新説百物語巻之四 7、火炎婆々といふ亡者の事
2023.5
北国に何寺とか言う寺があった。
その檀家に角山何某と言う者があった。
その母親は普段から、ケチで欲深で無慈悲であった。六十をすぎたが、世間を恐れず、慈悲善根(よいこと)をしなかった。
ただ欲ふかく、わづかづつのお金を貯める事をのみ一生の楽しみにしていた。
しかし、ある時、
「昨夜は、ふしぎな夢を見て、今も体が痛み、起きあがることも出来ない。」と話した。
「その夢の様子は、このようでした。
死んだとは、思わなかったが、正しく絵に描かれた地獄の様な所に行った。
そして、鬼のような蛇のような、恐ろしいのが出てきて、私をひったてた。
それで、その時はじめて仏の事を思い出して、『南無最上寺の阿弥陀如来たすけ給え』と言うと、かの恐ろしい者が、こう言った。
『いくら仏を念じても、お前の罪は、とても重いのだ。せめて貪欲の罪を軽くしてやろう。』と言って、舌を抜けば、舌は金貨と成り、目をほじくり出せば、目は銀子(ぎんす:銀貨または通貨一般)となった。
平たい板で、体の前後ろをはさみ押しつけられると、全身から、はらはらと金銀が落ちて来た。
その苦しみは、たとえようも無かった。
それでも、猶々 阿弥陀如来を信じると思えば、夢がさめた。」と、ふるえながら話をした。
それより病みついて、なにも食べず、日夜、最上寺へ行きたい行きたい、とばかり言って、西の方の窓をあけて顔をつき出し、亡くなった。
その夜、最上寺の納所坊の御堂に、灯明をつけに行くと、東の方から火炎のようなものが飛んで来て、堂の庭にとどまると見えた。
その中に白髪の老女の首が、火のように成って、口から火炎を吐きながら飛ぶのをみて、納所坊は、わっと言って倒れた。
しばらくして、老女が死んだ様子を最上寺へつたえに来た、と栂井(とかい)という姓の人が語った。
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