王女と道化師
それはヨーロッパの中心に位置する王国である。人々が羨ましがるほど立派な宮殿の中で王様の一人娘のアンは美しい大きな王女の椅子に腰掛けてあくびをかみ殺していた。
「何か面白いことはないかしら」
アンは一日中そんなことを考えていた。すると戸が開いて一人の少年が入ってきた。少年は孤児で、掃除夫として宮殿に住まわせてもらっていた。餓えと寒さで、宮殿の前で倒れている所を衛兵に見つけられた。王様に報告すると、掃除夫兼道化師として宮殿に住まわせることとなったのである。少年は、ぼろをまとっていたが、美しい金髪とやさしい瞳をもっていた。少年は、毎日決まった時刻に宮殿の各部屋を掃除に来るのだった。少年は黙って入って来ては、床や椅子を磨いては帰っていくのだった。アンは少年が力なく働くのをちょっと意地悪ないたずらっぽい気持ちで見るのだった。そして部屋がアンと少年だけとなった時、アンは王女の椅子に腰掛けて少年を呼び寄せるのだった。
「ニールス。こっちへおいで」
そういってアンは少年を呼び寄せた。
「私の靴をお磨き」
アンにそう言われると少年は伏せ目がちにオドオドとアンの足元にひざまずいて靴を磨いた。弱々しく脅えながら、手を震わせて一心に磨いていた。それをみているとアンの心に意地悪な気持ちが起こるのであった。アンは少年をつきとばした。
「ふふふ。何をそんなにおびえてるの」
少年は黙ってうずくまった。
「ゴメンなさい」
アンは少年を見るとますます笑った。
「つまらないわ。お前は将来、私の道化師となるのよ。私を退屈させたらひどい目にあわすわよ」
アンは意地悪な目を少年に向けた。少年はオドオドしている。
「連続バク転10回しなさい」
「で、出来ません」
「じゃあ、何か手品をしなさい」
「で、出来ません」
「じゃあ、一体、何が出来るの?」
「な、何も出来ません」
「しょうのない道化師ね」
「ゴメンなさい」
「つまらないわ。何かおもしろい話をしなさい」
アンは少年の鼻をつまんで言った。少年は、おどおどと話し出した。
「むかし、むかし、ある森に白いキツネがいました」
「うんうん。それで・・・」
アンは身を乗り出して聞き耳を立てた。
「そのキツネは、顔が真っ白でした」
「うんうん。それで・・・」
アンは話の続きを求めた。
「そのキツネは、腹も真っ白でした」
「うんうん。それで・・・」
アンは好奇心いっぱいの顔つきだった。
「そして、そのキツネは尾も白いのでした」
「うんうん。それで・・・」
アンは話の続きをワクワクした表情で求めた。
「で、ですから、おもしろい話です」
少年はオドオドと答えた。
アンの顔が怒りに変わった。
「あんた。私をバカにしてるの」
アンは少年の頬をピシャンと叩いた。
「一分以内に、面白い話を考えなさい。出来なかったら、ひどい目に合わすわよ」
そう言って、アンは一分はかる砂時計をさかさまに立てた。
容器の上の部分の砂は、細いくびれを通って、どんどん容器の下に落ちていく。少年は焦った。
「し、します。します」
そういった時、丁度、砂が落ちきった。
「ぎりぎりセーフにしてあげるわ。さあ、面白い話をしなさい」
アンが言った。少年はオドオドと話し出した。
「昔々、ある国のお城に、わがままなお姫様と、やさしい道化師がいました」
「うんうん」
「王家の一族は、国民に重い税金をかけて、自分達は、豪勢な広い宮殿に住み、国民は貧乏に苦しんでいました」
「うん。うん。それで・・・」
「国民は、怒って革命を起こしました。王と王后は隣国に逃げのびましたが、一人娘のお姫様は捕らえられてしまいました」
「うんうん。それで・・・」
「国民は、お姫様をギロチンにかけろ、と主張しましたが、やさしい道化師が、革命軍に命乞いをしたので、お姫様は助かりました。めでたし。めでたし」
少年はおそるおそるアンを見上げた。
「見え透いたイヤミね。しょうちしないわよ」
「ご、ごめんなさい。で、でも、お姫様は助かったのですよ。よかったじゃないですか」
「何が、わがままなお姫様と、やさしい道化師よ。私はね、王権神授説によって、神から選ばれた人間なのよ。イヤミを言った罰として、お前をギロチンにかけてやるわ」
そう言って、アンは呼び鈴を鳴らした。すぐに侍従が来た。
「はい。なんでございましょうか。王女様?」
侍従は直立したまま、恭しく聞いた。
「ギロチンを持ってきなさい」
「はい」
侍従は、キリッと返事すると、すぐに部屋を出て行った。しばしして、二人の侍従がギロチンを押してやって来た。アンはニヤッと笑った。
「もういいわ。返って」
「はい」
