かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 123

2023-09-29 14:41:06 | 短歌の鑑賞
 2023年版 渡辺松男研究14【寒気氾濫】(14年4月)まとめ
    『寒気氾濫』(1997年)50頁~
    参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、N・F、
        藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:鈴木良明    司会と記録:鹿取 未放
             

123  シベリアより寒気氾濫しつつきて石の羅漢の目を閉じさせぬ

      (レポート)
 シベリア方面から寒気団が日本へ南下して、西高東低の冬型の季節になる。本歌は、その寒気団の南下の影響を真っ先に受ける山間部の描写である。石の羅漢には様々な表情があるのだが、その中で黙想している羅漢の顔が、突然の寒さに「うー寒い」と思わず目を閉じたように見えたのだ。何も感じないはずの「石」の羅漢、その目を閉じさせた、という表現に、「寒気氾濫」のすさまじさが強く伝わってくる。(鈴木)


          (当日発言)      
★この歌から歌集の題をとったと作者が書いていたよね。(藤本)
★羅漢が目を閉じたのは「うー寒い」よりはもう少し深い哲学的な思いという印象でう
 けとっていたんですが。(鹿取)
★石の羅漢を持ってきたのが渡辺さんの推敲の結果で、寒気氾濫に対して何をぶつける
 か、これに定着するまで悩んだんじゃないですかね。(N・F)
★石の仏は歌の世界ではよくある素材で、斎藤史さんとか詠っていますし、ここで悩ん
 だとは思わないですが。松男さん、山をよく歩かれるし、群馬県の育ちですから石に
 彫られた羅漢というのはとても身近な存在だと思われます。吉川宏志さんが石の仏を
 詠った好きな歌があります。正確に覚えていないのですが、仏を彫った石が風化して
 しまうことを、ただの石にかえると言わないで、仏がこの石を去っていくという表現
 が非凡だと思っています。(鹿取)

※鹿取の発言の歌。
   秋雨に目鼻おぼろになりながら仏はやがてこの石を去る
            吉川宏志『曳舟』(2006年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする