びの下にはその続きの二本の長い縄が床まで垂れている。
「や、やめてー。お願い。森田くん」
京子が叫んだ。
しかし森田は京子の哀願など無視して亀甲縛りを続けていった。
森田は京子の乳房の下と臍の所にも固結びを作った。
「ほら。京子。アンヨを開きな。股間にもしっかり縄をかけるんだから」
森田がそう言っても京子は足をピッチリ閉じて開かない。
なので森田は川田を見て、
「おい。川田。京子の足を広げろ」
と命じた。
「ホイキタ」と川田は応じて川田は京子の両足首をつかんでグイと広げた。
屈強な男の膂力に対し女のか弱い力では逆らうことは出来なかった。
森田は京子の女の割れ目を広げて二本の縄を京子のアソコの割れ目に食い込ませた。そしてそのまま縄を股間の後ろに持っていき尻の割れ目にしっかりと食い込ませた。そして尻の割れ目の上から出た縄を京子の首輪の後ろにカッチリと結びつけた。
これで京子の縦縄が出来た。
「ああー」
京子は股間に意地悪く食い込んでくる縄の気色の悪い感覚に叫び声を上げた。
森田は別のもう一本の縄を固結びが三カ所ある縦縄に横から通してグイと引き絞った。そして背後で結んだ。
これで固結びが三カ所ある縦縄が横縄に引っ張られて体の前に二つの菱形が出来た亀甲縛りが出来た。
「ふふふ。京子。どうだ。股間に縄が食い込んで気持ちがいいだろう」
川田が揶揄した。
「ふふふ。京子。約束は果たしたぜ。アソコの割れ目は二本の縄で隠されて見えないぜ」
森田は薄ら笑いしながら言った。
確かにそう言えばそうだった。
京子の股間に食い込んでいる二本の縦縄は京子のアソコの割れ目を隠していた。
「ふふふ。京子。どうだ。股間に縄が食い込んで気持ちがいいだろう」
川田が揶揄した。
「ふふふ。この高慢ちきな女を一度こうして亀甲縛りしてみたいと思っていたんだ」
森田が言った。
「どうだ。京子。亀甲縛りされた気持ちは?」
そう言って森田は等身大のカガミを京子の前に立てた。
「ほら。よく見ろ。お前の姿だぞ」
京子は一瞬チラッとカガミに映された自分の姿を見た。
縄が体にまとわりつくように意地悪く食い込み体に二つの縄の◇(菱形)が出来ていた。
乳房は二つのキビシイ亀甲縛りの縄から弾け出てもろに丸見えである。
しかし二本の縦縄が股間に食い込んでアソコの割れ目は確かに見えなかった。
京子は毛穴から血が噴き出るほどの恥ずかしさで咄嗟にカガミから顔をそむけた。
「おい。京子。どうだ。亀甲縛りにされた気持ちは。聞いているんだ。答えろ」
森田が大声で怒鳴りつけた。
「は、恥ずかしいです。みじめです」
京子は顔を真っ赤にして小声で答えた。
「尻もよく見ろ」
そう言って川田はもう一つの等身大のカガミを持って京子の背後に回った。
川田は京子の背後にカガミを立てた。
前にいる森田はカガミの位置と角度を少し変えて前のカガミに京子の背後の姿が見えるようにした。
「ほら。京子。カガミを見ろ」
森田が大声で怒鳴りつけた。
京子はそっと森田が置いた等身大のカガミを見てみた。
「ああっ」
京子は顔を真っ赤にして叫んだ。
なぜなら意地悪な股間縄は京子の股間に深く食い込んでいるためボリュームと弾力のあるムッチリとした左右の尻の肉が股間縄をギュッと挟みつけ股間縄は尻の割れ目の深くに埋まってしまって見えず、尻の割れ目の上の辺りからニュッと出ていたからである。
尻はもう丸見えである。
「ふふふ。京子。どうだ。股間に縄が食い込んで気持ちがいいだろう」
川田が揶揄した。
言われて京子の尻がピクンと震えた。
股間縄が食い込んでいる気色の悪い感覚は言われずとも感じていたが卑猥な揶揄の言葉をかけらけることによって、あらためて意識がそこに行き、どうしようもないやりきれなさとつらさが、あらためて京子に襲いかかったからである。
川田が揶揄の言葉を言った意図もそれが目的だった。
「しかし女のほとんどはTバックのパンティーを履くからな。女なんて所詮男たちに自慢の尻を見せたいんだよ」
「女がTバックを履くのは男たちに自慢の尻を見せたいのが目的だが、あれを履いている時女は尻の割れ目にTバックが食い込んでいる感覚を楽しんでいるんだよ」
「京子ほどのエリート女もTバックを履くんだろうか?」
「あるんじゃないか?」
「京子。お前もTバックを履いたことがあるだろう?」
森田は京子の顔と体をまじまじと見ながら聞いた。しかし聞かれても京子は顔を真っ赤にして黙っている。
「答えろ。京子」
京子が答えないので森田が大声で怒鳴りつけた。
「あ、ありません」
京子は顔を真っ赤にして消え入るような小さな声で答えた。
「ふふふ。本当かな」
「ないのなら何で顔を赤くしているんだよ?」
二人は執拗に京子を言葉で責めた。
そして京子の恥ずかしい姿を間近でスマートフォンで撮影した。
「森田くん。川田くん。もう許して。もう意地悪はやめて」
京子が哀願した。しかし森田と川田の二人は聞く耳など持たない。
「おい。京子。どうだ。縄に虐めらている気分は?」
森田が聞いた。
「み、みじめです。恥ずかしいです」
京子は泣きながら言った。
「おい。京子。ちょっと足を開け」
森田が言った。しかし京子はためらっている。
「お願い。森田くん。もう許して」
京子は泣きながら哀願した。
「大丈夫だ。二本の縄がしっかりと股間に食い込んでいるからな。どんなに足を大きく開いてもアソコの割れ目と尻の穴は見えないぜ」
そう言われても京子は足を開けない。
「ええい。じれってえ」
京子が足を開かないので森田が強引に京子の両方の足首をつかんで開かせ京子の真下に等身大のカガミを敷いた。そして京子の両足をカガミの縁の外側に置いた。
カガミは京子の足を開かせる役割もあった。
なぜならカガミは一人の人間の体重に耐えられるほど丈夫ではなくカガミを踏んでしまってはバリバリと割れてしまうかもしれず危険だからだ。
「ああー」
京子は眉を寄せ髪を振り乱して全身を震わせた。
「ふふふ。京子。大丈夫だ。股縄がしっかりと股間に食い込んでいるからアソコの割れ目と尻の穴は見えないぜ。下を見てみろ」
言われて京子はおそるおそる下に敷かれているカガミを見てみた。
カガミには京子の股間の様子がはっきりと映し出されていた。
しっかりと深く股間に食い込まれた股縄は京子のアソコの割れ目の奥に深く食い込んでいるので恥肉の中に埋まってしまっている。
尻の穴も股縄によって見えない。
「ふふふ。どうだ。京子。恥ずかしい割れ目は見えてないだろう」
森田が居丈高に言った。
京子は足の下に敷かれたカガミを踏めないので足を大きく開いて踏ん張っている。
開くしか仕方がないのである。
森田と川田の二人は開かれた京子の股間を間近でパシャパシャと撮影した。
「ああー。やめて。お願い。森田くん。川田くん」
京子は太腿の肉をブルブル震わせながら哀願した。
そこにはもう二人を叱りつけた強気のエリートの京子はいなかった。
ただただ二人に憐みを乞うか弱い一人の女がいるだけだった。
「ふふふ。だいぶ女らしくなってきたな」
川田がそんな揶揄を言った。
森田は京子の股間の間近に座ってスマートフォンで京子の股間を念入りに撮影した。そして次はスマートフォンを持って京子の体の正面に立ち亀甲縛りされた京子の全身を撮影した。
「ふふふ。いい画像と動画が撮れたぜ」
森田が薄ら笑いして言った。
「よし。じゃあ今度はあのポーズにして撮影しよう」
あのという言葉に京子は今度は何をされるのだろうと恐怖におののいた。
川田は京子の足の下に敷かれている等身大のカガミをどけた。
そして縄を持ってニヤニヤ笑いながら京子に近づいてきた。
川田は京子の左足の膝のすぐ上の所を縄で縛った。
「な、何をするの。今度は?」
京子は今度は何をされるのだろうかと恐怖におののきながら聞いた。
川田は京子の質問に答えずニヤニヤ笑いながら椅子を持ってきた。
そして京子の左膝の上を縛った縄の縄尻を持って椅子の上に立った。
そしてその縄尻を京子を吊っている天井のカラビナの輪の中に通した。
そして川田は縄尻をグイグイと引っ張った。
京子の左足はグングン上へ引っ張られていった。
「ふふふ。これでわかっただろう。お前の片方の膝を吊り上げるんだ」
川田はニヤリと笑って言った。
「ああー。やめてー」
京子は顔を真っ赤にして哀願した。
しかし川田は京子の言うことなど聞かない。
否。サディストにとっては女が苦しむのを見るのが喜びなのだから京子の哀願は彼らの興奮を増しこそすれ逆効果なのである。
川田は京子の膝が胸に触れるほどまでに縄を引っ張った。
そしてその位置で縄を固定した。
京子の前には森田が居て等身大のカガミが立っている。
「ほら。京子。カガミで自分の姿を見てみろ」
言われて京子はチラッとカガミに視線を向けた。
京子は瞬時に顔を真っ赤にして目をそらした。
「ああー。やめてー。降ろして。川田くん。森田くん」
京子は顔を真っ赤にして叫んだ。
無理もない。京子は片方の膝を乳房に触れるほどまでに吊り上げられているのでアソコがパックリと丸見えになっているからである。
しかし股間に食い込んでいる二本の股縄のためアソコの割れ目の中は隠されて見えない。
「ふふふ。物凄い格好だぜ。京子」
「しかしアソコの割れ目の中は縄で隠されて見えないぜ」
「しかしギリギリ見えない方がアソコの割れ目の中が見えてしまうよりかえってエロチックだな。見えそうで見えないことが男を興奮させるんだ」
森田と川田の二人はそんな勝手なことを言い合った。
「おい。京子。ともかくオレ達は約束はちゃんと守ってアソコの中は見えないようにしてやったんだ。礼くらい言ったらどうだ」
森田が恫喝的な口調で言った。
「あ、有難うございます」
京子はワナワナと声を震わせて言った。
「それじゃあ京子のこの恥ずかしい格好を撮影するとするか」
そう言って森田と川田の二人は亀甲縛りされて天井から吊るされて片方の膝を胸の辺りまで吊られている京子をスマートフォンでじっくりと撮影した。
「ふふふ。京子。物凄い格好だな」
「スーツ姿の頭脳明晰のエリート・キャリアレディがこんな格好をしちゃいけねーぜ」
「いつもの勝気な態度はどうした」
などと二人は京子を辱める言葉で揶揄した。
「おい。京子。オレ達のことをいつものように(このウスノロ)と怒鳴りつけてみろ」
森田がキビシい口調で怒鳴りつけるように言った。
「お、おい。このウスノロ」
京子は顔を真っ赤にして声を震わせながら小声でそのセリフを言った。
「あっははは。丸裸で吊られて股をおっびろげてアソコをもろに晒している女にそういうセリフを言われてもピンと来ないね」
「そういうセリフはパリッとした上下揃いの粋なスーツを着て言いな」
森田と川田の二人は笑い合った。
「お願い。森田くん。川田くん。もうこれ以上は許して。約束したお給料の倍は払いますから。お願いです。縄を解いて下さい」
京子は泣きながら二人に哀願した。
しかし二人は聞く耳を持たない。
二人は20分くらい亀甲縛りされて天井から吊るされて片方の膝を胸の辺りまで吊られている京子をパシャパシャと撮影した。
「よし。もう十分京子の恥ずかしい姿を撮影したからな。オレ達は帰るぜ。玄関のカギはかけないでやる。この後、宅配のピザ屋に電話してここにピザを注文してやる。だからピザの宅配の人に縄を解いてもらいな」
「オレ達を訴えて裁判沙汰にしてもいいけど証拠としてあんたの動画を提出しなきゃならないからな。あんたのことがニュースや新聞や週刊誌で報道されてあんたは恥を世間に晒すことになるぜ」
「しかしオレ達は何の取り柄も生きる目的も無いニートだからな。懲役3年くらい実刑をくらっても刑務所の方が三食と住まいと衣服つきだからな。別に構わんぜ。むしろそっちの方が金の心配をしないで三食ちゃんと食べられるからな。むしろそっちの方がいいくらいだぜ」
「じゃあな。京子。あばよ。達者でな」
そう言って二人は立ち上がった。
そして二人は玄関に向かった。
その時。
「待って。森田くん。川田くん。重要な話があるの」
京子が呼び止めた。


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からかい上手のエリート税理士の佐藤さん(小説)(下)

2024-04-18 23:16:00 | 小説
京子は真面目な顔で二人を目をそらすことなく直視しているので森田と川田の二人はこれは何かあるなと思い京子の所に戻ってきて京子の前に座った。
「何だよ。京子。重要な話って?」
森田が聞いた。
「森田くん。川田くん。あなた達を採用しておいて散々いじめてしまってゴメンね」
「何だ。そんなことか。別に気にしてないぜ。オレ達が日商簿記一級の資格を持っているなんてウソついたんだから叱られても自業自得だよ。しかし優しいと噂されているあんたがあんなに怖い女に豹変するのは意外だったけどな」
二人の発言を聞いた後、京子は落ち着いた口調で話し出した。
「実はね。あなた達が日商簿記一級の資格を持っていないことは知っていたの。大学卒でないことも」
「どういうことだ。京子?」
「じゃあどうしてオレ達を採用したんだ?」
二人は京子の発言に驚いて急に真顔になった。
ウソをつく京子ではない。
「じゃあその理由を話すわ」
「おい。川田。京子さんの左膝の吊りを解いてやれ」
「ああ」
二人の京子に対する態度が一気に変わった。
日商簿記一級の資格や大卒かなどかは証明書を提示するよう言えばすぐにわかることである。なぜ京子がそれらの提示を求めなかったのかは二人にはわからなかった。それは京子が人を疑わない性格だからなのだろうと漠然と思っていた。しかしそんなことはちょっと調べればすぐわかることである。
川田は急いで京子の膝を吊っている縄を解いた。
そのおかげで京子は片足吊りの責めから解放されて左足を床にもどすことが出来た。
「実はね。あなた達のことはあなた達が面接に来た後にアーウィン女性探偵社に頼んで調査してもらって知っていたの。金庫の中にあなた達の素性報告書があるから金庫を開ければわかるわ」
「じゃあどうしてオレ達が日商簿記一級の資格も持っていないことを知りながらオレ達を採用しておいてだまされたと言ってオレ達を奴隷のように扱ったんだ?」
「あなた達はアルバイトでAV男優も1年くらいやっているでしょ。あなた達が出演したアダルトビデオも私は見たわ」
「へー。そんなことまで知っていたのか。じゃあ税理士の仕事の戦力にならないとわかっていて何でオレ達を採用したんだ?」
「あなた達には前科はないでしょ。私、あなた達の出演したアダルトビデオを見たわ。全部SМ物ばっかりね」
「よく知っているな。確かにオレ達はAV男優のアルバイトを1年間やったぜ。全部SМ物ばかりだ。オレ達にはSМ趣味があるんだ」
「アーウィン女性探偵社の人達が綿密に調査してくれたわ。AV男優は演技することを監督から徹底的に教育されているから紳士が多いという事も聞かされたわ。実際あなた達は私に対する復讐で私を徹底的に辱めたけれどあなた達は私を辱めても犯しもしないし指一本触れなかったでしょ」
「い、いや。あんたを触って弄んだり犯したりしたら、あんたがオレ達を訴えた時罪が重くなるからだよ」
「ふふふ。謙遜しているけど本当はあなた達は優しい性格だわ。私はあなた達を奴隷のように虐めたけれどあんなことされたら私に復讐しようと思うのは当然だわ」
「じゃあ何で日商簿記一級も持っていないと知っていながらオレ達を採用しオレ達を虐め抜いたんだ?訳が分からないな」
二人は狐につつまれたような顔つきになった。
「じゃあ本当のことを言うわ。実は私マゾなの。これは子供の頃からの先天的な性格なの。大人になって私もSМの出会い系サイトで何人かの男と会ってみたけれどみんなセックスが目的だったわ。みんなSМとセックスをごちゃ混ぜにしていて。羞恥責めしてくれるいいSМパートナーは見つからなったわ。そこで私はあなた達が私のスタッフ募集に応募してきた後あなた達の素性をアーウィン女性探偵社に調査してもらったの。そしてあなた達がSМが好きな性格でAV男優も1年間経験していることを知ったわ。それであなた達なら理想のSМパートナーとなれると思ったの。それであなた達を採用して徹底的に虐め抜いて私に復讐するように仕向けたの。私はおびえるフリの演技をしていたけれど最高のマゾの快感を味わっていたわ」
「本当かなー?」
「ウソだと思うのならダイヤルロック式の金庫を開けて御覧なさい。開錠番号は5991よ」
森田と川田の二人は急いでダイヤルロック式の金庫の所に行き5991と合わせた。
すると金庫が開いた。
中にはパソコンと札束が入っていた。
「パソコンを開いてみなさい。その中に(私の写真)というフォルダがあるでしょ。それを開けてご覧なさい」
言われて二人はパソコンを開いた。
デスクトップにいくつものフォルダがあった。
その中に「私の写真」というフォルダがあった。
それらを開くと京子の亀甲縛りや股縄をした写真やビキニ姿の写真やオナニーしている画像や動画がたくさん出てきた。
森田と川田の二人はそれらをザーと見た。
「本当だ。信じられないけれど本当だ」
森田が目を疑って言った。
「私がオナニーしている姿を自撮りしてエッチ動画投稿サイトに投稿したのもかなりあるわよ。ワード文章があるでしょ。いくつものURLアドレスがあるでしょ。そのサイトを見てみなさい」
森田は京子に言われたようにそれらのURLアドレスのサイトを見てみた。
すると。
豆絞りの手拭いで口と下顎を隠した女が全裸で自分の胸やアソコを揉んで、あはん、あっは~ん、と悶えているいやらしい動画が出てきた。
森田はそれらの動画を急いでザーと見た。
「私もさすがに世間にこのことが知られるのはこわかったわ。だから豆絞りの手拭いをして顔を隠したの。でも右胸の上の方に小さなホクロがあるでしょ。だからそれが私だってことが本当だってことが確信できるでしょ」
京子が言った。
「本当だ。確かに右胸の上の方に小さなホクロがあるよ。それに口と下顎は見えないけれど目や鼻や顔の輪郭は明らかに京子さんだ。体つきも京子さんと同じだ」
森田と川田の二人は驚いた。
「じゃあ私があなた達のために書いておいた文章があるからそれを読んでご覧なさい」
パソコンのデスクトップには「森田くんと川田くんへ」というタイトルのワード文章があった。
彼らはそれを開けて急いで読んだ。
それにはこう書かれてあった。
「森田くん。川田くん。あなた達のことはアーウィン女性探偵社に調査してもらって知っているわ。大卒でないことも日商簿記一級の資格をもっていないことも。私はだまされたと言って大人しい性格が豹変してあなた達を奴隷のように扱うわ。そして給料も支払わず解雇するわ。あなた達はきっと怒って私に復讐すると思うの。あなた達はAV男優も経験があるでしょ。だからあなた達はきっと私に羞恥責めのSМプレイをすると思うわ。私はこわがってあなた達に許しを求めるわ。でもそれは演技よ。あなた達は私にとって理想のSМパートナーになってくれると思って採用したの。お給料は約束した倍払います。どうぞ受けとって下さい。これからも私をうんと虐めてね」
と書かれてあった。
金庫の中には札束があった。
二人はそれを手にして枚数を数えてみた。
確かに約束した給料の倍の額があった。
ここに至って森田と川田の二人は完全に京子の言うことを信じた。
「やられた。参りました。京子さん。僕たちは完全にあなたの計画にはまっていたのですね。やっぱり京子さんは頭がいい。僕たちにはあなたがとったいくつもの不可解な行動を疑う能力もありませんでした。僕たちの完敗です」
そう言って森田と川田の二人は京子の前で土下座して謝った。
「ふふふ。いいのよ。だって私は理想のSМパートナーが見つかって長年のマゾの欲求がかなえられたんだから。私の方がお礼を言わなきゃいけないわ。有難う」
京子が言った。
森田と川田の二人は完全な敗北に打ちのめされていた。
「おい。京子さんの亀甲縛りを解け。そして手錠も外して自由にするんだ」
森田が川田に言った。
「あ、ああ。そうだな」
川田は京子の亀甲縛りを解いた。
これで京子は全裸で手を吊るされているだけになった。
「おい。川田。京子さんの手錠も外せ」
森田が川田に命じた。
「ああ」
川田は京子の頭の上の手錠を外そうとした。
その時。
「川田くん。ちょっと待って。私の机の一番下の引き出しの中に私の下着があるからそれを持ってきて」
と京子が言った。
「はい」
川田は京子のデスクの引き出しの一番下を開けた。
するとたくさんの書類の下に袋があった。
開けるとブラジャーとパンティーが入っていた。
川田はそれを持って京子の所に戻ってきた。
二人は何をしたらいいのかわからず困惑している。
「森田くん。川田くん。私に下着を私に履かせて」
京子が笑顔で頼んだ。
「は、はい」
二人はかしこまって言った。
「で、では失礼します」
と言って森田はパンティーを京子の足に通しスルスルと腰まで引き上げた。
川田は京子の胸にブラジャーを着けた。
「も、もしかして京子さんはこういうことになることを予想して下着を引き出しの中に置いておいたのですか?」
森田がおそるおそる聞いた。
「まあいいじゃない。そんなことどうだって。それより私の下着姿も写真に撮って」
京子は微笑みながら言った。
「わわかりました」
森田と川田の二人はパシャパシャと下着姿で吊るされている京子をスマートフォンで撮影した。パンティーは普通のフルバックでブラジャーは肩紐のある普通のブラジャーだった。
清楚な純白の下着姿はまばゆいほど美しかった。
パンティーのアソコはモッコリと盛り上がっている。
「最高に嬉しいわ。最初にも下着姿を撮られたけれど私は手錠されて吊られていなかったでしょ。だからこうして手錠されて吊られている下着姿も撮影して欲しかったの。股縄や亀甲縛りは自分で出来て私もその写真は自撮りして自分を慰めていたけれど自分で自分の手を縛ることは出来ないでしょ。だからこうして拘束されていると夢かなったりなの。私の下着姿をとっくり見て」
京子は晴れやかな口調で言った。
パシャパシャとスマートフォンで撮影しながら下着姿の京子を見ているうちに森田と川田の二人はまたハアハアと興奮し出した。
「あ、あの。京子さん。ちょっとイタズラしてもいいですか?」
森田が聞いた。
「いいわよ。何をしても」
京子は平然と答えた。
「じゃあちょっと失礼します」
そう言って森田は京子のパンティーを膝の上まで降ろしブラジャーは着けたままペロリとめくり上げた。
アソコとおっぱいが丸見えになった。
手が使えないので京子はパンティーを引き上げることも出来ずブラジャーを元の位置に戻すことも出来ない。
それはあたかもいやらしい男に吊るされてパンティーとブラジャーを脱がされかかっている女のようだった。
「ああっ。恥ずかしいわ。みじめだわ。でも私こういうみじめな格好にもされたいと思っていたの。ああ。マゾの快感が最高だわ」
京子にはもうためらいの気持ちはなくなっていた。
ただひたすら被虐の快感を求め尽くしたい気持ちになっていた。
森田と川田の二人はハアハアと興奮しながらズボンの上からテントを張った股間をさすりながらパシャパシャと京子の恥ずかしい姿をスマートフォンで撮った。
二人は10枚くらい色々な角度から京子をスマートフォンで撮った。
「京子さん。有難う。もう十分撮りました」
そう言って森田は膝の上まで降ろされていた京子のパンティーを腰まで引き上げた。
そしてめくり上げたブラジャーを元にもどして二つのおっぱいをブラジャーの中に入れた。
「京子さん。もう手錠を外してもいいでしょうか?」
森田は恭しく京子に聞いた。
「ええ。お願い。手錠を解いて」
言われて森田は京子の手錠に結びつけられている縄を解いた。
京子を天井に吊っていた縄が解かれて京子はペタンと床に座り込んだ。
森田は手錠も外した。
これで京子の拘束は全部なくなって完全に自由になった。
京子はブラジャーとパンティーだけという姿である。
「森田くん。川田くん。服を着たいの。ちょっと後ろを向いてくれない」
京子が言った。
はい、と言って二人はクルリと体の向きを変え京子に背を向けた。
女にとっては服を着るのを見られるのも恥ずかしいものなのである。
京子は立ち上がって床に落ちているワイシャツと上下揃いのスーツを拾った。
京子はスカートを足にくぐらせて腰まで引き上げてホックで留めた。そしてワイシャツを着てその上にスーツを着た。
「ありがとう。森田くん。川田くん。もういいわよ」
京子が言った。
言われて二人はクルリと体の向きをもどし京子を見た。
うっと二人は声をもらした。
そこにはいつもの憧れのエリート税理士の颯爽たるスーツ姿の京子がいたからである。
森田は冷蔵庫から麦茶とコップを持って来た。
「京子さん。長い間立ち続けて疲れたでしょう」
そう言って森田は麦茶をコップに入れて京子に差し出した。
「ありがとう。森田くん」
京子は礼を言ってコップを受けとり麦茶をゴクゴク飲んだ。三杯飲んだ。
森田と川田の二人はきまりが悪かった。
それを京子は十分に察していた。
「森田くん。川田くん。ソファーに座って」
京子は笑顔で言った。
「はい」
二人は素直に返事してソファーに並んで座った。
「二人のためにカレーライスを作っておいたの。食べていって」
そう言って京子は小走りにキッチンに行った。
そして炊飯器や大きな鍋などを持って戻ってきた。
京子はテーブルの上に大きな皿を二つ置いた。
そして炊飯器を開けて二つの皿にホカホカのご飯を入れた。
そしてご飯の上に温めたカレーをたっぷりとかけた。
「さあ。二人とも疲れたでしょう。食べて」
京子は笑顔で言った。
二人に瞬時に食欲の唾がどっと出てきた。
しかもそれが憧れの京子さんが作ってくれたものだと思うと食欲はなおさら増した。
「京子さん。ありがとう。頂きます」
そう言って二人はスプーンでガツガツとカレーライスを食べた。
それを京子は嬉しそうに見ていた。
食べ終わると二人は京子がテーブルの上に置いてくれた氷の入った冷たい水をゴクゴクと飲んだ。
「あー。美味しかった。どうもありがとう。京子さん」
「いえ。どういたしまして」
京子は自分は食べずに二人が食べるのを嬉しそうに見ていただけだった。
「京子さん。これから僕たちどうなるんですか?」
森田が聞いた。
「今まで通り働いてくれない。お給料もちゃんと払うから」
京子がニコッと微笑みながら言った。
「そう言ってもらえると嬉しいです。だって京子さんは素晴らしい人なんですから。僕、京子さんを好きになってしまいました」
森田が言った。
「僕も京子さんを好きになってしまいました」
川田が言った。
「私もあなた達が好きだわ」
京子は笑顔で言った。
「でも一つ心配なことがあるわ」
「何ですか。それは?」
「私一度プレイじゃなくて本気で虐められたかったの。今日はその夢がかなって嬉しかったわ。でもタネあかしをしちゃった後では本気の意地悪は出来にくくなるわ。それが残念だわ」
「そうですね。確かに僕たち、もう本気で京子さんを虐める気にはなれないような気がします」
「でも大丈夫よ。今は確かにあなた達落ち込んでいるかもしれないけれど。時間が経てばやがてまた私を本気で虐めたくなる気になると思うわ」
京子が言った。
「僕も何だかそんな気がします」
森田が言った。
「それと。一つお願いがあるの」
「何でしょうか。京子さん」
「これからもあなた達に働いてもらうけれど依頼者が来た時には今まで通り依頼者の前であなた達を罵倒して虐め抜いてもいい?」
「ええ。構いません。でもどうしてですか?」
「私があなた達を徹底的に虐め抜くことによって私に対する憎しみ、復讐心、私に仕返ししてやろうという加虐心をあなた達に起こさせるためよ」
「なるぼど。それを想像するとまた本気で京子さんを虐めたいという気持ちが起こるような気がします。遠慮なく僕たちを虐めて下さい。素晴らしい憧れの京子さんになら虐められるのが楽しみです。美しくて優しい京子さんに虐めてもらえると思うともうマゾの快感が起こり出しました」
「ありがとう。嬉しいわ。じゃあ月曜から金曜までは今まで通りに働いてくれない。私は今までのようにあなた達を奴隷のように扱う姿を依頼者に見せつけるわ。それで休みの土曜日にあなた達がその復讐として私を虐め抜くの。どう?」
「いいですね。それを想像するともうムラムラしてきます」
もう夜の11時だった。
「では今日はもう遅いので僕たちは今日は帰ります」
そう言って森田と川田の二人は立ち上がった。
「また私を虐めてね。今日は羞恥責めだったけれど今度は私が悲鳴を上げて泣き叫ぶまで虐めてね」
「そう言われると何だかムラムラしてきます」
そう言って森田と川田の二人は去って行った。
・・・・・・・・・・・・・
月曜日になった。
佐藤税理士事務所では佐藤京子とスタッフとして森田と川田の二人が今まで通りの様子で働いていた。
その様子は以前と変わらずこんな風である。
佐藤京子に税務処理を頼む客が来ると佐藤京子はテーブルを挟んで客の依頼を詳しく聞き丁寧にアドバイスした。
依頼客と佐藤京子は実に和気あいあいとした会話だった。
二人の男はその横で床を雑巾がけしていた。
それは佐藤京子の命令だった。
依頼客が疑問に思って佐藤京子に、
「この二人はどういう方なのですか?」
と聞くと佐藤京子は、
「いやー。こいつらは大卒でないのに大卒と偽って簿記について何も知らないのに日商簿記1級の資格を持っていますなどと言って面接に来たので採用してしまったんです。クビにしようかとも思いましたがこいつらの腐った根性を叩き直すためにクビにはしないでやっているんですよ」
と佐藤京子は言った。
「そうだったんですか」
「ええ。そうです。世の中にはこういうとんでもない詐欺師、悪い人間がいますから人を安易に信用しないで下さいね」
「まあ。本当ですか。こわいですね。人間って信用できないんですね。私もこれから人を採用する時には履歴書を信用しないで興信所に調査してもらって履歴書に書いてあることが本当かどうか確かめてから決めようと思います」
「ええ。ぜひそうした方がいいですよ」
おーい、ろくでなしのブタ野郎二人お茶を持ってくるくらいの気はきかせろと佐藤京子は二人を怒鳴りつけた。
「す、すみません」
と言って二人は急いでお茶を持ってきた。
二人がお茶をテーブルの上に乗せると、
「おい。ブタ野郎。どうぞくらいの言葉を言うのが礼儀だろ」
と佐藤京子は二人をののしった。
依頼者は予想と違って佐藤京子の厳しさに驚いて目を白黒させたが他人のことに干渉することも出来にくいので黙っていた。
その後も佐藤京子と依頼者は色々なことを雑談した。
「では今日はこれで帰ります。これからよろしくお願い致します」
と言って玄関に向かった。
二人はボサッとしている。
「おい。ブタ野郎二匹。大切なお客さまだぞ。玄関を開けて(今日は遠い所ご足労いただきまして有難うございました。気をつけてお帰り下さい)くらいのこと言うのが礼儀だろ」
と言って男二人を蹴飛ばした。
二人は京子に言われて焦って玄関の戸を開けた。
依頼者が来ると万事がこの調子だった。
・・・・・・・・・・・・・・
その週の土曜日の様子。
京子は丸裸にされて縄で手首を縛られて天井に吊られていた。
それでも女の羞恥心の本能から太腿をピッチリと寄り合わせてアソコを隠そうとしていた。
羞恥心とこれから何をされるのかわからない恐怖心から体がプルプルと小刻みに震えていた。
その姿はいじらしかった。
森田と川田はソファーに座ってワインを飲みながらその姿をニヤニヤと笑いながら眺めていた。
「それじゃあ始めるとするか」
そう言って二人は立ち上がった。
二人の手には黒い高級水牛革の丈夫な一本鞭が握られている。
「よし。始めるぞ」
そう言うや森田と川田は京子の体を力一杯鞭打ち出した。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
弾力のある女の柔肌にムチが当たる度に意気のいい炸裂音が鳴り響いた。
みるみるうちに京子の体には赤い蚯蚓腫れの跡が出来ていった。
「ああー。お許し下さい。森田さま。川田さま」
京子は激しい苦痛から苦しげに体を前後左右に揺らしながら激しく頭をのけぞらせストレートの美しい長い黒髪を振り乱して泣きながら森田と川田に許しを求めた。
しかし森田と川田の二人は京子の哀願などどこ吹く風と聞く様子など全く見せず鞭打ちを続けた。
しばし鞭打った後二人は鞭打ちの手を休めた。
「ははは。京子。美人エリート税理士もこうなっちゃ成れの果ての姿だな」
森田が言った。
「どうだ。散々豚以下あつかいしたオレ達にこうして丸裸にされて吊られてムチ打たれる気持ちは?」
川田が聞いた。
「み、みじめです。こわいです。森田さま。川田さま。どうか私を殺さないで下さいね。殺さないで下さるのなら私はどんな辛い責めにも耐えます」
京子はポロポロ涙を流しながら二人に哀願した。