アンに言われて、二人の侍従は、深々と頭を下げ、去っていった。部屋には、アンと少年だけである。黒金の重そうな不気味な刃がギロチンの上で縄で固定されている。その縄が解き放たれると、その重みによって、刃は一気に加速して落下し、首枷に固定された、罪人の首をスパッと切断する。処刑される人間にとっては、一瞬で死ねる安楽な処刑法と、物理的には言える。しかし、首枷に首を固定されるまでの恐怖感。重い刃が解き放たれて、自分の首めがけて落下していく、空恐ろしい恐怖。そして、刃がスパッと首を切り落とし、切断され、血を大量に流した首が、前方に転げ落ちていく光景。その光景をありありと、処刑される罪人の意識に写し出すという点では、これほど身の毛もよだつ恐怖を罪人にかきたてる残酷な処刑法はない。ほとんどの人は、誰しもギロチンを見ただけで震え上がるだろう。アンは意地悪な目を少年に向けた。
「さあ。ニールス。首枷の上に首を乗せなさい」
アンが命じた。
「王女様。ど、どうか、それだけはお許し下さい」
少年は、王女の前に土下座して、ペコペコ額を床に擦りつけて哀願した。
「ダメよ。いくら謝ったって。さあ、早く乗せなさい」
アンは急かすように言った。だが少年は蹲ってしまって、ペコペコ頭を下げるだけで動こうとしない。
「さあ。早くお乗り。どうしても乗らないのなら、侍従を呼んで、無理矢理、乗せるわよ」
そう言ってアンは、呼び鈴を手にとった。
「わ、わかりました。の、乗ります」
侍従達に無理矢理、捕まえられて、手足を押さえられて、断頭台にのせられるのを見られる醜態を少年は恐れた。いずれにしても、断頭台には乗らなくてはならないのだ。少年は、気力なく、ブルブル震えながら断頭台に近づいて、腹這いになり、開いている首枷の下半分に首を乗せた。アンは、王女の椅子からサッと降りて、楽しそうに首枷の上半分を降ろし、首枷をくっつけて、カチリと鍵をかけて、首枷を固定した。
「ああっ」
少年は、思わず、声を出した。恐怖から、首を動かそうとしたが、鍵のかかった首枷からは、もはや逃れることは出来なかった。
ギロチンの上の桟には、滑車が取りつけられていた。刃に取り付けられている太い縄が、その滑車を通って、断頭台に取り付けられてある取っ手に、しっかりと結び付けられている。縄が取っ手に、結びつけられているため、刃は落ちないのである。取っ手に結びつけられている縄がはずされると刃は瞬時に落ちてしまう。アンは、取っ手に結び付けられた縄をはずした。
「さあ。これを持ちなさい。放すと刃が落ちちゃうわよ」
そう言って、アンは、少年の右手に縄を握らせた。
「ああー」
少年は思わず叫んだ。鋼の刃のかなりの重さのかかった縄を、少年は力の限りギュッと握りしめた。それは少年にとって命綱だった。手を放したら重い刃が落ちて、少年の首は、切断されてしまう。そんなこと、おかまいない、といった様子でアンは、ふふふ、と笑った。アンは、化粧用の等身大の姿見の鏡を持ってきて、少年の前に立てた。
「さあ。前を見なさい」
アンが言った。少年はおそるおそる顔を上げて前を見た。
目の前には、首枷をされて、ギロチンの命綱を必死で握りしめている自分の姿が鏡に写っていた。少年は、恐怖で真っ青になって、
「ああー」
と叫んだ。何とアンの残酷なことか。少年に、恐ろしい自分の姿を見せつけて、少年の恐怖感をことさら煽ろうという魂胆である。鋼の刃の縄は間違いなく、滑車を通して少年の手に握られている。縄を握っている手の高さが微かに動くと、刃もそれにともなって、微かに動いた。それは少年に、死の恐怖を、恐ろしい実感として知らしめた。
アンは、ふふふ、と笑って、フカフカの安楽椅子に座った。そして、面白い見世物を見るように楽しそうに、少年を見た。
「アン王女さま。こ、こんなことだけは許して下さい」
少年は真っ青になって訴えた。
「こんなこと、とはなによ。お前が面白い話を思いつけないから、私が面白い遊びを考えてあげたんじゃないの。スリルがあって楽しいでしょ」
「ぼ、僕は面白くないです。死ぬほどこわいです」
「お前は私を楽しますのが仕事なんだから、いいじゃない。嬉しがりなさい」
「誰がこんなことされて嬉しがりますか。い、いつまで、こんなこと続けるつもりですか?」
「さあね。私の気のむくまでよ。それまで我慢しなさい」
何を訴えても聞き入れてもらえないとさとった少年は、アンに訴えるのをあきらめた。少年は恐怖に慄いて、必死で縄を握りしめた。もし縄を放してしまったら、少年の命はないのである。
「ふふふ」
アンは、フカフカの王女の椅子にゆったりと座って、フルーツジュースを手にとって飲みながら、ゆとりの表情で、楽しそうに、地獄の恐怖に慄いている少年を楽しそうに眺めた。しばしの時間が経った。だんだん手が疲れてきて、少年は、ハアハアと息を荒くするようになった。額は汗でびっしょりである。
