2024年度版 渡辺松男研究43(2016年10月実施)
『寒気氾濫』(1997年)【半眼】P146~
参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
363 君の乳房やや小さきの弾むときかなたで麦の刈り取り進む
(レポート)
362首目(ぶな若葉風のきみどりさんさんとふいに誰かを抱きたき日照雨(そばえ))を受けての一首か。青春映画のようにも感じる。上の句の作者の仄かなエロスに、下の句の「麦の刈り取り」という実景を添えてリアリティのある歌。作者の視線の動きも伝わる。気をそらしたい気分か。(真帆)
(当日意見)
★そうか、私はこれはメイクラブの場面かと読んでいましたが、なる
ほど、外 の情景と取った方が 良いのでしょうね。一連の歌の場
の中にお いても、その方が自然な流れです。君が走ったりすれば
乳房も弾むわけだし、「麦の刈り取り」も目に見えるものとしてあ
るわですね。今までメイクラブと思って読んでいたので、自分たち
は室内にいて夢中で抱き合っているが、彼方には「麦の刈り取り」
という労働の現場があるのを頭の片隅で意識しているって思ってい
ました。他の人たちはどう解釈されますか。(鹿取)
★私は泉真帆さんの感じです。外の状況でしょう。でも、どうにでも
とれますね。(鈴木)
★青春性と麦が合いすぎているような気がする。さっきのそばえはよ
く合っていたんだけど。(慧子)
★うーん、私は麦を青春性とは思わないですね。むしろ、中年男の純
情。だから、恋している自分にはかすかに麦苅りという労働に対す
る引け目がある。(鹿取)
★これ、春一番から季節的には移ってきていますよね。長い間に作っ
た歌をまとめたんでしょうか。(鈴木)
★麦の刈り取りは初夏ですよね。だから薄着になって今まで隠れてい
た胸が現れた。(M・S)