診察室の外で暫く待ってる最中、廊下の向こうから女性の大きな声が聞こえてきました。『今度、いつ?○日に来たらエエのん?今日は薬だけでええわ!!』思わず妻と声のする方向へ目をむけると40代半ばくらいの女性・・笑っている顔は、とても痩せており頬骨gさ浮いていました。目が異常にギョロギョロしていて髪の艶もありません。Gパンも、かなり細いタイプで袖から見える腕は木の枝を思わせるほど細く・・しかし声も大きく元気に笑って看護師に話しかけているのです。(この人も拒食症?摂食障害や・・)私も妻も、この時、同時に、そう心でつぶやいていたのでした。数分後、診察室から私達が呼ばれ中に入ると医師の正面に座っている長女の後ろ姿を見て思わず声にならない声が口からでてくるのでした(こんなに・・)とても高校生とは思えない・・老女のような背中に言葉を失っていました。『お父さん、お母さん、どうぞ座ってください。』医師は言葉柔らかく続けて話しました。『少し、お嬢さんと話をしました。点滴では太らないこと、食べたくなければ食べなくていいと伝えています。まず、話を聞いてあげてください。カウセリングは私の先輩であるY心療センターでいいと思いますし連携は取っていきます。今日のところは、お嬢さんの状態を知るため血液と尿検査を行い併せて点滴をします。身体の状態は見た目でも、かなり悲鳴をあげてると感じます。』医師は通院を指示せず来れるときに来ていいとのことでした。点滴治療を終えクリニックを出たとき私の気のせいでしょうか・・長女の顔が少し晴れて見えました。
娘の体重も異常に減り学校への通学も車での送り迎えになるまでに体調は悪化しました。階段も上り下りも困難となり自宅でも何度も倒れる・・長女が学校を休んだ、ある日の午前中・・『A香、病院行こう・・』そう言うと言葉を遮るように『病院は行けへん!!食べろ!食べないと死ぬゾ!!ハイ点滴・・やろ?もうええわ!!』娘の反応は病院拒否。妻が『今度は拒食症の患者も大勢、診てきた先生やねん。そやからA香の気持ちを理解しようとしながら診てくれるから・・』そう言ったそうですが『ウチは食べられへん・・食べるのが怖い・・太るくらいなら死んだ方がマシ!!』なんとか説得し翌日、大阪の上本町にあるTクリニックへブッチョウ顔の長女を連れに阪神高速 法円坂出口を下り鶴橋方面へと車で移動しました。法円坂は上町台地で天王寺へ向かう道には寺も多く大阪市内でも少し落ち着いた街並みでもあり天満橋へ向かう方向は大阪府庁・造幣局・中之島公園・・谷町筋には雑居ビルにマンション・学校と混在しています。上本町駅は近鉄大阪線終着駅で駅北側はラブホ・・南側には赤十字病院・近鉄百貨店に新歌舞伎座とあり梅田や難波のような華やかさはありませんが、どこか大阪らしい文化が漂う街です。上六交差点を左折し鶴橋方面に少し坂を下った途中に、そのクリニックがありました。高層マンションが立ち並び公園もあって昔は市内から郊外へと流れた人口も今では郊外から市内への人口移動が多いらしいですが、まさに象徴的とも言える街づくりを思わせる環境でした。あるマンションの1階にあるクリニックへ入ると予想以上に患者がいて受付にて『インターネットで初診予約した○○です』と妻が言いながらバッグよりY心理療法センターのカウンセラーからの紹介状を手渡すと『はい・・お預かりします。』事務的な受付・・当たり前と言えば当たり前ですが妻も私も何か別な反応を心のどこかで期待していました。長女は既に不機嫌な顔でソファに座りつつ携帯に集中。『病院では・・やめ・・』そう妻が言いだすと”パタッ”携帯を閉じ黙ってポケットに仕舞うのでした。初診のためか待ち時間も長く、漸く『○○さ~ん』長女の名前が呼ばれ尿と血圧・・そして体重・・体重計に乗るとレシートみたいなのが出て重さが、そこに記載される・・血圧計と同じ仕組み。長女は体重を目の前では測らずレシートをGパンのポケットに仕舞いこみ黙ってソファに座るのでした。そして暫くして『○○さ~ん』診察室から長女の名前が呼ばれ妻と私・・そして長女が診察室のドアを開けると40歳半ばの医師が座っていました。医師は『あ、お父さんとお母さんは少し外で待っていてください』そう言い看護師より入室を拒まれつつ診察室のドアが閉まるのでした。