「王女さま。も、もう限界です。許して下さい」
少年は涙に潤んだ瞳をアンに向けて訴えた。だがアンは、フカフカの王女の椅子にゆったりと座って、フルーツジュースを飲みながら、ゆとりの表情で、楽しそうに、地獄の恐怖に慄いている少年を楽しそうに眺めている。
「わかったわ」
そう言って、アンは、フルーツジュースをサイドテーブルに置き、ソファーから降りて、少年の方にやって来た。
「か、感謝します」
少年は、泣き濡れた目をアンに向けて、弱々しげな顔つきで、ペコペコ頭を下げた。少年は、てっきり断頭台から降ろしてもらえるものだと思って、涙のうちに感謝を込めてアンを見つめた。だがアンは黙って少年を、見つめた。
「ふふふ」
とアンは笑った。その笑い方には、何か底意地の悪いものがあるように見えた。
アンは、必死で命綱を握りしめている少年の脇腹をコチョコチョとくすぐりだした。
「ああー。王女さま。何をするんですか」
少年は真っ青になって叫んだ。命綱を握っている左腕は、ただでさえ力の限界で、珠の汗にまみれて、プルプル震えていた。その脇腹をくすぐろうというのである。少年は、アンの残酷さに芯から戦慄した。
「や、やめて下さい。王女さま」
少年は、はり叫ぶような悲鳴を上げた。だが、アンはやめない。少年が苦しめば、苦しむほど、アンは、嬉しがっているように見えた。アンは、少年の首筋をくすぐったり、耳を引っ張ったり、鼻をつまんだり、と散々、動けない少年の顔を散々悪戯した。
「ああー」
少年は、アンに弄ばれて、苦しそうに眉を寄せて叫んだ。だが、アンは楽しそうに笑っている。アンは、ふふふ、と笑った。アンは、ティッシュペーパーを一枚、取り出すと、先を丸めて、紙縒りをつくった。そして少年の鼻の穴に紙縒りを入れた。紙縒りに刺激されて鼻がムズムズし出した。
「ああー。やめて下さい。王女さま」
これほど辛い責めはなかった。ただでさえ、重い命綱を握りつづける少年の力は限界に達している。そんな少年をさらに、苦しめようというのだ。アンは、執拗に少年の鼻を紙縒りで刺激しつづけた。少年は、鼻腔を刺激されるもどかしさに、ついに、
「はっくしょん」
と、大きなくしゃみをした。少年の鼻からは鼻水が垂れた。アンは、ふふふ、と笑い、少年の鼻をティシュペーパーで、挟んだ。
「さあ、チーンしなさい」
言われるまま少年は、勢いよくチーンした。
「王女に鼻をかませるなんて、ずいぶん無礼な道化師ね」
「アン王女さま。もう許して下さい。くしゃみする時に、命綱を放してしまいそうになってしまいました。もう限界です」
少年は、泣きながら目の前のアンに訴えた。
「しょうがないわね。じゃあ、情けをかけてあげるわ」
そう言うと、アンは、立ち上がって、少年の顔の前から、命綱を握っている少年の右側に位置を変えて座った。アンは、ブルブル震わせている少年から、命綱を両手でつかんだ。
「さあ。もう疲れたでしょ。私が綱を持ってあげるから、手から縄を放しなさい」
そう言ってアンは、ギロチンの命綱を両手でしっかりと持った。縄の引っ張る力がなくなって、少年は、生き返ったように、ほっとした。
「ありがとうございます。アン王女さま。感謝します」
そう言って少年は、縄を放した。少年は、長い時間、縄を握らせていた疲れから開放されて、グッタリと右腕を床に落とした。少年は、慈悲をかけてくれたアンに感謝の目を向けた。だが、何だか様子が変である。アンは少年を、意地悪な目つきで見て、ふふふ、と笑った。少年はおびえながらアンを見た。アンは、いきなりパッと持っていた命綱を放した。ギロチンの刃がサーと落ちてきた。
「ああー」
少年は真っ青になって悲鳴を上げた。あわや、少年の首が、という時に、アンは、ギュッと縄をつかんだ。ギロチンの刃は、少年の首のすぐ上で、止められた。アンは、ふふふ、と笑っている。アンは、またゆっくりと命綱を引っ張って、黒金の刃を上に引き上げた。少年は目の前の鏡で、恐ろしそうに刃とアンを見た。刃が上に上がるとアンは、また、パッと持っていた命綱を放した。ギロチンの刃がまた、サーと落ちてきた。
「ああー」
少年は真っ青になって悲鳴を上げた。アンは、また少年の首の上のギリギリの所で、命綱をギュッとつかんだ。ギロチンの刃は、少年の首のすぐ上で、ギリギリに止められた。アンは、ふふふ、と笑い、また命綱を引っ張って、黒金の刃を上に引き上げ出した。
「お、王女さま。やめて下さい。こんな恐ろしいこと」
少年は、縄を持っているアンに訴えた。
「こんなこと、とはなによ。お前の手が疲れて、可哀相だと思ったから、私が持ってあげてやっているのよ。感謝しなさい」