2024年4月18日(木)擱筆

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ごはん島に来る女(小説)(上)

2024-02-25 14:31:05 | 小説
「ごはん島に来る女」

という小説を書きました。

HP浅野浩二のHPの目次その2にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「ごはん島に来る女」

日本の近海に小さな離れ島がある。
その島は、ごはん島といって日本に属さない独立国だった。
そこには人口100人程度の人が住んで村社会を営んでいた。
無名の小さな島なので日本では、あまり知られていない。
いつから、この離れ島の村社会が出来たか、その起源はわかっていない。
しかし、一説によると、平家の落人が源氏の追手に殺されないように逃げて来たのが由来という説もある。
ここの村社会では、皆が農耕を営んで自給自足の生活をしていた。
しかし、この村社会には、昔から一つの風習があった。
それは小説を書くということである。
別に小説など書かなくても、生きていけるのに、どんな村社会にも、風変わりな習慣はあるもので、この村の住民は、みな小説を書いていた。
そして、それを皆で品評しあっていた。
ごはん島の住民は、皆、性格が優しく、ごはん村は、極めて平和な村社会だった。
しかし、困ったことが一つあった。
それは、ごはん村には医者がいないことである。要するに無医村である。
そのため、急病人が出ると、最寄りの医師がいる島に、モーターボートで救急搬送された。
しかし脳卒中や心筋梗塞などでは、間に合わず、ゴールデンタイムを逃して死亡してしまうケースも多々あった。
「この村にもお医者さんが居てくれたらなあ」
と、ごはん村の住民は、ため息をもらしていた。
そんな、ある時である。
ごはん村に嬉しい知らせが来た。
「おい。喜べ。ごはん村にお医者さんが来てくれるらしいぞ」
「本当か?」
「ああ。本当だ」
「で、どんな医者だ?」
「なんでも、京都大学医学部を卒業した優秀なお医者さんらしい」
「へー。それは助かるな」
などと村人は期待を持って、ごはん村に医者が来るのを待った。
それから一カ月が経った。
一週間に一度の定期船が、ごはん島にやって来た。
それには、ごはん村の島民が待ちに待った医師が乗っていた。
ごはん村の島民は全員、浜辺に集まっていた。
やがて定期船は桟橋に着いた。
身長168cm体重55kgの小柄な老人が定期船から降りてきた。
「あっ。あの人だべ」
「そうじゃ。写真で見たのと同じ人だ」
村人たちが、全員その小柄な老人に駆け寄ってきた。
「ようこそ。はるばる、この僻地の島に来て下さって有難うございます」
村人たちは、皆、小柄な老人に頭を下げた。
「いえいえ。こちらこそ、よろしく。私は大丘忍と申します。長年、連れ添って一緒に暮らしていた妻が死んでしまい、そのつらい思い出を忘れたいために、この島に住んでみることにしました」
「先生は何科が専門なのですか?」
「私は内分泌、代謝疾患が専門ですが、内科、および外科的治療は基本的なことなら一通り出来る自信はあります」
「それは有難い。この無医村は急病人が出ると、半数近くは死んでしまっていたのです」
「そうですか。では、力不足の私ですが、全力を尽くして皆さまの健康に尽くしたいと思います。私は、この島に骨を埋める覚悟で来ました」
大丘忍はそう言って皆に挨拶した。
「さっ。先生。車に乗って下さい。島を出て行った人の空き家がありますから、どうぞ見て下さい」
そう言って島民の一人が小型トラックのドアを開いた。
大丘忍は、それに乗り込んだ。
小型トラックは島の道を走って診療所に着いた。
大丘忍は小型トラックを降りた。
そこには小さな空き家があった。
大丘忍は、その空き家に入った。
「私はここで診療します。レントゲンと手術用具一式は、どうしても必要です。すぐに、取り寄せましょう。あと、薬品も一通り、そろえなくてはなりません」
大丘忍は毅然とした表情で言った。
「有難うございます。本当に、先生に来て頂いて有難いです」
・・・・・・・・・
その晩は村長の家で大丘忍の歓迎会が行われた。
村長の家には、ごはん島の村民が、みな集まった。
晩餐の料理は豪華なものだった。
「さっ。先生。どうぞ」
村長がコップに日本酒を注いで大丘忍に勧めた。
「有難うございます。では、お言葉に甘えて頂かせてもらいます」
そう言って大丘忍はコップに注がれた日本酒をグイと飲んだ。
「ああ。有難いことだ。ごはん島にお医者様が来てくれるなんて。これからは病人が出ても先生が診てくれるけん」
村民の一人が言った。
「みなは知らんじゃろが大丘先生は凄いお人じゃぞ。大丘先生は京都大学医学部をトップの成績で入学され、主席卒業されたお方じゃ。それだけではないぞ。大丘先生は独学で漢方医学も学び、漢方医学にも精通しておられるんじゃ。若い頃は卓球の選手として国体で優勝までしておる。詩吟も、鷹詠館明朋吟詩会の総範師じゃ」
村長が大丘忍の紹介をした。
「へー。凄いお方じゃな。先生。詩吟を聞かせていただけないじゃろか」
「ああ。ぜひ聞きたいな」
村民の皆が言った。
「そうですか。それでは僭越ながら一曲、詠わせて頂きます」
そう言って大丘忍は、詩吟の「川中島」を吟じた。
「鞭声粛粛~ 夜河を過る~ 曉に見る千兵の~ 大牙を擁するを~ 遺恨なり十年~ 一剣を磨き~ 流星光底~ 長蛇を逸す~」
川中島が腹から出された重厚な節で吟じられた。
皆はあっけにとられて我を忘れて聞き入ってした。
パチパチパチ。
村民の皆が拍手した。
「いやー。素晴らしい。心に沁みる」
「先生。もっと詠ってくだされ」
村民の要求に応えて大丘忍は、
「わかりました」
と言って。
江南の春。白帝城。名槍日本号。寒梅。春日山懐古。春暁。
も吟じた。
「いやー。素晴らしい。こげな、いい先生に来てもらって、ごはん村は大助かりじゃ。有難い。有難い」
皆は涙を流して喜んだ。
「皆は知らんじゃろが大丘先生は小説もお書きになられるんじゃ」
村民が言った。
「へー。すごいな。ごはん村では、昔からの慣習で、二週に一作、小説を発表することになっているんでな。じゃあ大丘先生にも二週に一度、小説を発表してもらおう。それと、どうか皆の書いた小説にも先生のアドバイスをしてくんしゃれ」
村民の一人が言った。
「わかりました。僭越ながら微力を尽くしたいと思っております」
大丘忍の態度は紳士そのものだった。
大丘忍の歓迎会は夜おそくまで行われた。
夜も12時を越したので、村長が、
「では、夜もおそくなりましたので、大丘先生の歓迎会は、これで、おひらきとさせて頂きます」
と言った。
あー楽しかった、いい人が来てくれたもんじゃ、と言いながら、ごはん島の島民は村長の家を出て帰途に着いていった。
雲一つない夜空には満月が出ていた。
・・・・・・・・・・
翌日から、大丘忍の診療所ができた、ごはん村の生活が始まった。
といっても、ごはん村では、滅多に病人や怪我人が出ることはなかったので、大丘忍の生活は大阪でクリニックの院長をしていた時と比べて、のんびりしたものだった。
大丘忍は律儀な性格なので、ごはん村の慣習に従って、2週に1作品、小説を発表した。
大丘忍の小説は自分の生い立ち、や、医学部時代のこと、医学部を卒業して医者になって経験した事を元にしたフィクションの小説が多く、また長年、連れ添ってきた、かけがえのない妻の死を悼んで、最愛の妻との楽しかった日々のことを小説風に書いたものが多かった。
古風な文体だが、大丘忍の小説は医療界のことを知らない島民には新鮮味があった。
しかもストーリーもちゃんと完成させているので、ごはん島の村民は大丘忍の小説を面白い、と言って読んだ。
また、大丘忍は、ごはん島の村民が書いた小説にも目を通し、適切なアドバイスをした。
それまで、ごはん島の村民は他人に作品をボロクソにけなす批評が多かったが、大丘忍はおおらかな性格だったので、そんなことはせず、適切な批評をした。
いい人が来ると、その人の影響で周りの人も良くなる。
ごはん村の住民の心は、大丘忍の影響で、なごやかになっていった。
大丘忍が、ごはん村に来て1年が過ぎた。
ある時、ごはん村の村長が急性心筋梗塞を起こした。
知らせを聞いた大丘忍は急いで駆けつけたが、もうその時には、村長は死んでいた。
村長の葬式が行われた翌日、
「今度は誰に村長になってもらうべ」
と村民は困惑した。
「そんなこと、悩むに値しないことだべ。大丘先生に村長になってもらうべ」
と村民の一人が言った。
「おお。そうじゃ。大丘忍先生に村長になってもらうべ」
と皆、異口同音に言った。
反対意見を言う者はいなかった。
「しかし、一応、法にもとづいて選挙をしよう」
ということになって、新しい村長を選ぶ選挙が行われた。
結果は村民全員が大丘忍と書いたので、大丘忍が、ごはん村の新しい村長になった。
「みなさま。みなさまのご期待とあれば、僭越ながら、お引き受け致します。僭越ですが、私は、ごはん村の発展のために微力を尽くさせて頂きます」
と大丘忍は新任の挨拶で述べた。
こうして大丘忍は、ごはん村の村長になった。
ごはん島に平和な日々が訪れた。


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ごはん島に来る女(小説)(下)

