緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

上腕神経叢症候群の疼痛緩和に効果があった鎮痛補助薬

2009年08月16日 | 医療

がん性疼痛に、神経障害性疼痛が混在していると
オピオイド(医療用麻薬)が効かない(効きが悪い)時があります。

そのような時、
神経の疼痛に効果的な鎮痛補助薬というグループの薬剤を併用します。
抗うつ薬、抗けいれん薬、抗不整脈薬、NMDA受容体ブロッカーなどが
これに相当します。
(余計なことですが・・押尾学が使用したのは、MDMAで別物です)



メキシレチン(メキシチールなど)は、抗不整脈薬ですが、
この鎮痛補助薬にも分類され、
神経障害性疼痛の緩和に効果があるとされています。

糖尿病の末梢神経障害に対しては、保険適応になっています。

末梢神経のNaチャンネルのブロックが
疼痛緩和機序とされています。

ただ、RCTレベルでの有意差はなく、
エビデンスは低いという位置づけになっています。






ガバペンチンが日本で発売される前のこと。

肺がんで右上葉に腫瘤があり、
右頸部リンパ節に転移がある方がいらっしゃいました。

右肩から上腕外側にかけて、
8/10点程度の知覚過敏性神経障害性疼痛(ビリビリ痛いようなしびれ)で
コンサルテーションを受けました。

ホルナー徴候はなく
神経障害性疼痛の広がりから
責任病巣は右頸部リンパ節転移と診断できました。

典型的な上腕神経叢症候群でした。




すでに、非ステロイド性抗炎症薬、オピオイドは投与されていました。
オピオイドの速放剤が急な痛みや強い痛みに準備されていましたが
このレスキュードースは、まったく無効でした。

そこで、鎮痛補助薬としてメキシチール(100)3Cap 分3 を併用開始しました。


このような鎮痛補助薬の特徴として
速効性に欠けるということがあります。
効果判定に数日かかるのです。

メキシチールは、典型例では5日と言われています。

この方にも、その旨説明し、
少なくとも、1週間は副作用がない限り飲み続けることの了解を頂いていました。

投与開始後・・・
3日目、まったく変わりません。8/10点のままでした。
4日目、ちょっと、雪解けのような感じと表現してくださいました。
が・・NRS(疼痛を数値化する方法)では、7/10点でした。まだまだ・・・
5日目、いいんですよ~と患者さん。NRSで、2/10点まで、改善です!

ぴったり5日目!
著効でした!!!





エビデンスが弱い薬剤でしたので、
どうかなあ・・と思いながらの処方でしたが、
以前、上腕神経叢症候群の方や
肺線がんの神経障害性疼痛に著効した経験があったので、
患者さんが、チャレンジしてみるよと言ってくださったのでした。

メキシレチンの投与で好ましくない点としては
・痛みによっては、効かないことがある
・一日3回内服しなければいけない
・カプセルなので、喉にくっついて飲み辛い方がいらっしゃる
・脱カプセルすると苦くて飲めない
・副作用は、消化器症状。
・心疾患がある場合は、注意を要する
などなど・・

鎮痛補助薬の選択は、本当に難しいです。

でも、この方のように、見事に、5日目にして、
こんなにも切れ味よく効いてくれると
本当に、本当に、ホッとしたのを覚えています。

コメント (7)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 虫垂炎が腹膜炎を起こしてい... | トップ | 素敵な言葉 »
最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
試してみます! (若紫)
2009-08-16 22:15:25
メキシチールは、どうも切れ味が悪い気がしていて、ガバペンや場合によってはケタミンに頼ることが多かったのですが、こんなにバシッと効くこともあるんですね~。
効いてくれると本当に嬉しいですよね。

いまちょっと困っている患者さんがおられるので、早速試してみようかと思います。
ありがとうございました。
返信する
若紫さん (aruga)
2009-08-16 22:44:48
早速のコメントありがとうございます!

若紫さんは、本当にがん性疼痛の沢山の経験をお持ちなのですね。ガバペン、ケタミン・・と出てくるところがさすがです。

必ずしも、その患者さんに効果があるかといわれると・・チャレンジしてみないとわからない・・ので、私自身も、最近は無難な路線で、ガバペンが多くなってしまいました。
でも、効く方には、こんな効き方もしますから、チャレンジの価値はあるかもです。

バシッと、効いてくれますように!!!
返信する
再度チャレンジします! (ぷう)
2009-08-22 21:07:51
普段乳癌患者さんの薬剤指導を行っています。腕のビリビリ感がとれない方が沢山いて、本当に歯がゆい思いをしていました。以前にメキシチールの使用を提案した方もあまり効果がなかったためそれ以降私自身もなかなか主治医に提案しずらかったのですが、先生のブログを拝見し、もう一度メキシチールの勉強をしなおそうと思いました。いつも、わかりやすい内容、ありがとうございます。患者さんの痛みをとることができず、行き詰ると、いつもこのブログをみて、パワーをもらっています!
返信する
ぷうさん (aruga)
2009-08-23 18:25:54
乳がんの場合は、リンパ液の停留や炎症性の浮腫などを伴っていることが多く、しびれといっても、一概に神経障害性疼痛で評価しきれないことが多いです。NSAIDsまたはアセトアミノフェンが併用されているか、局所に発赤や熱感、浮腫はないかの確認、採血でCRPやWBCの値のチェック、しびれの性状(知覚過敏か知覚低下か、交感神経が関与するようなしびれではないか)などの評価の上、薬剤を選択してくださいね。NSAIDs、ステロイド、複合的なしびれならガバペンの方が効く可能性は高いです。浮腫の筋膜刺激や表皮の疼痛に効果があることがありますので。
返信する
ありがとうございます! (ぷう)
2009-08-23 19:01:02
先生、丁寧な解説、本当にありがとうございました!鎮痛補助薬って、本当に奥が深くて難しいです。また、色々勉強させてください!
返信する
すいません、相談よろしいでしょうか (wanwa)
2009-08-23 21:41:10
初めまして、いつもBlogロムさせていただいてます、PKの再発患者です。
私、5年前にPKにてpPPD、先日肺メタと診断され、近ペインクリニックにてオキシ5mgx2(day)の緩和医療いただいてます。吐き気止めにノバミン5mgx2を食事毎に服用しているのですが、吐き気が止まらず難儀しています(眠気より眩暈がひどいです)。
実はオキシコンチンは2年前にリンパ再発した際も服用し(CRになったのでやめました。服用は14ヶ月ぶりです)、このときはこんなに吐かずにすんだのですが、先生は、このような時、どのような服薬を考えられますか?
DMの合併があり、前回より進んでいるため、腎機能低下しているのかもしれないのですが、どのような検査を要求すべきなのでしょうか?(痛みは確かにとれるのでいいんですが、こう吐いていては仕事が。。。)
突然の質問コメント、申し訳ありません。お暇とれましたら、ご回答いただけるとありがたいです。
返信する
wanwaさん (aruga)
2009-08-24 22:14:02
お立ち寄りくださり、また、コメント頂き、ありがとうございます。
拝読させていただくと、お受けになっている医療も、ご自身の体もよく分かっていらっしゃって、的確な内容だなあと感服いたします。
このブログの趣旨から、ご質問いただく皆様には、医療をお受けになっていらっしゃる方のご質問は、ここでは控えさせて頂きたい旨お願いしています。一つ一つ、病態で判断しなくてはいけませんので、本来診察させて頂いて、初めてコメントできるような内容になります。
どうぞ、ご理解くださいますよう、お願いいたします。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医療」カテゴリの最新記事