「で、でも、こんな恐ろしい事をするなんて思ってもいなかったんです」
「スリルがあって、面白いじゃない」
「僕は死ぬほど怖いです」
「じゃあ、縄はお前が持つ?」
少年は迷った。アンが縄を持ったら、アンは、また腋をくすぐったり、鼻に紙縒りをいれたりするだろう。それも耐え切れない。少年は決められずに、弱々しい顔でアンを見つめていた。
「さあ。どっちにするのよ?くすぐったりしないわよ。その代わり、明日の朝まで、ずっと持ち続けているのよ」
アンが、イライラして聞いた。
「ゆ、許して下さい。王女さま」
少年は弱々しい顔で、ペコペコと頭を下げてアンに哀願した。
「しょうがないわね。じゃあ、特別に情けをかけてやるわ。その代わり、お前は私の奴隷になって、私のいう事は何でも聞くのよ」
「は、はい。何でも聞きます。アン王女さま」
少年は目から涙をポロポロ流しながらペコペコと頭を下げた。
アンは、やれやれ、といった顔つきで、命綱をギロチンの桟に取り付けてある取っ手に、グルグルと巻きつけて、しっかりと固定した。
「か、感謝します。王女さま」
少年は目から涙をポロポロ流しながらペコペコと頭を下げた。
「さあ。足をお舐め」
アンは、ふふふ、と笑いながら、少年の顔の前に素足を差し出した。
「はい。アン王女さま」
少年はむしゃぶるように、アンの足指を犬のようにペロペロ舐めた。少年には、もう恥も外聞もなかった。アンのご機嫌をとることが、殺されないことなのだから無理もない。
「首枷をはずして欲しい?」
アンが聞いた。
「はい。お願いします。王女さま」
少年は、目に涙を浮かべながらペコペコ頭を下げて哀願した。無理もない。ギロチンの命綱は固定されてるとはいえ、絶対、落ちてこないという保障はない。縄が千切れるということだって、あり得なくはない。こんな首枷をされたままでいては、神経が参ってしまう。もう、ただでさえ少年の神経は参っていた。
「しょうがないわね。じゃあ、特別に情けをかけてやるわ」
アンは、そう言って首枷を固定している鍵を外した。そして、ソファーにゆったりと座った。少年は、首枷の上半分をそっと持ち上げて、首枷から頭を引き抜いた。これでやっと、完全に安全な身になった。少年はハアと大きなため息をついた。だが、ほっとしたのも束の間。少年は急いで、アンの元に行くと、四つん這いになった。
「アン王女さま。お慈悲を感謝いたします」
少年はそう言って、アンの足指を犬のように一心にペロペロ舐めた。
「ふふ。犬みたい」
アンは、一心に自分の足指を舐めている少年を見て笑った。
「お前も、疲れてお腹が減っているでしょ。美味しい物をあげるわ」
そう言ってアンは、皿に、パンを千切って乗せた。
「ちょっと後ろを向いてなさい」
「はい」
少年は言われるまま後ろを向いた。
「絶対、振り向いちゃダメよ」
「はい」
少年の背後で服の擦れる音がした。次に、シャーという水が物に当たる音がした。そしてまた、服の擦れる音がした。
「さあ。いいわよ。前を向きなさい」
アンに言われて少年は、振り返った。少年の前には、床に皿が置いてあり、それには千切られたパンの断片が5~6個、乗っていた。しかし、そのパンは濡れていて、皿も水で一杯に満たされていた。その水は少し、黄色く、湯気が立っていた。それがアンの小水であることは、明らかだった。
「さあ。犬のように四つん這いになって、それを食べなさい。私の特製の味付けのご馳走よ」
少年は、四つん這いになって、犬のように舌だけで、濡れたビスケットを食べ出した。
「どう。味は?」
アンが聞いた。
「お、美味しいです」
そう少年は答えたものの、それは、少し、しょっぱかった。しかし、殺されなくてすんだことを思うと、本当に美味しく感じられた。少年は濡れたパンを一心に食べた。
「皿にある液体も全部、飲むのよ」
アンが命令した。少年は、パンを全部、食べると、舌でペロペロと皿の液体をチューチュー啜って飲んだ。そしてペロペロと皿を舐めた。
「どうだった。味は?」
アンが聞いた。
「お、美味しかったです」
少年は、頬を赤くして答えた。
「そう。それはよかったわ。それなら、これからは、お前の食事は全部、私の特製の味付けにしてやるわ」
アンは言った。
「あーあ。疲れちゃった。でも楽しかったわ」
そう言って、アンはベッドにゴロンと横になった。
☆ ☆ ☆
その日から、アンは、毎日、少年を、色々な拷問にかけるようになった。鉄の処女。引き伸ばし。逆さ吊り。水責め。虫責め。ファラリスの雄牛。など。少年をありとあらゆる拷問にかけた。少年は精神も肉体もボロボロに参ってしまった。
