秋夜は風に吹かれての散策が楽しい。
特に自転車を漕いで風を切る心地がなんとも表現し難い。
十五夜から1日遅れのこの日も、友人と暗くなってから漕ぎだしたわけであるが、
たまには見慣れた景色よりも新しい景色を求めて座間方面へと向かった。
相模原市から座間市、大和市を結ぶ県道507号線は、通称:村富線と呼ばれて昼夜を問わず交通量が多い。
相模台を抜けて、相武台団地付近では騒音軽減のため、地上でありながらもスノーシェードのようなトンネル構造になっている。
トンネル区間にバス停もあったりして、ちょっぴり不思議な構造をしている。
自転車はトンネル内を通ることはできないので、両側の歩道を通ることになる。
夜の団地を眺めるのもなかなかよい。
相模原の中央区から南区には「台」の付く地名が多く、比較的平らな土地が多いが、座間市に入るといきなり地形が暴れだす。
東急田園都市線沿いを初めとする横浜の新興住宅街を彷彿とさせるV字型の谷がいきなり現れる。
平凡な景観に変化をもたらして、見ていて楽しいので、住宅渓谷とでも名付けたい。
遠くに見えるのは小田急相模原のマンション群であろう。
今日はビルを背にして、南へと向かう。
相武台前駅の周辺までくると、会社帰りの人々が多く歩いている。
駅前には行かず、逸れるように進むのは新戸隧道の入口。
新戸隧道はキャンプ座間の下を貫通する唯一の一般道路で、駅前と一段地形の低い新戸・新磯方面を結ぶ貴重な道である。
駅前から続くこの道は、約1kmに渡って他の道と交差・分岐しない専用道路になっている。
しかも自動車は新戸方面からの一方通行であり、案内板も少ないので地元の知る人ぞ知る道であった。
この道路、新戸側半分が隧道で、相武台側半分が切通し区間となっている。
その歴史は古く、開削されたのは戦前のことであるらしい。
そのため薄暗く、陰気な雰囲気が拭いきれないので、近年大規模な改修工事が行われている。
現在通れるのは、歩行者と自転車のみだ。
入口のバリケードを越えて、切通区間に入る。
一部ゆるいS字カーブを描きながら、500m続く切通区間。
街灯はあるものの、薄暗いので夜中にひとりで通りたいとは思えない道だ。
しかし、風を切りながら、進んでいると川を流れる水になったような、そんな気分が味わえる。
以前隧道のあった場所は現在改修中なので、一旦歩道橋を上がってからもう一度下る。
そこに現れたのは巨大な地下空間。
いつのまに新しい隧道は完成しつつあったようで、歩行者と自転車だけが一足早く利用できる。
地面も舗装されておらず、自動車が走るようになるのにはまだしばらくかかりそうだ。
それにしても未完成の隧道を利用できる機会はなかなかないので嬉しい。
新戸隧道を抜けた先で、県道46号線に合流して、さらに南下。
座間の市街に入ったら、湧水を巡ってみる。
座間は寺院や湧水が多く、路地に入ると小京都とまではいかないが魅力的な街が広がっていた。
側道に綺麗な流れがあって、水の音がするのがもっとも魅力的だ。
もっとも雰囲気があるのは鈴鹿神社裏にある鈴鹿の小路。
龍源院境内にある龍源水も湧水のひとつで、弁財天が祀られている。
弁財天というよりかは、弁財天と習合した人面蛇体の宇賀神が鎮座しておられる。
街中には多くの湧水があるが、最奥にある番神水公園はポケットパークのように整備されていて落ち着く空間だ。
ビオトープのような流れの上にはウッドデッキがあって自然観察もできる。
これだけ水が綺麗であれば、サワガニや夏ならホタルがいてもいいような気がする。
座間の鎮守である鈴鹿明神社も落ち着く空間である。
桜の木が植わっているので、春には花見もできそうだ。
空を見上げると、いよいよ月が高く登ってきたので、隠れないうちに1日遅れの月見でもしようかと、近くのマクドナルドに立ち寄って月見バーガーを購入。
小田急線の線路を渡って座間谷戸山公園へ。
谷戸山公園は里山の自然を残した公園で、昔はよくザリガニ釣りに来た記憶がある。
非常に森が深い公園で、周囲に人家も少ないから夜はとてつもなく暗い。
暗い場所の方が、月が映えるかと思い訪れてみたものの、その暗さに一度は怖気づいた。
友人がいなかったら、一人では厳しいだろう。
竹林を望む、小高い坂道で、月見をしながら月見バーガーを戴く。
古風と今風が混じり合ってなんとも、「今を生きている感じ」がする。
月見を堪能したあとは、調子に乗って園内を縦貫しようとするも何度も道に迷って、予定の倍以上の時間をかけて脱出。
自然の中では方向感覚も失ってしまう。
それほどの里山が身近にあるってのもまた貴重だろう。
公園から出ると、大規模な道路工事を行っていて、賑やかであった。
一瞬にして現実に引き戻される。
それでも少し、その明りが恋しくなっていたりもした。