2024-02-25 14:18:43 | 小説
・・・・・・・・・・・・・・
ある時、本土から一週間に一度くる定期船に若い女性が乗って、ごはん島にやって来た。
一人のばあさんが彼女を迎えに来ていた。
「やあ。李林檎さん。よくいらっしゃいましたね」
ばあさんは待ってましたとばかり小走りに女性に近づいた。
ばあさんは99歳の夜雨という。
ばあさんは、ごはん島にやって来て泊まりたいという来訪者を、自分の家に泊めてやっていた。なので夜雨ばあさんの家が、ごはん島の旅館になっていたのである。
「こんにちは。おばあさん」
女性はニコッと微笑んで、ばあさんと握手した。
「何もない島じゃけども、ゆっくり、くつろいでいってくんしゃれ」
そう言って夜雨ばあさんは李林檎を自分の家に連れていった。
それを哲也は、うらやましそうに見ていた。
ごはん島の西には、ごはんビーチという小さな浜辺がある。
しかし、ごはん島は観光スポットにも載っていない無名の島なので観光に来る人はほとんど、いないのである。
しかし、たまに、ごはん島のことを知って、やって来る人も1年に2人か3人くらいはいるのである。
哲也は彼女を見た時からドキンと心臓が高鳴った。
ごはん島には女性が少ないのである。
加えて哲也は生まれつきシャイで、人一倍、女性に飢えていた。
哲也は物心つかない幼少の時から、ごはん島で育ってきた。
哲也の母親はわからない。昔、一人の女がごはん島へ定期船でやって来た。
女はまだ言葉も話せない幼少の哲也を連れていた。女は哲也をごはん島に置いて定期船で帰ってしまったのである。つまり女は哲也をごはん島に捨てにやって来たのである。それ以来、哲也は、ごはん島で一人で暮らしてきたのである。
そのため哲也は母性愛に飢えていた。
「ああ。李林檎さん。李林檎さん」
と、その夜、哲也はなかなか寝つけなかった。
翌日、哲也は夜雨ばあさんの家に行ってみた。
李林檎さんは、いなかったので夜雨ばあさんに彼女がどこへ行ったのか聞いてみると彼女は、ごはんビーチに行ったことを教えてくれた。
哲也は急いで、ごはんビーチに行った。
すると、なんと李林檎さんがピンクのビキニを着て、一人で、キャッ、キャッ、と寄せる波、引く波と戯れていた。
その姿はあまりにも、まばゆく美しかった。
というか哲也には刺激が強すぎた。
ごはん島には若い女性がいないので若い美しいビキニ姿の女性を写真でなく生きた人間で見ることなど一度もなかったからである。
哲也は彼女に気づかれないように松林の陰に隠れてビキニ姿の彼女が波と戯れるのを見守った。
哲也は奥手でシャイなので、とても彼女に話しかける勇気などなかった。
松林の後ろに隠れてビキニ姿の彼女を見ているだけで十分だった。
しかし彼女は松林の後ろで自分を見ている哲也を見つけてしまった。
彼女はニコッと笑って哲也の方にやって来た。
哲也はショック死するかと思うほど焦った。
だが逃げることも出来ない。
「ねえ。ボク。どうしたの。何をしているの?」
彼女は屈託のない笑顔で哲也に話しかけた。
「あっ。ゴメンナサイ」
シャイな哲也は顔を真っ赤にして謝った。
「ふふふ。もしかして私に気があって私を見ていたのかな」
彼女は哲也のオドオドした態度から哲也の心を察した。
「は、はい。そうです」
哲也は焦って正直に答えた。
「嬉しいわ。ねえ。ボク。よかったら一緒に遊ばない。私、一人で退屈していたの」
「し、幸せです。お姉さん。僕、昨日、お姉さんを見てから、ずっとドキドキしていたんです」
「ふふふ。ウブなのね」
「お姉さん。凄く奇麗です。こんな奇麗な人を見るのは生まれて初めてです」
哲也はあられもなく彼女を讃えた。
「それは嬉しいわ。私は李林檎っていうの。よろしくね。ボクの名前は?」
「僕は山野哲也と言います」
「哲也くんも海水パンツを履いて。私一人だけビキニ姿じゃ恥ずかしいわ」
「はい」
山野哲也は、もしかすると、こういう事態になるかもしれないと思って、海水パンツをカバンの中に入れて持ってきていた。
「じゃあ、私は後ろを向いているから」
そう言って李林檎はクルリと山野哲也に背を向けた。
哲也は急いで海水パンツを履いた。
「お姉さん。履きました」
山野哲也の声を聞いて李林檎は、また体をクルリと反転し山野哲也を見た。
「ふふふ。嬉しいわ。ごはんビーチには観光客は来ないとネットに書いてあったから一人でゆったりしようと思ってやって来たのに。こんな可愛い男の子と出会えるなんて。夢みたいだわ」
李林檎はニッコリ微笑んで哲也と手をつないだ。
「ぼ、僕も夢のように幸せです」
李林檎の手の温もりが、しっかりと哲也の手に伝わってきた。
哲也は女と手をつなぐのは生まれて初めてだったので気絶するかと思うほど嬉しかった。
これは哲也にとって生まれてきて最高の幸福感だった。
哲也の脳下垂体からは人間が幸福を感じた時に出る物質βエンドルフィンが出っぱなしだった。
「哲也君。フリスビーをしない」
そう言って李林檎はバッグの中から、フリスビーを取り出した。
「はい。します。します」
「じゃあ、私から離れて」
「はい」
哲也は李林檎を見ながら後ずさりして李林檎から離れて行った。
「はい。そこでいいわ」
哲也と彼女が20mくらい離れた地点で李林檎が言った。
彼女に言われて哲也は立ち止まった。
「じゃあ、行くわよー」
そう言って李林檎はフリスビーを哲也めがけてシュッと投げた。
彼女はフリスビーを投げるのが上手かった。宙を飛行したフリスビーは哲也の胸の前に来た。
哲也はそれを受け止めた。
「じゃあ、哲也くん。私に向かって投げて」
「はい」
李林檎に言われて哲也はフリスビーを彼女めがけてシュッと投げた。
フリスビーは勢いよく飛んで李林檎の胸の前に届いた。
彼女はそれをキャッチした。
こうして李林檎と哲也はフリスビーの投げ合いをした。
投げ合っているうちに、だんだん慣れてきたので李林檎は少しずつ後ろにさがって哲也との距離を伸ばした。
哲也は時々、勢い余って投げ損ねて彼女の正面ではなく前後左右にずれて投げてしまうこともあったが彼女は小走りに走ってフリスビーをキャッチした。
20分くらい二人はフリスビーの投げ合いをした。
「ふふふ。哲也くん。このくらいにしておこう」
「はい」
哲也が投げたフリスビーをキャッチした李林檎は哲也に投げ返さなかった。
「哲也くん。お願いがあるの」
「はい。何でしょうか?」
「私のビキニ姿どう?」
「どう、ってどういう意味でしょうか?」
「私のビキニ姿、似合う?それとも似合わない?」
「に、似合わないなんて、とんでもないことです。似合い過ぎます。美し過ぎます。週刊誌のグラビアに載ったら世の全ての男は、その号の週刊誌を買うと思います。週刊誌の記事を読むためではなく李林檎さんのグラビア写真を手に入れるために」
哲也はまくしたてるように矢継ぎ早に言った。
「ふふふ。そう言ってもらえると嬉しいわ。でも本当かしら?お世辞言ってるんじゃないかしら?」
「そんなこと絶対にありません。僕は生まれてから今まで、お世辞やウソを言ったことなど一度もありません」
哲也は鼻息を荒くして言った。
「ふふふ。じゃあ私のビキニ姿を写真に撮ってくれない」
そう言って李林檎はスマートフォンを哲也に渡した。
「はい。喜んで撮影します」
哲也は李林檎から離れた。
そして、パシャパシャと色々な角度からビキニ姿の李林檎を撮影した。
哲也は本職のカメラマンになったような気持ちになってパシャパシャと色々な角度からビキニ姿の李林檎を撮影した。
李林檎も自分のプロポーションに自信をもっているのだろう、そして撮影されるのが嬉しいのだろう、髪を搔き上げたり、様々なセクシーポーズをとった。
哲也はその全てを逃すまいと一つのポーズにつき10枚くらい撮影した。
雲が出てきて風が吹いてきた。
「哲也君。有難う。楽しかったわ。私、宿にもどるわ。哲也くんと出会えて嬉しかったわ」
そう言って李林檎は哲也の頭を撫でた。
「李林檎さん。僕もあなたのような素敵な人と出会えて最高に嬉しいです」
李林檎はふふふっと微笑んだ。
そうして二人は別れた。
その晩、李林檎はごはん島の旅館である夜雨ばあさんの家に泊まった。
夜雨ばあさんは99歳の腰の曲がったリウマチの痛風の白内障の総入れ歯のばあさんである。
「ただいま。おばあさん」
「お帰り。何もないけんど、ゆっくりくつろいでいきんしゃれ」
「ありがとう。おばあさん」
李林檎は風呂場に行き潮風にさらされた体を念入りに洗って湯船に浸かった。
はー気持ちいい。
十分、湯に浸かって風呂場を出ると脱衣場には、バスタオルと浴衣が置いてあった。
夜雨ばあさんが置いていったのだろう。
おばあさん、ありがとう、と李林檎は言ってバスタオルで体をふいて浴衣を着た。
その晩は囲炉裏の前で、ばあさんが作った、けんちん汁とご飯とタクアンの夕食を李林檎は、夜雨ばあさんと二人で食べた。
「何もなくてすまんのう」
夜雨ばあさんが済まなそうに言った。
「ううん。おばあさん。そんなことないわ。美味しいわ」
李林檎はけんちん汁を啜りながら嬉しそうな顔で言った。
「しかし、あんたも変わった人じゃな。何でこんな何にも無い島に来たんじゃ?」
その問いに李林檎は黙ってしまった。
ばあさんは何か事情があるのだろうと思って、
「すまん。すまん。何か言いたくない事情があるんじゃな。無理に聞いてすまんかった」
と謝った。
「いいんです。たいした事じゃないんです」
と李林檎はばあさんを、いたわった。
夕食が済むと李林檎は、ばあさんが敷いてくれた四畳半の部屋に入った。
さあ寝ようと布団に入ろうとした時である。
トントン。
玄関をノックする音が聞こえた。
夜雨ばあさんは風呂に入っている。
「はーい」
李林檎は大きな声で返事して急いで玄関の戸を開けた。
家の前には哲也が物欲しそうな顔でモジモジしていた。
「あっ。哲也くん。どうしたの。こんな時間に?」
李林檎は意外な訪問者に驚いた様子だった。
哲也は李林檎の問いかけに何も言わず一直線に李林檎に抱きついてきた。
哲也は堰を切ったように、わっと泣き出した。
「お、お姉ちゃん。さびしかったんだよう。どうしても、お姉ちゃんに会いたくなって来ちゃったんだよう」
哲也は李林檎の浴衣にしがみついて泣きながら言った。
まだ甘えん坊なんだなと李林檎は瞬時に察した。
「よしよし。哲也くん。来てくれて有難う。さあ中へ入って」
李林檎は哲也の手をにぎって哲也を家の中に入れた。
さあ中に入って、と言われて哲也は夜雨ばあさんの家に入った。
哲也は李林檎に手を曳かれて李林檎にあてがわれた寝室の四畳半に入った。
李林檎と哲也は寝室で正座して向き合った。
「哲也君。どうしたの。何かつらいことがあるの?」
李林檎が優しい口調で聞いた。
「うわーん」
哲也の涙腺が一気に緩み哲也は泣きじゃくりながら李林檎にしがみついた。
「どうしたの。哲也くん。悩み事があるのなら話して」
李林檎の優しい思いやりに哲也は涙ながらに話し出した。
「お姉ちゃん。僕、人に甘えてはいけないと自分にいい聞かせてきたけれど、お姉ちゃんのような優しい人に会って、その自戒の思いが耐えられなくなっちゃんだよう。僕のお母さんは僕が幼い時、このごはん島に僕を捨てていったんだ。だから僕は、お母さんもお父さんも知らないんだ。それで僕は、ごはん島の人の家に住まわせてもらって、今まで生きてきたんだ。僕は、他の家のお母さんと、その子供が仲良くしている光景を見ると、うらやましくって、やりきれなかったんだ。そこにお姉ちゃんのような綺麗で優しい女の人が来たものだから僕の心臓はドッキンと高鳴ったんだ。でも僕は人に甘えちゃいけない、と自分に言い聞かせていたから、お姉ちゃんとは友達という関係でいようと思ったんだ。でもお姉ちゃんは、あまりにも優しそうなんで耐えられなくて来ちゃったんだ。ゴメンね」
哲也は泣きながら話した。
「そうだったの。哲也くんが、そんなさびしい思いで生きてたなんて知らなかったわ。つらかったでしょうね。私でよかったら私をお母さんと思ってね。私、哲也くんのお母さんになるわ」
そう言って李林檎は哲也の頭を優しく撫でた。
「ありがとう。李林檎さん」
哲也は号泣しながら言った。
李林檎はヒッシと抱きしめていた哲也の頭を倒して両膝の上に乗せた。
「でも哲也くんは立派ね。人に甘えてはいけないなんて自分に言い聞かせてきたなんて。哲也くんは強い子なのね」
「強くなんかないです。僕は、人に甘えてはいけない、という誓いに負けてしまったんですから」
「哲也くん。もう恥ずかしがらないで。私にうんと甘えて」
そう言って李林檎は子守歌を歌いながら哲也の頭を撫でた。
「幸せです。李林檎さん」
哲也は生まれて初めての人間愛を感じながら目をつぶって李林檎の浴衣をギュッと握りしめていた。
李林檎は子守歌を歌いながら哲也の頭を撫で続けた。
1時間くらい経った。
哲也はムクッと起き上がった。
「お姉ちゃん。ありがとう。今日は人生で一番、幸せな日でした。僕もう家に帰るよ」
李林檎はニコッと微笑んだ。
「そう。そう言われると私も嬉しいわ。また来たくなったらいつでも来てね」
「ありがとう。お姉ちゃん。でもこのことは誰にも言わないでね。僕が甘えん坊だと人に知られると恥ずかしいもん」
「言わないわよ。哲也くん」
じゃあ、さようなら、と言って哲也は夜雨ばあさんの家を出て行った。
・・・・・・・・・・・・
翌日の朝から李林檎は夜雨ばあさんの畑と果樹園の農作業をするようになった。
夜雨ばあさんは腰痛と膝痛に悩まされていたので農作業はキツかったのである。
李林檎は優しい心の持ち主なので、
「おばあさん。私が代わりに農作業を手伝うわ」
と言って出たのである。
「ありがとう。せっかく旅行に来たのに農作業を手伝ってくれるなんて。申し訳ないけれど助かるわ」
と夜雨ばあさんは言った。
「ううん。気にしないで。私、いつもデスクワークだから自然の中で汗をかいての農業体験が出来るなんて、むしろ嬉しいくらいだわ」
そう言って李林檎は夜雨ばあさんの果樹園に出て行った。
李林檎がりんごの袋かけをしていると哲也がやって来た。
「あっ。哲也くん。こんにちは」
李林檎は哲也を見つけるとニコッと微笑した。
「こんにちは。お姉ちゃん。夜雨ばあさんに聞いたら、お姉ちゃんは果樹園にいると言ったので来ちゃった。テヘヘ」
哲也は恥ずかしそうに頭を掻いた。
哲也も作業服を着ていた。
「お姉ちゃん。僕も果樹の手入れ、手伝うよ」
哲也が恥ずかしそうに言った。
「ありがとう。じゃあ、りんごに袋をかけていって」
李林檎は哲也にりんごの袋かけの仕方を教えた。
難しい事ではないので哲也はすぐにりんごの袋かけを始めた。
哲也にとっては母親のような存在である李林檎と一緒にいることが幸せだったのである。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
「お姉ちゃんはいつまで、この島に泊まっていくの?」
哲也が聞いた。
「そうねえ。いつまでにしようかしら?」
李林檎は少し困惑した口調でためらい勝ちに言った。
「お姉ちゃんには長く居て欲しいな」
テヘヘと哲也は恥ずかしそうに舌を出した。
「そうねえ。どうしようかしら?」
李林檎は返答に窮した。
李林檎は2泊3日で明日、帰る予定だった。
哲也は夜雨ばあさんに聞いて、そのことは知っていた。
「お姉ちゃん。本当は僕、知っているよ。お姉ちゃんは明日、帰るんでしょう?」
哲也は機先を制した。
「いえ。そんなことないわ。確かに予定では2泊3日だったけど、哲也くんと会えたし、もうちょっと泊まっていこうと気持ちが変わっていたところなの」
李林檎は早口で言った。
「お姉ちゃん。無理しなくていいよ。お姉ちゃんは僕の気持ちを察してくれてそう言ってるんでしょ。嬉しいな。でも、お姉ちゃんも帰郷して、やらなくちゃならないことがあるんでしょ。僕ももっと、お姉ちゃんと一緒に居たいな、出来たら、ずーと居て欲しいと思っているけれど、僕も昨夜、家に帰ってから、やはり、お姉ちゃんの優しさに甘え続けていてはいけないと思ったの」
「う、うん。確かに哲也くんの言う通りだけど哲也くんとのことだけじゃなくて、私、他にも理由があって、いつまで、ここに居ようかは、決めないで逃げるように、ここに来たの。それは本当よ。信じて」
「うん。信じるよ。で、そのもう一つの理由って何なの?」
「そ、それはちょっと・・・・」
李林檎は言いためらった。
李林檎の顔に陰りがさした。
哲也はすぐにそれを察した。
「何か言いたくないことなんだね。強引に聞き出そうとしてゴメンね」
「ううん。いいの。哲也くん。でも、それほど、たいした事じゃないから気にしないで」
李林檎は哲也の優しさにほだされて、ニコッと微笑した。
・・・・・・・・・
午前中に果樹園の仕事は終わった。
仕事が終わると李林檎は哲也に、
「さあ。哲也くん。ごはんビーチに行こう」
と誘って夜雨ばあさんの家に行ってビキニに着替え、ごはんビーチに行った。
そして李林檎と哲也は砂浜でフリスビーの投げ合いをしたり、凧揚げをしたり、水上バイクに乗ったりして遊んだ。
そんな二人の関係が1週間ほど続いた。
李林檎がごはん島に来て7日目になった。
哲也はいつものように李林檎に会いに夜雨ばあさんの家に行った。
今日も優しい李林檎さんに会えると思うと小走りに走る哲也の心臓は高鳴った。
「こんにちはー。お姉ちゃん」
そう元気よく言って哲也は夜雨ばあさんの家の戸をノックした。
しかし様子が少し変だった。
いつもなら、すぐに家の中から「いらっしゃい。哲也くん」という李林檎の明るい透き通った声がしてパタパタと玄関に向かう足音が聞かれ戸が開いて「いらっしゃい。哲也くん」と李林檎が笑顔で出てくるのに今日はそれがない。
おかしいなー、どうしたんだろう、と思っているとギイーと戸が開いた。
痛風で腰痛で総入れ歯で白内障で寝たきりに近い、梅干しババアの夜雨ばあさんが、のそりのそりと片足を引きずりながら出てきた。
「あっ。おばあさん。こんにちは。李林檎さんは?」
夜雨ばあさんは哲也の質問には答えず、
「やあ。哲也くん。こんにちは。ともかく、まずは家に入んしゃれ」
と言った。
哲也は家に上がった。
李林檎のために用意された四畳半の戸を開けて哲也は驚いた。
四畳半の部屋は何も無く、もぬけの殻だったからだ。
李林檎の持ってきたボストンバッグも無ければ、壁に掛けてあった、彼女がこの島に着てきた上下揃いの白のスーツも無い。
嫌な予感が哲也の背筋を走った。
「おばあさん。李林檎さんは?」
哲也は夜雨ばあさんに聞いた。
「ああ。彼女はさっき家を出たよ」
嫌な予感が哲也の背筋を走った。
「そ、それで、どこへ行ったの?果樹園?」
哲也の声は震えていた。
「いや。彼女はスーツを着て、ボストンバッグを持って出かけたよ。7泊分の宿泊料です、と言って、7万円の宿泊料も払って。私が宿泊料などいらん、と言ったのに。彼女は、色々と有難うございました、と深く頭を下げたよ。今日は、週に1度の定期船の来る日じゃろ。だから彼女は今日、定期船で本島に帰るんじゃろ」
哲也の顔は真っ青になり背中が凍りついた。
そ、そんなー。
哲也は言葉を失った。
「あっ。そうそう。哲也くんが来たら渡して、と言って彼女は私に封筒を渡したよ」
そう言って夜雨ばあさんは哲也に封筒を差し出した。
哲也は、それを、ひったくるように夜雨ばあさんの手から取ると急いで封を開けた。
中には1枚の便箋があって、それにはこう書かれてあった。
「哲也くん。さようなら。訳あって私は帰ります。哲也くんと夢のような7日間、楽しかったわ。さようなら、のお別れ、も言わずに行ってしまう失礼、非礼、無礼を許して下さい。哲也くんに、お別れの言葉を言ったら哲也くんは悲しむでしょう。哲也くんの悲しむ顔は、どうしても見たくなかったの。だから、どうしても言えなかったの。でも、この7日間、私は哲也くんのお母さんだったわ。そして私がいなくなった後も私は哲也くんのお母さんよ。一生、私は哲也くんのお母さんよ。本当はもっと、ここに居たいんだけど、どうしても帰らなくちゃならない事情があるの。ごめんなさい。哲也くんのお母さん。李林檎」
うわーん。
哲也の涙腺が一気に緩み哲也はボロボロと涙をこぼした。
「うわーん。ひどいよー。僕そんなに弱くないよ。いつか別れる時が来ることは覚悟していたよ。さよならも言わずに帰っちゃうなんて、あんまりだよー」
哲也は号泣した。
「おばあさん。李林檎さんは、いつ、ここを出たの?」
哲也は夜雨ばあさんに聞いた。
「1時間ほど前じゃ。定期船はいつも12時くらいに、ここを出港するから港に急いで行けば会えるかもしれんよ」
哲也は時計を見た。
11時30分だった。
哲也は急いで家を出た。
家の前には自転車が置いてある。
夜雨ばあさんの自転車である。
哲也は自転車に乗ると力一杯ペダルを漕いで、ごはん島の港に向かった。
どうか間に合って、と祈る思いで。
ごはん島の港が見えてきた。
幸い、まだ定期船が桟橋に着いていた。
ボーという物悲しい出航の汽笛が鳴っていて船は今にも港を出るところだった。
(よかった。ギリギリ間に合った)
哲也はホッとした。
さらに驚き嬉しかったことがあった。
それは甲板の手すりに、つかまって、ごはん島を名残惜しそうに眺めている一人の上下揃いの白いスーツを着た女性を見つけた時である。
潮風に美しい髪がなびいている、その女性は間違いなく李林檎だった。
桟橋に着くと哲也は自転車を乗り捨てて急いで桟橋を走って、ピョンと定期船に飛び移った。
哲也は李林檎に抱きついた。
「お姉ちゃん。ひどいよ。黙って帰っちゃうなんてー」
哲也は泣きながら言った。
李林檎も哲也をギュッと抱きしめた。
「ごめんね。哲也くん。私どうしても哲也くんが、さびしがる顔を見る勇気がなかったの」
李林檎も泣いていた。
「お姉ちゃん。僕そんなに弱くないよ。お姉ちゃんがいなくなっても雄々しく生きていく強さくらい持っているつもりだよー」
哲也は泣きながら言った。
「ごめんね。哲也くん。手紙にも書いたけれど、私、哲也くんのお母さんよ。一生、私、哲也くんのお母さんよ」
李林檎も泣きながら言った。
「有難う。お姉ちゃん。ところで、お姉ちゃんにお願いがあるんだ」
「なあに?」
「お姉ちゃんの履いていたビキニをくれない?それと、お姉ちゃんが今、履いているパンティーも」
もう定期船は出航の時間で哲也には恥ずかしがっている時間など無かった。
「わかったわ」
そう言って李林檎はボストンバッグから、ごはんビーチで履いていた、ピンクのビキニの上下を取り出して哲也に渡した。
そしてスカートの中に手を入れて、パンティーを降ろし足から抜きとって「はい」と言って哲也に渡した。
哲也はビキニとパンティーをギュッと握りしめた。
「有難う。お姉ちゃん。これを、お姉ちゃんだと思うよ。つらいこと、苦しいこと、があっても、これで、お姉ちゃんと一緒だと思えるから僕くじけないから」
哲也は泣きながら言った。
「さあ。もう出航だよ。ボク」
船長に言われて哲也は船から桟橋に移った。
ボーという物悲しい出航の汽笛が鳴り船が動き出した。
「お姉ちゃん。さようなら。愛をありがとう」
哲也は彼女のビキニとパンティーをギュッと握りしめながら手を振った。
「さようなら。哲也くん。私は哲也くんのお母さんよ。一生、私は哲也くんのお母さんよ。またきっと会いに来るからね」
そう言いながら李林檎も手を高く挙げて振り続けた。
定期船はゴオオオオと重厚なエンジン音を鳴らしながら桟橋から離れていった。
二人の距離はどんどん離れていったが哲也は手を振り続けた。
定期船に乗っている李林檎も、どんどん小さくなっていったが哲也と同様に手を振り続けていた。
ようやく船が小さな点になって見えなくなると哲也は踵を返して桟橋から離れた。
そして倒れている自転車を起こし李林檎のくれたビキニの上下と白いパンティーをカゴの中に入れて夜雨ばあさんの家に自転車を返しに行った。
「どうだった。李林檎さんに会えたかの?」
梅干しババアの夜雨ばあさんが聞いた。
「うん。ギリギリで会えたよ」
哲也は答えた。
「そうかの。それはよかったの」
哲也は自転車を夜雨ばあさんに返すと踵を返してトボトボと家路についた。
家に着いて自分の部屋に入ると、もう李林檎さんは、この島にいないんだ、という実感がこみ上げてきて哲也は、スマートフォンで撮影した李林檎のビキニ画像を見ながら、「ああ。お母さん。お母さん」と叫びながら泣いた。
そして哲也は李林檎のパンティーのクロッチ部分に鼻を当てて、その匂いを貪り嗅いだ。
(ああ、これが李林檎さんの匂いだ)
そしてスマートフォンの李林檎のビキニ画像を見ながら「お母さん。ありがとう。僕どんなことがあっても、へこたれないよ」と誓うように言った。
まだ中学生の哲也にとって李林檎は憧れの年上の女性であると同時に母親的な存在でもあった。
母性愛に飢えている哲也にとって、李林檎は、憧れの年上の女性であると同時に、どんな外敵からも命がけで守ってくれる母親でもあったのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここは東京にある被差別部落である。
入ろうかしら、でも怖いわ
一人の美しい女性が民家の前で困惑していた。
そう。ごはん島から本土に帰ってきた李林檎である。
(家の中は灯りがついているから、あの人はいるんだわ)
李林檎はボストンバッグをギュッと握りしめながら自分の家の前に戻ってきてから1時間ほど躊躇していた。
夜中の1時なので近所の家々の灯りは消えていた。しかし1時間も家の前でウロウロと立ち往生していたので近所の人に見つかって、
「やあ。李林檎さんじゃないかね。1週間ほど見かけんかったが、どうしたんかね?」
と声をかけられてしまったので李林檎はとうとう決断して(地獄の拷責に耐えよう)と自分に言い聞かせ勇気を出して家のカギを取り出して鍵穴に差し込み家の戸を開けた。
そして家の中に入った。
家の中には一人の男が胡坐をかいて一升瓶の安酒を飲んでいた。
そうとう飲んでいるらしく男の顔は茹蛸のように真っ赤だった。
「ただいま帰りました」
李林檎は男の前に正座して深々と頭を下げた。
「おい。顔をあげろ」
李林檎が畳に額を擦りつけ続け、顔を上げようとしないので男は、しびれをきらせて言った。
李林檎が恐る恐る顔を上げると男は李林檎をジロリとにらみつけた。
「おい。1週間も家を出て、どこへ行っていた?」
男は李林檎をにらみつけながら聞いた。
「そ、それは許して下さい。もう二度と無断で家を出たりしません」
李林檎は全身をブルブル震わせながら言った。
「お前の実家や、兄弟、親戚、友人の家など、お前が泊まれそうな所は全て電話で聞いてみたが、どこでもお前は来ていないと言った。まあ来ていたとしても来ていないと言うだろうがな」
男は酒をコップに注ぎグイと一飲みした。
そう。この男は上松聖といって李林檎の夫である。
二人は在日朝鮮人のための朝鮮学校で知り合った。
二人とも朝鮮からやって来た朝鮮人ということで二人は意気投合して親しくなった。
上松は(オレは小説を書いている。オレは将来、間違いなく芥川賞どころかノーベル文学賞を受賞する大作家になるだろう)と自信満々に語った。
李林檎は上松の自信に満ちた物言い、態度を好きになり(きっとこの人なら本当に立派な作家になるだろう)と確信し結婚したのである。
しかし現実は違った。上松はただ空威張りするだけの中身のカラッポな誇大妄想人間だったのである。しかし李林檎は誠実な性格だったので(私は自分の意志でこの人と結婚した。だから悪いのは私の方だ。私の決断、意志で結婚した以上この人を支えていかねばならない)という健気な涙ぐましい信念を持ち続け、どんなにつらくても離婚することはしなかった。
「おい。どこへ行っていたかと聞いているんだ。答えろ」
李林檎が黙っているので上松は怒鳴りつけた。
「どうせ男が出来たんだろう。そいつは誰だ?」
上松が怒鳴りつけた。
「ち、違います。それだけは信じて下さい」
李林檎は必死で訴えた。しかし上松は自分の思ったことは絶対に正しいと信じている決めつけ男なので、もう上松の頭には、李林檎の不倫の相手が誰なのか、それを追求することしかなかった。
「お前も強情な女だ。しかし言わないんなら吐かせるまでだぜ」
上松はコップ酒をグイと飲み干すと李林檎に向かって、
「おい。着ている物を全部、脱いで素っ裸になれ」
と怒鳴りつけた。
「はい」
李林檎にとって夫の命令は絶対だったので彼女は上下揃いのスーツを脱いだ。
彼女はブラジャーとパンティーだけになった。
彼女は哲也に履いていたパンティーをあげてしまったが、替えの下着を持っていたので、船が沖に出て、ごはん島が見えなくなると、すぐにボストンバッグから替えのパンティーを取り出して履いていた。
さあ下着も脱げ、と言われて李林檎はブラジャーを外した。そしてパンティーも脱いで一糸まとわぬ丸裸になった。
上松は麻縄を持って立ち上がり李林檎の華奢な両腕をグイとつかむと両腕を背中に回し手首を重ね合わせ、手首を麻縄でカッチリと縛り上げた。
「ほら。家の外に出ろ」
上松は妻の後ろ手に縛った縄の縄尻を持って李林檎を蹴飛ばしながら彼女を家の外に出した。
家の前には高い樫の木があった。
上松は椅子を持ってきて椅子の上に登り、縄尻をグイと引き上げて木の高い所にある太い枝にカッチリと固く結びつけた。
李林檎は木の枝に吊るされた状態になって身動きがとれなくなった。
上松が妻を折檻する時は、いつもこうだった。
上松は水道ホースを持ってきて蛇口を開け冷たい水道水を李林檎の体に放出した。
ブババババ―。
寒い冬に丸裸にされて外に出され冷たい水を浴びせられて李林檎は、
「つ、冷たいー。許してー。あなた」
と足をモジモジさせながら叫んだ。
「やめて欲しければ男の名前を言え。そうしたら止めてやる」
そう言ってサディストの決めつけ男、上松は楽しむように水責めを続けた。
しかし李林檎は浮気などしていない。
なので男の名前など言いようがない。
「ゆ、許して。あなた。私、本当に浮気なんかしていないんです」
と李林檎は泣きながら叫んだ。
「水責めでは手ぬるいようだな」
と言って上松は竹刀を持ってきた。
そして力一杯、李林檎の尻、や、背中、脚、腹、を滅多打ちした。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
鞭が李林檎の体に当たって弾けるような鞭音が静かな夜空に鳴り響いた。
彼女の全身は真っ赤に蚯蚓腫れしていった。
「ああー。許して。あなた。私、本当に浮気なんかしていないんです」
李林檎は激しく顔を左右に振り、髪を振り乱して足踏みしながら泣き叫び続けた。
その悲鳴は静まり返った被差別部落に響き渡った。
家々の中の在日朝鮮人たちは、その叫び声に起こされて、
「ああ。また上松が嫁いびりをしているな」
と言った。
しかし誰も上松に「あんた。もう、やめてあげんさい」と注意する者はいなかった。
なぜなら上松に注意すると上松の怒りは、注意した者に向かい「うるせえ。オレ様に楯突くと痛い目に会うぜ」と言われ上松ににらまれるからである。
「上松の嫁も可哀想じゃな」と言いつつも「触らぬ神に祟りなしじゃ」と言って、近所の家は灯りをつけることはしなかった。
李林檎は浮気などしていないので答えようがない。
「許して。許して。私、本当に浮気なんかしていないんです」
という叫び声が真っ黒な夜空に響き続けた。
1時間ほどして上松は李林檎を叩くのをやめた。
上松の方がネを上げたのである。
「チッ。この強情女め。明日の朝まで立ち続けていろ」
上松は吐き捨てるように言って李林檎をほったらかしにして家の中に入った。
そしてコップ酒をグイとあおり布団をかぶって寝てしまった。
すぐに上松は眠りに就き、ぐおー、という大きな、いびき声が鳴り響いた。
外では丸裸で後ろ手に縛られ吊るされている全身をブルブル震わせている李林檎がいた。