☆ ☆ ☆
それはヨーロッパの中心に位置する王国である。人々が羨ましがるほど立派な宮殿の中で王様の一人娘のアンは美しい大きな王女の椅子に腰掛けてあくびをかみ殺していた。
「何か面白いことはないかしら」
アンは一日中そんなことを考えていた。すると戸が開いて一人の少年が入ってきた。少年は孤児で、掃除夫として宮殿に住まわせてもらっていた。餓えと寒さで、宮殿の前で倒れている所を衛兵に見つけられた。王様に報告すると、掃除夫兼道化師として宮殿に住まわせることとなったのである。少年は、ぼろをまとっていたが、美しい金髪とやさしい瞳をもっていた。少年は、毎日決まった時刻に宮殿の各部屋を掃除に来るのだった。少年は黙って入って来ては、床や椅子を磨いては帰っていくのだった。アンは少年が力なく働くのをちょっと意地悪ないたずらっぽい気持ちで見るのだった。そして部屋がアンと少年だけとなった時、アンは王女の椅子に腰掛けて少年を呼び寄せるのだった。
「ニールス。こっちへおいで」
そういってアンは少年を呼び寄せた。
「私の靴をお磨き」
アンにそう言われると少年は伏せ目がちにオドオドとアンの足元にひざまずいて靴を磨いた。弱々しく脅えながら、手を震わせて一心に磨いていた。それをみているとアンの心に意地悪な気持ちが起こるのであった。アンは少年をつきとばした。
「ふふふ。何をそんなにおびえてるの」
少年は黙ってうずくまった。
「ゴメンなさい」
アンは少年を見るとますます笑った。
「つまらないわ。お前は将来、私の道化師となるのよ。私を退屈させたらひどい目にあわすわよ」
アンは意地悪な目を少年に向けた。少年はオドオドしている。
「連続バク転10回しなさい」
「で、出来ません」
「じゃあ、何か手品をしなさい」
「で、出来ません」
「じゃあ、一体、何が出来るの?」
「な、何も出来ません」
「しょうのない道化師ね」
「ゴメンなさい」
「つまらないわ。何かおもしろい話をしなさい」
アンは少年の鼻をつまんで言った。少年は、おどおどと話し出した。
「むかし、むかし、ある森に白いキツネがいました」
「うんうん。それで・・・」
アンは身を乗り出して聞き耳を立てた。
「そのキツネは、顔が真っ白でした」
「うんうん。それで・・・」
アンは話の続きを求めた。
「そのキツネは、腹も真っ白でした」
「うんうん。それで・・・」
アンは好奇心いっぱいの顔つきだった。
「そして、そのキツネは尾も白いのでした」
「うんうん。それで・・・」
アンは話の続きをワクワクした表情で求めた。
「で、ですから、おもしろい話です」
少年はオドオドと答えた。
アンの顔が怒りに変わった。
「あんた。私をバカにしてるの」
アンは少年の頬をピシャンと叩いた。
「一分以内に、面白い話を考えなさい。出来なかったら、ひどい目に合わすわよ」
そう言って、アンは一分はかる砂時計をさかさまに立てた。
容器の上の部分の砂は、細いくびれを通って、どんどん容器の下に落ちていく。少年は焦った。
「し、します。します」
そういった時、丁度、砂が落ちきった。
「ぎりぎりセーフにしてあげるわ。さあ、面白い話をしなさい」
アンが言った。少年はオドオドと話し出した。
「昔々、ある国のお城に、わがままなお姫様と、やさしい道化師がいました」
「うんうん」
「王家の一族は、国民に重い税金をかけて、自分達は、豪勢な広い宮殿に住み、国民は貧乏に苦しんでいました」
「うん。うん。それで・・・」
「国民は、怒って革命を起こしました。王と王后は隣国に逃げのびましたが、一人娘のお姫様は捕らえられてしまいました」
「うんうん。それで・・・」
「国民は、お姫様をギロチンにかけろ、と主張しましたが、やさしい道化師が、革命軍に命乞いをしたので、お姫様は助かりました。めでたし。めでたし」
少年はおそるおそるアンを見上げた。
「見え透いたイヤミね。しょうちしないわよ」
「ご、ごめんなさい。で、でも、お姫様は助かったのですよ。よかったじゃないですか」
「何が、わがままなお姫様と、やさしい道化師よ。私はね、王権神授説によって、神から選ばれた人間なのよ。イヤミを言った罰として、お前をギロチンにかけてやるわ」
そう言って、アンは呼び鈴を鳴らした。すぐに侍従が来た。
「はい。なんでございましょうか。王女様?」
侍従は直立したまま、恭しく聞いた。
「ギロチンを持ってきなさい」
「はい」
侍従は、キリッと返事すると、すぐに部屋を出て行った。しばしして、二人の侍従がギロチンを押してやって来た。アンはニヤッと笑った。
「もういいわ。返って」
「はい」
