江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

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新説百物語巻之五  1、高野山にてよみがへりし子どもの事

2023-07-02 17:41:05 | 新説百物語
新説百物語巻之五  1、高野山にてよみがへりし子どもの事
                2023.7
京の錦小路に何院とかいう名の高貴な僧がいた。
ある年、高野山に上ったが、このような話を聞いてきて語った。

この四年前に、ふしぎなことがあった。
この高野山の麓の村の十二三歳になるものが熱病をわづらった。
とやかく介抱したが、その甲斐もなく亡くなった。
父母は、どうしようもなくて、この山に葬った。
七日目の夜の明け方に、親のもとへ帰って来た。

家の者たちは、幽霊だと思って、大いにおそれ、誰も戸を開ける者もなかった。
その内に、ようやく夜もあけ方になり、父親も家から出て様子を尋ねた。

すると、その子が言うには、
「死んだ時も、少しも死んだとは思わなかった。
ふと目が醒めたようになったので、撫でて見れば箱の中であった。
さては、自分は死んだと思って、さして悲しくもなかった。
しかし、頭の上で大勢の声で、鉦を打ちたたいて念仏を唱えているように聞こえた。
その後は音もしなかった。
又ある時、あたまの上の土をかきのけている音がしたので、箱の蓋をそっと上げた。
開けると、そのまま横にこけて、箱のふたがわれた。向こうを見れば、大きな狼が口を明けていたので、そのあたりの石を拾って投げたら、狼はにげ失せた。
それから、すぐに家に逃げ帰って来た。」
と語った。

念仏の音は、一二日以前に順礼が通って、あたらしい墓を見て、大勢で回向して通った、その音であった。

狼に掘り出されて、ふたたび家へ帰ってきたのは、珍しい事である、との話であった。

それで、この僧はその家に尋ねてゆき、本人に会って、直に様子を聞いて、帰って来た、との事である。


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