寒さにブルブル震えている李林檎の脳裏に哲也の顔が浮かんできた。
(哲也くんだって両親がいないのに、さびしさに耐えて頑張っているんだもの。私だって耐えなくちゃ)
そう自分に言い聞かせたものの、李林檎の脳裏には自分を優しく育ててくれた、母親、父親、そして朝鮮学校の友達の姿が浮かんできた。
楽しく笑顔で毎日、仲良く過ごしている、みんなのことを思うと寒い冬の真夜中に丸裸で吊るされている自分がみじめになってきて涙がポロポロと流れ出た。
「お母さん。お父さん」
自然とその言葉が口から出た。
うわーん、と李林檎は泣いた。
上松が家の中に入って1時間くらい経った。
誰かが抜き足差し足で丸裸で縛られて吊るされている李林檎に近づいてきた。
近所に住んでいる田吾作だった。
「李林檎さん。つらいじゃろ。今、縄を解いてやるからな」
李林檎を吊るしている縄を解こうと田吾作は椅子に登ろうとした。
「田吾作さん。ありがとう。でもやめて下さい。夫に無断で家を飛び出してしまった私が悪いんです。それに私の縄を解いたら、主人は私に、誰が縄を解いた、と私が喋るまで執拗に私を責めます。私も弱い人間です。主人の責めに負けて、あなた様の名前を言ってしまうかもしれません。そうしたら主人の怒りの矛先があなたに向かってしまいます。ですから私のことは構わないで下さい」
李林檎は涙ながらに言った。
田吾作も李林檎の優しい心根に胸を打たれ涙した。
「あんたは女神のように優しい人の持ち主じゃ。わしも上松さんは怖い。勇気の無い私を許してくれ」
そう言うや田吾作は泣きながら去って行った。
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李林檎の縄が解かれたのは翌日の正午近くだった。
「ふあーあ。よく寝たぜ」
と言って欠伸をしながら家から出てきた上松が、意識を失ってダランと脱力している李林檎を見て、
「チッ。強情なアマめ」
と不愉快そうに言って李林檎の縄を解いたのである。
・・・・・・・・・・・・・・
李林檎に7日間も家出され、しかも浮気相手を強情に喋らない妻に対する上松の怒りは炎のように激しく燃えさかっていた。
李林檎は浮気などしていないのだが主観が物事の真実である決めつけ男の上松にとっては、妻は浮気相手の名前を喋らない強情な悪女なのである。
それまでも李林檎は上松の暴君さに耐えかねて実家へ帰ったことが数度あった。
もう上松の心には妻に対する愛などカケラもなく、あるのは自分に従わず逆らい続ける女に対する憎しみの感情だけだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
上松の仕事は個人経営の汲み取り屋だが彼は誇大妄想者なので「オレ様は偉い人間だ」と信じ込んでいるので、ほとんど毎日、銀座の高級クラブに行っては、ホステス相手に「オレ様は偉い人間なんだぞ」と偉そうに豪語して浴びるように酒を夜が明けるまで飲み続けていた。
それが上松の毎日だった。夫が仕事をしないので妻の李林檎がバキュームカーを運転し夫の代わりに働いていた。
上松の高級クラブ通いの頻度と金使いの荒さは増した。
そのため妻にさせているバキュームカーでの汲み取り業だけでは生活していけないので上松は何とか、もっと妻に金を稼がせることを考えた。
ちょうど、いいタイミングで金になりそうな仕事が見つかった。
それは自民党の政治資金集めのパーティーである。
自民党には、いくつもの派閥があり高級ホテルを借りて食べ放題の立食パーティーを行っていた。
派閥に所属する議員は自分に課されたノルマの一枚2万円のパーティー券をたくさん売りさばなくてはならなかった。
それが派閥に属する者の義務だった。
2万円のパーティー券を買ってもらって高級ホテルでの食べ放題に勧誘というのが建て前だったが実際には極力、経費を削減しての派閥の頭領のための資金集めだった。
出来るだけ経費を削減しなくてはならないため食べ放題と銘打っていても料理は少ししか用意しておらず、すぐに食べ尽くされてしまって、パーティーに来た客は「あーあ。全然、食べられなかったよ」と愚痴をこぼしていた。
そこで自民党は食欲を満たす代わりに面白いショーを鑑賞させることを売りに決めたのである。
それは酸鼻なSМショーだった。
上松は、ある筋から「SМショーの美人モデル募集。報酬は十分に支払います」という情報を入手した。
その報酬の額は上松の満足のいくものだった。
上松は、自分の妻をSМショーに出演させる契約をした。そして前金を受けとった。
そして妻の李林檎に、
「今日。××ホテルでSМショーがある。ソフトなSМショーだ。お前はそのショーに出ろ。そうすれば、家出、浮気の罪は許してやる」
と言った。
李林檎にとって夫の命令は絶対だったので彼女はそのホテルに向かった。
たくさんの自民党議員が来ていた。
ホテルの前には「清和政策研究会パーティー会場」と書かれた立て看板があった。
スーツに蝶ネクタイをしたパーティーの進行係りと思われる男が李林檎に、
「ここは控え室だ。今、立食パーティーが行われている。それが終わったら、お前のSМショーだ」
と言った。
「あ、あの。私は何をすればいいんでしょう?」
李林檎は不安を感じながら聞いた。
「なに、たいしたことじゃない。オレやお客さん達の言うことを素直に聞いているだけでいい。お前は演技などしなくていい。お前は自分の感じたことを言っていれば、それだけでいい」
と蝶ネクタイの男は言った。
控え室にはパーティー会場を映し出している画像があった。
200人くらい人がいる。
「早く食べないと無くなっちゃうわよ。せっかく2万円も出したんだから」
招待客たちは豚のようにテーブルの上に乗っている料理が入っている皿の料理をトングで自分の皿に移して貪るように食べていた。
しかし食べ放題と銘打っていても用意されている料理の量は少ないので料理はすぐに客たちによって食べられて無くなってしまった。
もう、ほとんどの皿は空っぽになっていた。
「あーあ。たいして食べられなかったわ」
招待客たちは不機嫌そうに言った。
その時である。
蝶ネクタイの男がステージに出てきた。
「Ladies and Gentlemen。みなさま。お腹も満たされたところでございましょう。では、これよりSМショーを開催いたします」
と言って控え室に戻り、
「さあ。お前の出番だ。来い」
蝶ネクタイの男は李林檎の手を引っ張ってステージの上に立った。
大勢の人の前に、いきなり立たされて李林檎は戸惑った。
「おおっ。なんてハクい女なんだ」
「絶世の美女じゃないか」
みんながそんな賛辞を一斉に述べた。
「みなさま。これから皆様お待ちかねのSМショーを行います。この女が皆様の奴隷です。一つ言っておきますが、この女こそが自民党の裏金問題を告発した張本人の共産党員です。彼女は政権与党の自民党をおとしめたことを後悔しており、それを詫びたいと申し出た正真正銘のM女です。どうぞ、お好きなようにして下さい」
蝶ネクタイの男がそんなことを言った。
李林檎は顔面蒼白になった。
「ち、違います。私は共産党員でもありませんし自民党の裏金問題を告発などしていません」
李林檎は訴えるように言った。
「ははは。どうです。この嫌がりっぷり。この女は皆様の嗜虐心を煽るために、わざと、このように演技しているのです。しかし、この女こそが自民党の裏金問題を告発した張本人であることは間違いありません。どうぞ皆様がご満足いくまで心行くまで、この女を嬲って下さい」
蝶ネクタイの男がそんなことを言った。
「この女だったのか」
さっきは、その美しさに見とれていた自民党議員たち、および、自民党を支持する招待客たちの顔が憎しみに変わった。
「さあ。おわびの第一歩として着ている物を全部、脱いで素っ裸になれ」
もうお前の夫には前金を渡し公証役場に契約書を書いてもらっているから、お前は従うしかないぞ、と蝶ネクタイの男は、李林檎に小声で耳打ちした。
「わ、わかりました」
そこまで用意周到にされていては、もう抵抗しても無駄だと李林檎はあきらめた。
それに裸にされてSМショーをすることによって夫の怒りがおさまってくれるのなら、それでいいわ、という気持ちも李林檎にはあった。
李林檎は上下揃いのスーツを脱いだ。
そしてブラウスも取り去った。
大きな乳房をおさめて膨らんで二つのふっくらした盛り上がりを作っている白いブラジャーと恥肉をおさめてモッコリと盛り上がっている白いパンティーだけの下着姿になった。
「おおっ」
「素晴らしいプロポーションだ」
そんな声が会場から沸き上がった。
李林檎はブラジャーのホックを外した。そしてパンティーも降ろしていって両足から抜きとった。
一糸まとわぬ李林檎の丸裸は、まばゆいほど美しかった。
しかし女の生理的な羞恥心から自然と手はアソコと豊満な乳房へ行った。
「ほら。手を出せ」
蝶ネクタイの男は李林檎の両手をグイとつかむと手首を麻縄で縛った。
そしてその縄尻を天井に固定されているカラビナに通した。
そしてグイグイと縄を引っ張っていった。
李林檎の手首は、あれよあれよ、という間に上に引っ張られて天井から吊るされる形になった。
もう女のアソコも乳房も尻も丸見えである。
「では、仕置きとして、これから、この女を鞭打ちます」
蝶ネクタイの男は鞭を取り出すと李林檎の尻めがけて思い切り鞭を振った。
ピシーン。
イキのいい炸裂音が鳴った。
尻の鞭の当たった所には一筋の痛々しい赤い蚯蚓腫れの跡がしるされた。
「ああー。痛いー」
李林檎はあまりの痛さに全身を震わせて叫んだ。
司会者の蝶ネクタイの男は情け容赦なく李林檎の体を休む暇なく鞭打った。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
「ああー。痛いー」
李林檎は足をバタバタ踏み鳴らし全身を右へ左へとくねらせて泣き叫んだ。
パーティー会場の人々は我を忘れて、その光景を眺めていた。
しばし鞭打った後、蝶ネクタイは鞭打ちをやめた。
「この女こそが、自民党の裏金問題を告発した張本人の共産党員です。自民党議員の先生がた、および、自民党を支持されておられる来客の方々にとっては、この女は憎みても余りあることでしょう。どうぞ皆様もこの女を鞭打って怒りを晴らして下さい」
自民党議員および自民党を支持する来客たちに憎しみの炎がメラメラも燃え盛り出した。
(この女が年収3350万の安泰の権力の地位を奪い、それどころか、自分たちを刑事事件の犯罪者におとしめた張本人なのだ)
という実感がパーティー会場にいる全ての人間の心に起こった。
「それでは、この女を鞭打ちたい方は一列にお並び下さい」
蝶ネクタイがそう言うと会場にいる全ての人間が我先にと李林檎の前に近づいてきた。
一列にお並び下さい、と言われて、まさにパーティー会場に来た全員の長蛇の一列が出来た。
最初の自民党議員が鞭を手に持つと、
「このオレ様を刑事犯罪者に仕立て上げた売国女め」
と言って李林檎の体を滅多打ちにした。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
「ああー。痛いー。許して下さいー」
李林檎は足をバタバタ踏み鳴らし全身を右へ左へとくねらせて泣き叫んだ。
・・・・・・・・・・・・・
男はハアハアと息を切らしながら、
「これで少しは気が晴れたぜ。次はお前の番だ」
と言って彼は鞭を次の自民党議員に渡した。
彼も憎しみを込めて「この売国女め」と言って李林檎の体を滅多打ちにした。
「このオレ様を刑事犯罪者に仕立て上げた売国女め」
と言って李林檎の体を滅多打ちにした。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
「ああー。痛いー。許して下さいー」
李林檎は足をバタバタ踏み鳴らし全身を右へ左へとくねらせて泣き叫んだ。
こうしてパーティー会場にいる全ての人間が李林檎を鞭打った。
李林檎は泣く気力もなくほどの状態で項垂れてガックリと首を落としていた。
「よし。鞭打ちはこれで終わりだ」
蝶ネクタイの男が李林檎の手首の縄を解いた。
李林檎はガックリとステージの床に倒れ伏した。
「さあ。お前はここにいる自民党議員および自民党支持者の方々の犬だ。四つん這いになって御主人様たちの靴をなめろ」
蝶ネクタイは李林檎の腹をドンと蹴飛ばした。
(た、耐えよう)
李林檎は自分に言い聞かせ犬のように四つん這いになって這って歩きながらパーティー会場にいる人間たちの履いている革靴を舌を出してペロペロなめて回った。
あはははは、と悪魔たちは笑った。
もう李林檎には人間としての尊厳もプライドも屈辱もなかった。
「Ladies and Gentlemen。みなさま。こいつは、政府が推進している、新型コロナワクチンを毒薬とまで言っている反ワクです。こいつのデマのおかげでワクチンの接種者が減少してしまいました。ここに廃棄用の8680万回分のワクチンの入った注射器があります。どうぞ、皆さま、こいつにワクチンを打ってワクチンが安全であるということを、わからせてやって下さい」
蝶ネクタイが言った。
大きな箱が運ばれてきた。
その中には廃棄用のコロナワクチンの入った注射器が入っていた。
パーティー会場にいる自民党議員および自民党支持者は一人づつ注射器をとって、李林檎に近づいてきた。
ここに至って李林檎はぞっと背筋が凍る思いになった。
(こ、殺されてしまう。これはSМショーではない。殺人ショーだ)
「いやー。やめてー」
命あっての物種である。
李林檎は立ち上がって逃げようとした。
しかし。
「おっと。まだSМショーは終わっていないぞ」
と言って二人の蝶ネクタイの男が裸の李林檎の腕をつかんだ。
ブツブツのアバタ顔の気持ち悪いワクチン接種推進大臣だった男がコロナワクチンの入った注射器を持ってニヤニヤ笑いながら李林檎に近づいてきた。
「いやー」
李林檎は大声で叫んだ。
その時である。
「おーっと。ちょっと待った。オレは2万円のパーティー券を買って、やって来た招待客だがオレは自民党支持者ではない。お前らの悪事をあばいた張本人はこのオレだ。今日、オレがここへ来たのは、お前らの悪事の決定的な証拠をとるためだ。SМショーと銘打っての彼女の殺人ショーは、しっかりスマートフォンで録画して生中継でYou-Tubeにアップしたぜ。まあ、どうせバンされるだろうがな。しかし、ニコニコ動画にもアップしたぜ。それにCBCテレビの大石さんにも録画は送ったぜ。お前ら全員、殺人犯だ。オレを殺そうとしてもダメだぜ。オレは空手三段、柔道四段、合気道二段の武術の達人だ」
と凛々しい顔立ちの男が言った。
「全員。ホールドアップしろ」
ここまで確実な証拠を握られては抵抗しようがない。
男に言われてパーティー会場にいる人は全員ホールドアップした。
男はステージの上にある李林檎の下着とスーツをとって李林檎の手をつかんで、
「さあ。李林檎さん。早く下着を着けてスーツを着て」
と言った。
言われて李林檎はパンティーを履きブラジャーを着け上下揃いのスーツを着た。
「さあ。李林檎さん。急いでパーティー会場から出ましょう」
男は急いで李林檎を連れてパーティー会場から出た。
男はパーティー会場から少し離れた所にある駐車場に李林檎の手を引っ張って、連れていった。
駐車場には一台の車があった。
「さあ。李林檎さん。これに乗って」
「はい」
男は李林檎を車に乗せるとスピード違反にならない上限のスピードで車を飛ばした。
「有難うございます。あなたは誰なのですか?」
李林檎が聞いた。
「私はね、ごぼうの党の奥野卓志のボディーボードさ。奥野卓志さんに頼まれて自民党のパーティーの様子を撮影するように命令されていたのさ」
「そうだったんですか」
男は車を少し飛ばしてから別の駐車場に行った。
そこにも別の車が一台あった。
「さあ。李林檎さん。この車に乗って」
「はい」
言われて李林檎はその車の助手席に乗った。
そして男はスピード違反にならない上限のスピードで車を飛ばした。
「どうして車を乗り換えるんですか?」
「前の車を見ているヤツがいるかもしれないからね。敵は国民の命など屁とも思わない国家権力だ」
そう言って男は首都高に入り東名高速道路を西へ飛ばした。
「ところで、あなたの身の安全が心配だ。敵は国民の命など屁とも思わない国家権力だ。奥野卓志さんはたくさん秘密のアジトを持っているよ。そこでかくまおうか。どうするかね?」
男が聞いた。
「あ、あの。できたら、ごはん島に行きたいです」
ごはん島は夫の拷問にも耐えて言わなかった秘密の島である。
日本に属さない独立国でもある。日本政府も絶対に手出しできないだろう。
李林檎は100%そう確信した。
なぜなら、ごはん島とは優しい心をもった浅野浩二という作者が想像で作り上げた、物理的には、この世に存在しない空想の島なのだから。
優しい浅野浩二さんなら決して自分を悪いようにはしないでくれると李林檎は確信していたのである。
「ごはん島?聞いたことないな。そんな島。どこにあるの?」
男が聞いた。
李林檎はスマートフォンを取り出した。
そして地図アプリで、北緯××度、東経××度にある、ごはん島を男に見せた。
「ここです。ここが、ごはん島です」
「なるほど。確かに、北緯××度、東経××度に、小さな島があるね。じゃあ、そこへ、あなたを連れていこう」
男は静岡のインターチェンジで東名高速道路を降りた。
そして少し走って林の中に入った。
林の中には一台のヘリコプターがあった。
「さあ。李林檎さん。このヘリコプターに乗って下さい。これは奥野卓志さんの自家用ヘリコプターです。ごはん島にあなたを連れて行きます」
「はい」
男に言われて李林檎はヘリコプターに乗り込んだ。
ババババッと激しい爆音をたててヘリコプターは離陸した。
そして一路、ごはん島へと向かって飛行した。
ちょうど朝日が昇り始めている所だった。
もう日本には帰らないわ。夫の上松は私の命なんか何とも思っていないんだわ。
今まで、ずっと夫のワガママに耐えてきたけれど、それは私が耐えることで、あの人が自分の悪業を自覚し反省し、まっとうな人間になること信じていたからだわ。でも、あの人は骨の髄から悪魔なんだわ。
李林檎は、ここに至ってようやく、それに気づいた。
李林檎は夫に宛ててメールを書いた。
「あなた。あなたと結婚して過ごした2年間は楽しかったわ。何回も家出してしまってゴメンなさい。私は自分がどんな辛いことをされても、それに耐えることによって、いつか、あなたが礼儀正しい謙虚な真人間になってくれると思っていました。しかし、それは、あなたを、あまやかせ、あなたを、ますます堕落した人間にしてしまうことになると気づきました。これでは、あなたのためにも私のためにも良くありません。なので、あなたとは離婚します。どうか、あなたにふさわしい良い人を見つけて下さい。私は周庭さんのように、あなたから亡命します。李林檎」
そう書いて李林檎は送信ボタンを押した。
これでやっと耐えに耐えてきた肩の荷が降りて李林檎は、ほっとした気持ちになった。
李林檎の心は晴れ晴れとしていた。
嫌な過去が全て洗い流されて、かわりに、これから行くごはん島の様子がありありと浮かんできた。
李林檎の頭に優しかった哲也の顔が浮かんできた。
シャイな、はにかみ屋、甘えん坊、母性に飢えている可愛い少年、でも人に甘えてはいけないと思っている健気な子。
ふふ。哲也くん、どうしているかな。私が来たら、きっと喜ぶだろうな、と想像すると李林檎は楽しい気持ちになってきた。
どのくらいの時間が経ったことだろう。
ヘリコプターは真っ青な海の上空を飛行し続けた。
やがて、ちいさな島が見えてきた。
「あっ。ごはん島だわ」
李林檎が感激して叫んだ。
「では高度を下げて着陸します」
ヘリコプターはババババッと大きな爆音をあげて、ごはん島に着陸した。
ごはん島の数人が何事かとやって来た。
その中に哲也もいた。
李林檎は奥野卓志のボディーガードに、有難うございました、と礼を言ってヘリコプターから降りた。
奥野卓志のボディーガードは、
「では私は日本にもどります」と言ってヘリコプターはババババッと爆音を立てて、また離陸して飛び立っていった。
哲也は李林檎を見つけると、
「あっ。お姉ちゃん」
と叫んで走り出した。
そして李林檎に抱きついた。
「お姉ちゃん。さびしかったよう。また来てくれたんだね。僕、最高に嬉しいよう」
と号泣していた。
李林檎も哲也をガッシリと抱きしめた。
「ごめんね。哲也くん。私も哲也くんのことを一時たりとも忘れたことはないわ。哲也くんは元気にやっているかなと毎日、思っていたわ」
哲也は李林檎の脚についている痛々しい鞭打ちの蚯蚓腫れの跡に気づいた。
「お姉ちゃん。何かつらいことがあったんだね。何があったの?」
「哲也くん。心配してくれて有難う。でも何でもないわ。私は大丈夫よ」
哲也に心配させまいと李林檎は夫の上松に虐められたこと、自民党のパーティーで嬲られ抜いたことは言わなかった。
・・・・・・・・・・
その晩、李林檎は夜雨ばあさんの家に泊まった。
「あんさん。何かつらいことがあったんじゃろ。じゃが何があったかはわしは聞かん。ゆっくり休んでいくがよろし」
そう言って夜雨ばあさんは李林檎のために風呂を沸かした。
「有難う。おばあさん」
温かい風呂に浸かっているうちに自民党の「清和政策研究会」のパーティーで受けた体の痛みも和らいでいくようだった。
風呂から出ると李林檎は夜雨ばあさんが用意してくれた浴衣を着た。
夜雨ばあさんは李林檎のために、豚汁を作っていた。
「あんさん。何かつらいことがあったんじゃろ。これを食べなされ」
そう言って夜雨ばあさんは李林檎に、豚汁を勧めた。
「ありがとう。おばあさん」
李林檎は夜雨ばあさんの作った、豚汁を啜った。
何も食べていなかったので、温かい、豚汁は五臓六腑にしみわたった。
そして四畳半の部屋に通されて温かい布団に入った。
色々なことがあったため体はやはり疲れていて李林檎はすぐに眠りに就いた。
その晩、李林檎はぐっすり眠った。
夜中に哲也が李林檎に会いに来たが夜雨ばあさんが「李林檎さんは疲れてぐっすり眠っておる。明日また来んしゃい」と言われて哲也は「はい」と言って帰ろうとした。
しかし、その声に李林檎は起こされた。
「おばあさん。私は大丈夫です。哲也くん。来てくれて有難う。おいで」
李林檎に声をかけられて哲也は李林檎の寝ている部屋に入った。
李林檎は身を起こして正座していた。
哲也は久しぶりに会う李林檎を見ると、わっと泣き出した。
「お姉ちゃん。さびしかったよう。会えて嬉しいよう」
そして李林檎に抱きついた。
「私もよ」
李林檎も哲也をギュッと抱きしめた。
哲也は大人と同じほどの農作業をしながらインターネットで一生懸命、夜中まで勉強している中学生だった。
といっても、ごはん島には中学校はない。
しかし哲也は本土の高校に進学したいと思っていたので独学で中学校の勉強をしていた。
哲也にとっては農作業と勉強のつらい毎日だったが、そんな時、哲也をなぐさめ励ましてくれたのは、李林檎がくれたパンティーだった。
哲也はつらい時、李林檎のパンティーのクロッチ部分を貪り嗅いでいた。
(ああ。お姉ちゃんの匂いだ。お姉ちゃん。僕どんなにつらくても頑張るよ)
と哲也はパンティーに誓った。
しかし哲也は強く逞しく生きようと思ってはいたが、気の小さい、まだ子供である。
李林檎に会えたことで痩せ我慢の箍が一気に外れてしまったのである。
哲也はそのことを李林檎に話した。
「哲也くん。ゴメンね。さびしい思いをさせて。私は哲也くんのお母さんよ。うんと甘えて」
それを聞いた哲也の涙腺は一気に緩んだ。
「うわーん」
哲也はわっと泣き出した。
李林檎は哲也の頭を太腿の上に乗せて膝枕させた。
李林檎の太腿には清和政策研究会のパーティーで受けた鞭打ちの跡が残っていた。
「お姉ちゃん。誰かに虐められたんだね?」
哲也が聞いた。
「ううん。たいしたことないわ。心配しないで」
李林檎は哲也を心配させまいと、そう言った。
「お姉ちゃん」
「なあに?」
「今度はいつまでいるの?」
「ずーといるわ。私一生、ごはん島で生きるわ」
「本当?」
「本当よ」
「わー。嬉しいな」
李林檎は子守歌を歌いながら哲也の頭を撫で続けた。
ずーといると聞いて哲也はほっと一安心した。
哲也は李林檎の肌の温もりと安心感と膝枕で頭を撫でられている心地よさで、いついか眠りに就いていた。
・・・・・・・・・・・・・・
翌日から、李林檎は以前、来た時のように、まめまめしく働いた。
李林檎は夜雨ばあさんの畑と果樹園の農作業をするようになった。
もちろん哲也もやって来て李林檎の仕事を手伝った。
そして午後は、ごはんビーチで李林檎はビキニに着替え、哲也とフリスビーをしたり水上バイクに乗ったり小船に乗って海釣りをして楽しんだ。
ごはん島は亜熱帯なので一年中、海水浴が出来た。
小船に乗って釣り糸を垂れていると思いがけない魚がかかることがよくあった。
人食いザメがかかることもあれば体長30m、体重100トンのシロナガスクジラがかかることもあった。
李林檎は釣りが得意らしくエサに食いついた魚は全て釣り上げた。
「おばあさん。今日はクジラが釣れたわよ」
と報告してクジラを持って帰ると夜雨ばあさんは喜んで、
「ああ。それはよかったわね」
と言って、その日の晩のおかずはクジラの刺身となった。
哲也と李林檎は、美味しい、美味しい、と言ってそれを食べた。
・・・・・・・・・・・・
再び、また李林檎に明るい表情がもどって、もう彼女は暴君の夫の上松や、自民党の「清和政策研究会」のパーティーのことなど忘れていた。
李林檎は哲也との付き合いがこの上なく楽しかった。
哲也にしても李林檎との生活が夢のように楽しかった。
しかし平和は、いついつまでもは続かなかった。
・・・・・・・・・・・・
ごはん島には本土から1週間に一度、定期船がやって来るのだが、李林檎が日本を脱出して、ごはん島に来て、2ヵ月が経ったある日のことである。
定期船がいつものように、ごはん島にやって来た。
船が桟橋に着くと一人の男が船から降りてきた。
男は戦国の武将のように鉄兜をかぶり鎧を着ていた。
李林檎の元夫の上松だった。
哲也は定期船が来ると、いつも見に行っていた。
なのでその日、哲也は定期船を見に行った。
哲也は、定期船から出てきた鉄兜をかぶり鎧を着ている異様な男に驚いた。何か悪い予感がして哲也はスマートフォンでその男を撮影した。そして急いで李林檎の居る夜雨ばあさんの所に行った。
「お姉ちゃん。今日、定期船で変わった人が来たよ」
そう言って哲也はスマートフォンで撮った、その男の写真を李林檎に見せた。
「お姉ちゃん。何か悪い予感がするんだ。この人、誰か知ってる?」
李林檎は写真を見ると青ざめた。
「・・・あ、あの人だわ。きっと私を連れ戻すために、この島にやって来たのね。でも、どうして私がこの島にいることを、つきとめたのかしら?」
李林檎の声は震えていた。
「お姉ちゃん。やっぱり、お姉ちゃんにとって都合の悪い人なんだね?どういう関係の人なの?」
哲也はせっつくように聞いた。
しかし李林檎は哲也を心配させないようにと、元夫の上松のことは言わなかった。
・・・・・・・・・・・・
上松は船から降りると、ごはん島に放送局に行った。
そして島中に伝わる大音量で、こう発信した。
「あっははは。おい。李林檎。聞いているか。お前は、また家出したな。確かな情報でオレはそれをつきとめたぞ。お前はオレの女房だ。隠れてないで出てこい」
しかし、ごはん島の全ての家々では外を歩いていた人達は、すぐに家に入って戸を閉めた。
そして内から閂をしたり、つっかえ棒をしたりして上松が入ってこれないようにした。
ごはん島がシーンと静まり返った。
しかしそれがかえって、上松に、ごはん島に李林檎は居て、皆がかくまっている、という確信を与えてしまった。
上松は、ごはん島のトラックに乗って一軒一軒、回った。
「おい。オレの女房の李林檎が来ているだろう。戸を開けろ」
上松は怪力で鍵のかかった、ごはん島の家を開けようとした。
家の中では家人が必死に戸を開けられないようにと戸をおさえた。
しかし上松の怪力があまりにも強いので家人は、
「どうか戸を開けようとするのはやめて下さい。李林檎なんて人は、この島にいません」
と訴えた。
「お前の家にオレの女房が居ないのならオレを入れない理由はないじゃないか。オレは女房がいるのかどうかを聞きに来ただけだ。オレは女房いがいの人間には手出しをしないぜ」
そう言われても家人は上松を入れる気にはならなかった。
上松が気性の荒い人間で上松を家に入れてしまっては李林檎の居場所を喋るまで、どんな酷い拷問にかけられるか、それを思うと、とても怖くて上松を家に入れることは出来なかったのである。
家人が必死で戸を押さえて家に入れないと分かると上松はチッと舌打ちした。
そして上松はガソリンを家にかけて家に火をつけた。
「ああー」
火がまわるのは早く家人は消火活動をあきらめて裏口から逃げだした。
家を失うのは痛手だったが命にはかえられない。
上松は、ごはん島の家々を、そうやって放火していった。
ごはん島は日本と違って拳銃の所持は認められていた。
そのため何人かの村民が、
「クズ松、死ね」
と言って上松めがけて発砲した。
バキューン。バキューン。
しかし弾が当たっても弾ははじかれた。
「あっははは。オレ様の着ている鎧は超合金で出来ているのだ。さらに鎧の内側には防弾チョッキも着ている。だからピストルの弾などオレ様には通用しないぜ」
上松は勝ち誇ったように言った。
「お、お姉ちゃん。こわい」
「哲也くん。神様に祈りましょう」
夜雨ばあさんの家に居た李林檎と哲也はガッシリと抱きしめ合って、手を合わせ、どうか、上松がやって来ないようにと神に祈った。
しかし上松はヘビのように執念深い男なので、このままでは平和なごはん島が滅ぼされてしまうのは時間の問題だった。
ごはん島の家の半分近くが放火された。
このままでは、ごはん島は滅ぼされてしまう。
なにせ相手は拳銃も通用しない怪物である。
ごはん島の村民も「死」を覚悟し出した。
上松は一軒の小さなオンボロ家に入った。
そこは、そうげん、の家だった。
そうげん、は、たいして力も無く拳銃も持っていなかった。
「よし。この家の主に何としても女房の居所を吐かせてやる」
そう意気込んで上松は「開けろ。開けろ」と家の前で叫んだ。
しかし家の中から返事はなかった。
上松が家に入ろうと戸を開けようとしたが、その家は鍵がかかっていなかった。
上松は家に入り「おい。オレの女房の居所を言え」と言った。
その時である。
「悪魔め。死ね」
そうげんは、振り返るやいなや上松に向かって聖書と十字架と100ルックスのLEDの光を上松に向けた。
そして上松の口に、にんにくを放り込んだ。
すると上松は以外や以外「うわー」と大きな悲鳴を上げた。
そして塩をかけられたナメクジのように上松の体は萎んでいって、どんどん小さくなり、そして蝋のように溶けて液体になり、その液体は蒸発して、なくなってしまった。
ピストルの弾も通用しない上松が一体どういうことなのかと村人が集まってきた。
「そうげんさん。どうして上松をやっつけることが出来たのですか?」
村人は疑問に思って、そうげんに聞いた。
そうげんは答えた。
「こいつの正体は悪魔だ。悪魔には拳銃の弾は通用しない。しかし悪魔は、聖書と、にんにくと、十字架と、光に弱い。僕はこいつの正体を最初から見抜いていた」
そう、そうげんは説明した。
「なるほど。そうだったんですか」
村人たちは納得した。
こうして悪魔は、ごはん島にいなくなり、ごはん島に再び平和が訪れた。
夜雨ばあさんは脳梗塞を起こしていて、要介護5の状態だったので、李林檎は夜雨ばあさんの家に住み込んで、食事、排せつ、入浴、着替え、掃除、など日常生活の全ての面倒を見た。