アンに言われて、二人の侍従は、深々と頭を下げ、去っていった。部屋には、アンと少年だけである。黒金の重そうな不気味な刃がギロチンの上で縄で固定されている。その縄が解き放たれると、その重みによって、刃は一気に加速して落下し、首枷に固定された、罪人の首をスパッと切断する。処刑される人間にとっては、一瞬で死ねる安楽な処刑法と、物理的には言える。しかし、首枷に首を固定されるまでの恐怖感。重い刃が解き放たれて、自分の首めがけて落下していく、空恐ろしい恐怖。そして、刃がスパッと首を切り落とし、切断され、血を大量に流した首が、前方に転げ落ちていく光景。その光景をありありと、処刑される罪人の意識に写し出すという点では、これほど身の毛もよだつ恐怖を罪人にかきたてる残酷な処刑法はない。ほとんどの人は、誰しもギロチンを見ただけで震え上がるだろう。アンは意地悪な目を少年に向けた。
「さあ。ニールス。首枷の上に首を乗せなさい」
アンが命じた。
「王女様。ど、どうか、それだけはお許し下さい」
少年は、王女の前に土下座して、ペコペコ額を床に擦りつけて哀願した。
「ダメよ。いくら謝ったって。さあ、早く乗せなさい」
アンは急かすように言った。だが少年は蹲ってしまって、ペコペコ頭を下げるだけで動こうとしない。
「さあ。早くお乗り。どうしても乗らないのなら、侍従を呼んで、無理矢理、乗せるわよ」
そう言ってアンは、呼び鈴を手にとった。
「わ、わかりました。の、乗ります」
侍従達に無理矢理、捕まえられて、手足を押さえられて、断頭台にのせられるのを見られる醜態を少年は恐れた。いずれにしても、断頭台には乗らなくてはならないのだ。少年は、気力なく、ブルブル震えながら断頭台に近づいて、腹這いになり、開いている首枷の下半分に首を乗せた。アンは、王女の椅子からサッと降りて、楽しそうに首枷の上半分を降ろし、首枷をくっつけて、カチリと鍵をかけて、首枷を固定した。
「ああっ」
少年は、思わず、声を出した。恐怖から、首を動かそうとしたが、鍵のかかった首枷からは、もはや逃れることは出来なかった。
ギロチンの上の桟には、滑車が取りつけられていた。刃に取り付けられている太い縄が、その滑車を通って、断頭台に取り付けられてある取っ手に、しっかりと結び付けられている。縄が取っ手に、結びつけられているため、刃は落ちないのである。取っ手に結びつけられている縄がはずされると刃は瞬時に落ちてしまう。アンは、取っ手に結び付けられた縄をはずした。
「さあ。これを持ちなさい。放すと刃が落ちちゃうわよ」
そう言って、アンは、少年の右手に縄を握らせた。
「ああー」
少年は思わず叫んだ。鋼の刃のかなりの重さのかかった縄を、少年は力の限りギュッと握りしめた。それは少年にとって命綱だった。手を放したら重い刃が落ちて、少年の首は、切断されてしまう。そんなこと、おかまいない、といった様子でアンは、ふふふ、と笑った。アンは、化粧用の等身大の姿見の鏡を持ってきて、少年の前に立てた。
「さあ。前を見なさい」
アンが言った。少年はおそるおそる顔を上げて前を見た。
目の前には、首枷をされて、ギロチンの命綱を必死で握りしめている自分の姿が鏡に写っていた。少年は、恐怖で真っ青になって、
「ああー」
と叫んだ。何とアンの残酷なことか。少年に、恐ろしい自分の姿を見せつけて、少年の恐怖感をことさら煽ろうという魂胆である。鋼の刃の縄は間違いなく、滑車を通して少年の手に握られている。縄を握っている手の高さが微かに動くと、刃もそれにともなって、微かに動いた。それは少年に、死の恐怖を、恐ろしい実感として知らしめた。
アンは、ふふふ、と笑って、フカフカの安楽椅子に座った。そして、面白い見世物を見るように楽しそうに、少年を見た。
「アン王女さま。こ、こんなことだけは許して下さい」
少年は真っ青になって訴えた。
「こんなこと、とはなによ。お前が面白い話を思いつけないから、私が面白い遊びを考えてあげたんじゃないの。スリルがあって楽しいでしょ」
「ぼ、僕は面白くないです。死ぬほどこわいです」
「お前は私を楽しますのが仕事なんだから、いいじゃない。嬉しがりなさい」
「誰がこんなことされて嬉しがりますか。い、いつまで、こんなこと続けるつもりですか?」
「さあね。私の気のむくまでよ。それまで我慢しなさい」
何を訴えても聞き入れてもらえないとさとった少年は、アンに訴えるのをあきらめた。少年は恐怖に慄いて、必死で縄を握りしめた。もし縄を放してしまったら、少年の命はないのである。
「ふふふ」
アンは、フカフカの王女の椅子にゆったりと座って、フルーツジュースを手にとって飲みながら、ゆとりの表情で、楽しそうに、地獄の恐怖に慄いている少年を楽しそうに眺めた。しばしの時間が経った。だんだん手が疲れてきて、少年は、ハアハアと息を荒くするようになった。額は汗でびっしょりである。
