あのうの幸せトンボ

日々の何気ない出来ごとを、思いつくままに……。

Tちゃん

2013-10-30 21:00:10 | 日記
老人ホームへボランティアに行った。
行き始めて、もう5年になる。

いつもの老人ホームへ行き、
入浴後のお年寄りの髪をドライヤーで乾かしていたら、
私をまじまじと見る視線を感じた。
ふと、視線の主を見ると20代の頃、働いていた会社で
仲良くしていた人である。
私より5歳くらい年上だったが優しい方で、色々と悩みを
聞いてもらったりしていた。
会社を替わった事もあり、会うこともなくなっていたが
忘れられない人であった。

白髪になっていたが、その人に間違いない。まだ70歳くらい。
車いすに座っているその人に
「あれっ、Tちゃん、いつから入所したの?」と思わず聞いた。
「9月から…。死ぬまでここに置いてもらうの」の言葉に
なんと返事をしてよいか、言葉が出なかった。
これから先、何年このホームで生きなければならないのか?
無為な年月を過ごさなければならない彼女に同情しか湧いてこなかった。

いや、このホームへ入所出来たことを喜ぶべきかも知れない。
入所待ちの人が多い中で、旦那さんが亡くなって一人暮らしだったから、
優先的に入れてもらったのだろう。
待っている人たちから見れば、入所出来てよかったと思うのが当然。
でも、とボランティアに来て入所老人たちの姿を目の当たりにしている私は
つい思ってしまう。

「特別養護老人ホーム」であるこの施設は、いわば死を待つ人たちの場所なのである。
誰しも迎える「死」であるが、手厚い介護(?)によって「死」までの時間を
延ばされてしまう場所でもあるのだ。
頭はすでにボケ、車いすに座らされて、手も足も硬直して曲がり、手のひらは堅く握ったまま。
手の指は伸ばすことすら出来ない。
そんな生きているだけの人たちのなんと多いことか。

車いすを押して彼女をテーブルに送り届けた私は、彼女に
「また、来月来るから…。手が開かなくなるから、グーパーして動かしてな」
「うん、そうするわ。また、来てな」と彼女は小さく手を振った。
私も手を振りながら、なぜか熱いものがこみあげてきた。