緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

オピオイドの便秘は鎮痛効果が出る前に生じています

2015年05月10日 | 医療

オピオイド3剤の薬理特性(鎮痛、腸蠕動抑制、行動抑制、呼吸抑制)を背景をそろえて(ラット、皮下注)、末梢薬物濃度との関係を明らかにすることを目的とした実験。

鎮痛効果は、Tail-flick test
腸蠕動抑制は、ひまし油経口投与後、5,15,30分オピオイド投与し、下痢の程度とその抑制度を3段階評価
その他、運動能、呼吸状態などと薬物の末梢と中枢の濃度を測定。

A. Nakamura, et al. Distinct relations among plasma concentrations required for different pharmacological effects in Oxycodone, Morfhine, and Fentanyl. Journal of pain & palliative care pharmacotherapy. 2011; 25:318-334



結果の一部を以下に。



鎮痛効果を1としたところ、

オキシコドン  便秘 0.9 行動抑制  2    呼吸抑制 200
モルヒネ     便秘 0.1 行動抑制  3    呼吸抑制 200
フェンタニル  便秘 1.1  行動抑制 1.1   呼吸抑制 100

という結果が示されています。

あくまでも、ラットの結果であり、
人にどこまで適応できるかという問題はありますが、
目安になります。



オキシコドン、モルヒネは、
鎮痛効果が出る前に便秘になっています。

つまり、痛みがとれる前に、便秘になっているのです。

オピオイド開始と同時に、下剤はやっぱり必要です。
開始した後、便秘になってから下剤でいいか・・なんて、思っていては遅いです。


フェンタニルは、鎮痛効果とほぼ同時に便秘になります。
フェンタニルは、便秘が少ないので、
下剤は不要と思っている医療者もいますが、
便秘になります。

フェンタニル貼付剤は、
他の薬剤で導入した後で切り替える薬剤のため、
切り替えた最初から併用はしておくべきですね。





呼吸抑制が心配という医師がまだまだいますが、
この結果では、鎮痛効果の100~200倍の血中濃度で抑制されています。
(他の実験で、皮下投与量が増えると
 血中濃度も線形性に上昇することが示されています。)

ただし、臨床では、単に100~200倍で抑制が起こるというだけではなく、
投与速度がこれに関係してきますから、
急速投与(静注などの投与速度が速くなるなどしたとき)では、
もっと少量で起こりえることには、注意が必要ですが。




オピオイドスイッチングをすることから、
なんとなく、3つのオピオイドは同じものと感じる人もいますが、
結構異なります。

他の実験で、脳内移行がオキシコドン、フェンタニルはよいのですが、
モルヒネは悪いことが示されているものもありました。

その結果をいかして、
臨床では、中枢の腫瘤による頭痛や
脳血管障害による頭痛にオピオイドを用いる時は、
フェンタニルかオキシコドンを選択するようにしています。




オピオイド開始時の嘔吐が
やはり鎮痛効果がでるよりも
ずっと低い血中濃度で出ることが
すでに、報告されていますが、
この論文で、2剤については
便秘も鎮痛効果以前にでることがわかり、
本当に興味深いものでした。

コンサルテーションにいかしていきたいと思います。


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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2015-05-11 22:55:14
すみません、知らなかったのでとても勉強になりました!

ありがとうございます。
明日からに生かしていきます。
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Unknown (ken)
2015-05-17 18:44:46
痛みを抱える当事者にしてみれば、便秘より、吐き気より、痛みが取れさえすれば、もうそれだけで十分、、というのが本音だったりします。

それより、眠いのですが、これは呼吸に関係するのでしょうか?服用量が多すぎるのでしょうか?
行動抑制や呼吸抑制に関係するのでしょうか?

痛みがなく体が軽い、たったそれだけのことでこんなに心穏やかにいられるなんて、初めて知りました。
長い長い時間がかかりましたが、ようやくたどりつきました。
いまただゆっくり眠りたいです。
返信する
ありがとうございます (aruga)
2015-05-18 00:37:48
生かしていくと言っていただけて、とても、嬉しいです。
コメントくださり、ありがとうございました。
返信する
Kenさん (aruga)
2015-05-18 00:44:41
痛みがないことが楽に感じられることを言葉にして頂き、本当にありがとうございます。
どんなに多くの患者さん方が励まされることか・・

眠気は開始直後には、薬の副作用として25%位の方に最初に1~3日位でることがありますが、今まで、痛みで体が休めていないと感じていたような時は、痛みがとれて体がやっと休めるようになって眠気がでる(薬の副作用ではなく、体が休養を求めている)のかもしれません。
まずは、ゆっくりと休んでみてくださいね。
返信する
Unknown (レンコン)
2015-06-04 09:35:17
数年ぶりです。教えてください。骨メタのある患者さんで、ベースはフェントステープ5mgを使用し、定時でカロナール1800mg、リリカやサインバルタで痛みをコントロールできていたのですが、経口での服用ができなくなり、モルヒネの持続皮下注が開始となりリリカやサインバルタが飲めなくなってしまい、痛みがとりきれずにいます。ロピオンやアデフロニック座薬は胃穿孔の既往があるため積極的には使用できずにいます。骨メタの痛みを取る方法は何かありますか、教えていただければと思います。
返信する
レンコンさん (aruga)
2015-06-07 21:59:19
鎮痛補助薬の内服が困難となったために疼痛悪化しているとアセスメントされているなら、
ケタラールまたはリドカイン持続点滴

第1ステップ薬の問題が大きいとアセスメントされるようでしたら、
アセトアミノフェン静注薬(アセリオ®)

その他、ビスフォスフォネート、ストロンチウムを検討します。
フェントス投与されていたようですので、フェンタニル注射薬でもよいかと思います。
返信する
Unknown (レンコン)
2015-06-08 20:46:43
ありがとうございました。ケタラールやリドカインの持続点滴は行ったことがありませんでしたが、まだまだやれることってあるんですね。もっと勉強しなくてはと思います。
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