「王女さま。も、もう限界です。許して下さい」
少年は涙に潤んだ瞳をアンに向けて訴えた。だがアンは、フカフカの王女の椅子にゆったりと座って、フルーツジュースを飲みながら、ゆとりの表情で、楽しそうに、地獄の恐怖に慄いている少年を楽しそうに眺めている。
「わかったわ」
そう言って、アンは、フルーツジュースをサイドテーブルに置き、ソファーから降りて、少年の方にやって来た。
「か、感謝します」
少年は、泣き濡れた目をアンに向けて、弱々しげな顔つきで、ペコペコ頭を下げた。少年は、てっきり断頭台から降ろしてもらえるものだと思って、涙のうちに感謝を込めてアンを見つめた。だがアンは黙って少年を、見つめた。
「ふふふ」
とアンは笑った。その笑い方には、何か底意地の悪いものがあるように見えた。
アンは、必死で命綱を握りしめている少年の脇腹をコチョコチョとくすぐりだした。
「ああー。王女さま。何をするんですか」
少年は真っ青になって叫んだ。命綱を握っている左腕は、ただでさえ力の限界で、珠の汗にまみれて、プルプル震えていた。その脇腹をくすぐろうというのである。少年は、アンの残酷さに芯から戦慄した。
「や、やめて下さい。王女さま」
少年は、はり叫ぶような悲鳴を上げた。だが、アンはやめない。少年が苦しめば、苦しむほど、アンは、嬉しがっているように見えた。アンは、少年の首筋をくすぐったり、耳を引っ張ったり、鼻をつまんだり、と散々、動けない少年の顔を散々悪戯した。
「ああー」
少年は、アンに弄ばれて、苦しそうに眉を寄せて叫んだ。だが、アンは楽しそうに笑っている。アンは、ふふふ、と笑った。アンは、ティッシュペーパーを一枚、取り出すと、先を丸めて、紙縒りをつくった。そして少年の鼻の穴に紙縒りを入れた。紙縒りに刺激されて鼻がムズムズし出した。
「ああー。やめて下さい。王女さま」
これほど辛い責めはなかった。ただでさえ、重い命綱を握りつづける少年の力は限界に達している。そんな少年をさらに、苦しめようというのだ。アンは、執拗に少年の鼻を紙縒りで刺激しつづけた。少年は、鼻腔を刺激されるもどかしさに、ついに、
「はっくしょん」
と、大きなくしゃみをした。少年の鼻からは鼻水が垂れた。アンは、ふふふ、と笑い、少年の鼻をティシュペーパーで、挟んだ。
「さあ、チーンしなさい」
言われるまま少年は、勢いよくチーンした。
「王女に鼻をかませるなんて、ずいぶん無礼な道化師ね」
「アン王女さま。もう許して下さい。くしゃみする時に、命綱を放してしまいそうになってしまいました。もう限界です」
少年は、泣きながら目の前のアンに訴えた。
「しょうがないわね。じゃあ、情けをかけてあげるわ」
そう言うと、アンは、立ち上がって、少年の顔の前から、命綱を握っている少年の右側に位置を変えて座った。アンは、ブルブル震わせている少年から、命綱を両手でつかんだ。
「さあ。もう疲れたでしょ。私が綱を持ってあげるから、手から縄を放しなさい」
そう言ってアンは、ギロチンの命綱を両手でしっかりと持った。縄の引っ張る力がなくなって、少年は、生き返ったように、ほっとした。
「ありがとうございます。アン王女さま。感謝します」
そう言って少年は、縄を放した。少年は、長い時間、縄を握らせていた疲れから開放されて、グッタリと右腕を床に落とした。少年は、慈悲をかけてくれたアンに感謝の目を向けた。だが、何だか様子が変である。アンは少年を、意地悪な目つきで見て、ふふふ、と笑った。少年はおびえながらアンを見た。アンは、いきなりパッと持っていた命綱を放した。ギロチンの刃がサーと落ちてきた。
「ああー」
少年は真っ青になって悲鳴を上げた。あわや、少年の首が、という時に、アンは、ギュッと縄をつかんだ。ギロチンの刃は、少年の首のすぐ上で、止められた。アンは、ふふふ、と笑っている。アンは、またゆっくりと命綱を引っ張って、黒金の刃を上に引き上げた。少年は目の前の鏡で、恐ろしそうに刃とアンを見た。刃が上に上がるとアンは、また、パッと持っていた命綱を放した。ギロチンの刃がまた、サーと落ちてきた。
「ああー」
少年は真っ青になって悲鳴を上げた。アンは、また少年の首の上のギリギリの所で、命綱をギュッとつかんだ。ギロチンの刃は、少年の首のすぐ上で、ギリギリに止められた。アンは、ふふふ、と笑い、また命綱を引っ張って、黒金の刃を上に引き上げ出した。
「お、王女さま。やめて下さい。こんな恐ろしいこと」
少年は、縄を持っているアンに訴えた。
「こんなこと、とはなによ。お前の手が疲れて、可哀相だと思ったから、私が持ってあげてやっているのよ。感謝しなさい」
