能登半島地震では、復興に必要な電気を被災地域で北陸電力グループが供給している。石川県では9日現在でまだ約1500戸が停電している。これまでの災害ではたいてい被災後1週間程度で完全復旧した。そのために遅れを批判する報道がある。
日本経済新聞は1月24日付で「電力供給 進まぬ分散―大手寡占、災害時にリスク」との記事を掲載し、「電力供給のもろさ」を地震が浮かび上がらせたと指摘。電力自由化が進むのに、既存の送配電網を持つ大手電力の寡占が続き、新規参入が増えないことが「災害時のリスクになりかねない」のだという。
これは不思議な考えだ。平成23年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の後で、電力会社への批判が強まり、当時の民主党政権の政治主導で電力自由化が進んだ。電力会社は地域独占ができなくなり、発電、売電で参入は自由になった。
しかし家庭などの一般送配電事業は一部独占を認められた。電線など送配電網の建設・保守は一元的に管理した方が効率的で費用を抑えられるためだ。そして設備投資が巨額でもうからないので、送配電への新規参入はほとんどない。
ところが日経は、事業者を分散せよと批判し、業界団体の電気事業連合会が反論をホームページに出す騒ぎになった。北陸電力グループは、道路が被災したために工事が遅れがちだと説明する。その説明はおそらく正しいだろう。
東電の原発事故の後で、新聞の電力会社を巡る報道は原発が大半を占め、批判的なものが少なくない。能登半島地震でも、朝日新聞が北陸電力に言及した記事は発生から2月9日までに約60本で、そのうち50本ほどは別に危険ではない志賀原発を巡るものだ。どの災害でも電力会社の供給維持の努力を新聞・メディアは大きく伝えない。
地元紙の北国新聞は2月1日付で「停電生活から解放―県内ほぼ解消、住民安堵(あんど)」との記事を掲載し、北陸電力グループ社員が輪島市の停電復旧地域を回り、安全を確認するなど丁寧な対応をして、住民が「普通の生活に近づいた」と喜ぶ様子を報じた。
日本の新聞の多くは、電力会社を含め企業を悪として、まず批判する傾向がある。この報道姿勢はおかしい。ここで示した電力会社の供給努力の実態など、評価すべきニュースはたくさんある。是々非々で評価しなければ、各企業は萎縮する。それは企業の長所を消し、さらには日本経済全体の力も弱めてしまうだろう。
産経新聞