78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎リザイン・ブルーになって社畜の人生 ~賞与と退職金と就業規則~(最終話)

2017-08-03 12:57:48 | ある少女の物語

<退職への道(7)最終決戦>

(社長)「あのさ、繋がらないからって本部に言わないでくれよ。何度もかけなおしたんだぞ?」

 7月14日夕方、社長との電話。早速怒られた。しかし、社長が僕の携帯に折り返してきた形跡は一切無い。可能性があるとすれば、僕が他の人に電話で相談している間にかけてきた場合。それは着信履歴に残らないのだ。

(社長)「あ、あと賞与だけど」

 油断していた。社長のほうからその話をしてきた。SVが言ったのだから当然なわけだが。

(社長)「急に辞めるって言ったから査定が間に合わなかった。7月の給料(8月10日支払い)で支給する」

 これで賞与の問題は先送りとなり、その件に関しては何も言えなくなった。意図的に口を封じられているような気もした。ただ、その言い方からだと減額されることは覚悟せねばならない。ならば次は退職金だ。

(僕)「僕一応5年以上在籍していたんですけど、退職金みたいなものはありますか?」

(社長)「ああ……10年以上居れば出せるんだけど、5年くらいじゃねえ」

 退職金規定は会社ごとに自由に設定できるので、5年で貰えないというのは決して珍しい話ではない。問題なのは、勤続10年以上で支給される旨をきちんと就業規則に書いてあるかどうかだ。
 だがその前にお願いすべきことがあった。

(僕)「では退職日を延ばして、その分有給を増やしてもらえますか?」

===

<よくわかる解説>
 既に8月10日付けでの退職、最後7日間(8/4-10)の有給を了承いただいているものを
 退職日を8月31日に延ばした上で、最後30日間(8/2-31)すべて有給をいただく形に変更したい
 これにより8月分給料が「10日までの日割り」から「〆日(末日)までの満額」に変更となる
(これを賞与+退職金の代替だと思えば納得できる)

※30日の理由:法的に請求する権利のある「今年分16日」と「昨年分14日」の合算
(未消化分を翌年に繰り越せるものとして計算)

※問題点は既に8月10日退職として「退職願」を提出済みであることから、退職日を延ばすには退職願の書き換えが必要になる(法的には可能)

===

 会社ごとに決められる賞与や退職金とは違い、有給休暇は法律で労働者に与えねばならないと定められている。

(社長)「あのさあ僕くん、君が辞めるって言ったことで会社にどれだけの迷惑をかけたと思っているの?」

 社長は再び怒りを露わにした。

(僕)「僕は月31日勤務した時も、相当な時間の残業をした時も、夜勤メインになってからも、耐えてきました」

 今回ばかりは僕も引かなかった。

(僕)「最後に就業規則だけでも見せてもらえませんか? それさえ見せてくれたらすべて納得します」

(社長)「就業規則を見たら賞与の査定に影響が出るけど良いか?」

(僕)「!!!」

 もしかしてだけど、これって「脅し」なんじゃないの? そこまでして見せたくない就業規則。明らかに怪しい。

 以上を前述のSVに報告した。

(僕)「よって、賞与の査定に影響を与えたくないので、本来なら社長への就業規則の開示を本部がしれくれる予定でしたが、しなくて大丈夫です」

(SV)「いやそんなこと言っていませんよ。勝手に話を進めないで下さい」

 ちょ待てよ↓

(お客様相談室)「もし就業規則を見せてくれないなどの法令違反があれば、私どもに相談いただければ、担当SVが開示の要求をいたします」

話が違う。やはりこのSV、乗り気ではなかった。

(SV)「法律云々ではなく、会社への迷惑も考えなければならないんじゃないですか?」

 退職の一か月前には申し出をしているというのに、それだけの猶予があっても会社が人員を確保できないのは会社の責任ではないのか? そして、社長もSVも「未来」への迷惑しか見てくれないのか。迷惑だ迷惑だって、本当にそれだけか? 「過去」の努力に対しては何も思わないのか。5年以上も勤務し、相当な時間のサビ残もし、夜勤で生活リズムと体調を崩し、週1の休みすら貰えないことも多かった人間の当然の権利として賞与と退職金が欲しい、ただそれだけである。