「で、でも、こんな恐ろしい事をするなんて思ってもいなかったんです」
「スリルがあって、面白いじゃない」
「僕は死ぬほど怖いです」
「じゃあ、縄はお前が持つ?」
少年は迷った。アンが縄を持ったら、アンは、また腋をくすぐったり、鼻に紙縒りをいれたりするだろう。それも耐え切れない。少年は決められずに、弱々しい顔でアンを見つめていた。
「さあ。どっちにするのよ?くすぐったりしないわよ。その代わり、明日の朝まで、ずっと持ち続けているのよ」
アンが、イライラして聞いた。
「ゆ、許して下さい。王女さま」
少年は弱々しい顔で、ペコペコと頭を下げてアンに哀願した。
「しょうがないわね。じゃあ、特別に情けをかけてやるわ。その代わり、お前は私の奴隷になって、私のいう事は何でも聞くのよ」
「は、はい。何でも聞きます。アン王女さま」
少年は目から涙をポロポロ流しながらペコペコと頭を下げた。
アンは、やれやれ、といった顔つきで、命綱をギロチンの桟に取り付けてある取っ手に、グルグルと巻きつけて、しっかりと固定した。
「か、感謝します。王女さま」
少年は目から涙をポロポロ流しながらペコペコと頭を下げた。
「さあ。足をお舐め」
アンは、ふふふ、と笑いながら、少年の顔の前に素足を差し出した。
「はい。アン王女さま」
少年はむしゃぶるように、アンの足指を犬のようにペロペロ舐めた。少年には、もう恥も外聞もなかった。アンのご機嫌をとることが、殺されないことなのだから無理もない。
「首枷をはずして欲しい?」
アンが聞いた。
「はい。お願いします。王女さま」
少年は、目に涙を浮かべながらペコペコ頭を下げて哀願した。無理もない。ギロチンの命綱は固定されてるとはいえ、絶対、落ちてこないという保障はない。縄が千切れるということだって、あり得なくはない。こんな首枷をされたままでいては、神経が参ってしまう。もう、ただでさえ少年の神経は参っていた。
「しょうがないわね。じゃあ、特別に情けをかけてやるわ」
アンは、そう言って首枷を固定している鍵を外した。そして、ソファーにゆったりと座った。少年は、首枷の上半分をそっと持ち上げて、首枷から頭を引き抜いた。これでやっと、完全に安全な身になった。少年はハアと大きなため息をついた。だが、ほっとしたのも束の間。少年は急いで、アンの元に行くと、四つん這いになった。
「アン王女さま。お慈悲を感謝いたします」
少年はそう言って、アンの足指を犬のように一心にペロペロ舐めた。
「ふふ。犬みたい」
アンは、一心に自分の足指を舐めている少年を見て笑った。
「お前も、疲れてお腹が減っているでしょ。美味しい物をあげるわ」
そう言ってアンは、皿に、パンを千切って乗せた。
「ちょっと後ろを向いてなさい」
「はい」
少年は言われるまま後ろを向いた。
「絶対、振り向いちゃダメよ」
「はい」
少年の背後で服の擦れる音がした。次に、シャーという水が物に当たる音がした。そしてまた、服の擦れる音がした。
「さあ。いいわよ。前を向きなさい」
アンに言われて少年は、振り返った。少年の前には、床に皿が置いてあり、それには千切られたパンの断片が5~6個、乗っていた。しかし、そのパンは濡れていて、皿も水で一杯に満たされていた。その水は少し、黄色く、湯気が立っていた。それがアンの小水であることは、明らかだった。
「さあ。犬のように四つん這いになって、それを食べなさい。私の特製の味付けのご馳走よ」
少年は、四つん這いになって、犬のように舌だけで、濡れたビスケットを食べ出した。
「どう。味は?」
アンが聞いた。
「お、美味しいです」
そう少年は答えたものの、それは、少し、しょっぱかった。しかし、殺されなくてすんだことを思うと、本当に美味しく感じられた。少年は濡れたパンを一心に食べた。
「皿にある液体も全部、飲むのよ」
アンが命令した。少年は、パンを全部、食べると、舌でペロペロと皿の液体をチューチュー啜って飲んだ。そしてペロペロと皿を舐めた。
「どうだった。味は?」
アンが聞いた。
「お、美味しかったです」
少年は、頬を赤くして答えた。
「そう。それはよかったわ。それなら、これからは、お前の食事は全部、私の特製の味付けにしてやるわ」
アンは言った。
「あーあ。疲れちゃった。でも楽しかったわ」
そう言って、アンはベッドにゴロンと横になった。
☆ ☆ ☆
その日から、アンは、毎日、少年を、色々な拷問にかけるようになった。鉄の処女。引き伸ばし。逆さ吊り。水責め。虫責め。ファラリスの雄牛。など。少年をありとあらゆる拷問にかけた。少年は精神も肉体もボロボロに参ってしまった。
☆ ☆ ☆