2024年2月25日(日)擱筆



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健康診断(医療エッセイ)

2024-02-04 11:01:53 | 小説
健康診断

今日、健康診断のバイトをはじめてやった。ある会社の従業員の健康診断である。小説書いてて、リストラされ、内科が十分できない、はぐれ一匹精神科医となった医者にできるバイトといえば、コンタクト眼科と健康診断くらいしかない。健康診断のバイトなんてカンタンだ、と思っていた。じっさい、学生の時、実習で二日、県のはずれの村へ行って、健康診断をした経験がある。農家のおばさん相手にきまった質問事項を聞くカンタンなものだった。ただ、その時は血圧は測れなかったので、血圧測定は手こずった。今度もそんなもんだろうと思っていた。ただ朝が7時半に行ってなければならないのが、朝がニガ手な私には、つらかった。それで、前日、近くのカプセルホテルにとまった。しかし、じっさいは、かなり予想とちがった。午前中は、男の患者(オット患者じゃなかったんだ。健康者のスクリーニングだった。)ではなく職員が多かった。結膜で貧血をみて、顎下リンパ節を触れて、甲状腺をふれて、さいごに胸部聴診だった。フン、フン、フン、とながしてやっていた。しかし、である。カーテン一枚へだてたとなり、で女のドクターもやってて、診察の声がきこえる。キャリアのある内科医である。患者の質問には全部正しくテキパキ答えてる。知識が多い。きらいなコトバだが、一人前である。私は小説を書きたいため時間にゆとりのもてる精神科をえらんだ。二年もやったので精神医学のことは、ある程度わかる。もちろん、精神科医も内科的シッカンをもっている患者をみなくてはならないので、内科的能力がゼロではない。しかし、糖尿病と脳卒中と水虫とターミナルケアの全身管理とイレウス、くらいである。しかし、おどろいたことに甲状腺シッカンが、少しある。頸肩腕障害や子宮筋腫の人、もおり、内科的質問をされる。となりの内科医は、的確な返答をしている。もちろん私とはくらべものにならないほど内科の知識がある。しかし私だって二年の臨床経験のある医師だ。ライバル意識がおこる。しかし私は精神科にいても、内科シッカン患者がいると、症例経験がふえるので、興味をもってとりくんだ。といっても経過観察くらいだけだったが。あとは国家試験の内科知識である。国家試験の知識があれば、それで内科は、ちっとは何とかなると、思っていた。もちろん国家試験はコトバの知識にすぎないが。しかし、考えがあまかった。実際に内科を研修し内科患者をみていないと、患者の質問に正確に答えられない。内科もやはり経験が全てだ。実戦経験がなく、本の知識で、答えているから、かなりトンチンカンになった。実戦経験の前には、本の知識ではたちうちできない。しかし私は喘息で胃病もち、なので必然、内科に関心は向いていた。さらに、健康な内科医をみると、そらぞらしくみえ、内科患者の本当の苦しみなどわからないだろうとつい思ってしまうこともあった。
山奥の健康診断の時とちがうことが二つあった。それは都心の会社の検診では、悩ましいOLもみなくてはならないかったのである。考えてみれば、当然のことだが、念頭になかった。しかもである。胸部聴診をしなくてはならなかった。今まで、長期入院の老人患者ばかりみていた。ひきさきたい欲求に悩まされているOLの聴診なんて、したことがない。内科医なら、女の体をみることになれてて、何ともないのだろうが。
検診のバイトを紹介してくれたのは、ある医師だったが、「女の胸の聴診は気をつけろよ。さわっただ、何だって、うっせーからよ。」と言った。「では、どうすればいいんですか。」と私がきくと、「聴診しますから、少し上着をあげて下さい。」って言う。「それで胸の下のできるだけ下の方をササッとあてる。ほとんど腹部聴診みたいになるけど、それでいいから。形だけ、やったふりをすればいいんだよ。男の場合は、バッと上着をあげさせて、ちゃんとやらなきゃだめだよ。」私はどうも神経質で、医学的責任感はあるので、というか、融通がきかない、というか、すばやい機転がきかない、というか、「女性は、うしろを向いてもらって背中で聴診してはどうですか。」といったら、「そんな時間ない。」と言った。じっさい、短時間にたいへんな数をこなさなければならず、確かにそんな時間はなかった。しかし胸部聴診といって、腹に聴診器をあてて、きくのも変なものだと思った。それに、かりにも医師が健康診断で、胸部聴診したからって、さわった、スケベだ、なんて女は言うもんだろうか、と思った。今はもう4月の中旬でポカポカあたたかく、うすいブラウスやTシャツの女なら服の上から上肺野をきけばいいや、と思った。薄い服でない人は先生に言われたようにブラジャーの下をササッとやろうと思った。
で、実際、行ったら半分は男でやりやすいが、確かに女はやりにくい。学生の時、県のはずれの村に健康診断の実習に二日、行ったことがあったが、高齢の農作業のおばさんばかりで、また聴診はなかった。だが、考えてみると、過疎化で、村では若者は都会に出て行き、村は高齢者だけ、という日本の実情が、実習の時は実感できていなかった、だけにすぎなかった、ということに気がついた。
だが今回は都会の会社の健康診断である。若いOLがいるのは当然ではないか。マニュアル通り、眼瞼結膜で貧血を見、(これは、採血でRBC、Hbをみりゃ、わかるんじないか、と思った。しかし採血しない人もいたのか、よく知らんが、検診はじめてで、若い女の貧血は、ばかにできん、というバクゼンとした理解はもっていた。)頚リンパ、顎下リンパ、の触知、甲状腺の触知、そして胸部聴診だった。尊敬してた小児科の教授の診察と同じである。おどろいたことに女では甲状腺キノー低下症やバセドー病の治療をうけている人がいて、甲状腺疾患は頻度の低いものではない、ということを知ることができた。そういえば、学生の検診の実習の時も甲状腺疾患の人は数人いた。ただ都会の会社では一日中パソコンの画面をみているので、ほとんど全員、目のつかれ、と、肩こりがひどい、腰痛の項目には自分でチェックしていて、目がつかれない人や、肩こり、に、チェックしてない人の方が少なかった。検診は、かなり、現代人のかかえる体の不調の実態を知れるので勉強になる。新聞を読んでても、頭の理解にすぎず、現場の声をきくことによって、はじめて実感できる。あと、高血圧がかなりいた。上が150をこしてる人がけっこういる。のに自覚症状がないから、(高血圧はサイレントキラー)問診しても、運動はあんまりしないし、食事(塩分)にもあまり気をつかっていない。わらいながら、うす味では、どうも食べられなくて、へへへ、などと言っている。検診のかなめはここらへんだと思った。ここで、びしっと、高血圧の人に、運動、食事、夜更かししない、自覚症状がなくても定期的に健康診断を受け、高血圧に気をつけるよう、言うことだと思った。さもないと、高血圧→糖尿病→動脈硬化→破裂→脳卒中ということになる。
さて、きれいなOLがきた。ので、眼瞼からの診察まではよかったが、ブラウスの上にブレザーをきていたので、ブラウスの上から上肺野を聴診しようと思って、「では、ちょっと胸の音きかせて下さい。」と言ったら、ブレザーのボタンをはずしたのはいいが、ブラウスのボタンも下からはずしだしたので、内心「おわわっ。」と、あせって、「ああっ。そこまではしなくてもいいです。」といったら、ニヤッと笑われ、ベテラン内科医でないことがばれた。内科医なら、男も女も聴診してるから、もう、こだわり、などないのだろうが、精神科二年では、女の胸部聴診は経験がなく、わからない。私は小説家としての自覚と責任感はあっても、内科医としての、その能力はない。しかし、人間として、やっていいことと、いけないことのモラルは人後におちない自信はある。悩ましいOLのブラウスの下なんてものは、写真であれ、ビデオであれ、実体であれ、金を払ってみるべきものであり、金をもらってみるべきものではない。
ちなみに自覚症状の欄、で、「肩こりがひどい」「目がつかれる」の項目には、ほとんどの人がチェックしていて、一日中パソコンの画面をみていると、それも無理はない。だろう。病院リストラされて、コンタクト眼科のバイトもはじめたのだが、コンタクト眼科も深い理論があって実に興味深く、一コトでいうと、角膜は生きて、呼吸している細胞で、コンタクトは、いわばヒフ呼吸をシャダンしてしまう危険性がある。角膜が息苦しい状態なのである。その点メガネは安全である。ので酸素を透過しやすいコンタクトレンズを努力して開発しているのだが、コンタクトである以上、100%安全なコンタクトというのは、ない。コンタクトは手入れが多少メンドーで、手入れしなかったり、また、長く使っていたりすると、よごれてきて、異物がついて、それが抗原になってアレルギー性結膜炎になったりする。そのため、最近は一日使い捨て(ディスポ)や二週間つかいきり、が、主流になってきている。コンタクトの本の中で、瞬目のことがかかれてあったが、涙は角膜をカンソーから守るものであるが、人は一分に何回瞬目するか、意識していない。が、パソコン画面をみている時、人は瞬目回数がぐっと減る。のであるが、そのことは自覚できていない。一日中パソコンと向き合う仕事である以上、目のつかれ、や、肩こり、は、仕事による生理的な疲れである。だからといって、みんな病名をつけて有病者にしてしまっては、これも変である。健康診断というのは、基本的に大多数は健康である、という確認と証明をするものであり、そして、少数の有病者をみつけ出すのが、本来的であり、検診した結果、全員、有病者なんて診断したら、医者の頭を疑われかねない。ので、これには困った。それで「つかれが、翌日までもちこされ、蓄積されていくか。」「整形外科に通院するほどひどい肩こりか。」というように質問し、それにひっかかるほど重症だったら、有病者としようと思った。さもないと全員、有病者になる。有病者の基準を高くすると、さすがにそこまでひっかかる人はぐっと減った。だが、ある人(お客さまセンター)が、ニコニコして、「肩凝りのため整形外科に通院している。つかれが翌日まで持ち越す。」と訴えた。これなら、あてはまると思ったはいいが、精神科という医療の中でも異質的な、専門に、どっぷりつかっていたため、内科は、かなり忘れている。「頸肩腕症候群」と書こうと思ったが、でてこない。しかし、時間をかければ、思い出せる自信もあった。まさか医者にしてこんな基本的な漢字も知らないとあっては、ヤブ医者どころかニセ医者と思われかねない。内心あせりながらも、
「エート。頚肩腕。はっはは。ちょっと、ど忘れしちゃったな。」
といって、カンロクをつくって、時間をかせいでいるうちに思い出そうとしたが、でてこない。むこうも医者に医学用語をおしえることは、はばかられている。しかし、どうしても出てこない。ので、とうとう、相手に、
「頚椎の頚ですよ。」
といわれて、第一語を知れた。第一語がわかれば、連想で全部思い出せると思ったが、第二語も出てこない。
「エーと、けん、は月へんに健康の健だったかなー」
とひとり言のようにいったら、
「肩ですよ。」
といわれ、赤っ恥をかいた。第三語の「わん」もでてこない。
(わん?わん、なんて犬みたいに、どんな字だっけ)
と思っていてたら、
「腕ですよ。」
といわれた。
「はっはは。ど忘れすることもたまにあるんだよなー。」
なんて言ってつくろった。ちなみにこのお客さまセンターの女性は、三浦あや子がいうところの原罪をもっていない人である。

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走れ上松(小説)

2024-02-01 13:13:07 | 小説
「走れ上松」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その2」にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「走れ上松」

