芋子「小野先輩。まだ昼休みなのに急に部室に呼び出して、どうしたのですか?」
小野「芋子、今日の放課後に予定している対話部の活動テーマは覚えているか?」
芋子「確か『アイドルと声優、安心して応援できるのはどちらか』でしたよね」
小野「そうだ。アイドルオタクの君と声優を愛する僕が、スキャンダルに怯えず安心して応援できるのはどちらかを議論する予定だった。そして僕は今日、アイドルオタクの様子を見ようと2ちゃんねるの地下アイドル板のスレを巡回していた」
芋子「2chにおける地下アイドル板とは名ばかりで、AKB48のことですよね」
小野「彼女たちも地下アイドルからスタートしたから、名前は当時の名残だ。そこであるスレを読んだら、今日交わそうとしている議論が無粋であることを痛感させられた。僕はとても馬鹿で愚かだった。それを一刻も早く伝える為に君を呼び出したんだ」
芋子「何が書いてあったのですか?」
小野「アイドルのファンで、癌を患い闘病生活を送っている22歳保育士の、Twitterのアカウントへのリンクが貼られていた」
<ある若き保育士の話>
芋子「まだとても若い、どこにでも居るような幼稚園で働く普通の女性……」
小野「あえてここにリンクは貼らない。本当に知りたい人だけが自身で検索して見つけ、過去を遡ってじっくり読んで欲しい」
芋子「今、読んでいます。入院生活を始めたのは7月4日。もう2ヶ月以上も経過し、未だに退院できていないのですね」
小野「彼女は闘病の過程を赤裸々に綴っていた。体力が落ちて、移動は車椅子を使うしかなかった。薬の副作用で何度も全身が痛くなった。固形物を食べられず、補給は点滴のみで済ませる日もあった」
芋子「そんな辛い日々でも、受け持っているクラスの園児たちや職場の同僚、友人や家族がお見舞いに何度も駆けつけ、その度に元気と生きる勇気を貰い、フォロワーからの数多のリプライも励みになっていました」
小野「そして、大安となる7月12日。彼女は集中治療室にて手術をした。5日後には無事に終了した旨をツイートした。しかし、その数日後には薬が増え、来年の桜が見られるかどうかを憂えていた」
芋子「それでも、5歳の頃からの夢を叶え、幼稚園の先生に従事できたことを思い出し、一日も早い職場復帰を望んでいました」
小野「少しずつ痩せていることを自覚し始めた頃には終活ノートと遺言書を書いた。彼女は覚悟を決めた」
芋子「8月17日、髪の毛が全て抜けてしまいました。友人たちはお金を出し合ってウィッグをプレゼントしました。ツインテールを愛する彼女は、再び髪を2箇所、結わくことが出来ました」
小野「その後もリアルでありのままの出来事と心情を吐露するツイートは続き、昨日の9月7日、実家に一時帰宅をした。しかし今日中には病室に戻ることだろう」
芋子「まだ彼女は生きています。一刻も早い回復を心よりお祈り申し上げます」
<誰を応援しても良いじゃない>
小野「彼女はアイドルを好きになって本当に良かったと思う。病室はアイドルのグッズで溢れている。アイドルが側に居ることで心の支えになっている」
芋子「冒頭の当初予定していたテーマに戻りますが、アイドル・声優を問わず、スキャンダルを恐れず安心して応援できるかを考えるのは全くの無意味です。本気で好きなら、その人がスキャンダルを起こさないと信じられるはずです。誰を好きになっても、応援しても良い。大事なのは信じる気持ちと愛です」
小野「ツイート主がアイドルオタクなら、リプライで励ます人たちもアイドルを愛する同士だ。声優オタクの僕は、これまでアイドルオタクに対してあまり良いイメージを持たなかったというか、『安全性が担保されない人たちを良く好きになれるね』としか思えなかった。でも今日、彼女のツイートを見て考えを改めることが出来た。アイドルオタクの皆さんは、とても良い人たちで素晴らしいと強く思う」
芋子「最後に、テーマと無関係ではありますが、癌は早期発見が何よりも大事です。早めに検診を受けましょう」
小野「そして、どんな辛い悩みを抱えているとしても、まずは生きていられることを心から喜ぼう」
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