(僕)「就業規則を見せてくれないし、挙句『賞与の査定に影響が出る』と(脅しともとれる発言を)言われた、これについてどう思いますか?」

(SV)「まあ、賞与は強制じゃないですからね」

 駄目だこの人、早く何とかしないと。ここまで感情の見えない、マニュアルに沿うだけの人間を見たのは久しぶりである。本部職員はもう少し店舗社員に寄り添ってくれる存在だと思っていたし、少なくとも過去の担当者はそうだった。


<退職への道(8)労基署の見解>

最終手段として労基署に行き、提出されているはずの就業規則の開示をお願いした。

(労基署)「申し訳ございませんが、その社名では就業規則の提出がありません」

(僕)「えっ、20人以上の会社には提出が義務付けられているんじゃないんですか?」

(労基署)「確かに法令には違反しているんですけど、流石にすべての会社のそれをチェックすることはできかねるので……」

(僕)「つまり、就業規則を提出していない会社は、現実にはたくさんあるということですか?」

(労基署)「そうですね……」

 この瞬間、この世に完全な組織など無いのだと悟った。この国は誰が労働者を守ってくれるのだろうか。

 もちろん、労基署の力で会社に就業規則の開示を求めることはできる。しかし今それを行うと、就業規則を見れたとしても賞与の査定に影響が出る。しかも、そこに退職金規定が書かれていないという最悪の事態も想定しなければならない。いや、もっと言うと、

(知恵袋)『就業規則を提出してないのであればいくらでも書き換えが可能ってことなので残念ながらまずないものとして考えるべきでしょう…』

 つまり、労基署から開示の要求が出されたとしても、それからこっそり退職金規定の欄を削除したものを作り直したとしてもバレないということ。「最悪の事態」は作れてしまうのだ。

 こうして退職金は100%もらえないことが確定、賞与の査定結果が明らかとなる8月10日まで、おとなしく待つしかなくなった。

(教えてgoo)『真っ当に争うなら、在職中に、しっかり労使で話し合いしとくべきでした。最終的には、労働組合を立ち上げるなどして、労働者の権利は労働者自身の手で守るのがベストでした。組合活動を行う中であれば、組合活動に対する嫌がらせ、妨害行為は労働組合法違反の不当労働行為って話に持って行ける可能性があります』

 労働者を守るのは労働者自身。壮絶な戦いの末に導き出された結論だった。(Fin.)


◎リザイン・ブルーになって社畜の人生 ~賞与と退職金と就業規則~(第2話)

2017-08-03 12:56:16 | ある少女の物語

<退職への道(5)就業規則のありか>

 まずは就業規則を手に入れねばならない。もちろん社長には内緒で。となると誰に聞けば良いのか。

(マネージャー)「私、そんなの見たことないわよ。ていうか、無いんじゃないかしら」

 そんなわけあらへんがな。従業員20人以上の会社には就業規則を労働基準監督署に提出する義務がある。もし無いというのなら立派な法律違反だ。また、もし退職金制度があるならその旨を必ず記載しなければならない。
 あるとすれば会社の事務所。この会社には総務部も人事部も存在しない。事務所に居る人間と言えば社長以外に一人しか居なかった。

(僕)「事務のYさんの連絡先知っていますか?」

(部長)「知らない」

 僕は会社事務所に勤務する唯一のアルバイト、Yとのコンタクトをどうしても取りたかった。それが不可能なら就業規則を知らぬまま社長と話すしか選択肢が残されず、それはとてもリスクの高い行為であることを意味するからである。

(部長)「ていうか事務でも就業規則までは知らないんじゃないかな」

 会社事務所には何度電話しても繋がらない。その1階にあるコンビニ店舗にも電話した。しかし、

(僕)「Yさんっていつも何時くらいに勤務していますか?」

(スタッフ)「さあ、知らないわね。ていうか最近全然会わないし」

(僕)「店に入ってから3階の事務所に上がるんじゃないんですか?」

(スタッフ)「違うのよ。外から3階に直接上がれる階段があってね」

 こんなに困っているのに、何故コンタクトすら取れないのか。しかも重役ではなくたかが事務。他の会社では有り得ないことである。僕とYを引き離す何か大きな圧力があるように感じた。