植松聖は在日朝鮮人である。
彼は朝鮮学校を出て私設汲み取り屋になった。
日本には、まだトイレが水洗式でない地域があり上松聖はバキュームカーで、そういう地域を回って便壺の糞尿をバキュームカーで汲み取った。
彼は発達障害なので朝鮮学校の発達障害児クラスに入った。
上松は下手糞な小説を書いていたが将来は芥川賞をとって小説家になれると確信していた。
上松は小説を書くと、それをクラスの皆に読ませた。
上松の書く小説は、つまらなく内容のないものなので誰も褒めなかったが上松は極度の誇大妄想狂なので誰も褒めなかった。しかし彼は、
「どうだ。オレ様の小説は素晴らしいだろう。あっははは」
と高笑いして自慢していた。
それ以外でも上松は何事につけ態度がデカかった。
そのためクラスの誰にも相手にされなかった。
・・・・・・・・・・・
上松と同じ朝鮮学校の発達障害児クラスに佐藤京子という生徒がいた。
彼女も発達障害だった。
佐藤京子は上松に好感を持っていた。
クラスの誰にも相手にされないのに自信満々で威張っている上松が佐藤京子には頼もしく見えたのである。
ある時、佐藤京子は上松の所に行った。そして、
「上松くん。お友達になってくれない」
と言った。上松は、
「おお。いいぜ」
と言って二人は付き合うようになった。
といっても二人の関係は対等ではなく、上松が、佐藤京子に「あれ買ってこい」「あれをしろ、これをしろ」と命令するだけだった。
しかし、佐藤京子には、それが自信に満ちた男のように見えて「素敵。なんて堂々とした人なのかしら」と映って彼女の上松に対する想いは募るばかりであった。
上松も自分に従順な佐藤京子を嫌いではなかった。
というより上松の好きな女性のタイプは自分に忠誠を尽くす女だったので上松は佐藤京子が好きだった。
それに佐藤京子は発達障害で頭は悪いが、とても美人だった。
なにせ韓国女性アイドルグループのNiziUに入らないかと誘われたほどなのである。
上松と佐藤由美子は朝鮮学校を卒業した。
・・・・・・・・・・・
卒業後。
佐藤京子は「上松くん。結婚して」とプロポーズした。
上松は「おお。いいぜ」と答えた。
上松と佐藤京子の結婚式が教会で行われた。
白髪の牧師が聖書を開いて佐藤京子に向かって厳かに言った。
「佐藤京子。汝、この男を夫とし、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「誓います」
京子は顔を火照らせて言った。
次に牧師は植松聖に向かって厳かに言った。
「植松聖。汝、この女を妻として娶り、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「おう。誓うぜ」
上松は言った。
二人はエンゲージリングを交換し合った。
これで二人は正式に結婚した。
・・・・・・・・・・・・・・
結婚後、上松は個人経営の汲み取り屋になった。
日本には、まだトイレが水洗式でない地域があり上松聖はバキュームカーで、そういう地域を回って便壺の糞尿をバキュームカーで汲み取った。
しかし、それだけでは生活が苦しいので上松の嫁となった上松京子もスーパーのレジで働いた。
上松は不愛想な朝鮮人で日本人を嫌っていたので町の人に会っても挨拶せず横柄な態度だったので町の人からは嫌われていた。
そのため上松は町の人から村八分にされていた。
妻の京子は心の優しい謙虚な人間だったので、一軒一軒まわって、土下座して「主人が横柄な態度をとって申し訳ございません。どうか主人のワガママな態度を許して下さい」と泣いて言った。
「あなたは、いい人だな。あなたのような、いい人がどうして上松なんかと結婚したんだ。あんなヤツとは別れて、もっといい人と結婚したらどうだ?」
と町の人は聞いた。
「わ、私。発達障害なんです。主人と同じように。私も知能障害でない普通の男の人と付き合ったこともあります。でも私は発達障害なので何をやってもドジを踏んでしまって、バカヤロウ、このウスノロ、と叱られ続けられて、つらかったんです。私は足し算も引き算も出来ず九九も覚えられませんでしたから。でも同じ発達障害の夫となら、叱られることがありませんから、私、幸せなんです」
と上松京子は泣きながら言った。
「そうですか。可哀想に。あなたは健気な人だ」
と町の人は京子をなぐさめた。
・・・・・・・・・・・
ある春の日曜日である。
「ねえ。あなた。××神社でお祭りがあるわ。行きましょう」
と京子が言った。
布団の上に寝ころんでいた上松は、「おお。いいぜ」と不愛想に言った。
二人は家を出て××神社に行った。
××神社では色々な出し物をやっていたので二人はそれを見た。
午後5時にお祭りは終わった。
「あなた。お腹が減ったわね。食事しましょう」
と京子が言った。
「おお。いいぜ」
と上松は不愛想に答えた。
二人は近くの中華料理店に入った。
店には誰もいなかった。
上松はメニューを見ていたが、
「オレはラーメンセットにするぜ」
と言った。
ラーメンセットはラーメンとチャーハンのセットだった。
「じゃあ私もラーメンセットにするわ」
と言った。
「おい。親爺。ラーメンセット二人分だ」
上松は厨房にいる親爺に言った。
「はいよ」
10分くらいして親爺はラーメンセットを二人分、テーブルに運んできた。
「うわ。美味しそう。いただきます」
二人はチュルチユルとラーメンセットを食べた。
「美味しかったわね」
食べ終わって京子はニコリと微笑んだ。
金を払って店を出ようと二人は立ち上がった。
そしてレジの所に行った。
京子は、ラーメンセット500円の二人分の1000円札をレジに出した。
そして店を出ようとした。
すると。
「お客さん。料金が足りませんよ。ちゃんと料金を払って下さい」
と言ってきた。
えっ、と京子は驚いた。
「ラーメンセットは500円ですよね。二人分ですから1000円で間違いないのではないでしょうか?」
京子は聞き返した。
「ちゃんとメニューの料金を見たのですか?」
と親爺は聞いてきた。
「ええ。見ましたよ」
そう言って京子はメニューを持って来て開いて見せた。
メニューにはラーメンセット500円と書いてある。
「ほら。間違いないではないですか」
京子は自信をもって言った。
「やれやれ。これが見えないんですか」
と言って親爺はメニューの最後のページを開いた。
最後のページの一番下には非常に小さな字で「料金は朝鮮人は2倍」と但し書きが書かれてあった。
「あんた達は朝鮮人だ。だからラーメンセットの料金は1000円だ。二人分だから、合計2000円だ。さあ。残り1000円払ってもらおうか」
京子はあわてて財布を取り出して中を見た。
財布の中には51円しかなかった。
「おう。そうかい。それじゃあ家に行って1000円、持ってくるぜ」
上松が横柄な口調で言った。
そして二人は店を出ようとした。
すると頬にキズのあるガラの悪い男たちが、3人、出てきた。
おそらくヤクザだろう。
「おっと。待ちな。お前たちがちゃんと1000円、持ってくるという保障はないぜ。何か抵当を置いていってもらうぜ」
そう言われたが抵当になるような物はなかった。
「じゃあ、この女を抵当としてあずかっとくぜ。2時間以内に1000円、持って来な。そうしないと、この女を遊郭に売り飛ばすぜ」
ヤクザが言った。
「く、くそー。わかったぜ。2時間以内に1000円、持ってくるぜ。それまで嫁には手を出すな」
そう言って上松は店を出た。
そして家に向かって走り出した。
上松は村八分にされているので、1000円、貸してくれ、と言っても貸してくれる人はいない。
上松は走りに走った。
家までには、かなりの距離がある。
上松は普段、先天性内反足なので、すぐにハアハアと息が切れた。
その姿を見た人々は、「おい。発達障害の内反足の朝鮮人が走っているぜ」と言って、あっははは、と笑った。
これは、オレを困らせるために町のヤツラが仕組んだ事だと発達障害の上松は気づいた。
上松は走りに走った。
走れメロスのように。
やっとのことで家に着くと上松は豚の貯金箱を叩き割った。
それは妻の京子が、へそくり、としている物だった。
1000円札があった。
上松は1000円札をポケットに突っ込むと急いで家を出た。
「京子。待っていろ。すぐに行くからな」
上松は心の中で言った。
そして中華料理店に向かって走り出した。
それを見た町の人々は「おい。内反足の朝鮮人が走っているぜ」と言って、あっははは、と笑った。
上松は下駄履きだったので走っているうちに下駄の鼻緒が切れてしまった。
切れた時、上松は足首を挫いてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・
その頃、ラーメン屋では京子はパンティー一枚でテーブルの上に乗せられていた。
京子は乳房を見られないように両手で胸を覆っていた。
「ははは。おまえの夫は先天性内反足だ。どう頑張っても2時間以内に1000円もって戻ってくることは出来ないだろうぜ」
そう言ってヤクザ達は京子の髪をいじった。
ヤクザの一人が京子の体に触ろうと手を伸ばすと、
「触らないで。あの人はきっと戻ってきます。私は夫を信じています」
とキッパリと言った。
・・・・・・・・・・・・・・
上松は片方の下駄の鼻緒が切れてしまったので片足は裸足で立ち上がった。
そして内反足の足でヨロヨロと走った。
裸足で走ったので足からは血がにじみ出した。
捻挫した足首の痛みに耐えつつ。
しかし、ついに力尽きて上松は倒れてしまった。
(すまん。京子。オレはもうダメだ。オレを許してくれ)
上松は心の中で、そう言った。
しかし3分くらい、うつ伏せになっているうちに、上松の心に、あきらめてはいけない、京子はオレを信じて待っている、オレは何としても愛する妻を守らねばならない、という強い思いがこみ上げてきた。
上松は歯を食いしばって立ち上がった。
片足が裸足で血をにじませながら内反足の足でヨロヨロと覚束ない足取りで歩き出した。
何回か、つまづいてしまうこともあったが上松は四つん這いになっても這ってラーメン屋に向かった。
初めは上松を笑っていた町の人々も上松に対する気持ちが変わっていった。
「上松。頑張れ。ラーメン屋はあとちょっとだ」
と応援した。
その応援は上松を力づけた。
上松は上着を脱ぎ、ランニングシャツを脱いで、ランニングシャツを裸足の足に巻きつけた。
そして道端にあった棒切れを持って必死になって走った。
・・・・・・・・・・・・・・
「頑張れ。上松」
回りの人々は、みな、上松を応援した。
上松は力の限り走った。
ようやくラーメン屋が見えてきた。
ヤクザ達が腕時計を見て、「さあ。もう1時間59分だ。もう、お前の夫は来れないな」と言った時だった。
ガチャリ。
ラーメン屋の戸が開いた。
上松が息も絶え絶えに入って来た。
入るや否や上松は倒れ伏した。
「さ、さあ。約束の1000円を持ってきたぜ」
そう言うや否や上松はポケットから1000円札をヤクザ達に差し出した。
「あ、あなた」
上松の妻の京子はパンティー一枚の姿でテーブルの上から降りて夫を抱きしめた。
「京子。オレを殴ってくれ。オレは一度、心がくじけそうになって、お前を見捨てようと思ってしまったのだ」
上松はすまなそうに言った。
「いいの。あなた。あなたも私を殴って。私も一度あなたは約束を守ってくれないのではないかと疑ってしまったの」
京子は泣きながら言った。
上松も妻を力強く抱きしめた。
それを見たラーメン屋の親爺やヤクザ達も晴れがましい思いになっていた。
「上松。すまなかった。お前の態度がデカいから、お前に意地悪をしたんだ。お前は約束を守るいい人間だ。悪質な意地悪をした俺たちを許してくれ」
ラーメン屋の親爺が言った。
こうして町の人々は上松を村八分にすることをやめた。
上松と妻の京子は町の人たちと仲良く暮らしている。



2024年2月1日(木)擱筆


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野球小説(小説)

2024-01-30 04:08:41 | 小説
「野球小説」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のHPの目次その2」にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「野球小説」

山野哲也は子供の頃から野球が好きだった。
小学生の時からリトルリーグで湘南パイレーツというチームに入って投手として活躍した。
同じチームに田中健二という少年が所属していた。
山野哲也と田中健二は親しい友達だった。
二人はともに投手になりたがった。言うまでもなく野球で一番、目立って格好いいのはピッチャーだからである。
しかし哲也は、才能があるのか、運動神経がいいのか、頑張り屋なのか、コントロールが抜群で、しかも、ストレートも速かった。
なので対抗試合では勝つために哲也がピッチャーをまかされるようになった。
哲也がピッチャーをすると勝てるので哲也が毎回ピッチャーをやることになった。
そして、それによって湘南パイレーツは対抗試合で勝った。
毎回ピッチャーをやっているうちに哲也もチームを勝たせるためピッチングの練習を毎日、励んだ。
父親は仕事が終わって帰ってくると、ほとんど毎日、哲也は父親とキャッチボールをした。
父親がキャッチャーの役をやって哲也は父親の構えるミットに投げ込んだ。
雨の日も、風の日も、暑い日も、寒い日も。
そのため哲也の投手としての技術はどんどん上手くなっていった。
哲也の友達の田中健二は、そのため、投手はあきらめて打者としてバッティングに打ち込むようになった。
しかし二人は仲が良かった。
「ははは。哲也君。僕もピッチャーに憧れていたけれど君にはかなわなかったな。うちのチームが対抗試合で勝てるのは君のおかげだよ」
と田中健二が言った。
「いやあ。君は打率5割で、ホームランも打てるし君のバッティングで得点できるから勝てているんだよ。いくらピッチャーが相手チームをおさえても打って点を取ってくれる人がいなかったら勝てないよ」
と哲也は言い返した。
田中健二は誉められて嬉そうだった。実際、田中健二はバットコントロールが良く長打力もあった。
このチームは哲也のピッチングと田中のバッティングによって勝てていた所が大きかった。
哲也は田中を打席に立たせてバッティングピッチャーの役をやってやった。
力一杯は投げずに田中が打ちやすいように、ど真ん中のストレートを投げてやった。
そして田中の様子を見て少しずつスピードを上げていった。
「今度はインコースの高めに投げるよ」とか「今度はアウトコースの低めだ」と予告して哲也は田中のバッティング技術を高めてあげた。
そのため田中のバッティング技術はメキメキと上手くなっていった。
二人は野球以外でも親友として仲が良かった。
・・・・・・・・・・・・・
中学は哲也は青葉台中学に入り田中は花園中学に入った。
どっちの学校も中高一貫校だった。
二人はもちろん、ともに、それぞれの学校の野球部に入った。
しかし対抗試合で青葉台中学と花園中学が対戦すると田中は思い切り投げる哲也の球を打つことは出来なかった。
哲也は、もうカーブやスライダーなどの変化球も投げられるようになっていたからだ。
・・・・・・・・・・・・
中学を卒業すると二人は高校もお互い付属の高校に進学した。
哲也は青葉台高校に進学し田中健二は花園高校に進学した。
もちろん二人とも、それぞれの学校の野球部に入った。
甲子園大会の夏の地区予選が始まった。
哲也も田中も将来はプロ野球選手に絶対なりたいと思っていたので甲子園には絶対、何が何でも出いと思っていた。
そのため二人は、ともに猛練習した。
哲也は1年からエースとなり、一方、田中は1年から打席は3番となった。
哲也が1年生の時、神奈川県の地区予選の決勝戦では青葉台高校と花園高校との対決になった。結果は哲也の投げ勝ちで甲子園に出たのは青葉台高校だった。しかし甲子園大会の一回戦の相手は大阪桐蔭高校で青葉台高校は一回戦で破れた。
2年の時も神奈川県の地区予選の決勝戦では青葉台高校と花園高校との対決になったが、結果は、またしても哲也の投げ勝ちで甲子園に出たのは青葉台高校だった。しかし甲子園大会の一回戦の相手は智弁和歌山で、またしても青葉台高校は一回戦で敗退した。
そして3年になった。
これが高校野球、最後の年である。
夏の甲子園大会の地区予選が始まった。
今回もまたしても神奈川県の地区予選の決勝戦では青葉台高校と花園高校との対決になった。
・・・・・・・・・・・・・・・
哲也の父親はスーパー山野の社長だった。
しかし1年前から田中健二の父親が社長をしている大手の田中スーパーが、この町にも店を出店するようになった。田中スーパーの方が山野スーパーより、はるかに大手なので山野スーパーは経営が苦しくなった。
山野スーパーは対抗策として安売りをしたが田中スーパーは更に安く売ってくる。山野スーパーは田中スーパーに太刀打ちできない状況に追い込まれた。山野スーパーの経営は徐々に圧迫されていった。このままでは数年後には田中スーパーの圧力に押されて、山野スーパーは店舗縮小に追込まれ、やがては倒産するのは、ほとんど目に見えていた。
・・・・・・・・・・・・
毎日、家に帰って来る父親は毎日うかない顔だった。
「あなた。スーパーの経営は大丈夫?」
哲也の母親が夫に聞いた。
「きびしいね。このままでは経営できなくなるかもしれないね」
父親が言った。
哲也は黙って聞いていた。
父親と母親の対話から父親のスーパーの経営が倒産の危機にあることを哲也は非常に心配した。
・・・・・・・・・・・
第××回甲子園大会の神奈川県の地区予選が始まった。
青葉台高校はエースの哲也の連投で順調に勝ち進んでいった。
一方の田中健二の花園高校野球部も田中健二ひきいる強力打線によって勝ち進んでいった。
哲也と田中健二は何が何でも将来はプロ野球選手になりいと思っていたので甲子園大会には絶対に出たかった。
高校球児にとっては当然だが。
とうとう神奈川県の地区予選の決勝戦は青葉台高校と花園高校の対決となった。
当然、勝った方が甲子園大会に出場できるのである。
「お母さん。ただいま」
練習が終わって哲也が家に帰ってきた。
「おかえり。哲也」
母親は居間のソファーに座っていた。
うつむいて、うかない顔だった。
「どうしたの?お母さん?」
哲也は母親の隣りに座って、しょんぼりしている母親に聞いた。
「いや。別に」
母親は憔悴した口調である。
「地区予選の決勝戦の相手は田中健二くんの花園高校ね」
母親が小さな声でボソッと言った。
「うん。そうだよ」
「勝つ自信はある?」
「あるとも」
哲也は自信を持って言った。
「そうなの」
元気で強気な哲也の発言に母親は、なぜか、うかない顔つきだった。
哲也は超高校級の剛速球投手として新聞記事にも載ったことがあった。
哲也は花園高校の田中のバッティングを録画して見て「これなら抑えられる」と絶対の自信を持っていた。
「お母さん。どうしたの?」
黙っている母親に哲也は聞いた。
しかし母親は黙っている。
「青葉台高校が花園高校に勝っちゃうと田中健二君は甲子園大会には出られなくなるわね」
母親は小声で、ひとりごとのようにボソッと呟いた。
哲也はなぜ母親が、そんなことを言うのか、わからなかった。
確かに母親の言うことは、その通りである。
スポーツでは試合をすれば、どっちかが勝ち、どっちかが負けるのは当たり前のことである。負けたチームは確かに可哀想ではあるが、あくまでフェアープレーの対等の条件での戦いである。
戦いといっても戦争なんかとは違うクリーンな戦いである。そんな事は母親だってわかっているはずである。哲也は母親の態度に疑問を持ったので母親に聞いてみた。
「どうしたの。お母さん。スポーツの試合では勝つチームと負けるチームが出来てしまうのは当然じゃない」
そう哲也が聞いても母親は黙っていた。
「そうね。その通りね」
母親は元気の無い声で言った。
母親は黙ってしばし迷っている様子だった。
「どうしたの。お母さん?何を悩んでいるの?」
哲也は、どうしたのかと思って母親に聞いた。
哲也に急かされて母親は、しばしの沈黙の後、重たい口を開いた。
「今日、郵便ポストにこんな封書が入っていたの」
母親はひとりごとのように言って、そっと、その封書をテーブルの上に置いた。
そしてソファーから立ち上がって二階の寝室に登って行った。
何事だろうと哲也は封書を手にとった。
封書を開くと、一枚の便箋があった。それにはワープロでこんなことが書かれてあった。
「率直に要件だけを言おう。哲也君には、田中健二君に対して、全ての打席において、二球目にはど真ん中のストレートを投げて欲しい。一球目は何を投げても構わない。それ以外は実力を出し切って構わない。だが青葉台高校の打線も強いから、もし青葉台高校の得点が花園高校より上回ったら、フォアボールや、牽制球のミスや、ワイルドピッチなどをして花園高校が勝つようにして欲しい。観客にはわからないように。そして花園高校が僅差で勝つよにして欲しい。哲也君の実力なら、それは容易だろう。花園高校が勝ったら田中スーパーは山野スーパーを潰さないように計らう。約束は必ず守る」
八百長の要求だった。
田中を甲子園に出場させる代わりに、哲也の父親のスーパーの事業は守る、という交換条件だ。
一体、誰が、こんな物を送ったのだろう?
父親の仕事の関係者なのか、それとも山本スーパーの関係者なのか。
山本健二の父親が送ったのか、それとも、まさか山本健二本人が父親に頼んだのか。
一体誰が?
哲也は考え回したが、わかりようもなかった。
そして哲也は、この要求に、どう対応するかを考え出した。
なるほどな。
さっきお母さんが悩んでいたのは、このことだったのだなと哲也は理解した。
八百長なんて卑劣だ。
しかし、お父さんの会社が潰れたら、お父さんは、悲しむどころか、自殺するかもしれない。
その葛藤に哲也は悩まされた。
しかし、いくら考えても答えは決められなかった。
・・・・・・・・・・・・・
青葉台高校と花園高校の地区予選の決勝戦の日になった。
先攻は青葉台高校で後攻は花園高校となった。
田中の第一打席。哲也は送られてきた郵便に書かれていたように一球目は変化球を投げた。田中はそれを見送った。二球目はど真ん中のストレートを投げた。それを田中健二は打った。場外ホームランになった。哲也は複雑な気持ちだったが、これでいいんだ、と無理に自分に言い聞かせた。その後も哲也は第二球目は、ど真ん中のストレートを投げ続けた。田中はそれを打ってレフトオーバーの二塁打にしたり、三遊間を抜くヒットにしたりした。しかし後続が続かず得点には結びつかなかった。その後は両チームとも得点がなく試合が進んだ。花園高校のピッチャーも哲也なみに優れた投手で青葉台高校の打線はヒットすることもあったが、なかなか得点には結びつかなかった。しかし青葉台高校の打線も8回表に一点とって1対1の同点になった。9回裏の田中健二の打席になった。哲也は二球目に、ど真ん中のストレートを投げた。それを田中健二は打った。それは、きれいなレフトスタンドへのホームランになった。こうして花園高校は2対1で青葉台高校に逆転して勝った。
青葉台高校の部員が泣く姿を見ると哲也は心が痛んだ。
泣いてる部員たち全員に対しても、応援してくれた応援団や吹奏楽部の生徒たち全員にも、全校生徒にも、そして応援してくれた町の人たち全ての人々に対しても。
・・・・・・・・・・・・
花園高校は甲子園に出場してベスト8まで勝った。
哲也は迷いに迷った挙句、甲子園に出ることよりも父親の仕事を守ることを選んだのである。ただドラフトでどこの球団にも指名されなかったら、と思うと哲也は、つらかった。
そして田中健二が、プロ野球選手になりたいために、父親に八百長を頼んだのではという猜疑心が起こって哲也はその猜疑心に悩まされた。
あいつは、そんな事をするヤツじゃない、と田中健二と幼い頃から付き合ってきた哲也は確信していたのだが、その猜疑心は哲也の心の中で、どうしても消えてくれなかった。
「田中健二はそんなことをするような男じゃない」と何度も自分に言い聞かせても、どうしても、その猜疑心は哲也の頭から離れなかった。
夏の甲子園大会が終わった。
八百長要求の約束は守られた。
田中スーパーは、新しく出店する予定だった店を、哲也の住んでいる藤沢市ではなく、隣町の大和市に出店した。
おかげで山野スーパーは倒産することなく営業を継続できた。
「やった。経営していける」
父親の顔に笑顔がもどった。
「これでいいんだ。これで」
哲也は無理に自分に言い聞かすように、つぶやいた。
その年の秋のドラフトで、田中は、東京ヤクルトスワローズに一位指名された。
そして入団の契約をした。
しかし甲子園には出られなかったが、哲也も横浜DeNAベイスターズにドラフト5位で指名されて哲也は横浜ベイスターズに入団した。
・・・・・・・・・・・・・・
年が明けた。
交流戦で東京ヤクルトスワローズと横浜DeNAベイスターズの試合が行われた。
哲也と田中は久しぶりに再会した。
ヤクルトスワローズの選手を乗せたバスが神宮球場に到着した。
哲也には田中健二が八百長にどのくらい、かかわっているのか知る由もなかった。
なので田中に会っても何と言っていいか、わからなかった。
なので田中とは、口を聞かないようにしようと思った。
しかし。
哲也はポンと背中を叩かれた。
振り返って見ると、田中健二が、くったくない満面の笑顔で哲也を見つめた。
「よう。哲也。久しぶり」
田中の屈託のない笑顔を見た時、哲也の猜疑心は一気に吹っ飛んだ。
(田中は父親に八百長勝ちを頼むような、そんな卑劣な男じゃない)
八百長の要求の封書を送ったのは誰だかわからない。田中スーパーの上層部と山野スーパーの上層部で裏取引が行われていたのかもしれない。しかし本当のところは全くわからない。
しかし哲也の田中健二に対する猜疑心は一気に吹っ飛んだ。
田中健二は八百長の要求には全く関与していない。
彼は自分の実力で地区予選の決勝戦に勝ったと思っている。
しかし彼は第二球目がど真ん中のストレートに来るとは知っていなかったのだ。
田中健二は地区予選の決勝戦で哲也に打ち勝ったが、それは田中の選球眼の良さ、バットコントロールや長打力など彼の本当のバッティングの実力で勝ったのだ。
地区予選の決勝戦での対決は自分も田中も八百長なんかではない真剣勝負の戦いだったのだ。
哲也は100%そう確信した。
「やあ。田中君。久しぶり。地区予選では負けてしまったけどプロでは負けないぞ」
哲也は笑って言った。
「オレだって負けるもんか」
田中も笑って言い返した。
二人はガッシリと握手した。
交流戦が始まった。
先発は、横浜DeNAベイスターズの浜の番長、三浦監督に「どうだ。投げてみるか?」と言われて哲也は元気よく「はい」と答えた。
哲也はピッチャーマウンドに立った。
一方、東京ヤクルトスワローズの1番のリードオフマンは、ドラフト一位の田中だった。
田中がバッターボックスに立った。
哲也はニヤッと笑った。
「いくぞ。田中。オレのストレートを打てるものなら打ってみろ」
哲也は心の中で、そう言って大きく投球動作に入った。


2024年1月30日(擱筆)


作者注
単純な話であまり面白くないと思う。
もっと丁寧に書きたいのだが他に書いている小説が、いくつもあって、そっちの方を書きたいので一応これで完成とする。
後で、こういう基本的な話をベースにして、もっとエピソードを入れて話をふくらませようかとも思っている。


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給湯器(小説)

2024-01-27 14:00:47 | 小説
「給湯器」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のホームページの目次その2」にアップしましたので、よろしかったらご覧ください。

