新説百物語巻之二 9、幽霊昼出でし事
2021.11
一二年前の事であった。
寺町蛸薬師の寺へ、ある侍が来て、このように語った。
「我等の事は御存知の通り、父母もなく、夫婦と家来ばかりにて暮らしておりましたが、近頃養女をもらいました。
当年十六歳になりました。
その娘が、ここ三夜の間、毎夜おなじ夢を見ました。その様子は、若い侍が来て、
「「我は、この世に亡き者である。名を申さなくとも、この家のご主人には覚えがあるだろう。
弔ってくれる人もいないので、中有(あの世とこの世の間)に迷っております。
念比(ねんごろ)に弔い(とむらい)をして頂きたい。」」と言って帰って行った、と夢に見たそうである。
私には、少しは覚えがあります。
我等の傍輩の弟と兄とが不和で、別別に暮らしていましたが、先年、亡くなりました。
当年で八年になります。
その者ではないかと思います。
御弔い下さいと、包銀の様な物を出して頼み込んだ。
住持も、もとより親しい人の言う事なので、
「相心得ました。」
と、念比に弔い(読経する)をした。
その後、又々かの幽霊が、昼間にかの侍の方に来たが、夢に見た人であるった。
それで、娘は殊の外おどろき、逃げようとするのを、かの侍が引き留めて、こう言った。
「驚かないでください。
先日の夢に見えた侍です。
お影にて、弔いを受け、ありがたいことです。
猶々、この上ながら御たのみ申します。
去年の七年忌にも、御法事をしていただきましたが、わたくしには、届かなくて残念に存知ます。」
と言って帰った。
主の侍と行きちがいで(幽霊は)帰ったが、主(あるじ)の目には、見えなかったそうである。
その後、またまた寺へ頼み、法事を行った。
「七年忌に不都合があった。」と言われたのを、住持が思い起こして、考えた。
すると、その折に用事があって、住持は外に一宿し、その翌日帰って廻向をした、との事であった。
その後二月ばかり過ぎて、
またまた娘の夢に出て来て
「いよいよ、浮かばれることとなった。」
と言い、礼に来た。
その後は、再び夢に出てこなかったそうである。
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