2年前、実家のある秋田も震災の被害を受けた。
当時、家族よりも自分の心配ばかりしていたクズ人間だった。
ニュースになっていたのは仙台で、秋田まで被害が回っているという発想に至らなかった。
プラス、色々と崩壊している家族に対しての感情移入があまり出来なかった。
当方はドライアイスだ。あらゆる感情、特に「哀」をほとんど生産せず省エネに生きている。
27年間、心から「思いやり」を持ったことはあるだろうか。
人のために尽くしてきたことは何度もある。だがそれは「思いやりのテンプレ」をなぞっているだけなのではないか。
「こういう時はこうする」というテンプレが教科書を丸暗記するように頭に入っており、
それを試験で答案して正解しただけのこと。
それは心から思いやりを持っているとは言えない。
――じゃあ、せめて偽善は出来ないの?――
やらない善よりやる偽善。
頑張ればそれくらいは出来るかもしれない。
3月9日の昼下がり。
川崎駅前の商店街で、もはや定期の恒例行事とも言える「震災復興支援ミニライブ」が行われていた。
そこに、とあるシンガーソングライターの女性が居た。
普段はキャパ120人規模のライブハウスを埋めるだけの実力がある。
ヨーロッパの各国で公演もしている。
しかし、この日の観客は20人にも満たない、ファンでも無いおじさんばかり。
そりゃそうだ。半分ストリートライブみたいなものだし、
リア充カップルたちは自身のデートプランの消化に必死で、
見ず知らずの歌手の為に立ち止まっている余裕など無い。
おじさんたちの為に歌って楽しいのだろうか。
仕事と割り切っているのだろうか。
イヤ、チャリティーライブだからそもそもギャラすら発生していないのでは?
当方は冷静にそんなことを考えながら聴いていた。
当方に出来ることはそれだけか?
無料なのだから、立ち止まって聴くだけなら誰でも出来る。
もっと彼女の為に出来ることがあるのではないか。
だが、そこで手売りしているCDを買う金銭的余裕は無い。
本当に好きな歌手のCDすら買う余裕は無いのだ。
そうやって、ストリートライブはいつも聴くだけで終わっていた。
イヤ、最後まで聴かずに立ち去る時もあった。
(いつ変わるの? 今でしょ!)
「今日は3月9日ということで、私で勝手にサンキューの日と決めています(笑)
というわけで、記念にサンキューステッカーを作りました。
手作りです。3枚セット500円です」
これだ。CDの半値以下だし、義援金を100円寄付しても600円だ。
これなら出せる。
マスクで顔を半分隠し、勇気を出して彼女に迫る。
「あ、あの……ステッカー欲しいんですけど」
「おお、ありがとうございます(笑)。滲んだり薄くなっちゃったらごめんなさいね」
「イ、イエ大丈夫です(何がだ)」
彼女に500円玉を手渡し、ステッカーの入った袋を受け取り、横の募金箱に100円玉を入れた。
なんて貧乏な27歳だ。
ファンになった訳ではない。単独ライブを観に行くつもりも無い。
たったの500円で、彼女の為になれたのだろうか。
手作りというのが引っかかる。利益はそんなに出ないのかもしれない。
しかも、他に数人のおじさんがステッカーに加え3000円出してライブのチケットを買っており、当方は完全に霞んでいる。
彼女の歌は上手いと思う。だが具体的に何が良いのかを書けない。ブログで宣伝する能力も当方には無い。
おそらく偽善のうちにも入らないだろう。
やらない善よりやる偽善。
頑張れば、もっと頑張ればそれくらいは――
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