<退職への道(6)本部の見解>

 7月12日。棚卸の合間の僅かな時間を利用し、労働相談の機関へ電話で相談した。少なくとも賞与に関しては「雇用契約書に記載があれば貰う権利がある」との事だった。それには間違いなく「入社2年目以降の夏と冬に支給」と書かれていた。

(僕)「この会社、労働組合が存在しないんですけど、やはり社長が絶対的な権力を持ってしまうのでしょうか?」

(労働相談所)「そんなことはありません。社長といえども法令は順守せねばなりません。安心して下さい」


 翌13日の夕方、友人A・Bと会う約束があり、ついでに相談を持ち掛けた。

(友人B)「本部に相談できる機関は無いの? フランチャイズ事業部みたいな」

 その発想はなかった。翌14日、夜勤明けの疲れを堪え、朝9時に本社に電話をかけた。

(僕)「フランチャイズ店舗を経営する会社との労働問題に関する相談窓口に繋いでいただきたいんですけど」

(本社)「それならお客様相談室ですね」

 お客様相談室だと……。本来、そこはお客様からのクレームなどを受け付ける機関。何か嫌な予感がしてきた。

(お客様相談室)「もし就業規則を見せてくれないなどの法令違反があれば、私どもに相談いただければ、担当SVが開示の要求をいたします」

 SVだと……。SVとは担当店舗を巡回し、店舗責任者に施策やアドバイスなどを話す、とても忙しい人。本社とフランチャイズ経営会社は別物であり、別会社の法令違反への対処という専門外の仕事に多忙のSVが乗り気になってくれるのだろうか。

 その数十分後、担当SVから電話が来た。

(SV)「聞いた話を整理しましたが、最大の問題は、社長と連絡が繋がらないことだと思います」

 えっ、最大がそこ!? 既に給料日に未払いという法令違反が平気で行われている会社の最大の問題が?

(SV)「社長と仲の良いSVが別に居ますので、彼が社長に僕さんの言いたいことの一部(賞与が振り込まれていない件)を伝えてくれます。それで社長も僕さんとの話し合いに応じてくれるでしょう」

 少しずれているような気はしたが、社長と電話で話す機会だけは与えてくれた。

(SV)「なるべく本部にまでは振らないようにして下さい。円満に解決するのが一番ですよ」

 言葉の節々に嫌な予感を感じさせたが、発言自体は確かにその通りでもあった。僕だけの力で解決に導かなければならない。不本意ではあるが、就業規則を知らぬままの不利な状況下で社長との直接対決が始まろうとしていた。

 

(つづく)


◎リザイン・ブルーになって社畜の人生 ~賞与と退職金と就業規則~(第1話)

2017-08-03 12:53:30 | ある少女の物語

<退職への道(1)転職活動>

 僕はこれまで、ブラック会社しか経験して来なかった。
 建設業の現場作業、新聞配達、足場施工、漫画喫茶。ここまでは本当に酷かった。どこに行っても辞める時には一生もののトラウマを植え付けられていた。

 そして今の会社、コンビニ業界に就職したのは5年と4ヶ月も前のことだ。過去の勤続最高記録は一年4ヶ月、それを大幅に上回るくらいにはまともな会社に入れたと思っていた。
 その考えは甘かった。今の会社は深刻な人員不足に何度も悩まされた。当店の場合は夜勤が不足し、社員が入らざるを得なくなった。夜勤メインの勤務になって早一年半。身体は限界だった。

 退職は2年も前から考えていたが、この春からいよいよ転職活動を始めた。 

(S社の面接官)「夜勤手当が出ないことは入社する前に分かっていたんじゃないの?」

 面接では容赦ない批判を浴びることもあった。確かに手当が無いことは知っていたが、勤務は基本的に昼間だとも聞いていた。こんなに夜勤が続くなら話は別だ。夜勤は生活リズムの崩壊、睡眠時間の不足、事実上の休日返上(ただの明け休みを週休に割り当てられる)など、失うものが多い。

