かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  292

2021-08-23 19:10:16 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究36(16年3月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)120頁~
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明 司会とテープ起こし:泉 真帆

◆文中※印の(事前意見)は、鹿取が当日発言する為に事前にメモしていたものですが、当
  日急用で欠席したためレポートや当日発言とは対応していません。
     

292 はるばると書類は軽く身は重く霞ヶ関へ𠮟られに行く

        (レポート)
 地方自治体の職員である作者は、課題になっている事項についての対策をとりまとめ、霞ヶ関の所管の官庁に直に説明し、報告しなければならないのだろう。問題のない単なる報告であれば電話や郵送で済むのだが、この歌の書類は、なかなかまとめにくい厄介な書類なのかもしれない。「書類は軽く」というなかに、内容的にも不十分なので「軽い」という意識もあり、𠮟られることは必定なので、身は一層重く感じられるのだ。(鈴木)

      (事前意見)※
 こういう仕事の現場とか役所のシステムはよく分からないのだが、どういう事情で叱られにゆくのだろう。「書類は軽く」とあるが実際には鞄がぱんぱんになるほど重い書類を提げていたのかもしれない。その書類作成の為に膨大な労力を費やしてもいるだろう。それが報われないで叱られに行く。〈われ〉の落ち度で書類に不備があったりしたのなら叱られるのもやむをえないが、難癖をつけられたり、理解が得られなかったりと不本意に叱られることになったのかもしれない。あるいは、部下の落ち度を上司である自分が叱られにいくこともあろう。そんな不服従の気分が「𠮟られに行く」にはあるような気がする。よって「書類は軽く」はいわば「身は重く」と対比させるための虚辞かもしれない。しかし「書類は軽く」があることで〈われ〉は戯画化され、歌は被害者意識に満ちた敗者の押しつけのいやらしさから遠いものになった。(鹿取)


        (当日発言)
★本音なんでしょうね。「書類は軽く身は重く」ってとってもリズム感のある言葉で。はる
 ばる𠮟られに行くっていうのはせつないなと思いますね。とても尊敬してしまうお歌で
 す。(船水)
★私はこの、「はるばると」と頭に据えたところがお上手だと思いました。書類は軽く身は
 重くということを、なにか他の次元へ移したような詠い方。(慧子)
★かなり気にしていらした感じですね。𠮟られに行くことに対して。書類が軽いっていうの
 と身が重いというのは、反対のものを上手に歌にされていると思いました。(曽我)
★詠み方がすごく明るいですよね。さっき慧子さんが言われたように、「はるばると」こ
 れ、たのしい感じですよね。軽いのと重いのと対比しながら明るく詠んで本音を言って
 る、すごくなんか良いですよね。これ重い話だから重く詠まれちゃうと引いちゃうんで
 すよね。(鈴木)
★お勉強なので伺ってもいいですか?「とぼとぼと書類は重く身は軽く霞ヶ関へはるばる
 と行く」じゃあおかしくなっちゃいますよねえ。(船水)
★付き過ぎっていうか、そういう感じになりますねえ。(石井)
★素朴な感じになっちゃうんですよ、とぼとぼと、と言うと。(鈴木)
★やっぱり「はるばると」じゃないと、なんか、行かないといけないような感じが出な
 い。(石井)
★こどものような感じの心ですね。素直で。(M・S)
★結局、居直っちゃってるところもあるんですよね。どうにでもなれみたいな。それでもは
 るばると、書類も軽いし、みたいな。(鈴木)
★書類が軽いというのをね、ちょっと揶揄しているような感じと取っちゃったんですね。
   (石井)
★そうですそうです(鈴木)
★おそらくその書類はどのような内容かはわかりませんけれど、数字をちょっと変えると
 か、そんな程度のことでね、なんで自分はこんな霞ヶ関に行かないといけないんだ、とか
 何かそんな忸怩たる思いもあるんでしょうね。だから「𠮟られに行く」というような結句
 に持ってきたのかなと思いました。(石井)
★わざとユーモラスに詠っているんだと思います。植木等さんみたいに。「身は重く」まで
 はユーモラスに詠って、「𠮟られに行く」と悲劇的に終る。(M・S)
★そうですね。霞ヶ関へ報告に行く、だと面白くないですものね。やはり「𠮟られに行く」
 というのが効いていますよね。(石井)


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