『浪華奇談』怪異之部 10.猫のあやしみ
2024.4
高麗橋三丁目に近江屋何某(なにがし)と言う家があった。いづかたよりともしらず黒い雄ねこが来たので、そのまま飼った。
しかい、何とやら妖しいことが多く、人がいない所では、人のように立って歩行し、あるいは、人の言葉を話しなどした。
それで、その家の亭主も、黒猫をうとんじて四五町(ちょう:500㎡位)も離れた場所に追放したが、半日程の間に帰ってきたそうである。
その次は、この猫を器に閉篭(とじこめ)、せんだんの木橋(栴檀木橋:大阪市北区)を北へわたり、中の島より大江橋を北へ越えて難波小橋を東へ行き、もはやここに捨て置いたならば、よも帰りもしないだろうと、放った。
しかし、それより二日過ぎて、またまたかの猫は家に帰ってきた。
人々は、大いに仰天して、そのままたたいて追い出しだが、これより家には入らなくなった。
しかし、隣の家を去らずにとどまっていた。程なくこの家に、他から新たに児猫がもらわれて来た。
すると、かの古猫は、人がいない隙をうかがって、家の内へ入って来て、子猫を大いに噛んだそうである。
人々は、また妖猫(ばけねこ)が来た、と言って追い出したが、それより何処に行ったのか、再び現れることはなかった。
昔より、猫が怪をなす事は、珍しくない。
このような妖物(ばけもの)を家にやしなわなくても、良いであろう。
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