 6月にスーパー業界のI社から内定をいただいた。スーパーなら昼間の勤務がメインになる。給料は今より少し下がるが、夜勤が無くなるだけでもありがたかった。


<退職への道(2)退職の申し出>

 7月6日、今の会社の社長に直接会い、8月10日付での退職を申し出た。直前まで理由を考え、それを落ち着いて丁寧に話した。ここまでの社長に対する印象は良いはずだった。しかし、

(社長)「辞めるのは仕方ないけど、責任者クラスの人間が抜けるとなると、引き継ぎに時間がかかる。9月頃まで居てくれないだろうか」

 そんなに期間が必要だとは聞いていない。社会通念上の常識として辞める約一ヶ月前に退職を申し出れば素直に受け入れて貰えると思い、I社の入社日を8月11日に決定していた。それは容易にずらせるものでは無かった。

 僕は数時間後に社長に電話し、退職日の延期が不可能である点と、親に実家に帰るよう言われているので最後に7日間の有給休暇をいただきたいと伝えた。

 社長の機嫌は悪そうに聞こえたが、結果的に了承はいただいた。数日後に退職願を提出し、8月10日をもって会社を抜けられることは揺るぎ無いものとなった。


<退職への道(3)給料未払い>

 7月10日、社長の攻撃は始まった。午前0時に自動で振り込まれるはずの給料が、9時を過ぎても振り込まれない。念の為、懇親会中止騒動の愚痴を聞いてくれたG男に電話で確認した。

(G)「給料が振り込まれているかですか? まだ確認していません」

(僕)「今すぐネットで確認出来ませんか?」

(G)「みずほダイレクトに登録していないので……」

 他の社員にも聞いたが一人は未確認、もう一人は奥さんが管理しているので不明とのこと。給与明細もろくに発行されない会社なのに、何故お金という大事な問題に対して無頓着でいられるのか。
 G男を含めた3人は結果的に給料日当日に振り込まれていた。どうやら社員で未払いなのは僕だけのようだ。給料日に支払われないのは当然ながら法律に違反している。ただ、辞めるだけで会社に多少なりとも迷惑をかけている自覚はあるので、ここで文句は言わず一日待つことにした。


<退職への道(4)賞与未払い>

 そして翌日、7月11日。僕の給料は一日遅れとはいえ振り込まれてはいたが、夏の賞与が含まれていなかった。例年ならこの日に給料と一緒に振り込まれているはず。まずは部長に相談した。

(部長)「たぶん辞めるって言っちゃったから、賞与は無しになっちゃったんじゃないの?」

 わけがわからないよ。賞与というのは過去の査定期間における努力や成果によって決められるものではないのか。未来に在籍するか否かまで査定に含まれるなんて聞いたことがない。

(部長)「いや会社では良くある話なんだよ。社長に言う前に俺に相談してくれれば良かったのに」

 後で調べると、確かに「賞与は過去の貢献だけでなく将来の期待も含まれる」という考え方もあった。
 しかし、賞与と言っても世間一般的な額よりかなり低い。この半年間、相当な苦労をしてきたつもりなのに、寸志レベルの額すら貰えないというなら……

(友人A)「ならせめて退職金は貰えよ」

 そうだ、退職金! 勤続3年以上で支給される会社が多いが、僕は今の会社に5年4ヶ月も在籍している。もし貰えるなら、それが賞与の代わりだと思えば納得できる。
 しかし、僕は退職金の規定の有無を知らない。以前『教えて!goo』で質問した時の回答は、

『退職金のことなどは上司や総務部などに確認されたら如何ですか』

『会社に就業規則(従業員が閲覧できる様に備えつけておかなければならないもの)で閲覧を請求して見られると良いと思います』

『退職時にこれらの事を聞くのは失礼では無いと思います。労働者の当然の権利です』

 そう、就業規則! そこに退職金規定が記載されているかどうかが重要になってくる。社長と話す前にあらかじめ就業規則を把握しておいたほうが話し合いで有利に立てるだろう。

 僕は会社と戦うことに決めた。決して法律だから請求するとか、そんな単純な話ではない。5年以上も勤務し、相当な時間のサビ残もし、夜勤で生活リズムと体調を崩し、週1の休みすら貰えないことも多かった人間の当然の権利として賞与と退職金が欲しい、ただそれだけである。

 

(つづく)