「給湯器」

僕が今の賃貸アパートに引っ越してきたのは3年前である。
僕は医学部を卒業した後、千葉県の研修指定病院で2年研修した。
その後、藤沢市の藤沢北部病院に就職が決まり藤沢市に引っ越して来た。
どこのアパートを選ぶかは迷ったが図書館を使いたいため図書館に近い所にあって賃貸料も比較的、安い所ということで細井ハイツというアパートに決めた。
そして僕は生活し始めた。
月曜日から木曜日まで、四日、病院で勤務して金土日は図書館で小説を書いた。
最寄りの駅は湘南台駅で、ここは横浜市営地下鉄ブルーラインと、相鉄いずみ野線のターミナル駅で小田急線も通っていて交通の便は良かった。
まあまあ快適な生活を僕は送っていた。
そうこうしている内に、3年が経った。
3年経った、ある日のことである。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「はーい」
僕は布団の中の入って寝ころんでいたが急いで玄関に向かった。
カチャリ。
僕が玄関の戸を開けると、そこには、この世のものとは思われないほどの美しい女性がニコニコと笑顔で立っていた。
「あ、あの。私、今日から、このアパートに住むことになった山本美津子と言います。部屋は102号室です。よろしく」
そう言って彼女は、ペコリと頭を下げた。
「あ、こ、こちらこそ、よろしく。僕は山野哲也といいます」
僕はへどもどして挨拶した。
「あ、あの。これ、つまらない物ですが・・・」
そう言って、彼女は、引っ越し挨拶の手土産として、鳩サブレーの箱を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
僕は深く頭を下げ礼を言って鳩サブレーを受けとった。
僕は101号室なので102号室といえば僕の隣の部屋である。
僕は飛び上がらんばかりに嬉しかった。
なぜなら、あんな奇麗な人が、これから隣に住んでくれるのだから。
生活にハリが出るというものだ。
実際その日から僕の生活はハリが出た。
隣にきれいな美津子さんが居るということだけで嬉しかった。
彼女はどういう人なのだろう?
彼氏はいるのだろうか、結婚しているのだろうか、バツイチなのだろうか、と僕は色々と想像してしまう。
この集合住宅は2LDKなので女が一人暮らしするには大き過ぎる。
父親、母親、子供二人の四人家族で住んでいる世帯に適しているアパートなのである。
僕は一人暮らしだが、僕は狭っくるしいアパートだと体調が悪くなので多少ゆとりのある、このアパートを選んだ。
それに僕は小説や医学書など書籍がたくさんあるので狭いアパートでは、それを置く場所がないのである。
なので僕はこのアパートを選んだ。
ここのアパートは防音が悪く、隣の部屋の音が聞こえてしまう。
しかし隣は山本美津子さんだ。
ザーと勢いのいい音がすると「あっ。美津子さんがお風呂に入っているな」と気づく。
それを聞くと僕は嬉しくなる。
僕は想像力過多なので彼女が裸になって全身を洗い湯船に浸かっている姿が想像されてしまうのである。
彼女は夕方、毎日、風呂に入っていた。
しかしである。
ある時から彼女が入浴する音が聞こえなくなった。
彼女は毎日、入浴しているのに、どうしてだろう、と僕は疑問に思った。
入浴の音が聞こえなくなって三日経った。
その日の夜である。
ピンポーン。
僕の部屋のチャイムが鳴った。
「はーい」
僕は玄関を開けた。
すると山本美津子さんが立っていた。
「あっ。こんばんは。どうしたんですか?」
「山野さん。こんばんは。夜分遅く申し訳ありません」
彼女は深く頭を下げた。
「こんばんは。どうしたんですか?」
「実は、お風呂に入ろうとしても、お湯が出ないんです。それで、そのことを不動産屋に言って調べてもらったら給湯器が故障していると言ったのです」
「そうですか。ここの不動産屋はケチですからね。給湯器の寿命は大体10年くらいなんです。僕も、このアパートに入って半年で給湯器が動かなくなりました。不動産屋に連絡して修理の人に来て見てもらったら中はボロボロで、しかも、なんと給湯器は40年前に取り付けられたものでした。ここの不動産屋は、ずさんで、付属設備はぶっ壊れるまで使って、ぶっ壊れたら交換しようという方針です。まあ気にしてないですがね。ところで御用は何でしょうか?」
「あ、あの。山野さん。申し訳ありませんが、お風呂を貸して頂けないでしょうか?」
彼女は卑屈そうに言った。
僕は表情には出さなかったが心の中では飛び上がらんばかりに喜んだ。
なにせ憧れの美津子さんが僕の部屋に入ってくれて、しかも風呂にまで入ってくれるからだ。
「え、ええ。かまいません。どうぞ使って下さい」
「あ、有難うごさいます。では失礼します」
そう言って彼女は僕の家に上がった。
彼女は6畳の畳の部屋につつましく正座した。
僕は風呂場に行き蛇口をひねって浴槽にお湯を入れた。
「さあ。どうぞ使って下さい」
浴槽にお湯がいっぱいになったので彼女に言った。
「あ、有難うございます」
彼女は風呂場に行った。すぐに、パサリパサリと服を脱ぐ音が聞こえた。
そして彼女がザブンと湯船に入る音が聞こえてきた。
僕は想像力過多なので、彼女が裸になって全身を洗い湯船に浸かっている姿が想像されてしまった。
彼女の全裸姿までもが想像されてしまった。
20分くらいして彼女は風呂からあがって服を着てやって来た。
「山野さん。どうも有難うございました。私、毎日、風呂に入る習慣なので給湯器が故障してしまって困っていたんです。どうも有難うございました」
彼女は深く頭を下げ僕に礼を言った。
「いえ。かまいません。給湯器がなおるまで毎日でも風呂をお貸しします。どうぞ遠慮なくお使い下さい」
「山野さん。有難うございます」
彼女は何度も礼を言って、「それでは、お休みなさい」と言って部屋を出て行った。
彼女が去ると僕は急いで風呂場に行った。
浴槽には彼女が入った後の湯が満たされていた。
僕は興奮した。
(ああ。このお湯は彼女が入ったお湯だ)
(このお湯は彼女の体液の沁み込んだお湯だ)
そう思うと僕は、そのお湯がこの上ない貴重な宝物のように思われた。
僕はコップで風呂のお湯をすくった。そして、それを飲んだ。
彼女の体液が沁み込んだ、お湯を飲めたことに僕は最高の喜びを感じていた。
出来ることなら風呂のお湯を全部、飲みたかったが、そういうわけにもいかない。
僕は服を脱いで浴槽に入った。
彼女の体液の沁み込んだ、お湯に浸かることによって、ほんの微量ではあっても彼女の体液に触れているようで、彼女と間接的に触れているような気分になって僕は最高に幸せだった。
その日から一週間、毎日、彼女は僕の所にやって来て僕の風呂に入った。
そうしているうちに、僕はだんだん彼女と親しくなっていった。
しかし彼女の部屋の給湯器は一週間後に修理されて使えるようになった。
「山野さん。有難うごさいました。給湯器は修理してもらって使えるようになりました」
アパートの前で彼女と出会った時、彼女はニコッと微笑して僕に言った。
そのため彼女は自分の部屋の風呂に入れるようになったので僕の所には来なくなった。
僕にとっては、とても残念だった。
だが、まあ仕方がない。
そうして一週間ほど経ったある日の夜ことである。
ピンポーン。
僕の部屋のチャイムが鳴った。
「はーい」
僕は玄関を開けた。
すると山本美津子さんが立っていた。
「あっ。こんばんは。美津子さん。どうしたんですか?」
「山野さん。こんばんは。夜分遅く申し訳ありません」
「どうしたんですか?」
「山野さん。実は。私いつもスーパーで閉店間際の値下げした食材を買っているんです。それで、数日前、牛肉、野菜の、大特価があったものですから、ちょっとたくさん買い過ぎてしまったんです。それで捨てるのも、もったいないですから全部、料理してしまったんです。でも一人では食べきれない量なので。それにお風呂を貸してもらったお礼として。もしよろしければ、山野さんに食べていただけないかと思いまして」
そう言って彼女は皿に盛られラップをかけられた肉野菜炒めを申し訳なさそうに差し出した。
「うわー。嬉しいな。美津子さんの作ってくれた料理を食べられるんて。有難く頂きます」
「有難うございます」
「でもタダでもらうわけにはいきません。食材と調理してくださった分のお金は払います」
そう言って僕は彼女に3000円渡した。
「あっ。こんなに頂くわけにはいきません」と彼女は言ったが、こればかりは僕は譲らなかった。
彼女は、3000円を受けとると「すみません。有難うごさいます」と申し訳なさそうに言って去って行った。
僕は自炊をしない、というか、出来ないので、食事は外食かコンビニかスーパーの弁当だった。
彼女が作ってくれた食事を食べられるなんて夢のようだった。
僕は彼女の作ってくれた肉野菜炒めを食べた。
物凄く美味しかった。
僕は皿を洗って、それを彼女に返しに行った。
ピンポーン。
僕は彼女の部屋のチャイムを押した。
「はい。どちらさまでしょうか?」
インターホンから彼女の声が聞こえた。
「山野です」
僕は答えた。
「あっ。山野さん。お待ちください。すぐ行きます」
彼女の声が聞こえ、パタパタと玄関に向かう足音が聞こえ玄関の戸が開いた。
「あ。あの。美津子さん。肉野菜炒め美味しかったです。お皿を返しに来ました」
そう言って僕は彼女に皿を渡した。
彼女はニコッと微笑んだ。
「美味しかった、なんて言ってもらえて嬉しいです。たいして手間をかけて作ったわけでもないのに」
「いやー。僕は自炊なんか面倒くさくてしないので食事は毎日コンビニ弁当です。コンビニ弁当は人工着色料、人工甘味料、人工保存料などの食品添加物が、ふんだんに使われているので健康にも良くないんです。だから手作りの料理は美味しいんです」
彼女はニコッと微笑んだ。
「あ、あの。山野さん」
「はい。何でしょうか?」
「もしよろしければ、これからも食事をたくさん作り過ぎたら山野さんに差し上げてもいいでしょうか?」
「ええ。そうして頂けると嬉しいです。ただ一つ条件があります」
「何でしょうか。その条件というのは?」
「それは、食材と調理の手間代です。タダで貰うわけにはいきません。その条件を聞いて頂けるのなら喜んで頂きます。しかし、その条件を聞いてくれないのならタダで頂くわけにはいきません。どうでしょうか?」
僕は強気に彼女に判断を求めた。
「わ、わかりました。本当のこと言うと。山野さんは、きっと自炊してないだろうと思っていたんです。コンビニ弁当は人工着色料、人工甘味料、人工保存料などの食品添加物が、たっぷり入っていますから、そしてコンビニ弁当はビタミンやミネラル、食物繊維などが無いので栄養のバランスが悪く健康に良くないと思っていたんです」
「そうだったんですか」
それから彼女は、時々、料理を僕の所に持って来てくれるようになった。
僕は金を払って彼女の料理を受けとって食べた。
ある日、彼女は、
「あ、あの。山野さん。よろしかったら一緒に食べませんか」
と言った。
「ええ」
僕は喜んで答えた。
僕は彼女の部屋に入った。
そして食卓に向き合って座った。
その日の料理は、すき焼きだった。
「いやあ。嬉しいな。美津子さんと一緒に食べられるなんて」
僕は嬉しそうに言った。
「私もです。食材は一人分で買うより二人分買って、二人分、作る方が、ずっと安上りですから。それに一人で食べるより二人で食べた方が美味しいです」
彼女は少し照れくさそうに言った。
「いただきます」
僕は彼女と一緒に、すき焼きを食べた。
彼女は野菜ばかり食べて、あまり肉は食べなかった。
僕に肉を食べてくれるよう配慮してくれているのだ。
僕は彼女の好意を感謝して素直に肉を食べた。
ホカホカご飯も美味しかった。
食べ終わって「ごちそうさま。美味しかったです」と言って僕は立ち上がった。
彼女の部屋に入るのは初めてだったが、彼女の部屋はガランとしていて荷物はほとんど無かった。
彼女は一人暮らしで彼氏はいないんだな、とわかった。
ここの集合住宅は親子4人で生活できるほどのスペースがあるのに彼女は一人暮らしなのに、どうして、このアパートを選んだのかは僕にはわからなかった。
僕は「さようなら。おやすみなさい」と言って彼女の部屋を出た。
そして自分の部屋に入って布団をかぶって寝た。
その晩はぐっすり眠った。
翌日になった。
その日は美津子さんの部屋は物音が全くなくシーンとしていて彼女がいないのが、わかった。
その夜のことである。
ピンポーン。
僕の部屋のチャイムが鳴った。
「はーい」
僕は玄関を開けた。
すると山本美津子さんが立っていた。
「あっ。こんばんは。美津子さん。どうしたんですか?」
何事かと僕は思った。
「山野さん。こんばんは。夜分遅く申し訳ありません」
「どうしたんですか?」
「あ、あの。大変申し訳ないのですが一晩泊めて頂けないでしょうか?」
突然のことに僕は驚いた。
が僕は気を取り直して彼女に聞いた。
「え、ええ。かまいません。何か事情があるんですね。どうぞ、お上がり下さい」
「失礼いたします」と言って彼女は僕の家に入った。
彼女が僕の部屋に入るのは給湯器が故障して僕の部屋の風呂を使って以来、久しぶりのことだった。
座卓の前に彼女は憔悴した様子で座った。
「どうぞお泊まり下さい。遠慮はいりません。でもどうしてですか?」
実は・・・・と言って彼女は語り出した。
「実は私、お金が無くって家賃をずっと滞納していたんです。それでずっと不動産屋に家賃を払うよう催促されていたんです。私は必ず払いますから、どうか待って下さい、と土下座までして不動産屋に頼んでいたんです。しかし、不動産屋はとうとう私にアパートを出るように命じたんです。それで仕方なく私はアパートを出ました。なので私、泊まる所がないんです。なので、すみませんが、山野さんの部屋に泊めて頂けないでしょうか?」
彼女は畳に頭を擦りつけて僕に頼んだ。
「そうですか。僕はかまいません。どうぞ泊まって下さい」
僕がそう言うと彼女は、
「あ、有難うごさいます」
と言って涙をポロポロ流した。
彼女の持ち物といったらカバン一つだけだった。
2LDKなので部屋は二つある。
6畳の二つの部屋はふすまで仕切られている。
なので一つの部屋に僕は寝て彼女は隣の部屋に泊めた。
こうして彼女は僕の部屋に住むようになった。
僕は朝、出かけ、病院で働いて夕方、帰って来るという今まで通りの生活をした。
しかし帰ってくると彼女は、
「お帰りなさい」
とニコッと微笑んで、
「今すぐ料理を作ります」
と言ってキッチンに行った。
僕は自炊を全くしないので、コンロも換気扇もホコリをかぶっていたのだが、彼女が来たことによって、コンロに火が灯り、フライパンでジュージュー食材を調理する音が鳴り、そして換気扇が初めて動き出した。
料理が出来あがると彼女は食卓に料理を並べた。
「山野さん。夕食が出来ました」
彼女に呼ばれて僕は食卓に彼女と向き合って座った。
食卓には、ホカホカの鮭のホイル焼きの料理が用意されていた。
「うわっ。美味しそうだ。頂きます」
僕は彼女と一緒に夕食を食べた。
彼女も嬉しそうだった。
家庭の味、普通の生活とは、いいものだな、と僕はつくづく感じた。
彼女が僕の部屋に来てくれたことで死んだ家に活気が出てきた。
僕は無精なので、掃除は1年に4回くらいしかしなく、布団はもちろん敷きっぱなしの万年床で、朝、窓を開けるということも面倒くさくてしなかった。
しかし彼女は窓を開け、布団をベランダに干し、毎日こまめに掃除してくれた。
そのおかげで部屋の空気が新鮮になり布団も干されて日光を浴びて、ふっくらと温かくなった。
そして僕が仕事を終えて家に帰ってくると彼女は、
「お帰りなさい」
とニコッと微笑んで、
「今すぐ、料理を作ります」
と言ってキッチンに行って料理を作った。
何だか僕は彼女と同棲しているような気分になった。
というより実質的には同棲と同じである。
しかし僕にはどうしても譲れない一つの事があった。
それは夜の営み、つまりセックス、性的行為であった。
世間の男女が一つ家に同居したら100%セックスするだろう。
「だろう」ではなく「する」のである。
しかし僕(山野)はそれが嫌だったのである。
もちろん山野は女に飢えている。
しかし彼は100万人に1人いるかいないかの、プラトニストだったのである。
彼にとって女は憧れの対象だったのである。
なので憧れは、いつまでも憧れのままにしておきたかったのである。
彼にとって女とは人間の言葉を話す美しい美術品だった。
美術品には手を触れないものである。
世間の男女がお互いに好意を持つと、その後どうなるかは決まっている。
初めの頃は相手の事ばかり想うようになる。そしてデートする。そして同棲する。そして結婚する。である。しかし結婚すると相手に遠慮がなくなり、言いたい事をズケズケ言い合うようになる。そして相手の全てを知ってしまうと相手の嫌な所もわかってくる。相手に対して遠慮がなくなってしまう。意見が合わず口ゲンカをするようにもなる。ダラダラ、ズルズルの関係になっていく。そして激しい口ゲンカをして相手に幻滅して「離婚しよう」ということになる。それが繊細でデリケートで、もののあわれ、を知っている僕には嫌だったのである。
実際、彼女と同棲するようになって、僕は彼女に対して、最初に彼女が鳩サブレーを持って挨拶に来た時の天にも昇るような胸のときめきの感度が少し低下していた。
武士道の心得を書いた葉隠の恋愛観
「恋の至極は忍ぶ恋にありと見立て候。会いてからは恋の丈が低し。一生忍んで想い死するこそ恋の本意なれ」
というのが僕の恋愛観なのである。
なので僕は食事中に彼女にそのことを釘さした。
「美津子さん。ここに泊まりたいのなら泊まっても構いません。あなたには何かの事情があるのでしょう。そのことは聞きません。しかし一言、いっておきますが、僕はあなたの体に指一本触れません。そして僕の前で着替えるようなことはしないで下さい。それを守って下さるのであれば、ここに泊まっても構いません。僕もあなたとの生活は楽しいです。しかし、それを守ってもらえないのであれば、あなたをここに泊めることは出来ません。僕はあなたを憧れの対象にとどめておきたいのです。どうですか?」
僕は彼女に判断を求めた。
彼女は素直な表情で、
「わかりました。山野さんがそう仰るのならそうします。私には泊まる家がありませんから、ここを追い出されたら凍え死ぬだけですから」
と少しさびしそうに言った。
こうして僕と彼女のセックスなしの同棲生活が始まった。
セックスが無いという以外は普通の同棲生活と同じであり僕は彼女との共同生活が楽しかった。
彼女も僕との共同生活が楽しいのは、いつもニコニコ微笑んで「山野さん。お帰りなさい」と笑顔で出迎える彼女の態度から明らかだった。
しかし休日には、鶴岡八幡宮や円覚寺、建長寺、銭洗弁財天、高徳院、明月院、江ノ島神社などにドライブに行った。
鎌倉には寺や神社など名所旧跡がたくさんあるので休日には色々な所に行った。
こうして一カ月が過ぎ二カ月が過ぎた。
ある日のことである。
彼女は、
「哲也さん。言わなくてはならないことがあります」
とあらたまった口調で話し出した。彼女は、
「実は私は幽霊なんです」
とか
「実は私は宇宙人なんです」
とか
「実は私は殺人犯なんです。指名手配されているんです。どうか、かくまって下さい」
とか、そういう変なことは言わなかった。
彼女はこう言った。
「哲也さん。正直に率直に言います。実は私は、山野さんと結婚したくて、この集合住宅に越してきたんです。山野さんのことは知っています。お医者さまで、女性に優しくて、女性を大切にしてくれる素晴らしい男の人だということを。なので、私はぜひとも哲也さんと結婚したくて哲也さんに接近したんです。給湯器も本当は故障していなかったんです。山野さんと付き合いたい口実で言ったウソなんです。どうでしょうか。私と結婚してもらえないでしょうか?」
僕は、うーん、と腕組みをして悩んだ。
僕は一生、結婚する気はなかったからだ。
だが僕は人生において、一度、結婚というものをしてみたい、という願望も持っていた。
なので僕は、
「じゃあ、入籍だけならいいです」
と答えた。
しかし彼女は、「有難うごさいます。嬉しいです」と言って喜んだ。
こうして僕は市役所に婚姻届を出した。
他人に知られたくないので結婚式などというものはしなかった。
しかし婚姻届を出した後。
一カ月経ち、二カ月、経った。
僕は勇気を出して、
「美津子さん。そろそろ結婚ゴッコは終わりにして離婚してもらえませんか」
と言うと彼女は、
「さびしいわ。さびしいわ。えーん。えーん」
と泣き出すのであった。
それを見ると僕は、それ以上、彼女をさびしがらせることが出来なくて何も言えなくなってしまうのである。
こうして僕は美津子と結婚生活を続けている。
それが今の僕の妻、美津子との物語である。


作者注。
この話を信じるか信じないかは読者の勝手である。
面白い小説になっているか、つまらない小説に過ぎないかはわからない。
僕は、ともかく小説を書いてないと、うつ病になるので書いた。
わざと奇をてらったりはしていない。
作者(僕)の心情に偽りはない。


2024年1月18日(木)擱筆

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車輪の一歩(小説)

