江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

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新説百物語巻之四 11、人形いきてはたらきし事

2023-05-08 21:35:55 | 怪談

新説百物語巻之四 11、人形いきてはたらきし事

                     2023.5
 
 ある旅の修行僧がいたが、東国に至って日がくれ、野はずれの家に宿をかりて一宿した。
その家のあるじは老女であって、むすめ一人と只二人でくらしていた。
僧に麦の飯など与えて寝させた。

夜がふけて、老女がこう言った。
「これ、むすめ。人形を持ってきなさい。湯あみさせよう。」と言った。
旅の僧は、ふしぎな事を言うものだなと、寝たふりをして、そっと見守っていると、納戸の内より六七寸ばかりのはだか人形を二つ、娘が持ち出して老女に渡した。
おおきな盥に湯を入れ、かの人形を湯あみさせると、その人形は人のように動き出し、水をおよぎ、自由に動き回った。

旅の僧は、あまりにふしぎに思って、起き出した。
そして、老女に、
「これはなんの人形ですか?さてさて面白いものですね。」と尋ねた。
老女は、
「これは、このばばが細工したもので、ふたつ持っております。
ほしければ、一つ差し上げましょう。」と言った。

修行僧は、これはよいみやげが手に入った、と思って、風呂敷包の内にいれて、あくる日、挨拶をして、その家を出ていった。

半里ばかりも行くと思えば、風呂敷包の内から、人形が声を出した。
「ととさま、ととさま」と呼んだ。
ふしぎながらも、「なんだい?」と答えた。
「あの向こうから来る旅の男は、つまづいてころぶよ。何でもいいから、薬をあげてね。お礼に、一分金をお礼にくれるよ。」
と言っている内に、向こうから旅の者が来た。

うつむきにこけて、鼻血を多く出した。
その僧は、あわてて介抱し、薬などをあたえた。
すると、気分が良くなり、お金を一分取り出して、坊さんにお礼としてあたえた。
坊さんは辞退したが、旅人が是非とも受け取って欲しい、と言うので、受け取った。

又、しばらくして、馬に乗った旅人が来たが、またまた風呂敷の内から、
「ととさま、ととさま、あの旅のものは馬から落ちるよ。薬でもあげてね。銀六七匁をくれるからね。」
と言う内に、はたして馬から落ちた。

なんとか介抱したら、成程、銀六七匁をくれた。

旅の坊さんは、何となく恐ろしく思って、人形を風呂敷から取り出し、道のはたに捨てた。
人形は、生きている人間のように立ちあがり、何度すてても、
「もう、ととさまの子なのだから、はなれないよ。」と追いかけて来た。
その足の速いこと飛ぶようであった。
終に追付き、懐の内に入りこんだ。

変なものを貰った事よ、と思って、その夜、又々次の宿に泊った。

夜に、そつと起き出して、宿の亭主に、これまでの事を詳しく話した。
「それでは、うまい方法があります。
明日、道の途中で笠の上に乗せ、川ばたに行って、はだかになり、腰だけばかりの深さの所で、水にづぶづぶとつかって、水におぼれた真似をして、菅笠をながしてください。」と教えた。

その翌日、教えられた通りに、深くない河で、水中にひざまづき笠をそっとぬいだ。
人形は笠にのったまま流れて行った。

その後は、何の変わった事もなかったそうである。



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