2024-01-27 05:40:24 | 小説
「車輪の一歩」

という小説を書きました。

ホームページ「浅野浩二のホームページその2」
にアップしましたので、よろしかったらご覧下さい。

「車輪の一歩」

これは1970年代の話である。
1970年代にはまだ今のようなバリアフリーはなかった。
・・・・・・・・・・・・
「さあ。いよいよ第××回、××オリンピック、女子バレーボールの決勝戦です。日本対アメリカ。泣いても笑ってもこれが最後の試合です。日本は強敵アメリカに勝つことが出来るでしようか?」
アナウンサーの声は緊張していた。
「木村さんはこの試合をどう予測しますか?」
アナウンサーが解説者の元オリンピックの木村香織に聞いた。
「そうですねー。技術ではアメリカが有利ですが、日本は一心同体のチームワークの結束力が素晴らしいです。それによってここまで勝ち上がってきたといっても過言ではありません。それと佐藤京子選手の必殺、火の玉スパイクです。日本は佐藤京子選手の必殺火の玉スパイクで得点して勝ってきたというのも事実です。しかしセンターの佐藤京子選手が前の試合で足首を捻挫したと聞いています。それがどこまで回復しているか、それが心配ですね」
と木村香織は言った。
試合が始まった。
第一セット、アメリカ。
第二セット、日本。
第三セット、アメリカ。
第四セット、日本。
と試合は進んでいった。
「さあ、ファイナルセットです。優勝ははたして日本か、それともアメリカか」
アナウンサーの声も高まっていった。
ファイナルセットは日本24対アメリカ23となった。
アメリカチームのサービスした球が日本チームのコートに入った。
それをバックが受け止めた。そして、その球を日本選手が佐藤京子がスパイクをするようにトスした。
宙に浮いた球を佐藤京子が渾身の力を込めてスパイクした。
それがきれいに相手コートに決まった。
「日本優勝。日本優勝。決めたのは日本の佐藤京子の火の玉スパイクです」
観客席から、わーと歓声が起こった。
・・・・・・・・・・
その時、佐藤京子は目を覚ました。
はーいい夢だったな、という一瞬の思いは、すぐに、それが絶対に出来ないという現実によって失望に変わった。
さあ勉強しよう。
京子は気を取り直してベッドから這って車椅子に乗った。
そして勉強机に向かった。
佐藤京子は幼少の頃、急性散在性脳脊髄炎を発症して下半身不随の車椅子だった。
そのため佐藤京子は小学校から車椅子で通学した。
生来、内気で無口な京子は小学校で、散々いじめられた。
男子生徒にも女子生徒にも。
脊髄が障害されているので便や尿の排尿コントロールが出来ず、京子は、おむつをして学校に通っていた。
そのため、京子が朝、学校に行くと机にマジックで、「バーカ」「カタワ女」「おむつ女」などとマジックで書かれていることが、しょっちゅうだった。
京子の持ち物が無くなることも、しょっちゅうあった。
車椅子でトイレに入るとトイレの外に置いておいた車椅子が無くなっていることもあった。
京子は女子生徒とも話が出来なかった。
なぜなら女子生徒の話題は、他人の陰口、悪口ばかりで、京子は、そういう話題には加わりたくなかったからである。
そのため京子は友達は一人も出来なかった。
しかし佐藤京子は真面目でがんばり屋なので成績は全科目トップだった。
母親の勧めで京子は絵画を描きバイオリンを練習した。
小学校は主席で卒業したほどなので中学は偏差値の高い進学校に入れる学力があったが車椅子では遠い学校には通学できない。
なので京子は家に近い偏差値の低い中学校に入った。
しかし、ここでも京子はいじめられた。
内気で優しい性格の子はいじめられるのである。
なので京子は部活には入らず、学校が終わると、すぐに家に帰った。
そして勉強した。
京子は特に勉強が好きというわけではなかった。
しかし勉強できると先生に褒められるので、それが嬉しくて勉強に打ち込んでいたのに過ぎない。
京子は本当は、勉強なんか出来なくてもいい、友達が欲しいと思っていたのである。
友達とスポーツをやったり、旅行に言ったり、遊びに行ったり出来たら、どんなに楽しいことか。と京子は思っていた。
京子はスポーツ観戦が好きだった。
なのでテレビで女子アスリートの試合は、ほとんど観ていた。
京子も体操の授業に出なくてはならなかったが車椅子なので体育の授業は見学だった。
学校でも部活で元気に駆け回っている生徒たちを見ると、うらやましさ、と、それが出来ない、さびしさに悲しくなるのだった。
京子は学校が終わると、すぐに家に帰った。
「お帰り。京子」
「ただいま。お母さん」
そして、テレビでスポーツ観戦をしたり、マンガを読んだり、勉強したりした。
車椅子の子でも友達と仲良く出来る子もいる。
そういう子は、性格がおおらかで劣等感を感じない性格の子である。
しかし京子はデリケートな性格なので一人、車椅子だと、みなに気を使わせてしまい、それが、みなに迷惑をかけてしまう、みなは、同情して、表向きには、そのことは言わないがデリケートな京子には、それが受け入れられなかった。
・・・・・・・・・・・・・
ある時、山野哲也という男子生徒が転校してきた。
彼はハンサムで、子供の頃から野球をやっていたらしく、150km/hの剛速球を投げられ、バッティングも打率8割の強打者だった。
当然、彼は野球部に入りキャプテンになった。
そんな彼が休み時間に京子に話しかけてきた。
「あ、あの。佐藤京子さん。授業でわからない所があるんですが教えてもらえないでしょうか?」
京子は人の心を察知する能力が優れていたので彼が優しい人間であることは、すぐに感じとった。
京子は丁寧に勉強を教えてあげた。
「ありがとう。佐藤さん」
と言って彼は笑顔でお辞儀して去って行った。
哲也は色々と京子に親切にしてあげた。
・・・・・・・・
ある日曜日。
山野哲也が京子の家にやって来た。
ピンポーン。
「はーい」
カチャリ。
玄関が開いて京子の母親が出てきた。
「こんにちは。山野哲也と言います」
「ああ。こんにちは。山野哲也さんですね。あなたのことは娘から聞いて知っています。どうぞ、お入り下さい」
母親は嬉しそうに言った。
「失礼します」
哲也は居間に通された。
母親は哲也にクッキーと紅茶を持ってきた。
「山野さん。娘から聞きましたが娘にとても親切にして下さっている方とのこと。感謝の言葉もありません。有難うごさいます」
「いえ。そんなこと、どうでもいいんです。ところで京子さんは?」
「二階の自室に居ます」
「そうですか。彼女と会いたいのですが・・・」
「そうですか。わかりました」
母親は山野哲也を連れて二階に上がり京子の部屋をノックした。
トントン。
「京子。ちょっと開けて」
「なあに。お母さん」
「京子。山野哲也さんが来て下さったわよ。あなたと話がしたいと言って」
すると京子の部屋の戸が開いた。
京子が心を開けるのは母親だけだった。
車椅子に乗った京子が顔を出した。
「こんにちは。佐藤京子さん」
「こんにちは。山野哲也さん」
京子は哲也を見ると身構えてしまった。
優しい哲也のこと。
きっと慰めに来てくれたのだろう。
しかし彼も休日は野球の練習をしていて、それをやりたいだろうに、それを犠牲にして、自分のことを慰めてくれることが、心の優しい京子にはつらかった。
優しい人間というのは自分より相手のことを考えてしまうのである。
「あ、あの。山野さん。こんにちは」
「こんにちは。京子さん」
「哲也さん。今日は野球部の練習があるんではないですか?」
「いや。今日は、ちょっと事情があって練習はないんだ」
「そうですか」
そうは言ったものの、京子は、哲也が気を使わせないようウソを言っていることはわかった。
「京子さん。こんな晴れた日に部屋に閉じこもっているのはよくない。外へ出るべきです」
哲也は強気の口調で言った。
「・・・で、でも・・・」
それ以上、京子は言えなかった。
「近くの公園へ行きましょう」
「・・・で、でも・・・」
「京子さんが前、教えてくれたじゃないですか。日光を浴びないと、ビタミンDが作られないと。その結果、骨が弱くなると。それと日光を浴びないとセロトニンという物質が分泌されなくなって、うつ病になると。さあ、公園に行きましょう」
そう言って哲也は京子を車椅子から降ろして床の上に座らせた。
そして哲也は車椅子を二階の京子の部屋から玄関に持って行った。
そして京子を抱き抱えて階段を降り玄関の前に置いた車椅子に乗せた。
雲一つない青空の中で太陽が照りつけた。
ああ。何て気持ちいいんだろう。
部屋に閉じこもりの京子は嬉しくなった。
セロトニンが分泌されたのだろう。
「さあ。公園に行きましょう」
そう言って哲也は車椅子を押して京子を近くの公園に連れて行った。
「じゃあ、バレーボールをしましょう」
そう言って哲也はバックからバレーボールの球を取り出した。
そして京子に向かって、やさしく投げた。
京子はトスやレシーブでそれを哲也に返した。
ポーンポーンと哲也と京子の二人のバレーボールのやり取りが続いた。
京子にとって人とこんな体を使った遊びをするは生まれて初めてのことだった。
しかし、体を動かしたい、人と遊びたい、と思っていた京子は、だんだん嬉しくなっていった。
(ああ。人と遊ぶって何て楽しいんだろう)
京子は最高の幸福を感じていた。
その日から日曜日になると哲也は京子の家に来て色々な所に連れて行った。
・・・・・・・・・
哲也は、早くもプロ野球の全ての球団に目をつけられていた。
いくつもの球団のスカウトが哲也の家に来て、将来、入団して欲しい旨を伝えた。
そのことは学校中に知れ渡った。
当然ではあるが。
・・・・・・・・
ある日曜日。
いつものように哲也は京子の家に行った。
「哲也さん。プロ野球の全球団がスカウトしているんですってね。おめでとうございます。哲也さんなら、きっと素晴らしい選手になれると思います。頑張って下さい。応援します」
京子が言った。
「京子さん。そんな、よそよそしいことは言わないで下さい。今日はもっと重要な要件で来たんです」
哲也は真顔で京子を見た。
「・・・な、何でしょうか。重要な要件って?」
「もし僕がプロ野球選手になったら・・・・その時は僕と結婚して下さい」
京子は面食らった。
突然のプロポーズに。
しばし言葉が出なかった。
京子はしばし迷った後、
「哲也さん。私を同情してくれるのは嬉しいのですが・・・」
と言った。
「同情なんかじゃありません」
哲也は大きな声で言った。
「いいんです。哲也さんには五体満足な奇麗な女子アナか女優がふさわしいんです」
京子が言った。
「あなたは自分が素晴らしい物を持っていることに気づいていない」
「何ですか。私の持っている素晴らしい物って」
「誰よりも優しい心と人を思いやる心です」
哲也は京子を直視して言った。
京子は涙を流した。
「う、嬉しいです」
「ただし条件があります」
「何でしょうか。その条件というのは?」
「・・・それは、京子さんにとって、つらいことだろうと思います。しかしその条件を聞いてくれないのなら僕はあなたとは結婚したくはありません」
哲也はキッパリと言った。
「な、何でしょうか。その条件というのは?」
「プロ野球選手になれば遠征も多くなります。そういう時には僕は居ませんから、あなたは一人で生活しなければなりません」
京子は黙って聞いていた。
「だから僕が居ない時でも車椅子で外へ出て、勇気を出して、恥ずかしがらずに人に物を頼むということを身につけて欲しいのです。この条件を聞いてくれるのなら僕はあなたと結婚したい。しかし、この条件を聞いてくれないのなら僕はあなたとは結婚したくはありません」
哲也はキッパリと言った。
うっ。うっ。
京子は泣いていた。哲也の優しさに。
・・・・・・・・・
次の日曜日。
哲也は最寄りの駅である豪徳寺駅に京子を連れて行った。
豪徳寺駅は10段も階段があるので、車椅子の人は一人で、その階段を昇るのは不可能だった。
どうしても車椅子を両側から持ち上げてくれる男二人の協力が必要だった。
「さあ。僕が見ているから勇気を出して人に物を頼んでごらん。世の中は決して冷たい人ばかりじゃない。優しい人だっているんだ」
「・・・は、はい」
京子はおびえながら車椅子を押して豪徳寺駅の階段の前まで行った。
しかし、なかなか見ず知らずの赤の他人を直視することは出来なかった。
今まで、そんなこと一度もしたことがなかったからだ。
しばし迷っていたが京子は勇気を出して小さな声でボソッとつぶやいた。
「誰か私を上まで上げて下さい」
京子が人に物を頼むのは、これが生まれて初めてだった。
しかしその声は蚊の鳴くような、あまりにも小さい声だったので人には聞こえなかった。
京子はもう一度言った。
「誰か私を上まで上げて下さい。どなたか私を上まで上げて下さい」
少し声が大きくなった。
しかし誰も足を止めなかった。
思った通りだった。
どうせ私が頼んだからといって10段もある階段をあげてくれる人なんていないんだわ。
京子は捨て鉢な気持ちになっていた。
京子はもう一度言った。
「誰か私を上まで上げて下さい。どなたか私を上まで上げて下さい」
京子は、かなり大きな声で言った。
その時。
一人の男が立ち止まった。
「おーい。誰か手伝ってくれないか。この子は階段の上に昇りたがっているんだ。しかし私一人じゃ無理だ。誰か手伝ってくれないか」
男は大きな声で言った。
別の一人の男が立ち止まった。
男は言った。
「オレも手伝うよ」
二人の男は京子の乗った車椅子を両側から持って、よいしょ、よいしょ、と京子を豪徳寺駅の階段の上に運んだ。
こっそりついてきて、その光景を見ていた母親は、うううっ、と泣き崩れた。
「あ、ありがとうございます」
京子はお礼を言った。
世の中には優しい人だっている。
京子はそれを実感した。
私も勇気を出して、もっと強くならなければ、と京子は思った。
商店街ではゴダイゴの「The Sun Is Setting On The West」が流れていた。
・・・・・・・・・・
哲也は近くの青葉台高校に進学した。
京子は成績は良かったが、いじめられるのが怖くて高校には進学しなかった。
哲也は青葉台高校の野球部で大活躍した。
哲也の進学した青葉台高校は野球の強豪校ではなかった。
むしろ甲子園に一度も出場したことのない無名校だった。
しかし哲也は一年の時から150km/hのストレートを投げられ、バッティングもバットコントロールが素晴らしく長打力があったので対抗試合では、いつもノーヒットノーランで勝てた。
高校の三回の夏の甲子園大会には、青葉台高校は全部、出場して三回とも優勝した。
哲也の素晴らしいピッチングとバッティングのおかげで。
三年の甲子園大会が終わると哲也は全てのプロ野球の球団にドラフト1位で指名された。
くじ引きの結果、哲也は横浜DeNAベイスターズに入団した。
そして京子と結婚した。
哲也は大きな教会で、友人、知人を大勢呼んで盛大な結婚式をした。
白髪の牧師が聖書を開いて哲也に向かって厳かに言った。
「山野哲也。汝、この女を妻として娶り、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「誓います」
哲也は力強く言った。
次に牧師は車椅子に乗っている佐藤京子の方へ視線を向けた。
「佐藤京子。汝、この男を夫とし、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「誓います」
京子は厳かに言った。
二人はエンゲージリングを交換し合った。
パチパチパチと盛大な拍手が起こった。
オープン戦の日。
巨人VS横浜DeNAベイスターズの試合。
京子は車椅子で始球式をした。
パチパチパチと球場から盛大な拍手が起こった。
この話はテレビ、新聞、週刊誌、あらゆるメディアで日本全国に報道された。
山田太一という脚本家が、これはドラマになる、と感動し、脚本を書き、女優の斎藤とも子を京子役にし、京本政樹を哲也役にし、そして鶴田浩二、清水健太郎、岸本佳代子、赤木春恵、柴俊夫、などの豪華キャストをそろえて、「車輪の一歩」というタイトルでドラマを作った。
それは日本中で大ヒットした。
それがキッカケで日本のバリアフリーは一気にすすんでいった。


2024年1月27日(土)擱筆




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愛が強すぎる子(医療エッセイ)

2023-12-04 05:35:42 | 小説
僕が研修医だった下総精神医療センターでの医療エッセイ。

愛が強すぎる子

私が研修した病院は600床の大きな病院だった。一つの病棟が50床くらいで、病棟医は一人か二人で、研修医がくると、どこかの病棟へ配置され、病棟医が指導医となって、指導をうけることになる。はじめの半年、私は女子病棟に配置された。病棟医は二人いて、大がらで大らかな医長と、三年目になるレジデントだった。そのレジデントは、きれいな字で、仕事も、全くミスがないコンピューターのようなブラックジャックのような、病院の強い戦力的存在だった。名前を仮にA先生としておこう。別の病棟の背のたかいコンピューターにくわしいB先生に通院でかかっていた女の患者が症状悪化して、入院することになった。B先生は男子病棟うけもちだったので、入院中はA先生が主治医になることになった。患者の意に反しての医療ホゴ入院である。患者はよほど、医者-患者の信頼関係がよかったのか、というか、B先生には内からにじみでるしずかなやさしさ、があり、B先生に全幅の信頼を寄せていた、というところだろう。その子はB先生という強い心のささえ、があったから生きてこれた、といっても過言ではないように思える。その子はB先生を医師としてだけではなく、一方的に恋愛的な感情も、入れていたようだ。いかなるものも私とB先生をひきはなすことはできないわ、といったカンジ。
外来で、入院に納得しないので、B先生が呼ばれて、やってきた。すると、その子は、トコトコとB先生のフトコロに入ってきて白衣にしがみついて「B先生でなきゃいや。」と言う。その子は愛が強すぎるのだ。女子病棟では、病棟主治医制がわりとつよい。主治医制はグループ診療より責任の点でいいが、融通はつける。受け持ち患者以外は、みてはならない・・・ということはない。夏休み、その子の主治医のA先生が一週間休みをとって、結婚したばかりの女性とハワイへいってきたが、その間の主治医は、もう一人の上のベテランDrで、権力をもった人だが、心も体同様おおらかで、いっつも宇宙人的な笑い方をする。地球人的笑い方ではない。エート。A先生がハワイへ行く前、その子が「先生。ウフッ。来週、ウフッ。私の主治医のA先生が、ウフッ。休みますけど、ウフッ。先生は主治医でないけど、ウフッ。はなしてもいいですか、ウフッ。」と言う。その子は性格がいい、かわいい子なので、ちょっとやりにくい。私とて本心は・・・。が、医者にあっては、モラルは本心に絶えず勝つ。その子の主治医のA先生は美形だけど、ちょっとキビシイ先生で、ある別の患者が「先生はキビしすぎる。ぜんぜんほめてくれない。主治医をかえてほしい。」と言ってたが、その訴えは私も感じていたことではあるが、なぜかというと、「先生はキビしすぎる。ぜんぜんほめてくれない。指導医をかえてほしい。」と私も思っていたからである。キズつけるわけにもいかず、かといって医者はラブラブごっこしているわけじゃなく、あえていうなら、その子は愛が強すぎて、人間関係を恋愛妄想的に考えてしまう。キビしくしてはキズつけるし、やさしくしては、恋愛妄想を強めてしまう。やりにくい。わたしは美形ではないが、患者の話を一心にきくので、その子も、なにかの時「先生には先生のよさがあるんで・・・。」と言ってたが、「はなしていい?」(○とかXとか手できく)ので、ニガ虫をかみつぶしたような顔でしぶしぶよそを向いてうなずくと、翌週の朝、さっそくはなしかけてくる。早足に行こうとすると「どうしてそんなにサッサと歩くの?」と言ってくる。医療は不倫ごっこではないのである。かわいいが、しかるわけにも親しくするわけにもいかない。その子はナースセンターにきて、(患者は症状が悪くなると自己中心的になる)「B先生と話したいからデンワつないで。今すぐ。病院の中にいるんでしょ。全館放送して。」という。ふつう、まじめなDrは、ここでしかるが、私は原則をやぶろうとしたがる性格があるので、よーし交換に言って全館放送したろかーと思ったが、そこまではしないで、B先生の病棟につないで、その子に受話器をわたした。その子は一心にはなしていたが、少し話してから、私が呼ばれ、患者が言ったからって電話かけてくるな、ともっともなことをいわれた。その子はB先生に詩をかくからわたして、といって、詩をかいた。「看護婦さんの仕事はたいへんなのよー。知ってるー?」と言う。(たいへんにしてるのはあなたじゃないか。)「知ってるよ。」と言うと「どうしてわかるのー?」ときく。「いや、想像すれば、何となく・・・」と言うと「あはっ。想像すれば?じゃあロマンチストなんだ。」なんて言う。(ロマンチストなのは詩でメッセージをかくあなたではないか。)その後、その子が、何か要求したが、何だったか忘れたが、私はあんまり相手を直視して話ができないので、その子の長々とした説教をきいてるとだんだん顔が教師にしかられる生徒のように、うつむいてくる。と、彼女は「人と話をする時はちゃんと相手の顔をみなさい。」ともっともなことを言う。三回くらいいわれた。ナースがその子に「あなた。B先生だっていそがしいのよ。○○先生はやさしいからって、先生に命令するなんて失礼なのよ。」とちょっとキビしくいわれると、本当になきそうな声で「ゴメンなさい。ウェーン。ゴメンなさい。」という。本当にやりにくいかわいい子である。男子病棟へ移って、そこにすっかりなれて、四ヵ月くらいしたら病院の歌謡大会があって、女子病棟では、その子が「love is all music」とプログラムにのってて、あいかわらずだなーと思って、その子を思い出して、かいてみたくなった。

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おたっしゃナース(医療エッセイ)

2023-11-28 14:29:19 | 小説
僕が研修した下総精神医療センターでの医療エッセイ。平井愼二先生(薬物)とか長嶋先生とか、まだやってる。

おたっしゃナース

あるナースについて、かいておかなければならないのだが、ナースは何といっても、医療における権限の点で、医者より弱者なので、弱者をいじめることはイヤなのだが、文人の筆にかかり、文の中で生命の息吹をあたえられることを多少は、うれしいと思ってくれるか、逆におこるか否かは知らぬが、世のHビデオでは、ひきさきたいものの上位に、ナースがあがってるが、それは医療界を知らない外野だからそう思うのであって、心やさしい聖女、なんて思ってるんだろうが、ナースは仕事がつらくて、夜勤があって、イライラしているため、とてもそんな気はおこらない。人間を相手に仕事をしている人間は神経がイライラしてしまう。パソコンを相手にしているオフィス・レディーは主客一致で、ひきさく魅力のある、やさしい聖女だろうが。で、医者でいるとナースインポになる。だが思うに、あのナースは、容姿と性格を世の男が知ったら、引き裂きたい、と、思い、それが妥当であるめずらしいケース。そのナースは、瓜実顔で、うぬぼれが、整合性があう程度にある。世の男は、女につきあいを強要するらしい。そういう男のため、こちらはどれだけメイワクをこうむっていることか。どうも、男は、女をみると、抱くことしか、考えないのらしいが、また、それが、この世で一番のたのしみらしいが、芸術家は描くことが一番のたのしみであり、他のことは、すべてえがくのに最高のコンディションが保てるようにと、思っているのだが。いずくんぞ芸術家の心は知られんや。そのナースは、私が、その病棟から、よその病棟へうつる時、去る者の優越心とともに出ていかれ、たまに顔を出されるのがいやだ、と思ったのか、おたっしゃで、と言ったが、おまえのおまん〇こそ末長くおたっしゃでいろ、と、ハードボイルド作家ならかきかねないぞ。いろいろ習いごとをしていたようで、積極的で、意欲旺盛で、精力が強いのだろう。そのナースが、「あなたを先生と呼んでいるのは職場の上で、いやいやそう言っているのよ。病院から離れれば、あなたなんか先生でも何でもないし、心の中から先生と呼んでいるわけじゃないのよ。」と思っていることは、ほとんど目にみえていた。こういうツンとしたナースだから、読者が、想像でひきさいてほしく候。だが6月頃、一度、病院行事で、病棟の患者30人くらい、ナース、ドクターつきそいで幕張海浜公園に行ったのだが、雲一つない初夏の青空のもと、患者の手をひいて浜辺を歩いていた姿が思い出されるのだが、あの、つかれた歩き方、芸術家にとっては、さっぱりわからない、あの人間というものの姿は美しい。ナースがフダン着になると、すごくエロティックである。女とみてしまうからだろう。またナースキャップをしていると、前髪がかくされて、額が強調されるため、ナースキャップをせず、前髪が自然に流されている方が似合う。このナースは、どんなに、当直あけで、つかれていても、「先生。注射おねがいします。」と、ツンと、言うのである。心の中では、「何もできない、何も知らない無能な先生。」といって笑っていることは、ほとんど目にみえていた。病院は、医者が上でナースが下、ではない。ナースはナースでツンとまとまっていて、自分らは自分らの仕事をしますから、ドクターの仕事は、ドクターでおねがいしますよ、と、ツンとつきはなす。

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婦長さん(医療エッセイ)

2023-10-19 18:05:18 | 小説
婦長さん

さて、ここで私はあることをかいておかなくてはならない。ちゃんと小説をかきたく、こんな雑文形式の文はイヤなのだが、やはり、かいておきたいことはかいておきたい。今の私が研修させてもらってる病棟の婦長さんは、すごい純日本的なフンイキの女の人なのだ。当然、結婚してて、ご主人もお子さんもいるだろうが、スレンダーで、髪を後にたばねて、仕事している時の真剣な表情は柳のような眉毛がよって、隔世の美しさである。婦長さんは絶対、和服が似合う。年をとっても、美しさが老いてこないのである。若いときの写真は知らないが、今でさえこれほど美しいのだから、若いときはもっと美しかっただろうとも思う一方、年をへて、若い時にはなかった円熟した美しさが表出してきたのか、それはわからない。ともかく、今、現役美人である。街歩いてたらナンパされるんじゃないか。私は位置的に、いつも、婦長さんの後ろ姿をみるカッコになっているのだが、標準より、少しスレンダーであるが、量感あるおしりが、イスの上にもりあげられ、行住坐臥の私を悩ます。性格は、まじめで、人をバカにすることなどなく、ふまじめさ、がチリほどもなく、良識ある大人の性格。ジョークはそんなにいわず、神経過敏でなく、あっさりしていて、人に深入りしないが、あっさりしたやさしさがある。日本女性のカガミという感じ。つい、いけないことを想像していまうのだが、後ろ手に、縛ったら、眉を寄せて、無言で困惑して、限りない、わび、の、緊縛美が出そう。和服の上から、しばればいい。憂愁の美がある。婦長さんは、多くの人間がもつ、倒錯的な感情を持っていない。のだ。そういう性格が逆に男の緊縛欲求をあおるのだ。婦長さんにはメイワクをかけた。あまり病棟へも行かず、医局で、せっせと文章ばかり書いていた。病棟の数人の移動があった時、歓送迎会でるといっといて、でなかった。私は、ガヤガヤした所がニガ手で。つい、でません、と興ざめなことばがいえなくて、行くと言ってしまった。翌日、先生、まってたんですよ。ナースでも、そうなんですけど、そういう時は、会費は、料理の用意はできているのだから、お金は、出席しなくても払うことになっています。料亭では当日キャンセルはできないので。他の人も、そういうキソクなので、といって、言いづらそうに会費をおねがいします、と言った。私はガヤガヤした所がニガ手だけだったので、お金を払うのは何ともない。ので後で幹事の人に払った。そしたら、すごいお礼をいってくれた。その他、すごく、何事につけ、よくしてくれた。医療は、ならうより、なれ、であり、そうむつかしくなく、ベテランナースなら、かなりできるものである。しかし、責任所在性から、医・看分離は、現然として、存在する。レントゲン読影、その他、看は医への深入り、自己主張は、できにくい。どうしても、上下関係となってしまう。婦長さんも、四年の看護大学をでて、医学生ほど膨大量ではないが、解剖学から、一通り、人体の構造、病気の理論は学んでいる。専門は看護学というものなのだろうが、一般の人よりはずっと人体、や、病気にも医学的にもくわしく、毎日、病人をみている。しかし、医学生は、人体の構造から、病理学、この世にあるすべての病気を、しらみつぶしにオボエさせられていて、やはり、知識の点ではナースは医者には、その点かなわない。
私は自分にハッパをかけるため、自分の知ってることは、人に話すようしているのだが、きどりと、思われそうで、つらいところ。知らない。知らない。とケンキョな、ナルシなくせをつける人は成長しにくいのである。己を成長させるハッタリというものを知らない人は武士道の心得をかいた葉隠をよんでない人である。
医者もナースも、人の気づかなかったことを、正しくいいあてたり、診断できると、得意で、うれしいものである。ナースが脳CTで小脳がどれかわからないので、ちょっとおどろいた。その他、体のスライスや胸部CTの見方など。脳の立体的構造は、ちょっとむつかしいものである。又、医学生は、人体のすみからすみまで、オボエさせられ、又、レントゲン読影にしても、検査値や、患者の症状と関連して、理解する勉強をつめこんできたのである。しかもナースはレントゲンを医者のように、ほこらしげには、手にとってみるのはできにくいフンイキではないか。勝負の条件が対等ではない。それは、ちょうど、医学の勉強に99%自分の時間をギセイにし、小説、レトリックの勉強をする時間を全然もつことをゆるされなかった人間が、十分凝った文章で、スキなく、たくさん小説をかくことができない、のと同じである。ベテランナースは、患者が、こういう症状の時は、どう対応すればいいか、ということは、研修医とはくらべものにならないほど知っている。又、キャリアから、人間なら、だれだって、プライドがでてくる。研修医は、宮沢賢治のようにオロオロするか、弁慶の勧進帳をするか、である。医者は学んでいるが、ナースは医者ほど学んでいない。人生のキャリアで上の人に、先生、先生と、たてまつられた呼び方をされ、学んだから当然知っているだけでCTでみえる臓器の説明をするなどプライドを傷つけてしまうので、つらいのである。もっとも私はレントゲンの読影も感染症の理論も、専門家からみれば全然わかっていない。バレンタインデー、二月十五日、の日が近づいてきた。看護婦さんはもちろん、婦長さんも、チョコはくれないだろうなーと思ってた。
力山を抜き、気は世をおおい。もし、私が医学に私の命をかける気なら、毎日徹夜で勉強する医師になっただろう。やる気がないのではない。私は、小説家、ライター、作家になることに私の全生命をかけているのである。病棟のナースとも、全然うちとけなかった。だけど、バレンタインデーの当日、はい。先生。と、屈折心の全くない笑顔で、言って、チョコをくれた。うれしかった。表面はポーカーフェイスで、さも、無感動のように、ああ、ありがとうございます、と言ったが。内心は、おどりあがっていた。義理だろうが、何だろうが、かまわない。全部その日の晩、一人で食べて、あき箱は宝物としてとっておこう。ホワイトデーにはごーせーな、お礼をするぞ。一万円くらいかけて、病棟のみなさん全員にもたべてもらえるようなチョコ返すぞー。

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